Archive for the ‘刑事手続一般’ Category

【事例紹介】大麻所持の少年事件で、少年に対する働きかけが奏功し不処分を獲得した事例②

2024-05-09

【事例】
17歳のAさんは、同級生の友人と一緒に大麻を使用していました。
ある日、その友人と一緒に遊んでいた際に警察官から職務質問を受けて、Aさんは、友人と一緒に大麻を所持していることが発覚して逮捕されてしまいました。
その後Aさんはあいち刑事事件総合法律事務所に弁護を依頼し、最終的には家庭裁判所の少年審判で「不処分」の判断を得る事ができました。
(プライバシー保護のため事案を簡略化しています)

今回の記事では前回の記事に引き続いて、Aさんのケースで実際に行った少年審判での弁護活動や働きかけの内容について解説します。

Aさんに対する弁護活動

事例において有利な判断を少年審判でしてもらうためには、今回の薬物仲間との絶縁が重要なテーマになります。少年審判での処分の決定には再犯のおそれが重要な判断要素の一つだからです。

大麻の場合、眠りやすくなるからという理由から一人で使う人もいます。しかしAさんの場合、友人との付き合いで大麻を使用していました。
そのため、友人との絶縁ができれば、わざわざ大麻を使う理由もなくなります。
そこで、Aさんには、今回の事件の友人との絶縁を約束してもらうことにしました。

もっとも、未成年者である少年にとって友人というのは、大人が思うより大切です。大人から見れば、「こんな子との付き合いはやめなさい。」と思う人でも、少年の場合、判断が未熟なため大切な友人と思ってしまうことが往々にあります。
そのため、Aさんには、自分にとって何が大切か優先順位を考えてもらいました。
Aさんの場合、留学に行きたいという思いがとても強かったので、
「留学と友人、どちらが大事か。その友人と関係を続けたら留学に行けなくなるのではないか。」
とAさん自身によく考えてもらいました。
その結果、Aさんは、友人と絶縁することを自分で考えた上で納得してくれ、友人との絶縁することを少年審判でも約束してくれました。
また弁護士としても、少年審判において、Aさんは交友関係の断絶を約束するなど留学して更生する可能性が十分あり、処分を下して留学に支障を生じさせるようなことをすべきでないから不処分とするべきだと訴えました。

審判の結果

最終的に、少年審判では不処分を獲得して、Aさんは無事留学に行くことができました。
友人との関係についても自分で考えて決めたことだからと、弁護士やご家族の前で改めて交友関係の断絶についても約束してくれました。
少年事件は、少年本人の頭でよく考えてもらうことが大切です。大人がああだこうだ言い聞かせるだけでなく、いろいろな工夫をしながら、更生のための思考を促すことが大切です。
少年事件での弁護活動に興味がある方は、こちらの別の少年事件における弁護活動の記事も参考にしてください。

少年事件終了後の更生支援について

Aさんのように友人からの誘いで大麻を使用していたケースでは不処分獲得後のサポートも真の更生に向けて重要になります。
自分では大麻をやめられたと考えていても、大麻を使用する友人との交友関係が再び構築されてしまえば、大麻を誘われ、大麻の強い依存性から大麻使用を再開してしまうおそれもあります。
あいち刑事事件総合法律事務所ではAさんのようなケースで、弁護士が定期的に面談を行い交友関係に問題がないか確認をしたり、大麻の依存性や本人は周囲への影響について課題を通じて理解してもらったりする顧問契約をご用意しています。審判後のサポートも希望される方は是非お気軽にご相談ください。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所の弁護士は、少しでも多くの少年の未来を明るくする助けになればと思いながら、日々精進しておりますので、興味をお持ちの方はぜひご相談ください。

【事例紹介】検察官が保釈許可に反対した事案において、医療機関との協力を理由に保釈許可を得た事例

2024-04-25

今回の記事では、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所の弁護士が、医療機関と連携して保釈を実現した事例の紹介をいたします。

