Archive for the ‘財産事件’ Category
兵庫県豊岡市の特殊詐欺事件で少年院に送致されることになった事例 少年院での処遇について②
【事例】
Aさんは、兵庫県豊岡市に住む17歳の男子高校生です。
ある日、AさんはSNS上である投稿を見つけました。
それは、ある物を受け取って運ぶだけで何万円もの報酬を支払うといういわゆる闇バイトを募集する投稿でした。
犯罪かもしれないと思いながらその募集に応募したAさんは、兵庫県内や鳥取県内でいわゆる特殊詐欺に何件も加担してしまいました。
高齢の方が住む自宅に赴いてキャッシュカードをすり替えて盗んだり、そのキャッシュカードを使って何百万円ものお金を引き出して盗んだりしたのです。
その後、鳥取県内の警察署に逮捕、勾留され、再逮捕もされました。
捜査を受けた後、最終的に神戸家庭裁判所豊岡支部に事件が係属し、神戸少年鑑別所に収容するという観護措置が取られました。
そして、神戸家庭裁判所豊岡支部は、Aさんの少年審判を行い、少年院に送致するという処分を決めました。
AさんやAさんの家族は、少年院に送致するという処分自体には納得していましたが、少年院ではどのようなことをするのか、どこの少年院に行くことになるのか、どのくらいの期間行くことになるのかなどが知りたいと思い、それまでもAさんの弁護人、付添人であった弁護士に相談することにしました。
(事例はフィクションです。)
1 はじめに
前回の記事では、少年院の種類についてみてきました。
今回の記事では、収容される少年院が決まる過程などについて解説していきます。
2 関係する機関
まずは、関係する機関である①家庭裁判所、②少年院、③少年鑑別所の違いが分かると理解しやすいでしょう。
特にイメージの湧きにくい②少年院と③少年鑑別所の違いが重要です。
法務省のホームページでは、②少年院は、「家庭裁判所から保護処分として送致された少年に対し、その健全な育成を図ることを目的として、矯正教育や社会復帰支援等を行う法務省所管の施設」とされています(https://www.moj.go.jp/kyousei1/kyousei_kyouse04.html)。
その一方で、③少年鑑別所は、「(1)家庭裁判所の求めに応じ、鑑別対象者の鑑別を行うこと、(2)観護の措置が執られて少年鑑別所に収容される者等に対し、健全な育成のための支援を含む観護処遇を行うこと、(3)地域社会における非行及び犯罪の防止に関する援助を行うことを業務とする法務省所管の施設」とされています(https://www.moj.go.jp/kyousei1/kyousei_kyouse06.html)。
少年事件との関係でいえば、このうち(1)と(2)が重要です。
そして、①家庭裁判所は、離婚や相続などに関する家庭内の紛争及び非行を犯した少年の事件を専門的に取り扱う裁判所とされています(https://www.courts.go.jp/vc-files/courts/file2/20130128-1katei01.pdf)。
以上の違いを、Aさんのように観護措置が取られたうえで、少年審判が開かれ、少年院に送致された場合に即して説明していきます。
①家庭裁判所が非行を犯した少年の事件を取り扱いますので、少年審判を開き、処分(Aさんの場合は少年院送致という処分です。)をどうするのかを決めます。
このように①家庭裁判所が審判を開くのに先立ち、Aさんの鑑別をしたり、観護処遇をしたりするのが③少年鑑別所の役割です。
そして、少年審判で①家庭裁判所が少年院送致という処分を決定したのを受けて、その処分を実際に実行して、Aさんの矯正教育や社会復帰支援などをするのが②少年院ということになります。
大まかにいえば、③少年鑑別所は審判を行う前から少年院に行くまでに役割があり、②少年院は少年院に来てから役割があるということになります。
少年鑑別所における付添人活動についてはこちらも参考にしてください。
次回の記事でも、収容される少年院が決まる過程についてさらに解説していきます。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、刑事事件・少年事件に関わってきた経験を活かし、少年審判後の再犯防止に向けたサポートにも力を入れています。
再犯防止に向けた弁護士のサポートにご興味のある方は、一度、あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。
三重県名取市の強盗傷人事件 少年院による社会復帰支援を協力してくれる協力者について
【事例】
Aさんは、三重県名張市に住む17歳の高校生でしたが、友人らと一緒になって、老夫婦が住む三重県桑名市の一軒家に押し入り、老夫婦を殴ったり、蹴ったりといった暴行を加えて、現金100万円を奪い去りました。
このAさんたちの暴行により、老夫婦は骨を折るなどの怪我を負ってしまいました。
Aさんは、この強盗傷人事件を起こしたことで警察に逮捕されて捜査を受けました。
その後、津家庭裁判所に送致され、Aさんはこの強盗傷人事件で審判を受けることになりました。
Aさんは、この強盗傷人事件を起こす以前にも傷害事件を起こして保護観察処分を受けていたこともあって、少年院に送致されることになりました。
ところで、Aさんの両親は既に交通事故で他界しており、身寄りは高齢の祖母だけです。
Aさんの祖母は、何とかAさんの力になりたいと思っていますが、年齢や体調のこともあり、少年院から出てきた後のAさんの監督を十分にできるのか不安に思っていました。
場合によっては、交通の便が悪く、周囲に就業先も見当たらない自分の家に住まわせるよりも、別のところに住んでもらうのがいいのではないかということも考えています。
そこで、Aさんの祖母は、少年院から出てきたとき、Aさんにどのように生活してもらうのがいいのか、あいち刑事事件総合法律事務所に相談することにしました。
(事例はフィクションです。)
1 はじめに
以前の記事で、少年院による社会復帰支援の支援の内容について解説してきました。
前回の記事についてはこちらからご覧ください。
今回は、少年院による社会復帰支援の協力者について解説していきます。
2 少年院による社会復帰支援の協力者
以前の記事で、少年院の社会復帰支援としては、引受人の確保や就職・進学先の確保、医療機関に繋げること、障害者手帳等の取得の補助などといったことがあると解説してきました(少年院法44条1項)。
それでは、このような支援は少年院の長だけが行うのでしょうか。
まず、少年院の長は、以前解説したような少年院法44条1項の支援を行う際、「保護観察所の長と連携を図るように努めなければならない」とされています(少年院法44条4項)。
少年院から出院する場合、ほとんどが仮退院(少年院法135条)として出院します。
