神奈川県横浜市の不同意性交等事件 刑法の性交同意年齢の改正と児童犯罪について①

【事例】
神奈川県横浜市に住む大学生のAさん(22歳)は、出会い系サイトで女子中学生のVさん(15歳)と知り合って、令和5年の8月に会う約束をしました。
Aさんは事前のラインでのやり取りから、Vさんが15歳であることを知りながら、会った際にラブホテルでVさんの同意を得て性行為をしてしまいました。
Vさんは当日に両親にAさんとの性行為の事を話して、激怒したVさんの両親が神奈川県警南警察署に被害届を提出しました。
その後、Aさんは南警察署の警察官に不同意性交等罪の容疑で通常逮捕されました。
Aさんは事実関係を認めたものの、自分のした行為が同意を得ていたにもかかわらず法定刑が「5年以上の懲役」と定められた不同意性交等罪にあたると知り、あまりの重さに大変驚きました。
(事例はフィクションです)

刑法では同意がある性行為についても、同意がない場合と同様に処罰される場合の規定があります。性交同意年齢についての規定もその一つです。
今回の事例のAさんのように被害者の同意がある性行為については、処罰される趣旨が分からず更生や反省が十分に進まないケースもあります。
今回の記事では令和5年に行われた刑法の性犯罪規程の改正の中の、性交同意年齢に関する改正の解説や、それが定められた趣旨についてあいち刑事事件総合法律事務所の弁護士が解説します。

令和5年に行われた刑法の性犯罪規程の改正について

令和5年7月13日に施行された改正刑法においては性犯罪規定について大幅な法改正がなされました(以下、この改正について「令和5年改正」といいます)。
令和5年改正において、これまでは「強制わいせつ罪・準強制わいせつ罪」と呼ばれていた罪が改正後の刑法第176条に「不同意わいせつ罪」と定められました。
またこれまでは「強制性交等罪、準強制性交等罪」と呼ばれていた罪が改正後の刑法第177条に「不同意性交等罪」と定められました。

具体的な改正内容は非常に多岐にわたるのでこの記事での詳細な説明は省略して、本記事では性交同意年齢の改正内容について詳しく解説させていただきます。
性交同意年齢とは対象者の年齢だけを基準として、性的な同意を無効にする、すなわち一定の年齢未満の者に対する性行為については、実際に同意があったかどうかにかかわらず、同意がなかった場合と同様に処罰するという意味である。
改正前の強制わいせつ罪の条文を例に説明させていただきます。

(令和5年改正前)刑法第176条(強制わいせつ)
十三歳以上の者に対し、暴行または脅迫を用いてわいせつな行為をした者は六月以上十年以下の懲役に処する。十三歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。

この規定の「十三歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする」の部分が性交同意年齢に関する規定です。
その前の規定と比べると、十三歳未満の者に対しては「暴行または脅迫」を用いなくても強制わいせつ罪が成立すると定めており、単にわいせつな行為をしただけで強制わいせつ罪が成立するとしていました。
この規定について令和5年改正では性交同意年齢の引き上げが行われました。

性交同意年齢の改正内容について

令和5年改正における、刑法第176条及び刑法177条の性交同意年齢に関する改正部分は以下の通りである。

(令和5年改正後)刑法第176条(不同意わいせつ)
次に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、
わいせつな行為をした者は、婚姻関係の有無にかかわらず、六月以上十年以下の拘禁刑に処する。
3 十六歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者(当該十六歳未満の者が十三歳以上である場合については、その者が生まれた日より五年以上前の日に生まれた者に限る。)も、第一項と同様とする。

(令和5年改正後)刑法第177条(不同意性交等
前条第一項各号に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、
性交、肛こう門性交、口腔くう性交又は膣ちつ若しくは肛門に身体の一部(陰茎を除く。)若しくは物を挿入する行為であってわいせつなもの(以下この条及び第百七十九条第二項において「性交等」という。)をした者は、婚姻関係の有無にかかわらず、五年以上の有期拘禁刑に処する。
3 十六歳未満の者に対し、性交等をした者(当該十六歳未満の者が十三歳以上である場合については、その者が生まれた日より五年以上前の日に生まれた者に限る。)も、第一項と同様とする。

