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医療観察法における当初審判について 当初審判は通常の刑事裁判と何が違うのですか?

【事例】
福岡県博多市に住むAさんは、以前から統合失調症に罹患しており、幻覚や幻聴により「友人のVを殺さなければAの家族や友人は皆殺しにされる」と考えるようになりました。
そしてある日、AさんはVさんを呼び出し、包丁で切り付けてVさんを殺害してしまいました。
Aさんはすぐに殺人罪で逮捕されましたが、「Vを殺さなければ家族や友人が皆殺しにされてしまう」という主張を続けています。
勾留中にAを診察した医師からは、今回の犯行は統合失調症による妄想に支配されたものによる可能性は非常に高いとの診断結果が出ました。
結果的に、Aさんは心神喪失を理由に殺人罪では不起訴になりましたが、医療観察法に基づき鑑定入院(強制入院)となりました。
そして、2か月の鑑定入院の後、審判が開かれることになりました。
(事例はフィクションです)
医療観察法と鑑定入院
前回の記事では、心神喪失などを理由として不起訴や無罪となった方が医療観察法にのっとり、入院となる手続きについて概観していきました。
今回の記事では、鑑定入院とその後に行われる審判(当初審判)について解説していきます。
なお、犯罪をしてしまった人を刑事事件の手続きでは「被疑者」や「被告人」と呼んでいましたが、医療観察法の手続きでは「対象者」と呼びます。
鑑定入院では、対象者に対し、投薬などを中心とした医療を施しながら医師が鑑定をしていきます。
具体的にどのような鑑定をするのかは医師にもよりますが、医療観察法では対象者が「精神障害者であるか否か」と「対象行為を行った際の精神障害を改善し、これに伴って同様の行為を行うことなく、社会に復帰することを促進するために、この法律による医療を受けさせる必要があるか否か」を判断するために鑑定をすることとされています。
また、具体的な鑑定内容や方法について、実務的には厚生労働省の厚生労働科学研究班が策定した「心神喪失者等医療観察法鑑定ガイドライン」が参照されることも多いようです。
その中では疾病性、治療反応性、社会復帰要因の3項目が重視されています。
また、鑑定においては精神障害の類型、対象者の過去の病歴、対象行為時の病状、治療状況、予測される将来の症状、対象行為の内容、対象者の性格なども考慮するとされています。
医師(鑑定医)はこれらの観点から対象者に対する鑑定を行い、最終的に医療観察法に基づく医療を受けさせる必要性に関する意見をまとめ、裁判所に提出します。
医療観察法と当初審判
裁判所は、鑑定結果の内容も踏まえて、対象者に対して医療観察法に基づく医療を受けさせるか否かを決するための審判を開きます。
この審判を当初審判といいます。
当初審判には対象者はもちろんのこと検察官や対象者の付添人弁護士、精神保健審判員、精神保健参与員、社会復帰調整官なども参加します。
場合によっては鑑定医も出席することがあります。
当初審判では疾病性、治療反応性(治療可能性)、社会復帰阻害要因から医療の必要性を判断していくことになります。
疾病性:対象者が、対象行為時の心神喪失・心神耗弱の原因となった精神障害と同様の精神障害を有すること
治療反応性:対象者に医療観察法による医療を受けさせることにより、その精神障害を改善することが可能であること
社会復帰阻害要因:対象者に医療観察法による医療を受けさせなければ、その社会復帰の促進を図ることができない事情があること
この3つの要件がすべて満たされた場合に、医療を受けさせる必要性があると判断されます。
当初審判では、鑑定医からの鑑定結果をもとに、裁判官や検察官、付添人などから対象者に質問がされます。
また、当初審判に先立ち、検察官や付添人からも、医療を受けさせる必要性があるか否か、あるとしても入院と通院のいずれを選択すべきかなどを記載した意見書を裁判所に提出します。
医療を受けさせる必要性があると判断された場合には、さらに入院か通院かを判断することになります。
入院との判断がされた場合には、対象者は引き続き医療機関に入院させられることになります。
なお、鑑定入院を担当する医療機関と、当初審判に基づく入院処遇を担当する医療機関は別になります。
後者の医療機関は国に指定された「指定入院医療機関」のみが対象者を受け入れます。
医療観察制度についてより詳しく知られたい方はこちらの法務省のHPも参考にしてください。
あいち刑事事件総合法律事務所では、責任能力が問題になる事案の弁護活動や、医療観察法の手続きでの付添人を務めた経験も豊富にあります。責任能力が争いになるようなケースや、医療観察法の手続きに関してお困りの方は是非一度あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。
心神喪失と判断されても放免にはならない?医療観察法の手続きについて

【事例】
Aさんは、以前から統合失調症に罹患しており、幻覚や幻聴により「友人のVを殺さなければAの家族や友人は皆殺しにされる」と考えるようになりました。
そしてある日、AさんはVさんを呼び出し、包丁で切り付けてVさんを殺害してしまいました。
Aさんはすぐに殺人罪で逮捕されましたが、「Vを殺さなければ家族や友人が皆殺しにされてしまう」という主張を続けています。
勾留中にAを診察した医師からは、今回の犯行は統合失調症による妄想に支配されたものによる可能性は非常に高いとの診断結果が出ました。
結果的に、Aさんは心神喪失を理由に殺人罪では不起訴になりましたが、医療観察法に基づき強制入院となりました。
(事例はフィクションです)
心神喪失と医療観察法
心神喪失を理由に無罪となる事例や、そもそも起訴されて刑事裁判になることすらなく、不起訴となる事例は一定程度存在しています。
精神障害が原因となって事件を起こされた方の弁護活動については当サイトの精神障害がある方の弁護活動のページも参照してください。
最近でも、神戸で起きた殺人事件で一審、二審ともに心神喪失を理由として無罪判決が出ており、上告せずに確定しています。
また、京アニ放火事件でも弁護側は心神喪失を主張しています。
心神喪失を理由として無罪や不起訴になった場合、その後の手続きはどうなるのでしょうか。
「無罪放免となって普通に生活しているのでは」と思う方も多いかもしれません。
しかし、実際にはそういうわけではありません。
心神喪失などにより無罪判決を受けた場合には、「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律」(略称:医療観察法)に基づき、入院手続きに移行していきます。
これは罰として入院をさせるのではなく、社会復帰のために適切な医療を受けさせるための手続きになります。
では、医療観察法の内容を概観してみましょう。
医療観察法の対象
医療観察法による手続きの対象となる事件は、心神喪失などにより無罪となったすべての事件というわけではありません。
医療観察法の対象となるのは、一定の重大犯罪に限られています(医療観察法2条1項)。
具体的には
・現住建造物等放火(未遂も含む、以下同じ)
・非現住建造物等放火
・建造物等以外放火
・不同意わいせつ
・不同意性交等
・監護者わいせつ及び監護者性交等
・殺人
・自殺関与及び同意殺人
・傷害
・強盗
・事後強盗
です。
また、対象者は
・心神喪失や心神耗弱を理由として不起訴になった者
・心神喪失を理由として無罪となって判決が確定した者
・心神耗弱を理由として刑を減軽する旨の判決を受けて確定した者
です(医療観察法2条2項9。
事例のAさんは心神喪失を理由に殺人罪は不起訴となっているので、Aさんは医療観察法の対象となります。なお殺人罪の容疑を架けられた場合の対応についてはこちらにも詳しく解説しています。
医療観察法の手続き~鑑定入院~
心神喪失などを理由として不起訴や無罪となった場合には、検察官が裁判所に対して入院又は通院の処遇を求める申立てを行います(医療観察法33条1項)。
この申立ては
・対象行為を行った際の精神障害を改善し
・これに伴って同様の行為を行うことなく、社会に復帰することを促進するためにこの法律による医療を受けさせる必要が明らかにないと認める場合
以外には必ず申立てをしなければならないという、義務的申立てになります(医療観察法33条1項)。