逮捕後の身体拘束の規定について

①逮捕から勾留について
まず刑事訴訟法で規定されている身体拘束に関するの規程について簡単に説明します。
犯罪をしたと疑われた人は、逮捕されることがあります。
逮捕には時間制限があるため、その制限時間を超えて、その人(被疑者と言います。)を捕まえておく必要があるかどうか審査が行われます。
その審査の結果、まだ捕まえておく必要があるということになれば、逮捕とは別の勾留という身柄拘束手続が始まります。
勾留にも期間の制限がありますが、逮捕よりも長いです(最大20日間と規定されています)。
そして勾留の期限内に、検察官は、被疑者を起訴するか不起訴にするか決めることになります。起訴とは、被疑者を刑事裁判にかけることです。

保釈について
検察官が被疑者を起訴した場合、被疑者は、起訴の後から被告人と呼ばれることになります。
被疑者から被告人に切り替わっても、勾留は、自動で継続されることになります。
そして、被告人や弁護人の方から保釈請求をして、裁判所から保釈の許可を得ない限り、長期間勾留され続けることになります。
保釈は、保釈金というお金を裁判所に預ける代わりに被告人を警察署などの施設から解放する制度です。
被告人が逃げたり証拠隠滅をしたりすると裁判所に預けた保釈金を国に取り上げられてしまう(没取)ことがありますが、そうしたことをしない限り保釈金を返してもらえます。
いわば人質ならぬ物質として保釈金を裁判所が預かる代わりに、被告人を解放するという手続です。
保釈に関してはこちらのページでも詳しく解説していますので参考にしてください。

保釈が困難な事例で保釈許可を獲得した事例(プライバシーの関係から事例は簡略化しています)

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、刑事事件を多く扱ってきた実績があり、築き上げたノウハウを用いて多くの事件で保釈を実現してきました。
しかし、中にはなかなか保釈を認めてもらえない事件があります。
どういう事件では保釈を認めてもらえないのでしょうか。それは被告人が逃げたり、関係者に接触するなどして証拠隠滅したりする可能性が高いと疑われてしまうような事件です。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が過去に受任した事件では、被告人が保釈されたら絶対に被害者のところに会いにいくはずだと検察官が保釈に猛反対し、裁判所もこれに同調してなかなか保釈を認めなかったものがあります。
しかし諦めることなく医療機関と連携して、保釈を実現しました。
その医療機関は、依存症治療に造詣が深く充実した施設を有していました。弁護人は、その医療機関の医師と入院日時の調整をしたり施設の状態を確認したりして、保釈を実現したのです。
裁判所も、医療機関では入院患者が容易には施設を抜け出せない構造になっていることを指摘して保釈を認めました。被告人の更生のために施設への入院が必要であることも考慮された可能性があります。
専門機関での治療と保釈請求との関係についてはこちらの記事も参考にしてください。

このように困難な事例でも辛抱強く、地道に、他の専門家と協力して身柄解放を実現することもあり得ます。
また保釈請求には回数制限がありませんので、現在ついている弁護士行った保釈請求が却下されたケースでも他の弁護士が違った事情を主張することで認められるケースもあります。
保釈に関して複雑で困難な問題を抱えている方はぜひ弊所まで一度相談をご検討ください。

兵庫県姫路市の不同意わいせつ事件 保護観察処分とは何かについて弁護士が解説します

2023-11-30

【事例】
Aさんは、神戸市内の大学に通う18歳の方で、兵庫県姫路市内のマンションで両親と一緒に生活しています。
Aさんは、大学近くの路上で女性に抱きつくという不同意わいせつ事件を起こしてしまいました。
その後、警察の捜査を受け、最終的に神戸家庭裁判所姫路支部は、Aさんを保護観察処分としました。
性犯罪は再犯率が高いというインターネット上の記事を読んだAさんの両親は、Aさんが今後、再犯をしないためにはどうしたらいいのか不安になりました。
そこで、Aさんと両親は、保護観察処分ではどのようなことをするのか、Aさんの再犯防止に向けてどのようなことができるのかを相談するために、あいち刑事事件総合法律事務所に相談することにしました。
(事例はフィクションです。)