出院者のうち仮退院の者の割合を示したデータがこちらです。
少年院から仮退院した場合、法律上、保護観察が付されることになります(更生保護法42条、40条)。
この保護観察を担当するのは、出院者の住居地を管轄する保護観察所で(更生保護法60条)、実際に保護観察を実施するのは、保護観察所の保護観察官や保護司と呼ばれる方です(更生保護法61条1項)
つまり、仮退院として出院となれば、必然的に保護観察所が関与することになりますから、「保護観察所の長」とも連携を図る必要があるのです。
そして、このような少年院の社会復帰支援については、弁護士が関わることも考えられます。
最も典型的なのは、少年審判までの間に少年の弁護士(付添人といいます。)であった弁護士が、新たに少年の代理人となって活動をするという方法です。
このような弁護士であれば、警察などが捜査をしていたり、少年審判の前段階として家庭裁判所が調査をしていたりする段階から関わっていますから、少年の周りの環境をよく知っている場合もあるでしょう。
また少年院や保護観察所はあくまで公的機関ですから、そうではない弁護士がより柔軟な方法で活動することで、少年の社会復帰支援に有益な場合もあるでしょう。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、刑事事件・少年事件に関わってきた経験を活かし、再犯防止に向けたサポートにも力を入れています。
例えば保護司の方との相性が合わなくて不安だ、課題についてももっと取り組んでいきたいなどの要望がある場合には、保護観察中であっても弁護士が、保護観察中に面談を行う、課題を実施するなどの活動をさせていただきます。
少年院の出院後の社会復帰についてご興味のある方は、一度、あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。
三重県名張市の強盗傷人事件 少年院による社会復帰支援について深堀りして解説します
【事例】
Aさんは、三重県名張市に住む17歳の高校生でしたが、友人らと一緒になって、老夫婦が住む三重県桑名市の一軒家に押し入り、老夫婦を殴ったり、蹴ったりといった暴行を加えて、現金100万円を奪い去りました。
このAさんたちの暴行により、老夫婦は骨を折るなどの怪我を負ってしまいました。
Aさんは、この強盗傷人事件を起こしたことで警察に逮捕されて捜査を受けました。
その後、津家庭裁判所に送致され、Aさんはこの強盗傷人事件で審判を受けることになりました。
Aさんは、この強盗傷人事件を起こす以前にも傷害事件を起こして保護観察処分を受けていたこともあって、少年院に送致されることになりました。
ところで、Aさんの両親は既に交通事故で他界しており、身寄りは高齢の祖母だけです。
Aさんの祖母は、何とかAさんの力になりたいと思っていますが、年齢や体調のこともあり、少年院から出てきた後のAさんの監督を十分にできるのか不安に思っていました。
場合によっては、交通の便が悪く、周囲に就業先も見当たらない自分の家に住まわせるよりも、別のところに住んでもらうのがいいのではないかということも考えています。
そこで、Aさんの祖母は、少年院から出てきたとき、Aさんにどのように生活してもらうのがいいのか、あいち刑事事件総合法律事務所に相談することにしました。
(事例はフィクションです。)
1 はじめに
以前の記事で、少年院による社会復帰支援の対象者や支援の内容について解説してきました。
今回は、少年院による社会復帰支援の内容をさらに深掘りしていきます。
2 少年院による社会復帰支援
以前の記事で、少年院の長は、出院(法律的な意味で少年院での拘束状態が解かれることをいいます。)する場合の引受人の確保・調整(帰住先調整ともいいます。)や就職先や就学先の確保・調整といったことができると解説してきました(少年院法44条1項)。
以前の記事について確認されたい方はこちらからどうぞ。
まず、この社会復帰支援は、「効果的な実施を図るため必要な限度において」、少年院以外の適当な場所で行うこともできます(少年院法44条2項)。
例えば、就職をしようとしている場合に、就職予定の場所に実際に訪れることが必要な場合もあるでしょう。
また、進学を希望する場合に、進学先の学校を見学したり、その学校で入学試験を受けたりすることが必要な場合もありえます。
さらには、出院後に入院や通院をする病院を見学する必要がある場合もあるでしょう。
こういった少年院の外での社会復帰支援は、少年院の職員が同行して行われることになります。
また、少年院の職員の同行なしに外出や外泊が認められる場合もあります。
少年院法45条では、「少年院の長は、在院者」「の円滑な社会復帰を図るため、少年院の外において、その者が、出院後の住居又は就業先の確保その他の一身上の重要な用務を行い、更生保護に関係のある者を訪問し、その他その出院後の社会生活に有用な体験をする必要があると認める場合であって、その者の改善更生の状況その他の事情を考慮し、相当と認めるときは、少年院の職員の同行なしに、外出し、又は七日以内の期間を定めて外泊することを許すことができる」と定めています。
具体的には、就職予定の場所に実際に通うことが有用であったり、住み込みで働く予定の場合に実際に住み込みで働いてみることが有用であったりということが考えられます。
このように少年院の社会復帰支援としては、様々なバリエーションが考えられます。
少年院における社会復帰支援の取組みについてはこちらの法務省のホームページも参考にしてください。具体的な取り組みについて紹介されています。
今後の記事では、少年院が社会復帰支援を誰と行うのかについても解説していきます。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、刑事事件・少年事件に多数関わってきた経験を活かし、再犯防止に向けたサポートにも力を入れています。
具体的には顧問契約という形で、処分を受けた少年の方にたいし課題の実施や定期的な面談、交友関係の清算に向けた見守りなどによって真の意味での更生を目指していきます。
少年院の出院後の社会復帰支援についてご興味のある方は、一度、あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。
特殊詐欺に加担してしまった少年事件における少年院送致回避に向けた弁護活動・付添人活動
【事例】
未成年者のAさんは、先輩から特殊詐欺の仕事を紹介されて、これを行ってしまいました。
具体的な内容は、指示役からの電話に従って、高齢者の家に行き、段ボール箱1箱を受け取るという仕事です。
Aさんとしては、そのようなことをしたくなかったのですが、先輩から「俺の代わりにこの仕事をしてくれる人を探している。今までよくしてやったのだから、お前がやるよな。」と強く言われて断れなかったからです。
