神奈川県横浜市の不同意性交等事件 刑法の性交同意年齢の改正と児童犯罪について②

【事例】
神奈川県横浜市に住む大学生のAさん(22歳)は、出会い系サイトで女子中学生のVさん(15歳)と知り合って、令和5年の8月に会う約束をしました。
Aさんは事前のラインでのやり取りから、Vさんが15歳であることを知りながら、会った際にラブホテルでVさんの同意を得て性行為をしてしまいました。
Vさんは当日に両親にAさんとの性行為の事を話して、激怒したVさんの両親が神奈川県警南警察署に被害届を提出しました。
その後、Aさんは南警察署の警察官に不同意性交等罪の容疑で通常逮捕されました。
Aさんは事実関係を認めたものの、自分のした行為が同意を得ていたにもかかわらず法定刑が「5年以上の懲役」と定められた不同意性交等罪にあたると知り、あまりの重さに大変驚きました。
(事例はフィクションです)

前回の記事では令和5年改正における、性交同意年齢に関して解説しました。
刑法以外にも児童未成年者に対する性犯罪に関する規定は多数存在します。
例えば事例のようなケースについては、令和5年改正の前には神奈川県の青少年育成条例違反が成立する可能性が高いケースでした。
今回の記事では、児童に対する性犯罪に関する規定についてどのようなものがあるのか、どのような行為が処罰対象になるのかについて解説します。

未成年者児童に対する性犯罪に関する刑罰規程

以下では未成年者児童との性行為や犯罪行為についての刑罰規定について代表的なものをあげさせていただきます。
児童を被害者とする犯罪についてはこちらにも詳しく解説があります。

青少年育成条例違反
各都道府県によって名称や規定内容は異なりますが、18歳未満の児童との性交及び性交類似行為に関して条例で処罰規程が定められています。
以下で神奈川県の条例の条文をあげさせていただきます。

神奈川県青少年保護育成条例19条
何人も、青少年に対し、みだらな性行為又はわいせつな行為をしてはならない。
2 何人も、青少年に対し、前項の行為を教え、又は見せてはならない。
3 第1項に規定する「みだらな性行為」とは、健全な常識を有する一般社会人からみて、結婚を前提としない単に欲望を満たすためにのみ行う性交をいい、同項に規定する「わいせつな行為」とは、いたずらに性欲を刺激し、又は興奮させ、かつ、健全な常識を有する一般社会人に対し、性的しゆう恥けん悪の情をおこさせる行為をいう。

児童買春
児童買春とは被害児童が18歳未満であることを知りながら、金銭等の対価を供与する又は供与する約束をして性行為を行うことをいいます。
児童買春については児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(以下、「児童ポルノ・児童買春規制法」といいます)に処罰規定があります。
以下に児童買春に関する条文をあげさせていただきます。

児童買春・児童ポルノ規制法2条
この法律において「児童買春」とは、次の各号に掲げる者に対し、対償を供与し、又はその供与の約束をして、当該児童に対し、性交等(性交若しくは性交類似行為をし、又は自己の性的好奇心を満たす目的で、児童の性器等(性器、肛門又は乳首をいう。以下同じ。)を触り、若しくは児童に自己の性器等を触らせることをいう。以下同じ。)をすることをいう。

同法4条
児童買春をした者は、五年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。

児童買春は先述した条例違反よりも重い刑罰が予定されています。これは対価の供与が行われることで、判断能力が未熟な未成年者の判断を誤らせる危険が高くなり、より厳しく保護されなければならないという趣旨に基づいていると考えられます。

児童淫行
児童福祉法の条文では、児童に淫行させる行為について、10年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金を科すと定められています。また、場合によっては両方の刑が科される場合があります(児童福祉法34条1項6号、60条1項)。

青少年育成条例違反や児童買春との違いは、淫行「させる行為」と規定されたという点にあります。
「させる行為」といえるためには、直接たると間接たるとを問わず児童に対して事実上の影響力を及ぼして児童が淫行をなすことを助長し促進する行為と解釈されています。
そして具体的には、「行為者と児童の関係,助長・促進行為の内容及び児童の意思決定に対する影響の程度,淫行の内容及び淫行に至る動機・経緯,児童の年齢,その他当該児童の置かれていた具体的状況を総合考慮して判断する」と最高裁では解釈されています。
このような関係性の代表的な例としては先生と生徒の関係、親子関係などが挙げられます。
このような影響力により児童に対し性行為が行われた場合には、児童福祉法違反が成立し、加害者に前科がない場合にも実刑判決が下される裁判例が多く、非常に重い刑罰が科される傾向にあります。

④児童ポルノ製造
18歳未満の児童の裸などの性的な画像や動画を撮影した場合や、そのような画像や動画を被害児童に撮影するように指示してその画像や動画を自身の携帯電話に保存した場合には児童ポルノ製造に該当します。
児童ポルノ製造については先ほど児童買春の際にあげた児童ポルノ・児童買春規制法に根拠規定があります。

児童買春・児童ポルノ規制法第7条
4 前項に規定するもののほか、児童に第二条第三項各号のいずれかに掲げる姿態をとらせ、これを写真、電磁的記録に係る記録媒体その他の物に描写することにより、当該児童に係る児童ポルノを製造した者も、第二項と同様とする。
5 前二項に規定するもののほか、ひそかに第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を写真、電磁的記録に係る記録媒体その他の物に描写することにより、当該児童に係る児童ポルノを製造した者も、第二項と同様とする。