令和5年改正後の性交同意年齢についての条文は、法律の条文になれていない方には読みづらいかと思いますが、簡単に説明すると以下のような内容です。
①原則として、16歳未満の者に対してわいせつな行為や性交等を行った場合には、他の要件を問わず不同意わいせつ罪ないしは不同意性交等罪が成立する。
②ただし例外として、被害者の年齢が13歳以上かつ16歳未満である場合には、被害者と加害者の年齢差が誕生日を基準にして、5年未満であれば、各号に掲げる事由がある場合に限って不同意わいせつ罪ないしは不同意性交等罪が成立する。
③補足ですが、被害者の年齢が13歳以上かつ16歳未満であり、年齢差が誕生日を基準に5年以上離れていれば、各号に掲げる要件がなくてもわいせつな行為や性交等に該当する事実があれば不同意わいせつ罪ないしは不同意性交等罪がせいりつする。
例えば、事例のケースであれば被害者が15歳であるから「16歳未満」となり、加害者が22歳であるから年齢差は少なくとも6年以上あるので、お互いの同意のもと行われた性行為であっても、令和5年改正後の刑法によれば「不同意性交等罪」が成立します。

改正刑法前には性交同意年齢が13歳未満であるとしていたので、不同意性交等罪(旧強制性交等罪)に問われると聞いたAさんが戸惑うのは無理ないことかもしれません。
しかしながら既に改正刑法は施行されているので、Aさんはより自覚を持って慎重に行動する必要があったでしょう。

性交同意年齢が定められる趣旨について

ではなぜ、刑法の性犯罪規定には性交同意年齢についての定めがあり、令和5年改正によって性交同意年齢がさらに引き上げられたのでしょうか。
性交同意年齢が定められているのは、定める年齢以下の者については判断能力が未熟であり、性的行為の意味を十分に理解できずにその未熟さに付け込まれるおそれもあるので、法律上特別に保護する必要があるとされています。
そして令和5年改正においては13歳以上16歳未満の者についても、性的行為の意味は一応理解できるものの 相手との関係によって、相手の言動の影響を受けやすく、状況に流されて適切に対処する能力が不十分であることを考慮され、一定の年齢差以上の者との関係に対しては、有効な性的同意が肯定できないとの考えから、年齢差の条件を付された上で性交同意年齢が引き上げられました。
加害者の側からすれば、一見して性行為の意味を理解し同意をとったとしても、一定の年齢未満の者であれば、性交をするかしないかという自分の体への侵害を受け入れるかどうかという重要な判断を、ちゃんとできないものだという相手の立場に立った考えを持つことが求められます。
事例のAさんのような場合では、自分の欲求で安易に性行為に及んでしまったことを反省し、15歳のVさんや、同年代の児童は、その場ではっきりとノーということができない場合もあり得、そうだった場合後から自分のした判断を後悔して、一生心の傷として残るかもしれないこと、そうなれば自分のした行為は相手の未熟さに乗じて無理やり性行為をしたことと何も変わらないことを胸に刻んで同じことを決してしないように更生を目指すべきです。

不同意性交等罪が成立する場合には実刑判決となる可能性が高いので、事件の反省と併せて早期に示談交渉に着手する必要が高いです。
自身の性癖や欲求のコントロールができなかった結果の犯行であれば、専門機関への通院が必要になるケースもあります。
性犯罪の加害者に対する弁護活動については、当サイトの痴漢、盗撮事件のページにも解説がありますので、そちらも参考にしてください。
次回は、不同意性交等罪に限定せず、未成年者を被害者とする犯罪に関して広く説明させていいただきます。

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