高齢者の犯罪・再犯の傾向について

罪を犯してしまった人の更生支援、社会復帰において、近年重点を置かれているのが、受刑者の高齢化という点です。

高齢者の割合が多くなっている犯罪の類型や、受刑者となってしまう高齢者の方の傾向などについて解説をします。

受刑者の中での高齢者の方

令和4年の各種白書(政府の統計)によると、令和元年から令和3年にかけて、初めて刑務所に入った人のうち、65歳以上の人数は、2252人→2143人→2233人と、概ね2200人前後で推移しています。

一方、受刑者全体に占める65歳以上の人の割合についてみると、12.9%→12.9%→13.8%と、じわじわと増加している傾向にあります。

この、令和元年から令和3年にかけての期間では、受刑者全体の人数はほとんど変わらない、むしろ、少なくなっている傾向にありました。

全体としての受刑者の数は減少する傾向にあるのに、65歳以上のいわゆる高齢者の受刑者の数にあまり変化がなかったため、割合が増加していると思われます。

また、再犯をして刑務所に入ってしまうという高齢者の方も全体と比べて多いようです。

刑務所を出所してから2年以内に、再び刑務所に入ってしまう人の割合(再入率と呼ばれています)を見ると、全年代でみると、再入率は15%程度です。

つまり、出所した人の約15%程度が、2年以内に何らかの事情で再び刑務所に入ってしまっているということです。

これを、65歳以上の出所者に限定すると、2年以内の再入率は約20%になります。

他の世代を比べると、再犯をしてしまう方が多く、しかも、出所してから比較的短期間のうちに再犯に至ってしまっている事案が多いことが分かります。

当然のことながら、前科や前歴もない方がいきなり実刑判決を受けて刑務所での受刑となることはあまり多くありません。

つまり、罪を犯してしまった方の内、高齢の方については、再犯に至ってしまう状況に陥りやすく、仮に実刑判決を受けなかったとしても、二度と同じことが起きてしまわないための手当て、支援が重要だということになります。

高齢者の受刑者の方の罪名

高齢の受刑者の方で多い罪名が、順に、窃盗、覚醒剤取締法違反、道路交通法違反となっています。

窃盗は、刑法犯の中でも圧倒的に数が多い罪名ですから、受刑者の全体で見ても、窃盗罪で受刑者となる人は多いといえます。

これら、窃盗罪、覚醒剤取締法違反、道路交通法違反の事件について共通しているのが、どれも、「段階的処遇」が取られている罪名であるということです。

段階的処遇とは、罪を犯してしまった回数(段階)によって、徐々に刑の重さを重くしていくという処分の方針のことです。

例えば、窃盗のなかでも「万引き」の事案については、よく段階的処遇が行われています。

初めての万引きについては、警察署での注意、二回目の万引きについては逮捕、検察庁への送致、三回目の万引きだと罰金、四回目は正式裁判…というように、検挙されるたびに、「段階的に」処分が重くなっていくというものです。

覚醒剤取締法違反、道路交通法違反についても同様に、最初の検挙では罰金や執行猶予となっても、数を重ねるごとに重く、懲役刑も長くなっていくという傾向があります。

高齢者の受刑者で、窃盗、覚醒剤取締法違反、道路交通法違反が多いということは、つまり、受刑者になるまでの間に(年齢を重ねる中で)相当の前科があるということです。

65歳を超えてから何度も罪を犯してしまった、という人もいるでしょうが、多くの人はそれまでにも何度か罪を犯した、前科があるということが多いでしょう。

それは、何度も立ち直ろうとしてきたものの失敗してしまった、ということであり、これに加えて高齢による心身の衰えという事情も重なっており、自分一人で社会復帰を目指すのはより困難な立場にあるということでもあります。

刑事事件と認知症

加齢に伴う認知症によって、心神耗弱、心神喪失が認められて、刑が軽減されるということがあります。

しかし、認知症だからという理由だけで刑が免除されることは珍しく、むしろ、高齢の受刑者の方の中には、認知症の方もいれば、刑務所に入ってそこで認知症の診断を受けた、という人もいます。

60歳以上の受刑者の内、認知症と疑われる人に対しては刑事施設内でスクリーニング検査(簡易の検査)が行われます。

ここで認知症の疑いありとされた人は、その医師の診察を受けることになります。

実際に、認知症の疑いがありスクリーニング検査を受けたのは、60歳以上の受刑者のうちの約3割にのぼり、そのうち実際に医師の診察を受けたのはそのうちの5分の1程度でした。

当然、刑務所内での検査であるため、専門的な機器は使えないのと、診断する医師にもよってしまうため、実際にはもっと多くの方が認知症の疑いがある可能性もあります。

ここで認知症そのものが悪というわけではなく、認知症が故に罪を犯してしまった方については、社会復帰後にも適切な医療や福祉が必要だということです。

例えば、刑事施設からの出所後に養護老人ホームへ入所するとか、家族等の身寄りがいる人については市役所の福祉サービスを受けるようにする、訪問介護を受ける等といった支援が必要になるでしょう。

自分一人では生活できない/家族だけでは面倒を見切れない、という状態の方に対して、刑務所などで作業をさせたから「罪を犯すことなく生活を立て直すことができる」とは、到底いきません。

高齢の受刑者の方については、単なる刑務所での作業、教育だけでなく、適切な医療、福祉、その他行政からの支援を受ける必要性が、他の世代と比べて非常に大きいといえます。

そのためにも、受刑者となってしまう前の段階での支援(入り口支援)と出所後の生活支援(出口支援)の二段階で中長期的に支えていく必要があるのです。

高齢の家族の刑事事件や、受刑中の家族についてのご相談は、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所までご相談ください。

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