この例外に該当する場合は極めて少数だと思われるので、心神喪失などを理由として不起訴や無罪となった場合には、ほとんどの事例で入院又は通院の処遇を求める申立てが行われるでしょう。
入院又は通院の処遇を求める申立てが行われると、裁判所は対象者を指定の病院に入院させる「鑑定入院命令」を出します(医療観察法34条1項)。
この入院を鑑定入院と呼ぶこともあります。
鑑定入院の期間は2か月以内となっており、必要と認める場合には1か月を限度として延長することができます。
鑑定入院の間にどのようなことが行われるのかは不透明な部分もありますが、基本的には社会復帰に向けた治療(投薬などを中心とした医療)が行われて行きます。
ただ、鑑定入院は文字通り「鑑定のための」入院なので、「医療観察法に基づく医療を受けさせるべきか否かを判断するための入院」ということになります。
医療観察法の手続き~当初審判~
鑑定入院を通じて、担当の鑑定医が意見をまとめていき、裁判所に提出します。
精神障害の類型、過去の病歴、現在及び対象行為を行った当時の病状、治療状況、病状及び治療状況から予測される将来の症状、対象行為の内容、過去の他害行為の有無及び内容並びに当該対象者の性格などを考慮し、医療観察法に基づく医療を受けさせる必要性があるのかどうかを判断することになります。
そして、この鑑定結果を基礎として、最終的に入院治療や通院治療をすべきか否かを裁判所が判断します。
これを「当初審判」と呼びます。
当初審判では
・入院決定
・通院決定
・医療を行わない
のいずれかの結論が出されることになります。
入院決定が出た場合には、指定医療機関に入院させられ、本格的に入院治療が開始されることになります。
入院決定による入院期間は医療観察法には定められていません。
厚労省が公表しているガイドラインによると、治療期間を急性期(3か月)、回復期(9か月)、社会復帰期(6か月)の3つのステージに分け、約1年半で退院を目指すこととしています。
しかし、実際には2年や3年にわたって入院を強いられるケースも多いようです。
このように、心神喪失などによって不起訴や無罪になったとしても、その後は医療観察法に基づく入院期間になります。
医療観察法の手続き中は、弁護士は「付添人」として様々な活動をしていくことになります。
具体的にどのような活動ができるのかや、当初審判の具体的な内容については、次回以降にご紹介いたします。
愛知県名古屋市の大麻所持事件 不良仲間との交友関係が原因で犯罪に関わってしまった方の更生に向けて弁護士がサポート

【事例】
愛知県名古屋市に住むAさんは、不良仲間と関係があり、これまで大事にはなりませんでしたが、度々近隣の住民と揉めたり、警察から注意を受けたりすることがありました。
Aさんは、もう落ち着いてもいい年だから不良仲間と別れようとしましたが、連絡先や家を知られているため、なかなか縁を切ることができませんでした。
ある日、Aさんは、不良仲間から半ば脅すようなことも言われて不良仲間のところに集合しました。
偶然、通りかかった警察官の職務質問がきっかけで、不良仲間が違法薬物を所持していたことが発覚しました。
Aさんは、大麻の所持で逮捕された後、不良仲間が大麻を持っていることは知らなかったという主張が認められて裁判にはならずに済みましたが、不良仲間との関係を断つために何かできないか考えています。
(事例はフィクションです)
この事例をもとに、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所であれば、どのようなサポートをAさんにして差し上げられるか、解説します。
なお大麻などの薬物事件に関する弁護活動についてはこちらも参考にしてください。
不良仲間との関係を無理やり断つ法的手段はあるか
ある人とまた別の人との間の接触を法律に則って禁止する手続自体はありますが、それは二人が交際関係にある場合などを想定しているものです(例:ストーカー規制法における禁止命令)。
ストーカー事件に関する詳しい解説についてはこちらも参考にしてください。
今回の事例のような不良仲間との間で接触禁止を実現する法的な手続はありません。
そこで、今回のような事例で、当事者間の接触禁止を実現するためには、法的な手続ではないですが、当事者間で合意書を取り交わすことが考えられます。
その合意書で、お互いの接触禁止を約束して、違反した場合には違約金を支払うというような形にすることで、間接的にではありますがお互い接触しないことを強制することが可能になります。
しかし、これはあくまで合意、つまりお互いの当事者が納得した上でする約束なので、自分は不良仲間と縁を切りたいと思っていても、不良仲間がしつこく絡んでくる場合や、不良仲間に合意を守る気も違約気を払うつもりもない場合には実効性がありません。
また家族や周囲の人間が関係を断ってほしいと願っていても、当の本人がなかなか不良仲間との関係を断ちたくないと考えている場合には、そもそも合意者の作成自体が困難な場合もあります
弁護士が相談相手になり不良交友関係の解消と更生をサポートします
そうすると、次の策としては、誰か信頼できる人のサポートを得るということが考えられます。今回のAさんの場合、不良仲間からの連絡をAさんが受けて、相談できる体制がないから、不良仲間について行って事件に巻き込まれてしまうわけですから、誰か相談できる人、そして場合によってはAさんの代わりに窓口に立ってくれる人がいると、安心できるということになります。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、今回のAさんのように、再犯防止のために不良交友を断つ必要のある方のために、顧問契約を用意しています。
顧問契約に関する内容についてはこちら。
この顧問契約は、顧問の期間中に、何か困ったことがあった場合に、いつでも弁護士に相談して、法的アドバイスを受けることができるというものです。
また本人自身が不良仲間との関係を断つことに前向きでない場合には、弁護士が当事者と面談をさせていただきます。
不良仲間との関係を続けることがいかに危険なのか、しつこく関係の回復を迫ってくる不良仲間の誘いをどのように断ればいいのかについて説明させていただきます。
例えば、せっかく大麻事件で裁判にならずに済んだAさんのところにまた不良仲間から連絡があった場合に、すぐ弁護士に相談していただければ、どういう対応を取れば良いか、案内させていただきます。
そして関係の断絶や再犯防止のためのサポート、アドバイスをいたします。
不良仲間との関係で悩まれている当事者の方や、そのご家族の方、不良仲間との関係が原因で大麻などの薬物事件の嫌疑で逮捕されてしまった方は是非一度、更生支援や再犯防止に力を入れているあいち刑事事件総合法律事務所に一度ご相談ください。
神奈川県横浜市の不同意性交等事件 刑法の性交同意年齢の改正と児童犯罪について②
【事例】
神奈川県横浜市に住む大学生のAさん(22歳)は、出会い系サイトで女子中学生のVさん(15歳)と知り合って、令和5年の8月に会う約束をしました。
Aさんは事前のラインでのやり取りから、Vさんが15歳であることを知りながら、会った際にラブホテルでVさんの同意を得て性行為をしてしまいました。
Vさんは当日に両親にAさんとの性行為の事を話して、激怒したVさんの両親が神奈川県警南警察署に被害届を提出しました。
その後、Aさんは南警察署の警察官に不同意性交等罪の容疑で通常逮捕されました。
Aさんは事実関係を認めたものの、自分のした行為が同意を得ていたにもかかわらず法定刑が「5年以上の懲役」と定められた不同意性交等罪にあたると知り、あまりの重さに大変驚きました。
(事例はフィクションです)
前回の記事では令和5年改正における、性交同意年齢に関して解説しました。
刑法以外にも児童や未成年者に対する性犯罪に関する規定は多数存在します。
例えば事例のようなケースについては、令和5年改正の前には神奈川県の青少年育成条例違反が成立する可能性が高いケースでした。
今回の記事では、児童に対する性犯罪に関する規定についてどのようなものがあるのか、どのような行為が処罰対象になるのかについて解説します。
未成年者や児童に対する性犯罪に関する刑罰規程
以下では未成年者や児童との性行為や犯罪行為についての刑罰規定について代表的なものをあげさせていただきます。
