服役中の作業報酬

日本の刑務所では、懲役刑の受刑者は、刑務作業をしなければなりません。

しかし、この作業は無償ではなく、報酬が支払われることになっています。

このことは、きちんと法律にも根拠があり、刑事施設収容法98条には「作業報奨金」という名目で定められています。この作業報酬についての解説をします。

いくらもらえるのか

法律では、作業報酬の額は「法務省令で定めるところにより」とだけ定められています。実際の報酬額については、毎年の法務省の予算によって若干の増減があります。

報酬額は「(作業の内容)×(その作業に従事した月数)」によって決まります。

ちょうど、「月給×勤務月数」で給料額が決まるようなものです。

刑務所内での作業については「1等工~10等工」までに区切られており、数字が小さいほど報酬も高く、また、高度な知識や経験を必要とする作業であるとされています。

一方、数字の大きい作業は、報酬が低く、室内での紙折りのような単純作業になります。

その他、特殊な技能が必要になる作業や、身体の危険を伴う作業の場合には「危険加算」のような加算もありますし、1日8時間を超える作業などについては「時間外作業」としての加算もあります。

具体的な金額はそれぞれ異なるのですが、1か月あたりの作業報酬金の平均額は「4、516円」(令和3年度の統計)でした。

受刑中の作業は一日8時間、土日は作業がない事を考えると、1週間の作業時間は最長40時間、1か月を4週と考えると、毎月の作業時間は、約160時間になります。

これを平均作業報奨金で割ると、1時間当たり28.2円の計算になります。

令和4年の日本で最も低い都道府県の最低賃金が853円であったことに比べると、最低賃金の約3%しかありません。

もちろん、刑務所内では家賃、水道ガス光熱費、食費、医療費、NHKの受信料等、日常生活で当然にかかる出費がないということもありますが、それでも大変少ない金額であることが分かります。

作業報酬金の計算については、各刑事施設において毎月、どの受刑者が、どの刑務作業に従事していたかということの記録をつけていますし、受刑者自身も作業の日報を作成しています。

例えば、A受刑者について「3等工」の作業を1年、「2等工」の作業を2年やっていた、という記録があれば、作業報酬金の額は「(3等工の作業報奨金)×12(ヶ月)」+「(2等工の作業報奨金)×24(ヶ月)」ということになります。

いつもらえるのか

一般的なお給料の場合、少なくとも「月払い」で支払われています。

これは、労働基準法24条2項という規定があり、毎月一回は給料を支払わなければならない、と定めているからです。つまり、「3か月に一回、まとめて払う」ということは基本的には違法なのです。

しかし、刑務所内での作業報酬は、労働の対価ではありませんから、毎月払われることはありません。いつ払われるのかというと、出所時になります。

これは、作業報酬金というものが、刑務所から出所した後の生活の資金になることを想定しているからと言われています。

しかしながら、上記の通り、そもそも作業報奨金は時給換算すれば微々たるものです。実際に、出所時に支給された作業報奨金の総額の統計を見ると、5万円を超える人が37%、1万円以下の人が14、6%でした(令和元年矯正統計年報)。

刑務所に入る時点での財産は別とすると、刑務所を出所した人のうち、5万円以上の現金を持っている人は3人に1人しかおらず、7人に1人は1万円も持っていない、ということになります。

出所後の生活資金と目されているようですが、刑務所から放り出されて現金も数万円しかないという状況では、社会の中で生活を立て直すということがいかに困難であるかが分かります。

なお、この作業報奨金については、服役期間中であっても一部使うことが認められています。

例えば、家族や親族に対して仕送りのために使いたいとか、被害者の被害弁償のために使いたい、自弁の物を買うために使いたいという場合には、既に確定した作業報奨金の中から一部を使うことが認められています。

また、受刑中に受刑者が死亡してしまったという場合、死亡する時までに溜まっていた作業報酬金は、受刑者の遺族に対して支払われることとされています(上記法99条)。

これは、受刑者から相続するというものではなく、受刑者が死亡した場合に、遺族が受け取る権利を得る、というものです。

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