結局、Aさんは、詐欺罪で逮捕されてしまいました。
Aさんや家族は、少年院に行くことだけは避けたいと思っています。
どうすれば良いでしょうか。
(事例はフィクションです)
この事例をもとに、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所であれば、Aさんの審判の対応について、今後の更生について交えながら解説します。
少年事件に関する詳しい弁護活動についてはこちらのページも参考にしてください。
特殊詐欺事件では少年事件であっても厳しい処分が下される可能性が高いです
まず20歳未満の人が犯罪をした場合、少年法が適用され、少年事件として扱われます。
大人では刑務所に入ってしまうのと同じように、少年は、少年院というところに入れられてしまうかもしれません。
そして、Aさんのように特殊詐欺をしてしまった少年は、少年院に入ることになる可能性が十分あります。
これは特殊詐欺が社会問題化して厳罰化の流れがあること、特殊詐欺に加担するケースでは交友関係や本人の規範意識にに問題があると判断されるケースが多い傾向にあることなどが理由になっているようです。
ですから、本当にしっかりとした対応をしないと、少年院送致を回避すること回避はできませんし、一生懸命頑張っても少年院に送致されてしまうことも珍しくないです。
もし特殊詐欺事件に加担したとして逮捕された場合には、早いうちから少年院に行かなくて済むようやれることをしっかりしていく必要があります。
特殊詐欺事件で弁護士はどのような事情を家庭裁判所に主張するか
Aさんの場合、弁護士から色々と主張することになります。
特殊詐欺事件で責任の重さを図る事情として主なものとしては以下のような事情があります。
・特殊詐欺に成功したのか
・成功したとして被害額はどれくらいなのか
・被害者に対しいくら賠償できているのか
・逮捕されるまでに何回くらい特殊詐欺をしているのか
・そもそも段ボールの中身を何と認識していたのか
早期に弁護士がつくことで上記の点について不利な調書が作成されることを回避する、被害者に対し賠償や示談を行っていくなどの弁護活動を受けることができます。
このように既にしてしまったことの分析も大切ですが、少年事件では今後どうするかということも大切です。少年事件において、家庭裁判所が処分を決める際に関心を持つ事項としては次のような事情があります。
・なぜ事件を起こしてしまったのか家族と話し合えているか
・今後犯罪をしないために家族はどうサポートするつもりか?
・今回特殊詐欺をしてしまった原因をどうやってなくすことができるか?
以上のような事情について、今後再犯をしないためにどのように改善していけるかが少年事件において処分を決める上で重要になります。
事例のケースにおける弁護活動
事例のAさんの場合、なかなか強く意見することができない先輩からの依頼を断れずに特殊詐欺に関与してしまっています。
Aさんを少年院に入れるかどうか判断する裁判官としては、この先輩との関係をどうやって断ち切るか、またその先輩以外にも不良交友がないか気にしてきます。
ですので、Aさんの弁護士としては、その先輩との関係はもちろん不良交友をなくすためにはどうすれば良いか、一緒に考えることになります。
しかしAさんの場合、今後も先輩から色々と接触される可能性が十分あります。大人であれば、誰かと縁を切ることも可能かもしれませんが、未成年者同士だといったんは会わなくなったけどSNSでまた接触してしまうということもあり得ます。
一方で、常に家族だけで子供の様子を見張るのも限界があります。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、Aさんのような方の審判対応や今後の更生を見据えて、身元引受業務を内容とする顧問契約のサービスを提供しています。
この顧問契約は、一定の期間(半年にするか、1年にするか、もっと長くするかは話合いで決めます。)、Aさんと弁護士が密に連携して、先輩から接触を受けていないかという確認をすること、先輩から接触があった場合には相談を受けて防衛のための協議をすることを行います。
もちろんそれ以外にも、最近の生活状況について丁寧に確認し、再犯防止のためのアドバイスをしていくことになります。
「このような身元引受業務を裁判が終わった後もしっかり続けますよ」ということを少年事件の裁判官にしっかりと伝えると、裁判官に対してもある程度の安心材料になるため有利な事情となってきます。
少年院送致も考えられた事例で、弁護士による継続的なサポートと監督を主張したことが考慮されて、試験観察処分を獲得し少年院送致を回避した事例もあります。
もちろんこういった業務をするからといって確実に少年院を避けられるわけではありません。それくらい特殊詐欺で少年院回避は大変です。
少しでも少年院回避の可能性を高めるためにも、また今後の更生のためにも弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、全力でサポートをさせていただきます。
ご関心があれば、いつでもお問い合わせください。
三重県名張市の強盗傷人事件 少年院で行われる社会復帰支援の内容について紹介します
【事例】
Aさんは、三重県名張市に住む17歳の高校生でしたが、友人らと一緒になって、老夫婦が住む三重県桑名市の一軒家に押し入り、老夫婦を殴ったり、蹴ったりといった暴行を加えて、現金100万円を奪い去りました。
このAさんたちの暴行により、老夫婦は骨を折るなどの怪我を負ってしまいました。
Aさんは、この強盗傷人事件を起こしたことで警察に逮捕されて捜査を受けました。
その後、津家庭裁判所に送致され、Aさんはこの強盗傷人事件で審判を受けることになりました。
Aさんは、この強盗傷人事件を起こす以前にも傷害事件を起こして保護観察処分を受けていたこともあって、少年院に送致されることになりました。
ところで、Aさんの両親は既に交通事故で他界しており、身寄りは高齢の祖母だけです。
Aさんの祖母は、何とかAさんの力になりたいと思っていますが、年齢や体調のこともあり、少年院から出てきた後のAさんの監督を十分にできるのか不安に思っていました。
場合によっては、交通の便が悪く、周囲に就業先も見当たらない自分の家に住まわせるよりも、別のところに住んでもらうのがいいのではないかということも考えています。
そこで、Aさんの祖母は、少年院から出てきたとき、Aさんにどのように生活してもらうのがいいのか、あいち刑事事件総合法律事務所に相談することにしました。
(事例はフィクションです)