児童を被害者とする犯罪についてはこちらにも詳しく解説があります。
①青少年育成条例違反
各都道府県によって名称や規定内容は異なりますが、18歳未満の児童との性交及び性交類似行為に関して条例で処罰規程が定められています。
以下で神奈川県の条例の条文をあげさせていただきます。
神奈川県青少年保護育成条例19条
何人も、青少年に対し、みだらな性行為又はわいせつな行為をしてはならない。
2 何人も、青少年に対し、前項の行為を教え、又は見せてはならない。
3 第1項に規定する「みだらな性行為」とは、健全な常識を有する一般社会人からみて、結婚を前提としない単に欲望を満たすためにのみ行う性交をいい、同項に規定する「わいせつな行為」とは、いたずらに性欲を刺激し、又は興奮させ、かつ、健全な常識を有する一般社会人に対し、性的しゆう恥けん悪の情をおこさせる行為をいう。
②児童買春
児童買春とは被害児童が18歳未満であることを知りながら、金銭等の対価を供与する又は供与する約束をして性行為を行うことをいいます。
児童買春については児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(以下、「児童ポルノ・児童買春規制法」といいます)に処罰規定があります。
以下に児童買春に関する条文をあげさせていただきます。
児童買春・児童ポルノ規制法2条
この法律において「児童買春」とは、次の各号に掲げる者に対し、対償を供与し、又はその供与の約束をして、当該児童に対し、性交等(性交若しくは性交類似行為をし、又は自己の性的好奇心を満たす目的で、児童の性器等(性器、肛門又は乳首をいう。以下同じ。)を触り、若しくは児童に自己の性器等を触らせることをいう。以下同じ。)をすることをいう。
同法4条
児童買春をした者は、五年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。
児童買春は先述した条例違反よりも重い刑罰が予定されています。これは対価の供与が行われることで、判断能力が未熟な未成年者の判断を誤らせる危険が高くなり、より厳しく保護されなければならないという趣旨に基づいていると考えられます。
③児童淫行
児童福祉法の条文では、児童に淫行させる行為について、10年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金を科すと定められています。また、場合によっては両方の刑が科される場合があります(児童福祉法34条1項6号、60条1項)。
青少年育成条例違反や児童買春との違いは、淫行「させる行為」と規定されたという点にあります。
「させる行為」といえるためには、直接たると間接たるとを問わず児童に対して事実上の影響力を及ぼして児童が淫行をなすことを助長し促進する行為と解釈されています。
そして具体的には、「行為者と児童の関係,助長・促進行為の内容及び児童の意思決定に対する影響の程度,淫行の内容及び淫行に至る動機・経緯,児童の年齢,その他当該児童の置かれていた具体的状況を総合考慮して判断する」と最高裁では解釈されています。
このような関係性の代表的な例としては先生と生徒の関係、親子関係などが挙げられます。
このような影響力により児童に対し性行為が行われた場合には、児童福祉法違反が成立し、加害者に前科がない場合にも実刑判決が下される裁判例が多く、非常に重い刑罰が科される傾向にあります。
④児童ポルノ製造
18歳未満の児童の裸などの性的な画像や動画を撮影した場合や、そのような画像や動画を被害児童に撮影するように指示してその画像や動画を自身の携帯電話に保存した場合には児童ポルノ製造に該当します。
児童ポルノ製造については先ほど児童買春の際にあげた児童ポルノ・児童買春規制法に根拠規定があります。
児童買春・児童ポルノ規制法第7条
4 前項に規定するもののほか、児童に第二条第三項各号のいずれかに掲げる姿態をとらせ、これを写真、電磁的記録に係る記録媒体その他の物に描写することにより、当該児童に係る児童ポルノを製造した者も、第二項と同様とする。
5 前二項に規定するもののほか、ひそかに第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を写真、電磁的記録に係る記録媒体その他の物に描写することにより、当該児童に係る児童ポルノを製造した者も、第二項と同様とする。
自分で撮影する場合だけでなく、性欲充足などの目的からSNSでやり取りをしていた児童に性器の画像を撮影してと言って、撮影させたものを送らせても製造罪が成立します。
なお要求の態様や送ってもらう動画や画像の内容次第ではによっては強要罪や不同意わいせつ罪といったより重い刑にあたる場合があります。このような行為は厳に慎むべきでしょう。
また令和5年の刑法改正により、16歳未満の者に対してはこのような性的画像の送付を要求するのみでも犯罪にあたることになりました(刑法182条3項)。
⑤未成年者誘拐・略取
未成年者誘拐・略取については刑法に定めがあります。
刑法第224条
未成年者を略取し、又は誘拐した者は、3月以上7年以下の懲役に処する。
刑法には他にも略取や誘拐についての処罰がありますが、目的を問わずに処罰しているのは、未成年者に対する誘拐・略取のみです。
略取や誘拐に関する詳しい説明はここでは省略しますが、例えば家出しており泊まる家を探している18歳未満の者に対して、「自分の家においでよ」と伝えて自宅に招き入れる行為でも未成年者誘拐罪が成立する可能性が高いです。
そのような投稿を見た場合や依頼を受けた場合に、何とか自分が助けてあげたいという気持ちになるかもしれませんが、自分の家に泊めるのではなく警察や児童相談所など保護すべき機関に連絡するようにしてください。
⑥面会要求等の罪
面会要求等の罪に関しては令和5年の刑法改正により新たに設けられた罪になります。被害者は16歳未満の者とされており年齢規定が設けられています。
以下に改正後の条文をあげさせていただきます。
刑法第百八十二条
わいせつの目的で、十六歳未満の者に対し、次の各号に掲げるいずれかの行為をした者(当該十六歳未満の者が十三歳以上である場合については、その者が生まれた日より五年以上前の日に生まれた者に限る。)は、一年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。
一 威迫し、偽計を用い又は誘惑して面会を要求すること。
二 拒まれたにもかかわらず、反復して面会を要求すること。
三 金銭その他の利益を供与し、又はその申込み若しくは約束をして面会を要求すること。
2 前項の罪を犯し、よってわいせつの目的で当該十六歳未満の者と面会をした者は、二年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金に処する。
このような罪が新設されたのは、児童犯罪の防止のためにこれまでは性行為などがあった際に初めて処罰していたのを、その危険が発生する段階で処罰できるようにすることで被害を未然に防止しようとする趣旨であると考えられます。
例えば、わいせつな目的を持ってSNSで知り合った児童に、会ったらお小遣いをあげるからなどと言って会うことを要求する場合に、罪が成立すると考えられます。
児童に対する性犯罪がより、加害者に対して厳しい要件によって保護されるのはなぜか
これまで児童や未成年者を被害者とする犯罪について解説をしてきましたが、いずれも成人に同じ行為をしても犯罪が成立しない場合や、より厳しい要件を満たさなければ犯罪が成立しない場合があることがお分かりいただけたかと思います。
このような規定になっている趣旨は、大まかにいえば性的な知識や判断について未熟である、児童や未成年者を保護するという点にあります。
未成年者はネットなどで性的なことについて多少の知識があっても、社会経験が不十分であることなどから、性的な関係を持つことによる悪影響や、犯罪に巻き込まれる危険性、性的搾取をされることの影響などについて一人で判断することが困難な場合がほとんどです。特に年の離れた大人が相手であれば適切に対応することはより困難になることが容易に想像できます。
このような未熟で未発達な児童や未成年者をしっかりと保護するために、そのような法律の規定になっているのです。
児童を被害者とする刑事事件を起こしてしまった際に、加害者が考えるべきことは何か
