【事例】
福岡県博多市在住のAさん(20歳男性)は、路上でいきなり女性の背後から抱き着いたとして強制わいせつの容疑で福岡県警博多警察署の警察官に通常逮捕されました。
Aさんの家族は、Aさんが逮捕されたとの知らせを受けて、すぐにあいち刑事事件総合法律事務所の弁護士に初回接見の依頼をしました。
初回接見でAさんに面会をした弁護士は、Aさんとのやり取りにおいて、犯行の動機や経緯について話が噛み合わないことがあり何らかの知的障害の疑いがあるのではないかと考えました。
弁護士は接見後に、接見時の状況を説明し、Aさんの家族に対して専門家に更生支援計画の策定をお願いしてはどうかとアドバイスをしました。
(事例はフィクションです)
この事例を用いてあいち刑事事件総合法律事務所の弁護士が知的障害が疑われる方の刑事弁護活動や更生支援計画について解説します。
このページの目次
初回接見の重要性
刑事事件で逮捕されると、原則として勾留が決定するまでの間(法律上勾留決定までの時間制限は72時間とされています)、弁護士以外と接見することができません。
しかしながら刑事事件の捜査はその間にも進められ、多くの事件で逮捕直後から本人の供述調書の作成は進められます。
法律上取調べの際には黙秘権の告知などが警察官には義務付けられていますが、当然ながら被疑者とされた人の有利になるように取調べや調書の作成をしてくれるわけではありません。
そこで、早期に弁護士が初回接見し、本人から逮捕されることになった経緯を詳しく聴き取って、取調べへの方針などを本人にアドバイスるすることが重要になるのです。
そして今回の事例においてはもう一つ初回接見に重要な意味がありました。
それは本人の異変や障害について早期に気付くということです。
警察などの捜査機関は基本的に、被疑者から話を聞く際に被疑者が事件の事実を認めているかどうか、事件の内容が証拠によって証明できるかに関心を持ちます。したがって犯行の真の動機や原因は見落とされてしまうこともあります。
もし違和感などに気付いたとしても、本件のように動機と犯行内容のつじつまが合わない場合には、調書にはその違和感を敢えて記載せず、本人の話した内容とは異なるもっともらしい動機を調書には記載してしまうケースも実際にありました。
逮捕により動揺している被疑者が調書の内容の訂正を求めることは容易ではありません。知的障害がある被疑者の方、発達に遅れのある被疑者の方であればなおさらです。
もし、誤った動機が調書に記載され、弁護士や周囲の人間もその違和感に気付かないままであれば、その誤った動機を前提にして裁判が行われてしまうかもしれません。
そうなれば、事件を起こした本人さえも事件を起こした原因や動機に気付くことなく、再度犯行に及んでしまうおそれも高くなってしまうといえます。
刑事事件に精通した弁護士は多くの事件を経験して、様々な特性を持った被疑者の方と接しています。そのような弁護士だからこそ早期に、個々の被疑者が抱える特性や知的障害について気付く事ができる場合もあるのです。
このような「気付き」は可能な限り早期に出来るに越したことはありません。後述する更生支援計画の策定や、本人に合った専門機関を探すためにも時間が必要だからです。
家族が刑事事件を起こして逮捕された場合には、出来る限り早期に刑事事件に精通した弁護士に初回接見を依頼することをおすすめします。
更生支援計画とは
次に事例において弁護士がAさんの家族に案内した更生支援計画とはどのようなものなのかについて解説します。
更生支援計画とは福祉的な支援が必要な方のため、その方の障害特性や病状を踏まえて、同じ行為を繰り返さないために必要な支援について記載された計画書になります。
そして更生支援計画は、社会福祉士や精神保健福祉士などの福祉専門職の方に作成を依頼して策定されるものです。
事例のように逮捕されている方の更生支援計画の作成をお願いする場合には、まず弁護士と専門職の方が事件内容を打ち合わせるなどして事情を共有し、その後本人への面会や家族から聞き取りを経て計画書の作成をしてもらうことになります。
計画の中では本人の特性に合った専門機関との連携や、どのような福祉サービスを受けるべきかについても盛り込まれることが多いです。
当事者が身体拘束されている場合ですと、警察署での専門職の方との面会時間は限られることになりますので、なるべく早期に依頼をすることが重要になります。
更生支援計画については、当サイトの精神障害がある方の弁護活動のページにも詳しい解説がありますので参考にしてください。
更生支援計画と刑事裁判
最後に更生支援計画を策定した場合の、刑事裁判における弁護活動について解説します。
更生支援計画を裁判までに策定した場合、その計画書を証拠申請して取調べを行うことを求めることが通常です。
場合によっては、計画の策定を行った社会福祉士などの専門職の方に法廷に出廷いただき計画を策定した経緯や、本人の更生に資するものである根拠について話していただく場合もあります。
刑事裁判の量刑については、事件を起こした本人が再度犯行をする危険性がどれほどあるかという、「再犯可能性」も重要な考慮要素になります。
更生支援計画の存在は、本人が再犯をしないために適切な支援を受けることを示すものであり、専門家が作成したという信用性もあるので、本人の再犯可能性が低いと判断される方向の事情になります。
仮に初犯の場合など執行猶予が見込まれる事件であっても、再犯可能性の程度によって執行猶予の期間や保護観察が付されるか否かも変わってきます。
更生支援計画を策定した場合は、その内容を基に裁判官に対して本人の再犯可能性が低いことを弁護側で立証していくことが重要になります。
刑事事件の量刑については、当サイトの刑の種類と量刑のページも参照してください。