【事例】
三重県津市に住むAさんは8年前に覚醒剤所持事件で懲役1年6か月執行猶予3年の判決を受けた後、4年前に覚醒剤所持事件で懲役1年6か月の実刑判決を受けました。
それから家族の支えもあって覚醒剤と関わらない生活を続けていたAさんですが、昔の友人と飲み会に行った際に覚醒剤を勧められ1度ならと使用してしまいました。
当日の帰り道に、Aさんは錯乱状態になり、津警察署の警察官にに保護されました。
Aさんはその際に実施された尿検査で覚せい剤の陽性反応が出て、覚醒剤使用で逮捕されてしまいました。
Aさんは、実刑判決を受けた後の逮捕であることから、もう一度執行猶予判決を受けることは難しいと考えましたが、少しでも早く家族の下に帰るために一部執行猶予付の判決を得ることができないかと考えました。
(事例はフィクションです)
このページの目次
一部執行猶予制度とは
執行猶予とは、執行猶予とは、刑の執行を一時的に猶予することです。有罪判決が言い渡される場合、有罪との判断と併せて、刑の重さが言い渡されます。
判決の際例えば、「懲役2年6月」との言い渡しに続いて「刑の執行を5年猶予する」と言い渡されることがあるのですが、これを執行猶予付き判決といいます。
執行猶予付きの判決を受ける最大のメリットは、執行猶予期間中再犯をしなければ、服役せずに済むということです。
本事例でAさんが8年前に受けた、懲役1年6か月執行猶予3年の判決の意味は、本来であれば1年6か月の服役をしなければならないが、執行猶予が付されたことにより3年間再犯をせず、刑事裁判で有罪判決を受けることがなければ、全く服役しなくてもよいということになります。
執行猶予判決の関しては、当サイトの刑の種類と量刑のページにも詳しく解説していますのでそちらも参照してください。
執行猶予判決には全部執行猶予と一部執行猶予判決があります。
全部執行猶予判決は、懲役刑や禁錮刑の期間中全てに執行猶予が付されるものを指します。
事例においてAさんが受けた判決は、懲役1年6か月の懲役刑の全てについて執行猶予が付されているので全部執行猶予判決となります。
これに対して一部執行猶予判決は有罪判決を受けたものが受けた刑のうち一部について、執行猶予を付すものです。
判決の内容としては、例えば「懲役3年」との言い渡しに続いて、「このうち6か月間について3年間その刑の執行を猶予する」という判決が一部執行猶予付き判決の例になります。
このような判決が出される場合には、懲役3年のうち2年半については服役する必要があるが、半年間についてはすぐには服役する必要はなく、2年6か月の服役を終えた後3年間、刑事裁判で有罪判決を受けることがないなどの条件を満たせば、懲役3年のうち6か月間については刑務所で過ごさなくてもよくなることになります。
すなわち、一部執行猶予付きの判決を受けることになれば、言い渡された懲役刑の期間よりも、服役する期間が短くなるというメリットがあります。
一部執行猶予については、刑法第27条の2第1項に規定があります。
刑法第27条の2第1項
次に掲げる者が3年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受けた場合において、犯罪の軽重及び犯人の境遇その他の情状を考慮して、再び犯罪をすることを防ぐために必要であり、かつ、相当であると認められるときは、1年以上5年以下の期間、その刑の一部の執行を猶予することができる。
1 前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
2 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その刑の全部の執行を猶予された者
3 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から5年以内に禁錮以上の刑に処せられたことのない者
今回の事例のAさんは、4年前に実刑判決を受けており、5年以内に禁錮以上の刑に処せられたものに該当するので、刑法上の一部執行猶予を得ることはできません。
薬物事件に関し特別に認められる一部執行猶予について
次に一部執行猶予制度の導入と同時期に制定された、薬物事犯の被告人に対して認められる一部執行猶予の特例について解説させていただきます。
根拠法令は、「薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部の執行猶予に関する法律」(以下、「法」とします)という法律になります。
この法律では薬物事犯において有罪判決を受けた者について、犯情の軽重及び犯人の境遇その他の情状を考慮して、刑事施設における処遇に引き続き社会内において規制薬物等に対する依存の改善に資する処遇を実施することが、再び犯罪をすることを防ぐために必要であり、かつ、相当であると認められるときに、一部執行猶予を認めることができると定めています。
このような要件を付することで、薬物事件について、刑法上の一部執行猶予を認めることが出来ないケースでも、一部執行猶予が認められる可能性があります。
なお、この法律により一部執行猶予が付される期間については保護観察に付されることが定められています(法4条)。
一部執行猶予を獲得するための弁護活動
Aさんのように刑法上の一部執行猶予の要件を満たさない場合に、薬物事件に関する特例法において一部執行猶予を得るためにはどのような弁護活動が必要でしょうか。
先述した薬物事件に関する特例法では、刑法上の一部執行猶予の要件に加えて、社会内処遇の必要性及び相当性が認められることという要件が加えられています。
この要件を満たすためには、公判において裁判官に対し、薬物との関わりを断つために具体的な行動に移していること、専門機関の受診や治療施設への入所の予定などを主張する必要があります。
また保護観察に付されることが前提になりますので帰住先や身元引受人の確保も重要になります。
薬物事件に関する弁護活動については当サイトの、薬物事件のページも参照してください。
一部執行猶予が認められることは、「1日でも早い社会復帰」という意味では本人のプラスになります。
その一方で、相当期間の保護観察期間も設けられるので、その際に受ける治療や周囲の監督も重要になる制度です。
一部執行猶予が認められるべき事案か、一部執行猶予を目指すことが本当に有益なのか等にお悩みの方は、是非一度薬物事件を含めた刑事事件に精通したあいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。