先ほど法律の趣旨について未成年者の保護があると説明させていただきました。
しかし言葉の意味が分かっても、そのことを真に理解し再犯防止や更生につなげることには、ハードルがあるように思います。
事件を起こされた方の中には、相手も性行為や家に来ることに同意していたのだから罪に問われることに納得がいかないと話す方もいます。
私が、児童や未成年者を被害者とする犯罪をしてしまった方の弁護を担当する場合には次のような問いかけをすることが多いです。
「あなたが中学生や高校生の頃に、先生や親以外の大人の人と関わることはどれくらいあったでしょうか。その大人の人にはどのような印象を持っていたでしょうか」
「あなたが中学生や高校生の頃、大人の人から性行為を誘われたらはっきりと断ることはできますか」
「あなたは中学生や高校生の頃、性行為の意味についてちゃんとわかっていましたか」
「あなたの子どもが被害者と同じくらいの年齢で性行為をしたとして、親から見てそれは同意していたからいいだろうで済ませられる問題ですか」
未成年の頃の同意は、いろいろな物事を理解しての同意、相手と対等な立場にたっての同意ではないことが多いです。
たとえ形式上同意をとったとしても、性行為をすることは許されるべきではありません。
あいち刑事事件総合法律事務所では示談など対被害者に対する弁護活動だけでなく、事件を起こした方への面談や再犯防止に向けた課題を実施して真の更生を目指しています。
児童犯罪についても数多くの取り扱い実績のあるあいち刑事事件総合法律事務所に是非一度ご相談ください。
性犯罪に関して詳しい弁護活動についてはこちら
神奈川県横浜市の不同意性交等事件 刑法の性交同意年齢の改正と児童犯罪について①
【事例】
神奈川県横浜市に住む大学生のAさん(22歳)は、出会い系サイトで女子中学生のVさん(15歳)と知り合って、令和5年の8月に会う約束をしました。
Aさんは事前のラインでのやり取りから、Vさんが15歳であることを知りながら、会った際にラブホテルでVさんの同意を得て性行為をしてしまいました。
Vさんは当日に両親にAさんとの性行為の事を話して、激怒したVさんの両親が神奈川県警南警察署に被害届を提出しました。
その後、Aさんは南警察署の警察官に不同意性交等罪の容疑で通常逮捕されました。
Aさんは事実関係を認めたものの、自分のした行為が同意を得ていたにもかかわらず法定刑が「5年以上の懲役」と定められた不同意性交等罪にあたると知り、あまりの重さに大変驚きました。
(事例はフィクションです)
刑法では同意がある性行為についても、同意がない場合と同様に処罰される場合の規定があります。性交同意年齢についての規定もその一つです。
今回の事例のAさんのように被害者の同意がある性行為については、処罰される趣旨が分からず更生や反省が十分に進まないケースもあります。
今回の記事では令和5年に行われた刑法の性犯罪規程の改正の中の、性交同意年齢に関する改正の解説や、それが定められた趣旨についてあいち刑事事件総合法律事務所の弁護士が解説します。
令和5年に行われた刑法の性犯罪規程の改正について
令和5年7月13日に施行された改正刑法においては性犯罪規定について大幅な法改正がなされました(以下、この改正について「令和5年改正」といいます)。
令和5年改正において、これまでは「強制わいせつ罪・準強制わいせつ罪」と呼ばれていた罪が改正後の刑法第176条に「不同意わいせつ罪」と定められました。
またこれまでは「強制性交等罪、準強制性交等罪」と呼ばれていた罪が改正後の刑法第177条に「不同意性交等罪」と定められました。
具体的な改正内容は非常に多岐にわたるのでこの記事での詳細な説明は省略して、本記事では性交同意年齢の改正内容について詳しく解説させていただきます。
性交同意年齢とは対象者の年齢だけを基準として、性的な同意を無効にする、すなわち一定の年齢未満の者に対する性行為については、実際に同意があったかどうかにかかわらず、同意がなかった場合と同様に処罰するという意味である。
改正前の強制わいせつ罪の条文を例に説明させていただきます。
(令和5年改正前)刑法第176条(強制わいせつ)
十三歳以上の者に対し、暴行または脅迫を用いてわいせつな行為をした者は六月以上十年以下の懲役に処する。十三歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。
この規定の「十三歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする」の部分が性交同意年齢に関する規定です。
その前の規定と比べると、十三歳未満の者に対しては「暴行または脅迫」を用いなくても強制わいせつ罪が成立すると定めており、単にわいせつな行為をしただけで強制わいせつ罪が成立するとしていました。
この規定について令和5年改正では性交同意年齢の引き上げが行われました。
性交同意年齢の改正内容について
令和5年改正における、刑法第176条及び刑法177条の性交同意年齢に関する改正部分は以下の通りである。
(令和5年改正後)刑法第176条(不同意わいせつ)
次に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、
わいせつな行為をした者は、婚姻関係の有無にかかわらず、六月以上十年以下の拘禁刑に処する。
3 十六歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者(当該十六歳未満の者が十三歳以上である場合については、その者が生まれた日より五年以上前の日に生まれた者に限る。)も、第一項と同様とする。
(令和5年改正後)刑法第177条(不同意性交等)
前条第一項各号に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、
性交、肛こう門性交、口腔くう性交又は膣ちつ若しくは肛門に身体の一部(陰茎を除く。)若しくは物を挿入する行為であってわいせつなもの(以下この条及び第百七十九条第二項において「性交等」という。)をした者は、婚姻関係の有無にかかわらず、五年以上の有期拘禁刑に処する。
3 十六歳未満の者に対し、性交等をした者(当該十六歳未満の者が十三歳以上である場合については、その者が生まれた日より五年以上前の日に生まれた者に限る。)も、第一項と同様とする。
令和5年改正後の性交同意年齢についての条文は、法律の条文になれていない方には読みづらいかと思いますが、簡単に説明すると以下のような内容です。
①原則として、16歳未満の者に対してわいせつな行為や性交等を行った場合には、他の要件を問わず不同意わいせつ罪ないしは不同意性交等罪が成立する。
②ただし例外として、被害者の年齢が13歳以上かつ16歳未満である場合には、被害者と加害者の年齢差が誕生日を基準にして、5年未満であれば、各号に掲げる事由がある場合に限って不同意わいせつ罪ないしは不同意性交等罪が成立する。
③補足ですが、被害者の年齢が13歳以上かつ16歳未満であり、年齢差が誕生日を基準に5年以上離れていれば、各号に掲げる要件がなくてもわいせつな行為や性交等に該当する事実があれば不同意わいせつ罪ないしは不同意性交等罪がせいりつする。
例えば、事例のケースであれば被害者が15歳であるから「16歳未満」となり、加害者が22歳であるから年齢差は少なくとも6年以上あるので、お互いの同意のもと行われた性行為であっても、令和5年改正後の刑法によれば「不同意性交等罪」が成立します。
改正刑法前には性交同意年齢が13歳未満であるとしていたので、不同意性交等罪(旧強制性交等罪)に問われると聞いたAさんが戸惑うのは無理ないことかもしれません。
しかしながら既に改正刑法は施行されているので、Aさんはより自覚を持って慎重に行動する必要があったでしょう。
性交同意年齢が定められる趣旨について
ではなぜ、刑法の性犯罪規定には性交同意年齢についての定めがあり、令和5年改正によって性交同意年齢がさらに引き上げられたのでしょうか。
性交同意年齢が定められているのは、定める年齢以下の者については判断能力が未熟であり、性的行為の意味を十分に理解できずにその未熟さに付け込まれるおそれもあるので、法律上特別に保護する必要があるとされています。
