更生緊急保護

更生緊急保護とは

更生緊急保護とは、刑務所を満期で釈放した(元)受刑者などが、親族や公的サービスなどによる自立更生に必要な援助や保護を得ることができず、生活困窮などにより出所後の生活や更生に支障がある場合に、本人からの申出に基づき実施される保護観察所長による緊急的な保護措置です(更生保護法85条)。

仮釈放が認められた受刑者の場合、必ず保護観察に付されるため、保護観察官や保護司の指導も受けながら、社会復帰を目指していきます。

しかし、刑務所を満期で出所した場合、保護観察に付されることもありません。要は、「いきなり外に放り出される」という状況になってしまうわけです。

頼ることができる親族や支援者がいるような場合や、自ら公的サービスを受けることができるような場合には問題ないかもしれません。しかし、そうではない出所者は路頭に迷ってしまうことになりかねません。最悪の場合、すぐに再犯をしてしまうこともあるかもしれません。

そういった事態を防ぐための措置が、「更生緊急保護」なのです。

令和4年版犯罪白書によると、令和3年に更生緊急保護の措置が実施されたのは5062件あり、うち3278件が「全部実刑の刑の終了」すなわち満期出所者ということになります。

令和3年の満期出所者が6676人ですので、更生緊急保護の必要性や重要性も見て取れるでしょう。

応急の救護等・更生緊急保護の措置の実施状況

受刑者の出所事由別人員

更生緊急保護の手続き

⑴ 対象者

更生緊急保護の対象者は更生保護法85条1項に規定されています。

典型的なのは刑務所の満期出所者ですが、それ以外にも少年院退院者や仮退院期間満了者も対象となります。

また、刑の全部執行猶予者で保護観察に付されなかった者や起訴猶予者も対象となっています。

以下では、刑務所を満期出所した場合を前提にしていきます。

⑵ 実施期間

更生緊急保護の実施期間は出所後6か月間です(一般法定期間)。

ですので、更生緊急保護を受けるのであれば、出所後すぐに申出をする必要があります。

再犯は身体解放直後に多いことや、6か月間で自立して社会生活を営む態勢や福祉サービスを受けることができる状況を整えることができると考えられること、なるべく早期に一般の福祉制度等につなげることが適当であること等から、実施期間が限定されています。

また、例外的にさらに6か月間を限度として更生緊急保護を受けることができる場合もあります(特別法定期間)。

これは、高齢や疾病、障害や天災など本人の責めに帰すことができない事由により、最初の6か月だけでは自立生活を営むことが困難であり、改善更生のために特に必要がある場合にのみ実施されるものです。

⑶ 本人による申出

刑務所出所時に、刑務所長が必要があると認めた場合に、本人に対して緊急保護制度と申出の手続きについての教示がされます。
このときに、説明書と保護カードが交付されます。

更生緊急保護を受けるためには、本人の申出がなければなりません。
ですので、出所後に保護カードを持参して保護観察所に自ら出頭して、申出を行います。

申出を受けた保護観察所は、本人と面談し、性格・年齢・経歴・心身状況・家庭環境・交友関係・親族の状況・生活能力・生活計画その他の事項を調査し、緊急更生保護の要否を決定します。

更生緊急保護の要件

⑴ 親族からの援助や公共の衛生福祉等から改善更生に必要な保護を受けることができない場合又はこれらの援助や保護のみによっては改善更生ができない場合

出所者本人を取り巻く人たちの中で、最も本人に身近な者は親族(広い意味での親類)であると考えられます。
そこで、まず最初に親族からの援助を期待するのが自然であり、その援助によって更生改善が図られるのであれば更生緊急保護は必要ないと考えられています。

また、更生緊急保護の考え方に「公共機関による保護優先の原則」というものがあります。

これは、福祉事務所やハローワークなどの公共機関は、前科の有無や服役経験の有無にかかわりなく平等に保護を受けることができるのが建前になっているので、公共の衛生福祉等を受けることができるのであれば、更生緊急保護も必要ないという考え方です。

ですので、親族からの援助や公共衛生福祉を受けることができないない場合や、受けることができたとしても不十分である場合が緊急更生保護の要件になると考えられています。

⑵ 本人の意思に反しないこと

上に書いたように、更生緊急保護は本人の申出によって開始されます。
更生緊急保護は、本人が自ら法を守る善良な社会の一員になることを援護するための制度ですので、本人の意思に反して強制することはできません。

更生緊急保護の内容

更生緊急保護は、本人の改善更生のために必要な限度で行わなければならないとされています(更生保護法85条2項)。なので、必要かつ相当な限度においてのみ実施されます。

具体的には

  • 宿泊場所の供与
    更生保護施設や自立更生促進センターの活用
  • 食事の給与
  • 宿泊場所への旅費の給与・貸与
    保護観察所による直接支給等
  • 就業又は生活援助のための金品の給与・貸与
  • 住居等の援助
  • 医療や療養の援助
    医療機関に関する情報提供や通院・服薬指導等
  • 就労援助
    ハローワーク等との連携による就労支援や職業紹介等
  • 教養訓練援助
    パソコン教室、料理教室、清掃活動等
  • 社会生活適応に必要な生活指導
    生活技能訓練や薬物依存回復プログラムの実施等
  • 生活環境の改善・調整
  • その他健全な社会生活を営むために必要や助言その他の措置

が挙げられます。

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