1 保護観察処分とは

現在、成人となる年齢は18歳とされています(民法4条)。
しかし、少年法においては、「二十歳に満たない者」を「少年」と定めて(少年法2条1項)、少年法の適用対象としていますから、犯罪をしてしまった18歳以上20歳未満の方には、未成年の方と同様に少年法が適用されます。
そして、少年法は、18歳以上の少年に対する処分の1つとして、「保護観察所の保護観察に付する」という処分を設けています(少年法64条1項1号2号)。

保護観察というのは、少年を少年院などの施設に収容することはせずに、家庭や職場などに任せたまま、継続的に指導や監督などをすることで、社会内で少年の改善更生を目指す処分です。
保護観察や、少年事件の流れなどについてより詳しく知りたい方は当事務所の少年事件に関するページも参考にしてみてください。

2 保護観察処分を担当する者

保護観察を担当する機関は、少年の住居地を管轄する保護観察所です(更生保護法60条)。
実際に保護観察を実施するのは、保護観察所の保護観察官や保護司と呼ばれる方です(更生保護法61条1項)。

保護観察官は、「医学、心理学、教育学、社会学その他の更生保護に関する専門的知識に基づき」「犯罪をした者及び非行のある少年の更生保護並びに犯罪の予防に関する事務に従事する」国家公務員です(更生保護法31条2項)。

一方の保護司は、「保護観察官で十分でないところを補い」、保護観察所などの所掌事務に従事することを役割としています(更生保護法32条)。
非常勤かつ無給の国家公務員ですが、誰でもなれるわけではありません。
保護司は、①「人格及び行動について、社会的信望を有すること」、②「職務の遂行に必要な熱意及び時間的余裕を有すること」、③「生活が安定していること」、④「健康で活動力を有すること」という条件を全て満たす必要があります(保護司法3条1項)。
そして、保護司選考会の意見を聴いた保護観察所長の推薦を受け、法務大臣またはその委任を受けた地方更生保護委員会の委員長に委嘱されて初めて保護司となることができます(保護司法3条)。

3 保護観察ですること

保護観察処分を受けると、月に2回程度、担当の保護司のもとを訪れて、その指導を受けることが多いです。
また、保護観察の処分を受けた場合、いくつか日常生活で守らなければいけないルール(「遵守事項」といいます。)が設定されます。
遵守事項には、一般遵守事項と特別遵守事項の2種類があります。
一般遵守事項は、「再び犯罪をすることがないよう、又は非行をなくすよう健全な生活態度を保持すること」(1号)や「保護観察官又は保護司の呼出し又は訪問を受けたときは、これに応じ、面接を受けること」(2号イ)などと法律で定められています(更生保護法50条)。
特別遵守事項は、一般遵守事項以外にも、特別に遵守すべき事項がある場合に、具体的に定められます(更生保護法51条)。
Aさんのように、いわゆる性犯罪を理由に保護観察となった場合には、「性犯罪再犯防止プログラム」の受講を特別遵守事項として義務付けられることがあります。
この「性犯罪再犯防止プログラム」については、別の記事で詳しく解説します。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、刑事事件・少年事件に関わってきた経験を活かし、保護観察中のサポートにも力を入れています。
少年事件で保護観察処分を受けた後についても、少年事件を担当した弁護士がそのまま保護観察中にも継続的に面談を行い更生の支援をサポートする顧問契約もご用意しています。
性犯罪を起こしてしまった方で今後更生していけるか心配な方や、保護観察中の弁護士のサポートにご興味のある方は、一度、あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。

医療観察法における当初審判について 当初審判は通常の刑事裁判と何が違うのですか?