そして令和5年改正においては13歳以上16歳未満の者についても、性的行為の意味は一応理解できるものの 相手との関係によって、相手の言動の影響を受けやすく、状況に流されて適切に対処する能力が不十分であることを考慮され、一定の年齢差以上の者との関係に対しては、有効な性的同意が肯定できないとの考えから、年齢差の条件を付された上で性交同意年齢が引き上げられました。
加害者の側からすれば、一見して性行為の意味を理解し同意をとったとしても、一定の年齢未満の者であれば、性交をするかしないかという自分の体への侵害を受け入れるかどうかという重要な判断を、ちゃんとできないものだという相手の立場に立った考えを持つことが求められます。
事例のAさんのような場合では、自分の欲求で安易に性行為に及んでしまったことを反省し、15歳のVさんや、同年代の児童は、その場ではっきりとノーということができない場合もあり得、そうだった場合後から自分のした判断を後悔して、一生心の傷として残るかもしれないこと、そうなれば自分のした行為は相手の未熟さに乗じて無理やり性行為をしたことと何も変わらないことを胸に刻んで同じことを決してしないように更生を目指すべきです。
不同意性交等罪が成立する場合には実刑判決となる可能性が高いので、事件の反省と併せて早期に示談交渉に着手する必要が高いです。
自身の性癖や欲求のコントロールができなかった結果の犯行であれば、専門機関への通院が必要になるケースもあります。
性犯罪の加害者に対する弁護活動については、当サイトの痴漢、盗撮事件のページにも解説がありますので、そちらも参考にしてください。
次回は、不同意性交等罪に限定せず、未成年者を被害者とする犯罪に関して広く説明させていいただきます。
三重県津市の覚醒剤取締法違反事件 一部執行猶予を獲得するためにはどのようにすればよいですか
【事例】
三重県津市に住むAさんは8年前に覚醒剤所持事件で懲役1年6か月執行猶予3年の判決を受けた後、4年前に覚醒剤所持事件で懲役1年6か月の実刑判決を受けました。
それから家族の支えもあって覚醒剤と関わらない生活を続けていたAさんですが、昔の友人と飲み会に行った際に覚醒剤を勧められ1度ならと使用してしまいました。
当日の帰り道に、Aさんは錯乱状態になり、津警察署の警察官にに保護されました。
Aさんはその際に実施された尿検査で覚せい剤の陽性反応が出て、覚醒剤使用で逮捕されてしまいました。
Aさんは、実刑判決を受けた後の逮捕であることから、もう一度執行猶予判決を受けることは難しいと考えましたが、少しでも早く家族の下に帰るために一部執行猶予付の判決を得ることができないかと考えました。
(事例はフィクションです)
一部執行猶予制度とは
執行猶予とは、執行猶予とは、刑の執行を一時的に猶予することです。有罪判決が言い渡される場合、有罪との判断と併せて、刑の重さが言い渡されます。
判決の際例えば、「懲役2年6月」との言い渡しに続いて「刑の執行を5年猶予する」と言い渡されることがあるのですが、これを執行猶予付き判決といいます。
執行猶予付きの判決を受ける最大のメリットは、執行猶予期間中再犯をしなければ、服役せずに済むということです。
本事例でAさんが8年前に受けた、懲役1年6か月執行猶予3年の判決の意味は、本来であれば1年6か月の服役をしなければならないが、執行猶予が付されたことにより3年間再犯をせず、刑事裁判で有罪判決を受けることがなければ、全く服役しなくてもよいということになります。
執行猶予判決の関しては、当サイトの刑の種類と量刑のページにも詳しく解説していますのでそちらも参照してください。
執行猶予判決には全部執行猶予と一部執行猶予判決があります。
全部執行猶予判決は、懲役刑や禁錮刑の期間中全てに執行猶予が付されるものを指します。
事例においてAさんが受けた判決は、懲役1年6か月の懲役刑の全てについて執行猶予が付されているので全部執行猶予判決となります。
これに対して一部執行猶予判決は有罪判決を受けたものが受けた刑のうち一部について、執行猶予を付すものです。
判決の内容としては、例えば「懲役3年」との言い渡しに続いて、「このうち6か月間について3年間その刑の執行を猶予する」という判決が一部執行猶予付き判決の例になります。
このような判決が出される場合には、懲役3年のうち2年半については服役する必要があるが、半年間についてはすぐには服役する必要はなく、2年6か月の服役を終えた後3年間、刑事裁判で有罪判決を受けることがないなどの条件を満たせば、懲役3年のうち6か月間については刑務所で過ごさなくてもよくなることになります。
すなわち、一部執行猶予付きの判決を受けることになれば、言い渡された懲役刑の期間よりも、服役する期間が短くなるというメリットがあります。
一部執行猶予については、刑法第27条の2第1項に規定があります。
刑法第27条の2第1項
次に掲げる者が3年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受けた場合において、犯罪の軽重及び犯人の境遇その他の情状を考慮して、再び犯罪をすることを防ぐために必要であり、かつ、相当であると認められるときは、1年以上5年以下の期間、その刑の一部の執行を猶予することができる。
1 前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
2 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その刑の全部の執行を猶予された者
3 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から5年以内に禁錮以上の刑に処せられたことのない者
今回の事例のAさんは、4年前に実刑判決を受けており、5年以内に禁錮以上の刑に処せられたものに該当するので、刑法上の一部執行猶予を得ることはできません。
薬物事件に関し特別に認められる一部執行猶予について
次に一部執行猶予制度の導入と同時期に制定された、薬物事犯の被告人に対して認められる一部執行猶予の特例について解説させていただきます。
根拠法令は、「薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部の執行猶予に関する法律」(以下、「法」とします)という法律になります。
この法律では薬物事犯において有罪判決を受けた者について、犯情の軽重及び犯人の境遇その他の情状を考慮して、刑事施設における処遇に引き続き社会内において規制薬物等に対する依存の改善に資する処遇を実施することが、再び犯罪をすることを防ぐために必要であり、かつ、相当であると認められるときに、一部執行猶予を認めることができると定めています。
このような要件を付することで、薬物事件について、刑法上の一部執行猶予を認めることが出来ないケースでも、一部執行猶予が認められる可能性があります。
なお、この法律により一部執行猶予が付される期間については保護観察に付されることが定められています(法4条)。
一部執行猶予を獲得するための弁護活動
Aさんのように刑法上の一部執行猶予の要件を満たさない場合に、薬物事件に関する特例法において一部執行猶予を得るためにはどのような弁護活動が必要でしょうか。
先述した薬物事件に関する特例法では、刑法上の一部執行猶予の要件に加えて、社会内処遇の必要性及び相当性が認められることという要件が加えられています。
この要件を満たすためには、公判において裁判官に対し、薬物との関わりを断つために具体的な行動に移していること、専門機関の受診や治療施設への入所の予定などを主張する必要があります。
また保護観察に付されることが前提になりますので帰住先や身元引受人の確保も重要になります。
薬物事件に関する弁護活動については当サイトの、薬物事件のページも参照してください。
一部執行猶予が認められることは、「1日でも早い社会復帰」という意味では本人のプラスになります。
その一方で、相当期間の保護観察期間も設けられるので、その際に受ける治療や周囲の監督も重要になる制度です。
一部執行猶予が認められるべき事案か、一部執行猶予を目指すことが本当に有益なのか等にお悩みの方は、是非一度薬物事件を含めた刑事事件に精通したあいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。
出所後の更生緊急保護について 刑務所から出所後どのように生活を立て直せばよいのですか?