自分で撮影する場合だけでなく、性欲充足などの目的からSNSでやり取りをしていた児童に性器の画像を撮影してと言って、撮影させたものを送らせても製造罪が成立します。
なお要求の態様や送ってもらう動画や画像の内容次第ではによっては強要罪や不同意わいせつ罪といったより重い刑にあたる場合があります。このような行為は厳に慎むべきでしょう。
また令和5年の刑法改正により、16歳未満の者に対してはこのような性的画像の送付を要求するのみでも犯罪にあたることになりました(刑法182条3項)。

未成年者誘拐・略取
未成年者誘拐・略取については刑法に定めがあります。

刑法第224条
未成年者を略取し、又は誘拐した者は、3月以上7年以下の懲役に処する。

刑法には他にも略取や誘拐についての処罰がありますが、目的を問わずに処罰しているのは、未成年者に対する誘拐・略取のみです。
略取や誘拐に関する詳しい説明はここでは省略しますが、例えば家出しており泊まる家を探している18歳未満の者に対して、「自分の家においでよ」と伝えて自宅に招き入れる行為でも未成年者誘拐罪が成立する可能性が高いです。
そのような投稿を見た場合や依頼を受けた場合に、何とか自分が助けてあげたいという気持ちになるかもしれませんが、自分の家に泊めるのではなく警察や児童相談所など保護すべき機関に連絡するようにしてください。

⑥面会要求等の罪
面会要求等の罪に関しては令和5年の刑法改正により新たに設けられた罪になります。被害者は16歳未満の者とされており年齢規定が設けられています。
以下に改正後の条文をあげさせていただきます。

刑法第百八十二条 
わいせつの目的で、十六歳未満の者に対し、次の各号に掲げるいずれかの行為をした者(当該十六歳未満の者が十三歳以上である場合については、その者が生まれた日より五年以上前の日に生まれた者に限る。)は、一年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。
一 威迫し、偽計を用い又は誘惑して面会を要求すること。
二 拒まれたにもかかわらず、反復して面会を要求すること。
三 金銭その他の利益を供与し、又はその申込み若しくは約束をして面会を要求すること。
2 前項の罪を犯し、よってわいせつの目的で当該十六歳未満の者と面会をした者は、二年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金に処する。

このような罪が新設されたのは、児童犯罪の防止のためにこれまでは性行為などがあった際に初めて処罰していたのを、その危険が発生する段階で処罰できるようにすることで被害を未然に防止しようとする趣旨であると考えられます。
例えば、わいせつな目的を持ってSNSで知り合った児童に、会ったらお小遣いをあげるからなどと言って会うことを要求する場合に、罪が成立すると考えられます。

児童に対する性犯罪がより、加害者に対して厳しい要件によって保護されるのはなぜか

これまで児童未成年者を被害者とする犯罪について解説をしてきましたが、いずれも成人に同じ行為をしても犯罪が成立しない場合や、より厳しい要件を満たさなければ犯罪が成立しない場合があることがお分かりいただけたかと思います。
このような規定になっている趣旨は、大まかにいえば性的な知識や判断について未熟である、児童未成年者を保護するという点にあります。
未成年者はネットなどで性的なことについて多少の知識があっても、社会経験が不十分であることなどから、性的な関係を持つことによる悪影響や、犯罪に巻き込まれる危険性、性的搾取をされることの影響などについて一人で判断することが困難な場合がほとんどです。特に年の離れた大人が相手であれば適切に対応することはより困難になることが容易に想像できます。
このような未熟で未発達な児童未成年者をしっかりと保護するために、そのような法律の規定になっているのです。

児童を被害者とする刑事事件を起こしてしまった際に、加害者が考えるべきことは何か

先ほど法律の趣旨について未成年者の保護があると説明させていただきました。
しかし言葉の意味が分かっても、そのことを真に理解し再犯防止や更生につなげることには、ハードルがあるように思います。
事件を起こされた方の中には、相手も性行為や家に来ることに同意していたのだから罪に問われることに納得がいかないと話す方もいます。
私が、児童や未成年者を被害者とする犯罪をしてしまった方の弁護を担当する場合には次のような問いかけをすることが多いです。

「あなたが中学生や高校生の頃に、先生や親以外の大人の人と関わることはどれくらいあったでしょうか。その大人の人にはどのような印象を持っていたでしょうか」
「あなたが中学生や高校生の頃、大人の人から性行為を誘われたらはっきりと断ることはできますか」
「あなたは中学生や高校生の頃、性行為の意味についてちゃんとわかっていましたか」
「あなたの子どもが被害者と同じくらいの年齢で性行為をしたとして、親から見てそれは同意していたからいいだろうで済ませられる問題ですか」

未成年の頃の同意は、いろいろな物事を理解しての同意、相手と対等な立場にたっての同意ではないことが多いです。
たとえ形式上同意をとったとしても、性行為をすることは許されるべきではありません。

あいち刑事事件総合法律事務所では示談など対被害者に対する弁護活動だけでなく、事件を起こした方への面談や再犯防止に向けた課題を実施して真の更生を目指しています。
児童犯罪についても数多くの取り扱い実績のあるあいち刑事事件総合法律事務所に是非一度ご相談ください。
性犯罪に関して詳しい弁護活動についてはこちら

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