2023-11-24

【事例】
福岡県博多市に住むAさんは、以前から統合失調症に罹患しており、幻覚や幻聴により「友人のVを殺さなければAの家族や友人は皆殺しにされる」と考えるようになりました。
そしてある日、AさんはVさんを呼び出し、包丁で切り付けてVさんを殺害してしまいました。
Aさんはすぐに殺人罪で逮捕されましたが、「Vを殺さなければ家族や友人が皆殺しにされてしまう」という主張を続けています。
勾留中にAを診察した医師からは、今回の犯行は統合失調症による妄想に支配されたものによる可能性は非常に高いとの診断結果が出ました。
結果的に、Aさんは心神喪失を理由に殺人罪では不起訴になりましたが、医療観察法に基づき鑑定入院(強制入院)となりました。
そして、2か月の鑑定入院の後、審判が開かれることになりました。
(事例はフィクションです)

医療観察法と鑑定入院

前回の記事では、心神喪失などを理由として不起訴や無罪となった方が医療観察法にのっとり、入院となる手続きについて概観していきました。
今回の記事では、鑑定入院とその後に行われる審判(当初審判)について解説していきます。
なお、犯罪をしてしまった人を刑事事件の手続きでは「被疑者」や「被告人」と呼んでいましたが、医療観察法の手続きでは「対象者」と呼びます。

鑑定入院では、対象者に対し、投薬などを中心とした医療を施しながら医師が鑑定をしていきます。
具体的にどのような鑑定をするのかは医師にもよりますが、医療観察法では対象者が「精神障害者であるか否か」と「対象行為を行った際の精神障害を改善し、これに伴って同様の行為を行うことなく、社会に復帰することを促進するために、この法律による医療を受けさせる必要があるか否か」を判断するために鑑定をすることとされています。
また、具体的な鑑定内容や方法について、実務的には厚生労働省の厚生労働科学研究班が策定した「心神喪失者等医療観察法鑑定ガイドライン」が参照されることも多いようです。
その中では疾病性、治療反応性、社会復帰要因の3項目が重視されています。
また、鑑定においては精神障害の類型、対象者の過去の病歴、対象行為時の病状、治療状況、予測される将来の症状、対象行為の内容、対象者の性格なども考慮するとされています。
医師(鑑定医)はこれらの観点から対象者に対する鑑定を行い、最終的に医療観察法に基づく医療を受けさせる必要性に関する意見をまとめ、裁判所に提出します。

医療観察法と当初審判

裁判所は、鑑定結果の内容も踏まえて、対象者に対して医療観察法に基づく医療を受けさせるか否かを決するための審判を開きます。
この審判を当初審判といいます。
当初審判には対象者はもちろんのこと検察官や対象者の付添人弁護士、精神保健審判員、精神保健参与員、社会復帰調整官なども参加します。
場合によっては鑑定医も出席することがあります。
当初審判では疾病性、治療反応性(治療可能性)、社会復帰阻害要因から医療の必要性を判断していくことになります。
疾病性:対象者が、対象行為時の心神喪失・心神耗弱の原因となった精神障害と同様の精神障害を有すること
治療反応性:対象者に医療観察法による医療を受けさせることにより、その精神障害を改善することが可能であること
社会復帰阻害要因:対象者に医療観察法による医療を受けさせなければ、その社会復帰の促進を図ることができない事情があること

この3つの要件がすべて満たされた場合に、医療を受けさせる必要性があると判断されます。
当初審判では、鑑定医からの鑑定結果をもとに、裁判官や検察官、付添人などから対象者に質問がされます。
また、当初審判に先立ち、検察官や付添人からも、医療を受けさせる必要性があるか否か、あるとしても入院と通院のいずれを選択すべきかなどを記載した意見書を裁判所に提出します。
医療を受けさせる必要性があると判断された場合には、さらに入院か通院かを判断することになります。
入院との判断がされた場合には、対象者は引き続き医療機関に入院させられることになります。
なお、鑑定入院を担当する医療機関と、当初審判に基づく入院処遇を担当する医療機関は別になります。
後者の医療機関は国に指定された「指定入院医療機関」のみが対象者を受け入れます。
医療観察制度についてより詳しく知られたい方はこちらの法務省のHPも参考にしてください。