【事例】
Aさんは3年前に覚せい剤取締法違反で実刑判決を受けて、京都刑務所で服役していました。
Aさんは満期で出所することになりましたが、懲役刑を受けたことで職場も解雇されてしまい、出所後の生活が大変心配でした。
Aさんの家族は、離れたところに暮らしており、自分たちでAさんの生活を支えることは難しいものの、Aさんがスムーズに社会復帰し更生できるように何か利用できる制度はないか更生支援に精通したあいち刑事事件総合法律事務所の弁護士に相談しました。
(事例はフィクションです)
出所後の生活の困難
実刑判決を受けて刑務所で服役するとそれまでの生活は一変してしまいます。
職を失ってしまうこと、住居がなくなってしまうことなど、特に身寄りや生活のサポートをしてくれる方がいない受刑者の生活の再開には大きな困難が伴います。
最悪の場合路頭に迷ってしまい、生活の維持のために再犯に手を染めてしまうリスクもあります。
そこで、出所者等の生活の再開と更生をサポートするための制度の1つとして更生緊急保護という制度があります。
以下では更生緊急保護の制度について詳しく解説していきます。なお当サイトの更生緊急保護のページにも詳しく解説していますので、そちらも参照してください。
更生緊急保護の概要
更生緊急保護については、更生保護法という法律に根拠となる条文があります。
更生保護法85条1項
次に掲げる者が、刑事上の手続又は保護処分による身体の拘束を解かれた後、
親族からの援助を受けることができず、若しくは公共の衛生福祉に関する機関その他の機関から医療、宿泊、職業その他の保護を受けることができない場合又はこれらの援助若しくは保護のみによっては改善更生することができないと認められる場合に、
緊急に、その者に対し、金品を給与し、又は貸与し、宿泊場所を供与し、宿泊場所への帰住、医療、療養、就職又は教養訓練を助け、職業を補導し、社会生活に適応させるために必要な生活指導を行い、
生活環境の改善又は調整を図ること等により、その者が進んで法律を守る善良な社会の一員となることを援護し、その速やかな改善更生を保護することをいう。
一 懲役、禁錮又は拘留の刑の執行を終わった者
(2号以降については省略)
更生緊急保護を一言でいうならば、法の定める要件を満たした人に対し,しばらくの間,生活上のアドバイス,更生保護施設での宿泊,帰住の援助,就職の支援などの特別の保護をすることです。
更生緊急保護を受けられる期間は原則として6か月ですが例外的に延長が認められる場合もあります(更生保護法85条4項)。
実施内容については、更生保護法85条1項に記載の内容につき、保護を受ける者に必要な限度で実施されます(更生保護法85条2項)。
具体的には、更生保護施設での居住や、協力雇用主らとの連携による就労先の確保などのサポートを受けることができます。
要件については、「親族からの援助を受けることができず、若しくは公共の衛生福祉に関する機関その他の機関から医療、宿泊、職業その他の保護を受けることができない場合又はこれらの援助若しくは保護のみによっては改善更生することができないと認められる場合」であることが必要です。
この要件は、基本的には親族からの援助が期待できる方や、他の公共サービスを受けることにより保護の必要がない方については、それらの援助を優先して受けてくださいという制度になっていることを示すものです。
更生緊急保護を利用するにはどのようにするのか
それでは出所後の受刑者が、親族や公的サービスを受けることが期待できない場合に、更生緊急保護を利用するためにはどのようにすればいいでしょうか。
刑務所の出所時に、刑務所長が必要と判断した場合には本人に対して、更生緊急保護の手続き等について説明があり説明書と保護カードを渡されます。
そしてその保護カードを持参して保護観察所に出頭し、更生緊急保護の申し出を行う必要があります。
更生緊急保護を受けるためには本人が保護を受けることを望んでいることが要件になりますので、本人の申し出が必要になります。
申し出をした場合には、要件を満たしているかについて聴取が行われる、関係者から書類を取り寄せるなどして要件を満たすかどうかの判断がされます。
要件を満たすと判断された場合には、正式に保護を受けることができます。
帰住先の確保や就労先の確保は再犯をせずに、真っ当に更生していく上で非常に重要です。
できれば家族の元での更生が理想ではありますが、それがかなわない場合に適切な公的サポートを受けて更生を図っていくことは非常に重要です。
更生のために必要なアドバイスを受刑中の方にしてほしい方、早期に仮釈放を求めるための活動やアドバイスを弁護士に行ってもらうことを希望する方は、更生支援に力を入れているあいち刑事事件総合法律事務所に是非一度ご相談ください。
宮城県仙台市の不同意性交等事件 保釈決定を得て早期に専門機関を受診したい
【事例】
宮城県仙台市に住むAさんは3年前に強制わいせつ事件を起こして懲役2年執行猶予4年の有罪判決を受けていました。
Aさんは執行猶予中にもかかわらず、仙台市内の路上で通りすがりの女性に抱き着き、膣内に指を入れるという事件を起こしてしまいました。
事件を起こした1か月後にAさんは不同意性交等罪の容疑で仙台中央警察署の警察官に通常逮捕されました。
その後Aさんは不同意性交等罪の事実で起訴されました。
AさんとAさんの家族は保釈を認めてもらい、その期間に性犯罪加害者の更生プログラムがある専門機関を受診させようと考えました。
(事例はフィクションです)
今回の記事では上記事例を用いて性犯罪事件における保釈請求について、あいち刑事事件総合法律事務所の弁護士が解説します。
性器を挿入していないのに不同意性交等罪?