今回の事例は17歳の少年を対象にしましたが、仮に少年が18歳または19歳であった場合には現行の改正少年法においては特定少年という扱いになり、今回の事例のように強盗傷人罪を犯した場合には成人と同じ手続きにより審理される場合もあります。特定少年事件に関する詳しい説明につきましてはこちらのページも参考にしてください。
1 はじめに
前の記事で、出院(法律的な意味で少年院での拘束状態が解かれることをいいます。)の種類や、少年院による社会復帰支援が求められている理由や実情について解説してきました。
前回の記事についても興味がある方はこちらからお読みください。
今回は、少年院による社会復帰支援の内容について解説していきます。
2 少年院による社会復帰支援
⑴ 少年院が社会復帰支援をする根拠と対象者
以前の記事で、少年院から出院した場合の暮らす場所(住居など)や社会の中での居場所(就職先や学校など)が、その後の更生のためにも重要であることは解説してきました。
そして、少年院法44条1項柱書では、「少年院の長は、在院者の円滑な社会復帰を図るため、出院後に自立した生活を営む上での困難を有する在院者に対しては、その意向を尊重しつつ、」支援を行うとされています。
そのため、「出院後に自立した生活を営む上での困難を有する在院者」を対象に、少年院も出院後の社会復帰支援を行うことになります。
⑵ 社会復帰支援の内容
少年院法44条1項では、少年院の長が行う社会復帰支援の内容として、次のものを定めています。
①「適切な住居その他の宿泊場所を得ること及び当該宿泊場所に帰住することを助けること」(1号)
②「医療及び療養を受けることを助けること」(2号)
③「修学又は就業を助けること」(3号)
④以上の①から③のほか、「在院者が健全な社会生活を営むために必要な援助を行うこと」(4号)
①の具体的な例としては、親族の誰に引受人となってもらうのがいいのか、それとも親族ではなく、雇用主や更生保護施設、福祉施設に引受人となってもらうのがいいのかなどといったことを考え、引受人を確保すること(帰住先調整ということがあります。)などが挙げられます。
②の具体的な例としては、継続的な医療を受ける必要がある者に対して通院や入院が可能な病院を確保することや、障害者手帳等の取得が必要な者に対して取得手続きを補助することなどが挙げられます。
③の具体的な例としては、進学や復学を望むのであれば学校と調整を図ったり、就職を望むのであればハローワークや受入れ可能な雇主と調整を図ることなどが挙げられます。
少年院の社会復帰支援については、今後の記事でも解説していきます。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、刑事事件・少年事件に関わってきた経験を活かし、再犯防止に向けたサポートにも力を入れています。
具体的には少年事件に対する審判が終わった後についても、課題を出して取り組んでもらう、不良交友が再開しないように定期的に面談を行い確認するなどの更生支援活動を顧問として行っていきます。
少年院の出院後の社会復帰についてご興味のある方は、一度、あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。
三重県名張市の強盗傷人事件 少年院で行われる社会復帰支援の必要性について解説します
【事例】
Aさんは、三重県名張市に住む17歳の高校生でしたが、友人らと一緒になって、老夫婦が住む三重県桑名市の一軒家に押し入り、老夫婦を殴ったり、蹴ったりといった暴行を加えて、現金100万円を奪い去りました。
このAさんたちの暴行により、老夫婦は骨を折るなどの怪我を負ってしまいました。
Aさんは、この強盗傷人事件を起こしたことで警察に逮捕されて捜査を受けました。
その後、津家庭裁判所に送致され、Aさんはこの強盗傷人事件で審判を受けることになりました。
Aさんは、この強盗傷人事件を起こす以前にも傷害事件を起こして保護観察処分を受けていたこともあって、少年院に送致されることになりました。
ところで、Aさんの両親は既に交通事故で他界しており、身寄りは高齢の祖母だけです。
Aさんの祖母は、何とかAさんの力になりたいと思っていますが、年齢や体調のこともあり、少年院から出てきた後のAさんの監督を十分にできるのか不安に思っていました。
場合によっては、交通の便が悪く、周囲に就業先も見当たらない自分の家に住まわせるよりも、別のところに住んでもらうのがいいのではないかということも考えています。
そこで、Aさんの祖母は、少年院から出てきたとき、Aさんにどのように生活してもらうのがいいのか、あいち刑事事件総合法律事務所に相談することにしました。
(事例はフィクションです。)
1 少年院から出ること
少年院に送致された少年が、(物理的に少年院から外に出るという意味ではなく、)法律的な意味で少年院での拘束状態が解かれることを「出院」と表現しています。
出院のバリエーションとしては、①仮退院(少年院法135条)、②退院(少年院法136条、136条の2)、③収容継続(少年院法137条、138条、139条)などがあります。
このうち、最も多いのは①仮退院で、少年院在院者のほとんどが仮退院で出院します。
仮退院の手続きの流れについて詳しく知りたい方はこちらのページも参考にしてください。
なお、「収容継続」というのは、法律で定められた少年院での収容期間(原則として少年が20歳になるまでです。)では、矯正教育の目的が達成できず、少年保護の観点からはその期間を延長し、矯正教育の目的が達成できるようにするためなど、特別な場合として収容期間を継続することです。
2 少年院による社会復帰支援
⑴ なぜ社会復帰支援が求められているか
少年院送致という処分は、懲役刑や罰金刑といった成人事件の刑罰とは性質が異なります。
少年院での矯正教育は、「在院者の改善更生及び円滑な社会復帰を図ることを目的」として行われます(少年院法1条)。
そのため、罰を与えることだけを目的としているのではありません。
それでは、社会復帰のためにはどのようなことが必要でしょうか。
まずは暮らす場所が必要です。
人が社会の健全な一員として社会生活を送るためには、住居等の宿泊場所の存在は欠かせません。
また、社会内の居場所も必要です。
具体的には、少年のことを助けてくれる人物や、学校や勤務先といった居場所も重要です。
このような場所がないと、少年院を出てからも社会に馴染むことができずに、最終的には再び非行に及んでしまうかもしれません。
⑵ 出院者の実情
それでは、実際に少年院から出院した人はどうしているのでしょうか。
実は、実父母や養父母以外の方のもとに居住する人も一定数います。
2022年の「少年矯正統計調査」(https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00250006&tstat=000001012846&cycle=7&year=20220&month=0&tclass1=000001012848)によると、同年の出院者1363人のうち、雇主が引受人となっているのが89人、更生保護施設・自立準備ホームが引受人となっているのが93人、福祉施設が引受人となっているのが59人となっています。