あいち刑事事件総合法律事務所では、責任能力が問題になる事案の弁護活動や、医療観察法の手続きでの付添人を務めた経験も豊富にあります。責任能力が争いになるようなケースや、医療観察法の手続きに関してお困りの方は是非一度あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。

心神喪失と判断されても放免にはならない?医療観察法の手続きについて

2023-11-16

【事例】
Aさんは、以前から統合失調症に罹患しており、幻覚や幻聴により「友人のVを殺さなければAの家族や友人は皆殺しにされる」と考えるようになりました。
そしてある日、AさんはVさんを呼び出し、包丁で切り付けてVさんを殺害してしまいました。
Aさんはすぐに殺人罪で逮捕されましたが、「Vを殺さなければ家族や友人が皆殺しにされてしまう」という主張を続けています。
勾留中にAを診察した医師からは、今回の犯行は統合失調症による妄想に支配されたものによる可能性は非常に高いとの診断結果が出ました。
結果的に、Aさんは心神喪失を理由に殺人罪では不起訴になりましたが、医療観察法に基づき強制入院となりました。
(事例はフィクションです)

心神喪失と医療観察法

心神喪失を理由に無罪となる事例や、そもそも起訴されて刑事裁判になることすらなく、不起訴となる事例は一定程度存在しています。
精神障害が原因となって事件を起こされた方の弁護活動については当サイトの精神障害がある方の弁護活動のページも参照してください。
最近でも、神戸で起きた殺人事件で一審、二審ともに心神喪失を理由として無罪判決が出ており、上告せずに確定しています。
また、京アニ放火事件でも弁護側は心神喪失を主張しています。

心神喪失を理由として無罪や不起訴になった場合、その後の手続きはどうなるのでしょうか。
「無罪放免となって普通に生活しているのでは」と思う方も多いかもしれません。
しかし、実際にはそういうわけではありません。
心神喪失などにより無罪判決を受けた場合には、「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律」(略称:医療観察法)に基づき、入院手続きに移行していきます。
これは罰として入院をさせるのではなく、社会復帰のために適切な医療を受けさせるための手続きになります。
では、医療観察法の内容を概観してみましょう。

医療観察法の対象

医療観察法による手続きの対象となる事件は、心神喪失などにより無罪となったすべての事件というわけではありません。
医療観察法の対象となるのは、一定の重大犯罪に限られています(医療観察法2条1項)。
具体的には
・現住建造物等放火(未遂も含む、以下同じ)
・非現住建造物等放火
・建造物等以外放火
・不同意わいせつ
・不同意性交等
・監護者わいせつ及び監護者性交等
・殺人
・自殺関与及び同意殺人
・傷害
・強盗
・事後強盗
です。

また、対象者は
心神喪失や心神耗弱を理由として不起訴になった者
心神喪失を理由として無罪となって判決が確定した者
・心神耗弱を理由として刑を減軽する旨の判決を受けて確定した者
です(医療観察法2条2項9。
事例のAさんは心神喪失を理由に殺人罪は不起訴となっているので、Aさんは医療観察法の対象となります。なお殺人罪の容疑を架けられた場合の対応についてはこちらにも詳しく解説しています。

医療観察法の手続き~鑑定入院~

心神喪失などを理由として不起訴や無罪となった場合には、検察官が裁判所に対して入院又は通院の処遇を求める申立てを行います(医療観察法33条1項)。
この申立ては
・対象行為を行った際の精神障害を改善し
・これに伴って同様の行為を行うことなく、社会に復帰することを促進するためにこの法律による医療を受けさせる必要が明らかにないと認める場合
以外には必ず申立てをしなければならないという、義務的申立てになります(医療観察法33条1項)。
この例外に該当する場合は極めて少数だと思われるので、心神喪失などを理由として不起訴や無罪となった場合には、ほとんどの事例で入院又は通院の処遇を求める申立てが行われるでしょう。
入院又は通院の処遇を求める申立てが行われると、裁判所は対象者を指定の病院に入院させる「鑑定入院命令」を出します(医療観察法34条1項)。
この入院を鑑定入院と呼ぶこともあります。
鑑定入院の期間は2か月以内となっており、必要と認める場合には1か月を限度として延長することができます。
鑑定入院の間にどのようなことが行われるのかは不透明な部分もありますが、基本的には社会復帰に向けた治療(投薬などを中心とした医療)が行われて行きます。
ただ、鑑定入院は文字通り「鑑定のための」入院なので、「医療観察法に基づく医療を受けさせるべきか否かを判断するための入院」ということになります。