まず今回の記事の本題とは逸れますが、事例においてAさんの起訴罪名となった不同意性交等罪について簡単に解説します。
不同意性交等罪は令和5年7月13日に施行された改正刑法において新設された罪名になります。
新設とはいっても不同意性交等罪の処罰範囲はこれまで強制性交等罪、準強制性交等罪として処罰されていた行為がほとんどです。
しかしながら、これまでは強制わいせつ罪(改正刑法では不同意わいせつ罪に変更)で処断されていた、「膣または肛門に身体の一部や物を挿入する行為でわいせつなもの」も不同意性交等罪で処罰するように改正されました。
したがってAさんのした膣内に指を入れる行為は、改正刑法の施行後においては不同意性交等罪が成立するのです。
不同意性交等罪(旧強制性交等罪)の法定刑は「5年以上(20年以下の)の懲役刑」であるのに対して、不同意わいせつ罪の法定刑は「6月以上10年以下の懲役刑」と定められており、法定刑に大きな差があります。
刑法改正については、当事務所の各支部のホームページ(仙台支部の解説ページ)でも詳しく解説していますので、是非ご確認ください。
保釈請求が認められる要件について
それでは、次に保釈が認められるための要件について簡単に解説していきます。
保釈に関しては当サイトの保釈について詳しく解説したページも参照してください。
保釈には大きく分けて2種類があり、1つが権利保釈、もう1つが裁量保釈です。その他に義務的保釈という保釈もありますが実務上認められる例はほとんどないので説明は割愛します。
簡単に説明しますと、権利保釈とは刑事訴訟法89条に定める各事由のすべてを満たさなかった場合に認められる保釈のことを言います。
刑事訴訟法89条には6つの事由が定められており、特に問題になるのは常習性に関する事由と罪証隠滅に関する事由です。
一方で裁量保釈とは、権利保釈の要件を満たさない場合であっても、裁判所又は裁判官の裁量によって保釈が許可されることをいいます。
裁量保釈について定める刑事訴訟法90条では、裁量の判断事由として「被告人が逃亡し又は罪証を隠滅するおそれの程度のほか、身体の拘束の継続により被告人が受ける健康上、経済上、社会生活上又は防御の準備上の不利益の程度その他の事情」を明文であげています。
専門機関に通わせる必要があるという事情は、これが遅れることにより、被告人の更生が阻害されるという不利益があるということで、被告人に不利益を与える事情として裁量保釈の判断事由の一つになると考えられます。
専門機関を受診したいことを理由に保釈請求は認められるか
性犯罪を繰り返してしまう方には、性癖に問題が見られる場合や認知に大きな歪みが生じている場合があります。そのような場合には専門機関での専門的治療を受けることが更生に重要な意味を持つこともあります。
詳しくは認知行動療法を紹介した記事やページもご参照ください。
当然ですが留置施設や拘置所では性犯罪に関する更生プログラムを受けることはできません。
また刑務所に収監された後も更生のためのプログラムは用意されていますが、当然刑務所のプログラムは性犯罪の加害者に特化したものではありません。
専門的な治療を、本人に合った専門機関で早期に受けさせるためには、保釈を認めてもらい、判決前に受診をする必要があります。
特にAさんの事例のように執行猶予中の犯行であり実刑判決を受ける可能性が高いケースでは、専門機関で治療を受けるタイミングは判決の前しかありません。
Aさんが保釈を認められるためには権利保釈ないしは裁量保釈を認めてもらう必要があります。
そしていずれの保釈であれ、まずは証拠隠滅のおそれや逃亡のおそれがないことを保釈を判断する裁判官に主張する必要があります。
その上で、専門機関を受診させる必要性が高いケースであり保釈をする必要が高く裁量保釈を認めるべき事案であることを主張することになります。
罪証隠滅のおそれがないことを主張するためには、被害者との示談が成立していること、家族による監督が期待できることなどを具体的に主張していきます。
逃亡のおそれがないことについても、家族の監督体制が重要な考慮事情になります。
事例のように執行猶予中の再犯のケースは実刑判決が見込まれるため、起訴直後に保釈が認められることは容易ではありません。
上記の事情を丁寧に主張し、かつ専門機関への通院が必要なことなど保釈を認めるべき事案であることを弁護士が作成する保釈請求書において詳しく主張する必要があります。
保釈がなかなか認められない事案でも、保釈請求書の内容等を検討すれば保釈が認められる事案もあります。あいち刑事事件総合法律事務所では、これまで実刑判決が見込まれる事案や否認している事案等一般に保釈が難しいと言われる事案でも数多くの保釈許可決定を獲得しています。保釈が認められずにお困りの方、保釈を認めてもらい早期に専門機関での治療を開始されたい方は是非一度あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。
千葉県千葉市の高齢者の方の万引き事件 その万引きは前頭側頭型認知症の影響ではありませんか?②
【事例】
千葉県千葉市で一人暮らしをするAさん(65歳)は、仕事を定年退職した60歳頃から突然万引き事件を起こすようになって、2年前には罰金刑を受けました。
ご家族はAさんのことが心配になりながらも、Aさんは万引きをしてしまうこと以外には生活は問題なく送れており、万引きをしてしまう原因が分からず、どのように対応していいか分からなかったので、とりあえずAさんに対し「一人で買い物に行ってはいけないよ」と言っていました。
しかしながら、Aさんはまた万引き事件を起こして千葉東警察署の警察官に現行犯逮捕されました。
Aさんの家族はAさんの保釈が認められた後、専門機関を受診したところ、Aさんには前頭側頭型認知症の疑いがあると説明されました。
Aさんには国選弁護人がついていましたが、公判での弁護方針を相談するためにAさんとAさんの家族はあいち刑事事件総合法律事務所の法律相談を利用しました。
その後Aさんは、あいち刑事事件総合法律事務所の弁護士に公判での弁護活動を依頼することにしました。
(事例はフィクションです)
今回の記事では前回に引き続いて、前頭側頭型認知症を発症し、万引き事件を起こしてしまったAさんの事例を用いて、前頭側頭型認知症の診断を受けた方の公判での弁護活動についてあいち刑事事件総合法律事務所の弁護士が詳しく解説します。
公判において量刑はどのように判断されるか
まずは、刑事事件の公判で判決の内容はどのようにして決められるかについて簡単に解説します。
量刑の決定については当サイトの、刑の種類と量刑のページや、情状弁護のページも参考にしてください。
公判において裁判官が、被告人が有罪であるとの心証を持った場合には、その被告人に対してどのような刑罰を科すのか(罰金刑なのか懲役刑なのか)、執行猶予を付すべきか、罰金や懲役刑の期間はどの程度にするのかを検討します。
そしてこれら量刑の判断においては、第一に被告人が犯した犯罪の内容(犯情事実)を検討します。
その上で犯行の動機や、再犯可能性などの犯罪の内容以外の事実(一般情状)を副次的に考慮して量刑は決定されます。
事件によってどのような事情が量刑の判断情重要な意味を持つのかは変わってきます。
たとえばAさんの万引き事件においてはまず犯情事実として被害額や万引きの手口や頻度、常習性などが犯情事実として考慮されます。
そしてその上で、前科前歴、今後の監督や犯行に至った原因、再犯可能性などが一般情状として主として考慮されるでしょう。
前頭側頭型認知症の診断を受けた方の公判における弁護活動
Aさんの弁護活動で、担当する弁護士が裁判官に認めてもらえるように留意するべきなのは
①Aさんが万引き事件を起こしたことと、Aさんが診断を受けた前頭側頭型認知症が関係していること
②Aさんが今後二度と万引きをせずに社会内で更生することが可能であること
大きく分ければ以上の2点です。
この点を踏まえて、どのような証拠が必要か、どのような証言が必要かを検討し弁護活動の内容を考える必要があります。
前回の記事で説明させていただいた通り、前頭側頭型認知症が万引きをしてしまう原因となる場合は、欲求のコントロールが効かずに行ってしまう場合になります。
単にその動機を裁判で話すだけでは、盗んだ物欲しさに犯行をしてしまう通常の窃盗犯と何ら変わらないと判断され、「身勝手な動機」などと情状面で特に有利に考慮されずに判決が下されてしまうかもしれません。
診断を受けていること自体は、診断書を提出して裁判所に証拠調べをしてもらえれば立証できますが、弁護活動においては前頭側頭型認知症と犯行との関連まで示すことが重要になるのです。
そしてこの立証方法については、例えば診断をした医師に出廷をお願いして症状の具体的内容や犯行に至ったこととの関連性について証言をしてもらう、ご家族が証人として出廷し、日常生活で認知症の症状が出始めた時期と万引きを始めた時期が重なっていることを証言してもらうことなどが考えられます。
