
前回の記事に引き続き今回の記事では発達障害、精神障害が背景にある刑事事件での弁護活動やその後の対応について詳しく解説していきます。
1 障害のある方が刑事事件を起こしたに関わってしまった場合に本人・家族が取るべき行動
① 逮捕・検挙後の初動対応
障害に理解のある弁護士への即時選任
「発達障害・精神障害に理解のある弁護士」に依頼することが第一歩です。障害特性を理解した弁護士でなければ、取り調べへの適切な対応のアドバイス対応指示や情状立証が難しくなります。適切な弁護活動がなされる可能性が高まります。
障害の診断歴・通院歴を弁護士に伝える
診断書・障害者手帳・通院記録・服薬履歴など、手元にある資料や情報をすべて弁護士に提供してください。未診断の場合も、過去の言動・学校・職場での評価を伝えることで弁護士が動けの活動方針が変わる場合があります。
取り調べへの対応を弁護士と確認する
発達障害・知的障害のある方は、取り調べにおいて「迎合的な供述(相手が望む答えを言ってしまう)」をしやすい傾向があるともいわれります。弁護士と事前に供述方針を決め、必要に応じて黙秘権の行使や供述調書への署名・押印を慎重にすることなどを検討します。
福祉専門家との連携を弁護士に依頼する
弁護士が社会福祉士・相談支援専門員・精神保健福祉士といった福祉の専門家と連携し、本人が釈放後に繋がれる支援機関を早期に確保することが重要な場合もあります。
家族によるサポート体制の整備
本人が釈放後に安定した生活を送れる住居・生活環境があることを示すことが、勾留回避や執行猶予を含めた処分獲得・軽減に直結繋がる事情の一つとなりえます。家族が本人の生活を支援できる場合には、その具体的な支援内容を整理し、必要に応じて検察官や裁判官に説明することも有効な場合があります。家族が監督者として関与できる場合は、弁護士を通じて誓約書を用意します。
② 釈放後・判決後の継続的な再犯防止策
- 精神科・発達障害専門クリニックへの継続通院と服薬管理の徹底
- 障害者手帳の取得・更新と、それに基づく福祉サービスの利用開始
- 相談支援専門員によるサービス等利用計画の策定と定期的な見直し
- 就労継続支援(A型・B型)や就労移行支援を活用した段階的な社会参加
- グループホームや支援付き住宅への入居による生活環境の安定
- 保護観察中の特別遵守事項(障害に関する受診義務等)の厳守
- 家族も含めた定期的なケア会議への参加で支援チームとの関係を維持する
「入口支援」と「出口支援」
刑事司法と福祉の連携には、逮捕・起訴の段階から支援機関に繋ぐ「入口支援」と、釈放・出所後の社会復帰を支える「出口支援」の2つのフェーズがあります。弁護士はこの両方の局面で福祉機関と協働しながら、刑事手続きの各局面で本人が支援の空白期間を生じさせないように、刑事手続きの中や法的な観点から調整・サポートする役割を担います。
2 弁護活動の全体像
弁護士によるサポートの全体像についてまとめます
【捜査段階】障害特性を踏まえた取り調べ対応と早期釈放
発達障害・知的障害のある方は、長時間の取り調べによる精神的疲弊や、捜査官への迎合から事実と異なる供述をしてしまうリスクが高い状態になっている場合があります。弁護士は接見を通じて本人の状態を確認し、供述の撤回・訂正が必要な場合には早期に対処しますし、そのような供述がされたり、その旨の供述調書が作成されたりしないよう早期からアドバイスすることができます。また、障害の特性上、長期勾留が他の人よりも大きな負担となり、長期勾留が精神状態を著しく悪化させる危険があるためことも考えられます。勾留に対する準抗告や勾留取消請求により早期釈放を目指します。
【精神鑑定の活用】責任能力・障害特性の正確な理解立証
事件の背景に精神障害が疑われる場合、弁護士は検察官またはや裁判所に対して精神鑑定の実施を求めることができ考えられます。また、弁護側として独自に精神科医に鑑定を依頼し(私的鑑定)、その意見書等障害と犯行の因果関係・責任能力の程度を示す「私的鑑定書」を証拠として提出することも有効な手段となる場合があります。
【情状弁護】障害・支援計画を一体的に裁判所へ提示