医療観察法の手続き~当初審判~

鑑定入院を通じて、担当の鑑定医が意見をまとめていき、裁判所に提出します。
精神障害の類型、過去の病歴、現在及び対象行為を行った当時の病状、治療状況、病状及び治療状況から予測される将来の症状、対象行為の内容、過去の他害行為の有無及び内容並びに当該対象者の性格などを考慮し、医療観察法に基づく医療を受けさせる必要性があるのかどうかを判断することになります。
そして、この鑑定結果を基礎として、最終的に入院治療や通院治療をすべきか否かを裁判所が判断します。
これを「当初審判」と呼びます。
当初審判では
・入院決定
・通院決定
・医療を行わない
のいずれかの結論が出されることになります。
入院決定が出た場合には、指定医療機関に入院させられ、本格的に入院治療が開始されることになります。
入院決定による入院期間は医療観察法には定められていません。
厚労省が公表しているガイドラインによると、治療期間を急性期(3か月)、回復期(9か月)、社会復帰期(6か月)の3つのステージに分け、約1年半で退院を目指すこととしています。
しかし、実際には2年や3年にわたって入院を強いられるケースも多いようです。

このように、心神喪失などによって不起訴や無罪になったとしても、その後は医療観察法に基づく入院期間になります。
医療観察法の手続き中は、弁護士は「付添人」として様々な活動をしていくことになります。
具体的にどのような活動ができるのかや、当初審判の具体的な内容については、次回以降にご紹介いたします。

兵庫県神戸市の恐喝事件 家庭裁判所における調査官調査の対応に精通した弁護士

2023-08-24

【事案】
兵庫県神戸市中央区に住む高校生のAさん(17歳)は友人ら3名と一緒に、同級生のVさんを呼び出して、「10万円を払うか4人でボコボコにされるか選べ」と言って10万円を払わせたという恐喝の容疑で生田警察署に逮捕されました。
Aさんは警察署に10日間勾留された後、観護措置決定がされて少年鑑別所に移送され神戸家庭裁判所の調査官による調査官調査が開始されることになりました。
Aさんの家族がAさんに面会したところによれば、Aさんは今回の犯行について友人から誘われ断ったら自分が被害に遭うかもという考えから仕方なく参加してしまったのだと涙ながらに話していたとのことでした
(事例はフィクションです)

今回の記事では少年事件における家庭裁判所の調査官調査や、家庭裁判所の調査官調査に対してどのような対応をしていく必要があるかについて事例を基にあいち刑事事件総合法律事務所の弁護士が解説します。

調査官調査とは

まずは少年事件で行われる調査官調査について解説します。
少年事件のより詳しい流れについては当サイトの少年事件の流れのページも参照してください。
調査官調査とは一言でいえば、家庭裁判所の調査官によって、事件を起こした少年に対して行われる調査のことをいいます。
調査官調査では、事件を起こした少年の方の成育歴や、事件に対する内省の深まり、今後の更生の意欲や可能性などが調べられます。


今回の事例では少年に対し少年鑑別所での観護措置決定がされていますので、少年鑑別所での少年への面接や、少年の両親に対する面接が調査官調査の主な内容になります。
調査が行われる時期については事件の内容や担当する調査官の方針にもよりますが、本件のように少年鑑別所に少年がいる場合には移送されてから1週間から10日ほどたった時期にで第1回の調査官調査が行われることが多いように思います。
このように、本件のように身体拘束が継続したまま家庭裁判所での手続きが始まった場合には、調査官調査は逮捕されてから比較的早い時期に行われることになります。