また、出院者の進路としては、同じく2022年の「少年矯正統計調査」によると、就職決定が502人、復学決定が67人、進学決定が16人と半数近くに上ります。
加えて、就職先や進学先は決まっていないものの、就職希望が564人、進学希望が174人に上ります。
その一方で、その他の進路に進む者は21人、未定の者は19人にとどまります。
以上のように、親族以外が引受人となる場合が一定程度ある一方で、進路が不明瞭な状態で出院となる場合は限定的だとわかります。
少年院の社会復帰支援については、今後の記事でも解説していきます。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、多数の刑事事件・少年事件に関わってきた経験を活かし、再犯や再非行の防止に向けたサポートにも力を入れています。
今回の事例であれば少年が事件に関わってしまった背景などについて面談を重ねて課題に取り組む、一緒に非行をした友人との人間関係を断つための監督をするといった更生に向けたサポートを顧問という形で行わせていただきます。
少年院の出院後の社会復帰支援、更生支援についてご興味のある方は、一度、あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。
執行猶予中の再度の万引き事案 裁判後に再犯しないように弁護士がサポートをさせていただきます
【事例】
Aさんは、現在75歳ですが、スーパーで食料品や衣料品を万引きしたことが発覚し、窃盗罪で逮捕されてしていました。
Aさんの万引きは今回が初めてではなく、5回目で、今回の件の5カ月前に執行猶予付きの判決が下されていました。
Aさんは、前回の裁判で執行猶予の判決を受けた際、裁判官から「次同じようなことがあった場合、あなたは刑務所に行くことになります。十分に気を付けて生活をしてください」と言われて、「もう絶対にやりません。」と答えていました。
しかしAさんは、裁判後に単独行動をした際、万引きの衝動をどうしても抑えることができず、今回の万引きを行っていました。
Aさんは、10日間の勾留後、無事に保釈されましたが、今後の裁判や服役後の生活をどうすればよいか心配になり、裁判を担当してくれる弁護士に相談することとしました。
(事例はフィクションです)
この事例をもとに、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所であれば、どのようなサポートをAさんにして差し上げられるか、解説します。
再度の執行猶予について
まず事例のAさんが再度猶予判決を受けることは可能でしょうか。
執行猶予中に再犯をした場合に再度執行猶予付きの判決を得るためには、再度の執行猶予(刑法25条2項)の要件を満たす必要があります。
現状の刑法においては再度の執行猶予の要件は以下の通りです。
①前の刑について執行猶予期間中の者で、保護観察に付せられていない者
②今回、言い渡される刑が「1年以下の懲役又は禁錮」である
③情状に特に酌量することがある
ただし刑法改正により今後②の要件が「1年以下の懲役又は禁錮」から「2年以下の拘禁刑」と緩和されるようになります。
拘禁刑と懲役刑・禁錮刑の違いについては別の記事で解説させていただきますが、再度の執行猶予の要件は一部緩和されています。
しかし、いずれにせよ再度の執行猶予を得られるかどうかについて最も重要なのは③の情状に特に酌量するべき点があるといえるかどうかです。
万引き事件において再度の執行猶予を獲得している例を見ると次のような要素が、「特に酌量すべき事情」として考慮されてているようです。
・摂食障害の影響が認められ、専門的な治療を開始している
・被害者との間で示談が成立している
・今後の更生支援計画が策定され、裁判後の社会内での再犯可能性が低くなっている
もちろんこれらの事情が全てある場合でも、必ず再度の執行猶予判決が得られるわけではありません。
ですが、重要なのは再度万引きをしないようにするためにはどうすればよいのかを真剣に考え、上記の事情など有利な事情を積み上げて、それを適切に裁判所に伝えることです。
そのためには専門機関との協力が必要な場合、お店への対応が必要な場合、ご家族の協力が必要な場合と事件によって、当事者の方の特性によっても様々です。
再度の執行猶予に関しては弊所の窃盗事件専門サイトにも詳しく解説をしていますので、より詳しい解説を読みたい方はこちらも参考にしてください。
あいち刑事事件総合法律事務所では、今後の再犯防止と真の更生のために必要な対策を実施し、そのためには社会内での更生が相当であることを裁判所に訴えていきます。
場合によっては、後述するように判決後に再犯を防止するための弁護士による支援計画や更生計画について作成し、それを公判で証拠として提出させていただくことも可能です。
それらの弁護活動の結果として、あいち刑事事件総合法律事務所では執行猶予中に万引きの再犯をしてしまったケースでの再度の執行猶予判決や、1度執行猶予を受けている方について2度目の執行猶予判決を得た多数の実績があります。
また、窃盗症・クレプトマニアが疑われる方の詳しい弁護活動の内容についてはこちらのページも参考にしてください。
判決後の再犯防止のサポートについて
万引きを繰り返し裁判にまでなってしまった場合、裁判の場では、ほとんどすべての方が「もう二度とやりません。」と証言します。そして、多くの人は、その場では本当にもう万引きをやりたくないと思っているところでしょう。
しかし、執行猶予判決が出ているにもかかわらず、万引きの衝動や欲求を抑えることができず、万引きを繰り返してしまう方がいます。盗んだ物を捨ててしまったり、人にあげたり、クローゼットに隠すなど、盗んだ物を使わない方も多いです。そのような方は、物が欲しくて万引きするのではなく「万引き」という行為自体に依存してしまっています。その衝動は、もしかしたらクレプトマニア(窃盗症)よるものかもしれません。
クレプトマニアは精神疾患の一種と位置付けられています。
このようなクレプトマニアの疑いがある場合には専門のクリニックで診察を受けることが重要ですが、少しでも再犯の可能性を下げるため、家族や専門家といった誰かのサポートが必要となってきます。
今回のAさんの場合、執行猶予判決後5カ月で万引きを行ったことになるので、万引き行為に対する依存性が心配されます。そこでクレプトマニアを専門にする精神科などの病院に通院することが考えられます。
しかし、万引きは、ふとした瞬間に起こしてしまう犯罪であり、四六時中Aさんの監督をすることを専門医に期待することは現実的ではありません。