そのような立証活動を行い、判決において「Aさんが万引きを繰り返してしまったことには前頭側頭型認知症の影響もあり」などと、動機の面で酌量してもらうことを目指し弁護活動を行う必要があります。
立証の方法は、Aさんの症状の内容や医師の診断内容によっても変わりますので具体的な事例によります。
また②の点について、Aさんは万引きを繰り返して裁判になっているので、裁判所に再犯可能性がなく、万引きをせずに更生できると判断してもらうための弁護活動も重要になります。
しかしこれはそもそも裁判のためではなく、今後Aさんが社会内で生活を送っていく上でとても重要なことです。
そのためにはAさんの症状を、Aさんの周囲の人間やAさん自身がしっかりと理解し、生活の送り方を考えていく必要があります。
Aさんは一人暮らしをしていたので理想は誰か家族と同居することですが、それが難しければ公的機関に相談するなどしてヘルパーの方に来てもらうなど公助を求めることも考えられます。
以前の記事で紹介した更生支援計画の作成も検討してもよいかもしれません。更生支援計画作成の手続きについては以前投稿した記事も参考にしてください。
再犯をしないということは、被告人本人が「もう二度としません、反省しています」と約束するだけでは不十分です。具体的な環境の変化を立証して裁判官に対して万引きをしてしまう原因が除去できていると認めてもらうことが重要です。
再犯を防ぐために
今回のAさんの事例では、Aさんが裁判を受けることが初めてですので執行猶予付きの判決を受ける可能性が高いです。
しかしながら、先ほど説明した弁護活動が十分でなく、認知症に気付かないままであったり、再犯防止策の検討が不十分なままであったりしたまま裁判を終えてしまった場合には、執行猶予の期間中に再犯をしてしまうリスクが高いといえます。
前回の記事でも説明したように前頭側頭型認知症が原因になって万引きを繰り返してしまうケースは気付かれないまま裁判を終えて、執行猶予の期間中にまた再犯をしてしまって裁判を受けてしまう場合が少なくありません。
そうならないためにも、これまで多くの刑事事件を扱っており、万引き事件の弁護活動にも精通したあいち刑事事件総合法律事務所に是非一度ご相談ください。
あいち刑事事件総合法律事務所では単に裁判で有利な判決を得ることだけでなく、その後再犯をすることなく更生していくことまでは見据えた弁護活動を心がけております。
千葉県千葉市の高齢者の方の万引き事件 その万引きは前頭側頭型認知症の影響ではありませんか?①
【事例】
千葉県千葉市で一人暮らしをするAさん(65歳)は、仕事を定年退職した60歳頃から突然万引き事件を起こすようになって、2年前には罰金刑を受けました。
ご家族はAさんのことが心配になりながらも、Aさんは万引きをしてしまうこと以外には生活は問題なく送れており、万引きをしてしまう原因が分からず、どのように対応していいか分からなかったので、とりあえずAさんに対し「一人で買い物に行ってはいけないよ」と言っていました。
しかしながら、Aさんはまた万引き事件を起こして千葉東警察署の警察官に現行犯逮捕されました。
Aさんの家族はAさんの保釈が認められた後、専門機関を受診したところ、Aさんには前頭側頭型認知症の疑いがあると説明されました。
Aさんには国選弁護人がついていましたが、公判での弁護方針を相談するためにAさんとAさんの家族はあいち刑事事件総合法律事務所の法律相談を利用しました。
(事例はフィクションです)
今回の記事では上記の事例を使って、前頭側頭型認知症がどのようなものか、そして前頭側頭型認知症が犯罪とどのように関係していくかについてあいち刑事事件総合法律事務所の弁護士が解説します。
前頭側頭型認知症とは何か
今回の事例でAさんが診断された前頭側頭型認知症とはどのようなものなのでしょうか。
一般的に認知症として広く知られているアルツハイマー型の認知症とはどのような点で異なるのでしょうか。
前頭側頭型認知症とは、「神経変性」による認知症の一つで、脳の一部である「前頭葉」や「側頭葉前方」の委縮がみられ、他の認知症にはみられにくい、特徴的な症状を示します。
アルツハイマー型の認知症は脳の中で人の記憶をつかさどる海馬という部分から委縮し始めるので、この点で前頭側頭型認知症は異なります。
神経変性による認知症は、脳の中身である神経細胞が徐々に減ってしまったり、一部に本来みられない細胞ができ、脳が委縮することで発症することがわかっているといわれています。
脳の中で、前頭葉は「人格・社会性・言語」を、側頭葉は「記憶・聴覚・言語」を主につかさどっています。
そして前頭葉や側頭葉が正常に機能しなくなることで、前頭側頭型認知症の症状としては以下のような症状があるといわれています。
①社会性の欠如
自分の欲求を抑える事ができなくなり万引きなどの比較的軽微な犯罪を繰り返す、身だしなみに無頓着になるなどの社会性を欠いた行動をとるようになります。
②抑制が効かなくなる
相手に対して遠慮ができない、相手に対して暴力をふるうなどの自分に対して抑制のきかない行動をとるようになります。
③同じことを繰り返す
いつも同じ道順を歩き続ける、同じような動作を取り続けるといった、同じ行動を繰り返すようになります。
④感情の鈍麻
感情がにぶくなる、他人に共感できない、感情移入ができないといった、感情の鈍麻(どんま:感覚がにぶくなる)が起こります。その結果同居している家族に対し暴言を吐く、暴力をふるうという行動に出ることもあります。
このような症状に心当たりがある場合には是非一度専門機関での受診を検討されることをおすすめします。
弊所でも、明確な理由がなく万引きを繰り返してしまっている方に診断を勧めたところ、前頭型側頭型認知症の疑いがあると診断を受けた方がいました。
前頭型側頭型認知症の診断
前頭側頭型認知症を疑う場合、まず「問診」を行い、前頭側頭型認知症特有の症状が出ているかを確認するようです。
この際には、患者本人以外に家族にも同席してもらい、自宅での様子を客観的視点なから聞くようですので、本人の様子が気になるご家族の方は普段の様子で気になること、最近変わったことなどを記録されていくことをおすすめします。
問診の結果、前頭側頭型認知症の疑いがある場合には、アルツハイマー型の認知症と区別するためにCTやMRIによって前頭葉や側頭葉前部に委縮が認められるかを調べるようです。
アルツハイマーの場合は記憶をつかさどる「海馬」と呼ばれる部分から委縮が始まり、やがて脳全体が委縮するため、CTやMRIでも前頭側頭型認知症とアルツハイマー病は区別することができるようです。
また、必要に応じて脳内の血の流れを見るための「脳血流シンチグラフィー」や、がんの発見にも効果的な「PET」と呼ばれる検査によって、血流や代謝の低下を認めることで、前頭側頭葉型認知症と診断するようです。
前頭側頭型認知症と犯罪との関係
先ほど述べたように前頭型側頭型認知症の症状には、社会性を失い理性を持って行動できなくなることや、犯罪をしようと思う気持ちを抑制できなくなるといった症状があるので、犯罪につながりやすいといえます。
その一方でアルツハイマー型の認知症のように記憶力が低下するということはないので、前頭型側頭型認知症の症状の重さによっては生活には支障が出ない場合もあります。そして本人に、最近怒りっぽい、同じ話を何度もするといった症状が出ても年を取っただけかと見過ごされるケースも多いそうです。
また犯罪をする理由や動機については、物が欲しかったからなどとはっきり言えることがほとんどなので、捜査機関からも裁判所からも通常の万引き犯と変わらないように捉えられることがほとんどになります。
このような特徴から、たとえ前頭型側頭型認知症を発症してしまっていたとしても、発症に気づかず、通常の万引き犯と同様の手続きで刑罰を受けて、周囲も発症に気付かず対策を行うことができずに再犯に及んでしまうということが起こってしまいます。
今回の事例のAさんも最初に万引きをしてしまった時から前頭型側頭型認知症を発症し、物を手に入れたいという欲求が抑えにくい状態になっていたのかもしれません。
なかなか周囲の家族だけでは認知症を疑うことは難しいでしょうし、いざ疑問に思ってもなかなか受診を進めることに抵抗があるかもしれません。
是非万引きの動機や頻度などに疑問を感じられた方は是非一度ご家族を連れられてあいち刑事事件総合法律事務所の弁護士にご相談ください。
弊所の法律相談では万引きに至った経緯や理由、普段の行動に至るまで綿密に聴き取りをして、犯行の原因などについて精一杯考えさせていただきます。
万引き事件を起こしてしまった方の背景には加齢に伴う認知症だけでなく、規範意識に問題がある場合や窃盗症があるかもしれません。窃盗事件の弁護活動については、当サイトの窃盗事件のページや窃盗症について解説したページも参照してください。
次回の記事では同じ事例を基にして、前頭側頭型認知症であることが分かった方の公判での弁護活動や、その後の更生に向けてどのような方策があるかについて解説させていただきます。
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