医療観察法における当初審判について 当初審判は通常の刑事裁判と何が違うのですか?

【事例】
福岡県博多市に住むAさんは、以前から統合失調症に罹患しており、幻覚や幻聴により「友人のVを殺さなければAの家族や友人は皆殺しにされる」と考えるようになりました。
そしてある日、AさんはVさんを呼び出し、包丁で切り付けてVさんを殺害してしまいました。
Aさんはすぐに殺人罪で逮捕されましたが、「Vを殺さなければ家族や友人が皆殺しにされてしまう」という主張を続けています。
勾留中にAを診察した医師からは、今回の犯行は統合失調症による妄想に支配されたものによる可能性は非常に高いとの診断結果が出ました。
結果的に、Aさんは心神喪失を理由に殺人罪では不起訴になりましたが、医療観察法に基づき鑑定入院(強制入院)となりました。
そして、2か月の鑑定入院の後、審判が開かれることになりました。
(事例はフィクションです)

医療観察法と鑑定入院

前回の記事では、心神喪失などを理由として不起訴や無罪となった方が医療観察法にのっとり、入院となる手続きについて概観していきました。
今回の記事では、鑑定入院とその後に行われる審判(当初審判)について解説していきます。
なお、犯罪をしてしまった人を刑事事件の手続きでは「被疑者」や「被告人」と呼んでいましたが、医療観察法の手続きでは「対象者」と呼びます。

鑑定入院では、対象者に対し、投薬などを中心とした医療を施しながら医師が鑑定をしていきます。
具体的にどのような鑑定をするのかは医師にもよりますが、医療観察法では対象者が「精神障害者であるか否か」と「対象行為を行った際の精神障害を改善し、これに伴って同様の行為を行うことなく、社会に復帰することを促進するために、この法律による医療を受けさせる必要があるか否か」を判断するために鑑定をすることとされています。
また、具体的な鑑定内容や方法について、実務的には厚生労働省の厚生労働科学研究班が策定した「心神喪失者等医療観察法鑑定ガイドライン」が参照されることも多いようです。
その中では疾病性、治療反応性、社会復帰要因の3項目が重視されています。
また、鑑定においては精神障害の類型、対象者の過去の病歴、対象行為時の病状、治療状況、予測される将来の症状、対象行為の内容、対象者の性格なども考慮するとされています。
医師(鑑定医)はこれらの観点から対象者に対する鑑定を行い、最終的に医療観察法に基づく医療を受けさせる必要性に関する意見をまとめ、裁判所に提出します。

医療観察法と当初審判

裁判所は、鑑定結果の内容も踏まえて、対象者に対して医療観察法に基づく医療を受けさせるか否かを決するための審判を開きます。
この審判を当初審判といいます。
当初審判には対象者はもちろんのこと検察官や対象者の付添人弁護士、精神保健審判員、精神保健参与員、社会復帰調整官なども参加します。
場合によっては鑑定医も出席することがあります。
当初審判では疾病性、治療反応性(治療可能性)、社会復帰阻害要因から医療の必要性を判断していくことになります。
疾病性:対象者が、対象行為時の心神喪失・心神耗弱の原因となった精神障害と同様の精神障害を有すること
治療反応性:対象者に医療観察法による医療を受けさせることにより、その精神障害を改善することが可能であること
社会復帰阻害要因:対象者に医療観察法による医療を受けさせなければ、その社会復帰の促進を図ることができない事情があること

この3つの要件がすべて満たされた場合に、医療を受けさせる必要性があると判断されます。
当初審判では、鑑定医からの鑑定結果をもとに、裁判官や検察官、付添人などから対象者に質問がされます。
また、当初審判に先立ち、検察官や付添人からも、医療を受けさせる必要性があるか否か、あるとしても入院と通院のいずれを選択すべきかなどを記載した意見書を裁判所に提出します。
医療を受けさせる必要性があると判断された場合には、さらに入院か通院かを判断することになります。
入院との判断がされた場合には、対象者は引き続き医療機関に入院させられることになります。
なお、鑑定入院を担当する医療機関と、当初審判に基づく入院処遇を担当する医療機関は別になります。
後者の医療機関は国に指定された「指定入院医療機関」のみが対象者を受け入れます。
医療観察制度についてより詳しく知られたい方はこちらの法務省のHPも参考にしてください。

あいち刑事事件総合法律事務所では、責任能力が問題になる事案の弁護活動や、医療観察法の手続きでの付添人を務めた経験も豊富にあります。責任能力が争いになるようなケースや、医療観察法の手続きに関してお困りの方は是非一度あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。

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