より再犯のリスクを下げるためにはAさんを支えることができる人物が多いに越したことはありません。
あいち刑事事件総合法律事務所の更生支援に向けた顧問契約
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、今回のAさんのように、再犯することなく窃盗症を克服する必要のある方のために、更生支援を目的とする顧問契約を用意しています。
この顧問契約は、顧問の期間中に、何か困ったことや不安があった場合に、いつでも弁護士に相談して、アドバイスを受けることができるというものです。
またご希望される方に対しては担当中に聴き取った万引きをしてしまう原因等に応じて、再犯を起こさないための計画を一緒に立てさせていただきます。
その際に顧問契約の期間中に実施する課題についても、担当弁護士が事件を起こされた方に合わせてオーダーメイドで作成させていただきます。
万引きをした方の裁判を数多く担当した弁護士が専門的な立場からアドバイスや定期的な監督をすることで、再犯をすることなく窃盗症克服や真の更生に向けて精一杯サポートをいたします。ご関心があれば、いつでもお問い合わせください。
千葉県千葉市の高齢者の方の万引き事件 その万引きは前頭側頭型認知症の影響ではありませんか?②
【事例】
千葉県千葉市で一人暮らしをするAさん(65歳)は、仕事を定年退職した60歳頃から突然万引き事件を起こすようになって、2年前には罰金刑を受けました。
ご家族はAさんのことが心配になりながらも、Aさんは万引きをしてしまうこと以外には生活は問題なく送れており、万引きをしてしまう原因が分からず、どのように対応していいか分からなかったので、とりあえずAさんに対し「一人で買い物に行ってはいけないよ」と言っていました。
しかしながら、Aさんはまた万引き事件を起こして千葉東警察署の警察官に現行犯逮捕されました。
Aさんの家族はAさんの保釈が認められた後、専門機関を受診したところ、Aさんには前頭側頭型認知症の疑いがあると説明されました。
Aさんには国選弁護人がついていましたが、公判での弁護方針を相談するためにAさんとAさんの家族はあいち刑事事件総合法律事務所の法律相談を利用しました。
その後Aさんは、あいち刑事事件総合法律事務所の弁護士に公判での弁護活動を依頼することにしました。
(事例はフィクションです)
今回の記事では前回に引き続いて、前頭側頭型認知症を発症し、万引き事件を起こしてしまったAさんの事例を用いて、前頭側頭型認知症の診断を受けた方の公判での弁護活動についてあいち刑事事件総合法律事務所の弁護士が詳しく解説します。
公判において量刑はどのように判断されるか
まずは、刑事事件の公判で判決の内容はどのようにして決められるかについて簡単に解説します。
量刑の決定については当サイトの、刑の種類と量刑のページや、情状弁護のページも参考にしてください。
公判において裁判官が、被告人が有罪であるとの心証を持った場合には、その被告人に対してどのような刑罰を科すのか(罰金刑なのか懲役刑なのか)、執行猶予を付すべきか、罰金や懲役刑の期間はどの程度にするのかを検討します。
そしてこれら量刑の判断においては、第一に被告人が犯した犯罪の内容(犯情事実)を検討します。
その上で犯行の動機や、再犯可能性などの犯罪の内容以外の事実(一般情状)を副次的に考慮して量刑は決定されます。
事件によってどのような事情が量刑の判断情重要な意味を持つのかは変わってきます。
たとえばAさんの万引き事件においてはまず犯情事実として被害額や万引きの手口や頻度、常習性などが犯情事実として考慮されます。
そしてその上で、前科前歴、今後の監督や犯行に至った原因、再犯可能性などが一般情状として主として考慮されるでしょう。
前頭側頭型認知症の診断を受けた方の公判における弁護活動
Aさんの弁護活動で、担当する弁護士が裁判官に認めてもらえるように留意するべきなのは
①Aさんが万引き事件を起こしたことと、Aさんが診断を受けた前頭側頭型認知症が関係していること
②Aさんが今後二度と万引きをせずに社会内で更生することが可能であること
大きく分ければ以上の2点です。
この点を踏まえて、どのような証拠が必要か、どのような証言が必要かを検討し弁護活動の内容を考える必要があります。
前回の記事で説明させていただいた通り、前頭側頭型認知症が万引きをしてしまう原因となる場合は、欲求のコントロールが効かずに行ってしまう場合になります。
単にその動機を裁判で話すだけでは、盗んだ物欲しさに犯行をしてしまう通常の窃盗犯と何ら変わらないと判断され、「身勝手な動機」などと情状面で特に有利に考慮されずに判決が下されてしまうかもしれません。
診断を受けていること自体は、診断書を提出して裁判所に証拠調べをしてもらえれば立証できますが、弁護活動においては前頭側頭型認知症と犯行との関連まで示すことが重要になるのです。
そしてこの立証方法については、例えば診断をした医師に出廷をお願いして症状の具体的内容や犯行に至ったこととの関連性について証言をしてもらう、ご家族が証人として出廷し、日常生活で認知症の症状が出始めた時期と万引きを始めた時期が重なっていることを証言してもらうことなどが考えられます。
そのような立証活動を行い、判決において「Aさんが万引きを繰り返してしまったことには前頭側頭型認知症の影響もあり」などと、動機の面で酌量してもらうことを目指し弁護活動を行う必要があります。
立証の方法は、Aさんの症状の内容や医師の診断内容によっても変わりますので具体的な事例によります。
また②の点について、Aさんは万引きを繰り返して裁判になっているので、裁判所に再犯可能性がなく、万引きをせずに更生できると判断してもらうための弁護活動も重要になります。
しかしこれはそもそも裁判のためではなく、今後Aさんが社会内で生活を送っていく上でとても重要なことです。
そのためにはAさんの症状を、Aさんの周囲の人間やAさん自身がしっかりと理解し、生活の送り方を考えていく必要があります。
Aさんは一人暮らしをしていたので理想は誰か家族と同居することですが、それが難しければ公的機関に相談するなどしてヘルパーの方に来てもらうなど公助を求めることも考えられます。
以前の記事で紹介した更生支援計画の作成も検討してもよいかもしれません。更生支援計画作成の手続きについては以前投稿した記事も参考にしてください。
再犯をしないということは、被告人本人が「もう二度としません、反省しています」と約束するだけでは不十分です。具体的な環境の変化を立証して裁判官に対して万引きをしてしまう原因が除去できていると認めてもらうことが重要です。
再犯を防ぐために
今回のAさんの事例では、Aさんが裁判を受けることが初めてですので執行猶予付きの判決を受ける可能性が高いです。