弁護士は裁判において、①障害の診断と特性の説明、②事件との因果関係の説明、③釈放後に利用できる福祉支援の具体的な計画、④支援機関・家族による監督体制の誓約——これらを「更生支援計画書」などの書面にとしてまとめ、執行猶予・量刑軽減を含めた処罰の軽減を裁判所に訴えます。単になる反省していると述べるだけ陳述ではなく、福祉の専門家のの意見書や支援機関からの受入承諾書を添付した具体的な計画などが、本人の社会復帰後の支援体制を具体的に裁判所に伝えることができるため裁判所としても具体的に検討する資料となり得ますし、裁判官の判断に説得力を持たせます。
【医療観察法への対応】重大事件における特別な手続き
精神障害者が殺人・放火・強盗などの重大な他害行為を行い、心神喪失・耗弱が認められた場合など、所定の要件を満たすと、「心神喪失者等医療観察法」に基づいて、検察官が地方裁判所に原則として審判手続きの申し立てを行い、審判手続きに移行します。この手続きでは、精神保健審判員(検察官が地方裁判所に処遇を申し立て、精神科医)と裁判官からなる合議体による審判で「入院処遇」または「通院処遇」等の要否が決定されます。弁護士(付添人)は審判の全過程で本人の権利を守り、処遇の内容が本人の回復に最適なものになるよう関与します。
【福祉機関との橋渡し】「司法と福祉の連携」を実践する
弁護士は法的な弁護活動を行いながら、同時に社会福祉士・精神保健福祉士・相談支援専門員・地域生活定着支援センターのスタッフと連携チームを構成しすることも考えられます。本人が釈放後にどの支援機関と繋がり、どのような生活を送るかを具体的に設計することが、再犯防止において最も重要な弁護活動のひとつです。
●弁護士が連携する専門職
精神科医・心療内科医
社会福祉士・精神保健福祉士
相談支援専門員
保護観察官・保護司
地域生活定着支援センター職員
成年後見人・後見監督人
●弁護士がから繋ぐ支援機関・制度
障害者手帳・精神保健福祉手帳
就労継続支援A型・B型事業所
グループホーム・支援付き住宅
精神科デイケア・訪問支援
更生保護施設・自立準備ホーム
成年後見制度(財産管理支援)
【出所後支援】社会復帰から定着まで継続サポート
実刑判決を受けて服役した場合も、出所後の社会復帰が最大の課題となります。弁護士は、出所前から地域生活定着支援センターや保護観察所と連携し、住居・福祉サービス・就労の受け入れ体制を整えるサポートをすることが考えられます。障害のある方が出所後に「支援の空白」に陥らないよう、釈放日から支援が始まる状態を作ることが目標です。
知っておきたい制度
地域生活定着支援センター
高齢者・障害者など、自立が困難な受刑者・被疑者の出所後の生活を支援するために各都道府県に設置された機関です。保護観察所・福祉機関・弁護士と連携しながら、住居・福祉サービス・就労の調整を出所前から行います。弁護士はこのセンターへの早期紹介を通じて、支援の空白期間をなくすことができます。
地域生活定着促進事業(厚生労働省)▼
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/kyouseishisetsu/index.html
まとめ——障害のある方の更生には「福祉的弁護」という視点が不可欠
発達障害・精神障害を背景とした刑事事件は、通常の刑事弁護に加えて、医療・福祉・生活支援という複数の専門領域を横断するいわば「福祉的弁護」とでもいうべきアプローチが求められます。障害の特性を正確に理解し、責任能力の問題を適切に主張しながら、弁護士が本人の障害特性や生活環境を踏まえた支援体制の構築に関与することは、本人の更生や再犯防止を考える上で重要です。釈放後の生活を具体的に設計できる弁護士の関与が、本人の更生と再犯防止において決定的な差をもたらします。
「うちの子(家族)は障害があるが、事件を起こしてしまった」「取り調べで不利な供述をしてしまったかもしれない」「どの支援機関に繋げばよいかわからない」——そのような不安を抱えた方は、ぜひ早い段階で専門の弁護士にご相談ください。
弁護士あいち刑事事件総合法律事務所は、精神障害が問題になりえる刑事事件の弁護活動はもちろん、更生支援事業部を設けて刑事事件終了後の更生のサポートにも全力で取り組んでいます。環境調整や適切な機関との連携により再犯を防止しながら真の更生に向けてサポートをさせていただきます。