調査官調査の持つ意味

調査官は調査において主に判断されるのは事件を起こした少年の要保護性の有無やその程度です。
要保護性という言葉は聞きなれない言葉かと思いますが、一言で言ってしまえば事件を起こした少年が今後更生していくためにはどのような保護処分ないしは手続きが必要かという判断がされます。
調査官調査が行われる場合には調査票という記録が作成されます。調査票の中では、少年に対してどのような保護処分が適当かどうか(ないしは大人と同じような手続きで判断されるべきかどうか)という意見とその理由が付されます。
調査官調査の結果が審判の結果に与える影響は非常に大きいです。なぜならば裁判官は審判の場で初めて少年に会うのに対し、調査官は児童心理などを専門に学ぶなど専門的知見を有しており、何度も少年に会って調査を行っているので処分結果を決める裁判官も調査官の判断を信頼し尊重する傾向にあるからです。
ですから少年院送致などの厳しい処分を避けるためには、調査官調査において少年の要保護性が高くないことや、事件を起こした後に要保護性が低下していることをしっかりと伝えていくことが必要になります。
勘違いしないでいただきたいのは、調査官はあくまで少年が今後の更生のために何が必要かを考えてくれる人であり、自分に対し厳しい罰を与えようとする人ではないということです。調査では特に隠しごとなどをせずに積極的に事件や今後についての自分の考えを述べることが大事になります。
ただしあくまで調査官の方は裁判所という中立的な立場で調査官調査にあたるため、次で述べるように少年事件では本人の側に付く付添人が非常に重要になってきます。

調査官調査に向けた弁護士の役割

調査官調査は早期に行われることは述べましたが、回数も限られています。そのなかで自分の起こした事件への反省や、今後の改善点を自分の言葉で述べて調査官の方に分かってもらうことは容易ではありません。
しかし調査官調査は何回でも行ってくれるものではなく、多くても2,3回程度です。限られた回数の中でうまく伝えられないと調査官の印象や要保護性の判断も厳しいものになってしまいます。
そうならないように、逮捕された直後から要保護性の改善に向けた働きかけを少年に対して行っていくことが重要になります。
まずは早期に弁護士が少年への面会を行い、少年が犯行に至った原因や動機、被害者がどのような気持ちになっているか、同じことをしないようにするためには何が必要かなどを考えてもらうことが必要です。
また同時に社会内での更生ができることを調査官に説明するためには環境調整も重要になります。
環境調整とは一言でいえば、少年が社会に戻った際に再犯をするリスクが低い状態であることを調査官に訴えていくことになります。
例えば本件の事案でいえば、Aさんが友人から言われて犯行に加担してしまった理由、どのようにすれば今後同じ誘いを受けた際にどのように断るのか、今回犯行に加担した友人たちとの関係をどうするのかといったことが、調査官調査で問題になることが予想されます。
早期から、問題になる点について弁護士から説明し少年によく考えてもらうことが、事件後の更生を考える上でも非常に重要になります。
調査官調査に安心して対応できるようにしておくことは、ひいては今後の更生につながることでもあるので、事件を起こした少年の真の更生のためにも早期から弁護人がついて、少年に働きかけをしていくことは重要になります。
少年事件に対する弁護士の役割については当サイトの少年審判での弁護活動というページもご参照ください。

京都府の道路交通法違反事件 少年事件に精通した弁護士

2023-06-29

【事例紹介】暴走行為により現行犯逮捕された後に観護措置決定された事例

事例

京都府伏見区在住の高校生Aさん(17歳)は友人らと一緒にバイクを運転していた際に、気が大きくなり信号無視や蛇行運転を繰り返すなどの暴走行為をしてしまいました。
Aさんは暴走行為についての通報を受けていた京都府警の警察官に発見され道路交通法違反の容疑で現行犯逮捕されました。
Aさんの両親は逮捕当日に逮捕の連絡を受けていましたが、それから2日後にAさんが京都少年鑑別所で観護措置を受けることになったと聞き、あいち刑事事件総合法律事務所の弁護士に初回接見を依頼しました。
(事例の内容はフィクションです)