しかしながら、先ほど説明した弁護活動が十分でなく、認知症に気付かないままであったり、再犯防止策の検討が不十分なままであったりしたまま裁判を終えてしまった場合には、執行猶予の期間中に再犯をしてしまうリスクが高いといえます。
前回の記事でも説明したように前頭側頭型認知症が原因になって万引きを繰り返してしまうケースは気付かれないまま裁判を終えて、執行猶予の期間中にまた再犯をしてしまって裁判を受けてしまう場合が少なくありません。
そうならないためにも、これまで多くの刑事事件を扱っており、万引き事件の弁護活動にも精通したあいち刑事事件総合法律事務所に是非一度ご相談ください。
あいち刑事事件総合法律事務所では単に裁判で有利な判決を得ることだけでなく、その後再犯をすることなく更生していくことまでは見据えた弁護活動を心がけております。
千葉県千葉市の高齢者の方の万引き事件 その万引きは前頭側頭型認知症の影響ではありませんか?①
【事例】
千葉県千葉市で一人暮らしをするAさん(65歳)は、仕事を定年退職した60歳頃から突然万引き事件を起こすようになって、2年前には罰金刑を受けました。
ご家族はAさんのことが心配になりながらも、Aさんは万引きをしてしまうこと以外には生活は問題なく送れており、万引きをしてしまう原因が分からず、どのように対応していいか分からなかったので、とりあえずAさんに対し「一人で買い物に行ってはいけないよ」と言っていました。
しかしながら、Aさんはまた万引き事件を起こして千葉東警察署の警察官に現行犯逮捕されました。
Aさんの家族はAさんの保釈が認められた後、専門機関を受診したところ、Aさんには前頭側頭型認知症の疑いがあると説明されました。
Aさんには国選弁護人がついていましたが、公判での弁護方針を相談するためにAさんとAさんの家族はあいち刑事事件総合法律事務所の法律相談を利用しました。
(事例はフィクションです)
今回の記事では上記の事例を使って、前頭側頭型認知症がどのようなものか、そして前頭側頭型認知症が犯罪とどのように関係していくかについてあいち刑事事件総合法律事務所の弁護士が解説します。
前頭側頭型認知症とは何か
今回の事例でAさんが診断された前頭側頭型認知症とはどのようなものなのでしょうか。
一般的に認知症として広く知られているアルツハイマー型の認知症とはどのような点で異なるのでしょうか。
前頭側頭型認知症とは、「神経変性」による認知症の一つで、脳の一部である「前頭葉」や「側頭葉前方」の委縮がみられ、他の認知症にはみられにくい、特徴的な症状を示します。
アルツハイマー型の認知症は脳の中で人の記憶をつかさどる海馬という部分から委縮し始めるので、この点で前頭側頭型認知症は異なります。
神経変性による認知症は、脳の中身である神経細胞が徐々に減ってしまったり、一部に本来みられない細胞ができ、脳が委縮することで発症することがわかっているといわれています。
脳の中で、前頭葉は「人格・社会性・言語」を、側頭葉は「記憶・聴覚・言語」を主につかさどっています。
そして前頭葉や側頭葉が正常に機能しなくなることで、前頭側頭型認知症の症状としては以下のような症状があるといわれています。
①社会性の欠如
自分の欲求を抑える事ができなくなり万引きなどの比較的軽微な犯罪を繰り返す、身だしなみに無頓着になるなどの社会性を欠いた行動をとるようになります。
②抑制が効かなくなる
相手に対して遠慮ができない、相手に対して暴力をふるうなどの自分に対して抑制のきかない行動をとるようになります。
③同じことを繰り返す
いつも同じ道順を歩き続ける、同じような動作を取り続けるといった、同じ行動を繰り返すようになります。
④感情の鈍麻
感情がにぶくなる、他人に共感できない、感情移入ができないといった、感情の鈍麻(どんま:感覚がにぶくなる)が起こります。その結果同居している家族に対し暴言を吐く、暴力をふるうという行動に出ることもあります。
このような症状に心当たりがある場合には是非一度専門機関での受診を検討されることをおすすめします。
弊所でも、明確な理由がなく万引きを繰り返してしまっている方に診断を勧めたところ、前頭型側頭型認知症の疑いがあると診断を受けた方がいました。
前頭型側頭型認知症の診断
前頭側頭型認知症を疑う場合、まず「問診」を行い、前頭側頭型認知症特有の症状が出ているかを確認するようです。
この際には、患者本人以外に家族にも同席してもらい、自宅での様子を客観的視点なから聞くようですので、本人の様子が気になるご家族の方は普段の様子で気になること、最近変わったことなどを記録されていくことをおすすめします。
問診の結果、前頭側頭型認知症の疑いがある場合には、アルツハイマー型の認知症と区別するためにCTやMRIによって前頭葉や側頭葉前部に委縮が認められるかを調べるようです。
アルツハイマーの場合は記憶をつかさどる「海馬」と呼ばれる部分から委縮が始まり、やがて脳全体が委縮するため、CTやMRIでも前頭側頭型認知症とアルツハイマー病は区別することができるようです。
また、必要に応じて脳内の血の流れを見るための「脳血流シンチグラフィー」や、がんの発見にも効果的な「PET」と呼ばれる検査によって、血流や代謝の低下を認めることで、前頭側頭葉型認知症と診断するようです。
前頭側頭型認知症と犯罪との関係
先ほど述べたように前頭型側頭型認知症の症状には、社会性を失い理性を持って行動できなくなることや、犯罪をしようと思う気持ちを抑制できなくなるといった症状があるので、犯罪につながりやすいといえます。
その一方でアルツハイマー型の認知症のように記憶力が低下するということはないので、前頭型側頭型認知症の症状の重さによっては生活には支障が出ない場合もあります。そして本人に、最近怒りっぽい、同じ話を何度もするといった症状が出ても年を取っただけかと見過ごされるケースも多いそうです。
また犯罪をする理由や動機については、物が欲しかったからなどとはっきり言えることがほとんどなので、捜査機関からも裁判所からも通常の万引き犯と変わらないように捉えられることがほとんどになります。
このような特徴から、たとえ前頭型側頭型認知症を発症してしまっていたとしても、発症に気づかず、通常の万引き犯と同様の手続きで刑罰を受けて、周囲も発症に気付かず対策を行うことができずに再犯に及んでしまうということが起こってしまいます。
今回の事例のAさんも最初に万引きをしてしまった時から前頭型側頭型認知症を発症し、物を手に入れたいという欲求が抑えにくい状態になっていたのかもしれません。
なかなか周囲の家族だけでは認知症を疑うことは難しいでしょうし、いざ疑問に思ってもなかなか受診を進めることに抵抗があるかもしれません。
是非万引きの動機や頻度などに疑問を感じられた方は是非一度ご家族を連れられてあいち刑事事件総合法律事務所の弁護士にご相談ください。
弊所の法律相談では万引きに至った経緯や理由、普段の行動に至るまで綿密に聴き取りをして、犯行の原因などについて精一杯考えさせていただきます。
万引き事件を起こしてしまった方の背景には加齢に伴う認知症だけでなく、規範意識に問題がある場合や窃盗症があるかもしれません。窃盗事件の弁護活動については、当サイトの窃盗事件のページや窃盗症について解説したページも参照してください。
次回の記事では同じ事例を基にして、前頭側頭型認知症であることが分かった方の公判での弁護活動や、その後の更生に向けてどのような方策があるかについて解説させていただきます。
埼玉県さいたま市の詐欺事件 特殊詐欺事件の受け子の更生支援に精通した弁護士
【事例】
Aさんは埼玉県さいたま市に住んでいましたが、ギャンブル依存から消費者金融からの借金を繰り返していました。
利息の支払いにも窮したAさんは周囲にも相談できずに、借金が膨らんでいくことに焦りを感じていました。
そしてAさんはSNSで「高額バイト」や「短期バイト」といったワードで仕事を探していると、Bを名乗る人物からDMが届きました。
そこからテレグラムというアプリでの連絡に誘導されたAさんは、「おばあさんに対して還付金がもらえると言って、おばあさんからお金を受け取るだけの簡単な仕事だ」と紹介されて、被害者からお金を騙し取る特殊詐欺の受け子をしてしまいました。
Aさんはその後通報を受けた大宮警察署の警察官に詐欺の容疑で逮捕されました。
(事例はフィクションです)
今回の記事では事例に基づいて特殊詐欺の実態や、特殊詐欺に加担してしまった方の更生に向けて必要なことについてあいち刑事事件総合法律事務所の弁護士が解説します。
特殊詐欺事件の実態
特殊詐欺とは犯人が電話やハガキ(封書)等で親族や公共機関の職員等を名乗って被害者を信じ込ませ、現金やキャッシュカードをだまし取ったり、医療費の還付金が受け取れる等と言ってATMを操作させ、犯人の口座に送金させる犯罪(現金等を脅し取る恐喝や隙を見てキャッシュカード等をすり替えて盗み取る詐欺盗(窃盗)を含む。)のことです(大阪府警のホームページより引用)。
特殊詐欺の代表的なものとしては、社会問題にもなっている振り込め詐欺や事例で挙げたような還付金詐欺があります。
このような事件類型で現金やキャッシュカード等を被害者から受け取る役のことを「受け子」、ATM等で振り込まれた現金を引き出す役のことを「出し子」と呼ぶことが多いです。
特殊詐欺は犯罪組織によって大規模かつ計画的に行われるものですが、実際に受け子や出し子などの犯罪の実行を担当するのは本件事例のようにSNSなどで募集された者であることが多いです。
なぜならば実行役は逮捕のリスクが高いので、計画を立てる者はそのようなリスクを負いたくないからです。
特殊詐欺に加担すると人生が一変します
特殊詐欺の受け子や出し子はSNS等で募集されることが多く、1回あたり数万円程度の報酬で出し子や受け子をすることを提案されます。
しかしながら実際に行われる犯行は、その何十倍もの被害が発生する事件であり、数百万円から1000万円を超える被害額の事件もあります。
そのような事件に加担してしまえば、前科のない方であっても、裁判で執行猶予がつかずすぐに服役しなければならない実刑判決を受ける可能性が非常に高いです。
このように特殊詐欺は、事例のように軽い気持ちで初めてしまう方が多い一方で被害の大きさや社会的影響の大きさから厳罰を科す傾向になり、加担してしまった方の人生も一変させてしまいます(被害に遭った方の人生を一変させてしまうことはいうまでもありません)。
特殊詐欺事件での弁護活動については当サイトの特殊詐欺事件のページも参照してください。
特殊詐欺は計画する者によっては、犯罪であることを隠してやり取りを始め、合法な仕事と信じ込ませて犯行に加担させる場合もあります。
弊所で実際に相談を受けた方の中にも最初は合法の仕事だと思って応募して、個人情報を伝えたところ、突然怪しい仕事を依頼して、参加を拒んだところ個人情報をネタに脅されて無理やり犯行に加担させられた方もいました。
仕事の内容をぼかしてくる、本事例のようにテレグラムなどの履歴が残らない連絡手段を使用しているような場合には、犯罪に参加させられているリスクが高いでしょう。
世の中に簡単に金が稼げるといううまい話はなかなかありません(裏がないのであればそのような話を簡単に人には勧めないはずです)。SNSなどにある高額バイトなどの甘い誘いには何か裏があるのではないかと注意して、簡単に連絡を取ってしまわないことが重要です。
特殊詐欺事件の受け子をしてしまった方の更生支援
では今回の事例で特殊詐欺の受け子をしてしまったAさんの更生のためにはどのようなことが必要でしょうか。
まずAさんに必要なのは周囲の支援と、Aさん自身が周囲に相談できるようにすることかと思います。
事例のAさんは借金をしてしまった後ろめたさからか、周囲に相談することができませんでした。もしも周囲に相談して借金について解決の道筋を見つけることができていれば、今回のように犯行に加担してしまったことはなかったでしょう。
またSNSでのやり取りについても、周囲に相談できていれば、怪しい誘いであることや犯行に加担した場合のリスクを説明し止める事ができたかもしれません。
金銭的に窮すると、人は精神的余裕までなくなってしまいます。そのような状況では冷静な判断ができなくなってしまいます。
再犯の防止と更生のためにもまずは周囲の頼れる人に自分の行動などを監督してもらい(特にSNS等のやり取りについて注意が必要です)、常に相談できる状況を作っておくことが重要です。
次にAさんに必要なのはギャンブル依存の治療です。
依存症からの脱却については当サイトの詐欺事件のページにも解説していますのでそのページも参照してください。
事例でAさんが特殊詐欺に手を出してしまったのはギャンブル依存から借金を重ねてしまったことにあります。
ギャンブル依存もAさんのように自分の支払える金額を超えて、借金までしているような状況となればもはや病気と言っても過言ではありません。
ギャンブルなどに対する依存症は、脳の指示系統にも関係があるので自分の意思だけではどうにもならないことがあります。
是非一度専門機関を受診して、専門的な治療を受けることをご検討ください。
あいち刑事事件総合法律事務所では、事件を起こされた方に依存症が疑われる場合、豊富な経験に照らしてその方に合った専門機関を紹介させていただくことができる場合があります。
特殊詐欺をしてしまった方の中でも、その背景や更生への道筋は人それぞれ様々です。
特殊詐欺事件の弁護活動に加えて、そこからの更生への支援をご希望の方は特殊詐欺事件の弁護活動と更生支援いずれにも精通したあいち刑事事件総合法律事務所に是非一度ご相談ください。