今回の事例で逮捕されたのは17歳の高校生であり、20歳未満ですので少年法の適用を受けます。

観護措置とは

少年法では観護措置という措置について定めがあります(少年法17条)。
観護措置とは家庭裁判所が調査や審判を行うために諸事情を考慮し必要と判断した場合に、少年鑑別所に身柄を保全し、最終的な処分が決まるまで暫定的に少年を保護する措置をいいます。
少年事件の場合、事案が単純で証拠関係も簡単な事件の場合には、逮捕されてから2,3日の間に家庭裁判所に事件が送られて(家庭裁判所送致)、家庭裁判所の裁判官の判断で観護措置が取られることがあります。
観護措置の期間は実務上3,4週間程度であることが多く、その期間に少年鑑別所の技官や調査官の調査を受けて、審判を迎えることになります。

このように観護措置が取られてから審判までの期間はわずか1か月足らずであり、技官や調査官による鑑別結果や調査結果はそのまま審判での判断にも直結します。
調査等では事件を起こしたことをどのように受け止めているか、事件を反省し今後同じ事件を起こさないためにどのような行動をとっていくのかなど、更生に向けた話を聞かれます。
審判の結果に重要な意味を持つことも当然ですが、観護措置の期間でどのように事件を起こしたことに向き合うかが、少年の将来の更生にとって重要な意味を持ちます。

更生に向けた弁護活動

今回の事例では友人といわゆる暴走行為を行ったとして道路交通法違反で逮捕されています。
道路交通法ではいわゆる暴走行為について、共同危険行為にあたるとして処罰対象にしています。

そして共同危険行為は、他の人と一緒になって起こす事件ですから、一緒に暴走行為をしていた人間関係の清算が必要と判断されることがあります。
なぜ一緒になって暴走行為をしてしまったのか、暴走行為をすることを止められなかったのはどうしてか、なぜ暴走行為をするような人間と付き合いがあったのかなどが問題にされることが多いです。

弊所ではこのような事例において弁護士が、少年それぞれに合った課題を作成し、考えが浅い課題については少年と面会の上対話を重ねていきます。その上で、事例のようなケースで一緒に暴走こをした人との関わりをどうするのか、また暴走に誘われた場合にはどのようにして断るかなどについて深く考えてもらい、その後の調査や審判に臨んでもらいます。

また暴走行為はそれ自体道路の安全に大変な危険を生じさせる行為です。しかし事例のように暴走行為をして逮捕されたケースでは実際の被害が発生していない場合もあり、少年自身がその危険性に気付いていない場合があります。
そのような場合には、実際に暴走中に起きた事故の悲惨さを伝える、周囲から暴走をしている様子を見るとどうなるかなどを考えるなどの働きかけを行っていきます。
このように第三者の視点に立って自己の運転の危険性を知ることを目標に弁護活動を行っていきます。当然考えたことは、調査や審判において自分の言葉でしっかり伝えられるようにサポートも行っていきます。

事例のような暴走行為観護措置を取られたケースでは、上記のように更生に向けた弁護活動を行っていきます。先程も述べましたが観護措置が取られた時点では、審判までの時間が限られており早急に少年事件に精通した弁護士に相談し、審判やその先の更生に向けて活動を依頼することが重要になります。
当然観護措置を取られる前の、逮捕や勾留の時点でも時間が限られていることには変わりがありませんので、まずは一度初回接見のご依頼をおすすめします。

暴走行為で逮捕された事件、観護措置を取られた少年事件でお困りの方は少年事件に精通したあいち刑事事件総合法律事務所にお任せください。

keyboard_arrow_up

0120631881 問い合わせバナー LINE予約はこちら