Archive for the ‘刑事手続一般’ Category

心神喪失と判断されても放免にはならない?医療観察法の手続きについて

2023-11-16

【事例】
Aさんは、以前から統合失調症に罹患しており、幻覚や幻聴により「友人のVを殺さなければAの家族や友人は皆殺しにされる」と考えるようになりました。
そしてある日、AさんはVさんを呼び出し、包丁で切り付けてVさんを殺害してしまいました。
Aさんはすぐに殺人罪で逮捕されましたが、「Vを殺さなければ家族や友人が皆殺しにされてしまう」という主張を続けています。
勾留中にAを診察した医師からは、今回の犯行は統合失調症による妄想に支配されたものによる可能性は非常に高いとの診断結果が出ました。
結果的に、Aさんは心神喪失を理由に殺人罪では不起訴になりましたが、医療観察法に基づき強制入院となりました。
(事例はフィクションです)

心神喪失と医療観察法

心神喪失を理由に無罪となる事例や、そもそも起訴されて刑事裁判になることすらなく、不起訴となる事例は一定程度存在しています。
精神障害が原因となって事件を起こされた方の弁護活動については当サイトの精神障害がある方の弁護活動のページも参照してください。
最近でも、神戸で起きた殺人事件で一審、二審ともに心神喪失を理由として無罪判決が出ており、上告せずに確定しています。
また、京アニ放火事件でも弁護側は心神喪失を主張しています。

心神喪失を理由として無罪や不起訴になった場合、その後の手続きはどうなるのでしょうか。
「無罪放免となって普通に生活しているのでは」と思う方も多いかもしれません。
しかし、実際にはそういうわけではありません。
心神喪失などにより無罪判決を受けた場合には、「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律」(略称:医療観察法)に基づき、入院手続きに移行していきます。
これは罰として入院をさせるのではなく、社会復帰のために適切な医療を受けさせるための手続きになります。
では、医療観察法の内容を概観してみましょう。

医療観察法の対象

医療観察法による手続きの対象となる事件は、心神喪失などにより無罪となったすべての事件というわけではありません。
医療観察法の対象となるのは、一定の重大犯罪に限られています(医療観察法2条1項)。
具体的には
・現住建造物等放火(未遂も含む、以下同じ)
・非現住建造物等放火
・建造物等以外放火
・不同意わいせつ
・不同意性交等
・監護者わいせつ及び監護者性交等
・殺人
・自殺関与及び同意殺人
・傷害
・強盗
・事後強盗
です。

また、対象者は
心神喪失や心神耗弱を理由として不起訴になった者
心神喪失を理由として無罪となって判決が確定した者
・心神耗弱を理由として刑を減軽する旨の判決を受けて確定した者
です(医療観察法2条2項9。
事例のAさんは心神喪失を理由に殺人罪は不起訴となっているので、Aさんは医療観察法の対象となります。なお殺人罪の容疑を架けられた場合の対応についてはこちらにも詳しく解説しています。

医療観察法の手続き~鑑定入院~

心神喪失などを理由として不起訴や無罪となった場合には、検察官が裁判所に対して入院又は通院の処遇を求める申立てを行います(医療観察法33条1項)。
この申立ては
・対象行為を行った際の精神障害を改善し
・これに伴って同様の行為を行うことなく、社会に復帰することを促進するためにこの法律による医療を受けさせる必要が明らかにないと認める場合
以外には必ず申立てをしなければならないという、義務的申立てになります(医療観察法33条1項)。
この例外に該当する場合は極めて少数だと思われるので、心神喪失などを理由として不起訴や無罪となった場合には、ほとんどの事例で入院又は通院の処遇を求める申立てが行われるでしょう。
入院又は通院の処遇を求める申立てが行われると、裁判所は対象者を指定の病院に入院させる「鑑定入院命令」を出します(医療観察法34条1項)。
この入院を鑑定入院と呼ぶこともあります。
鑑定入院の期間は2か月以内となっており、必要と認める場合には1か月を限度として延長することができます。
鑑定入院の間にどのようなことが行われるのかは不透明な部分もありますが、基本的には社会復帰に向けた治療(投薬などを中心とした医療)が行われて行きます。
ただ、鑑定入院は文字通り「鑑定のための」入院なので、「医療観察法に基づく医療を受けさせるべきか否かを判断するための入院」ということになります。

医療観察法の手続き~当初審判~

鑑定入院を通じて、担当の鑑定医が意見をまとめていき、裁判所に提出します。
精神障害の類型、過去の病歴、現在及び対象行為を行った当時の病状、治療状況、病状及び治療状況から予測される将来の症状、対象行為の内容、過去の他害行為の有無及び内容並びに当該対象者の性格などを考慮し、医療観察法に基づく医療を受けさせる必要性があるのかどうかを判断することになります。
そして、この鑑定結果を基礎として、最終的に入院治療や通院治療をすべきか否かを裁判所が判断します。
これを「当初審判」と呼びます。
当初審判では
・入院決定
・通院決定
・医療を行わない
のいずれかの結論が出されることになります。
入院決定が出た場合には、指定医療機関に入院させられ、本格的に入院治療が開始されることになります。
入院決定による入院期間は医療観察法には定められていません。
厚労省が公表しているガイドラインによると、治療期間を急性期(3か月)、回復期(9か月)、社会復帰期(6か月)の3つのステージに分け、約1年半で退院を目指すこととしています。
しかし、実際には2年や3年にわたって入院を強いられるケースも多いようです。

このように、心神喪失などによって不起訴や無罪になったとしても、その後は医療観察法に基づく入院期間になります。
医療観察法の手続き中は、弁護士は「付添人」として様々な活動をしていくことになります。
具体的にどのような活動ができるのかや、当初審判の具体的な内容については、次回以降にご紹介いたします。

兵庫県神戸市の恐喝事件 家庭裁判所における調査官調査の対応に精通した弁護士

2023-08-24

【事案】
兵庫県神戸市中央区に住む高校生のAさん(17歳)は友人ら3名と一緒に、同級生のVさんを呼び出して、「10万円を払うか4人でボコボコにされるか選べ」と言って10万円を払わせたという恐喝の容疑で生田警察署に逮捕されました。
Aさんは警察署に10日間勾留された後、観護措置決定がされて少年鑑別所に移送され神戸家庭裁判所の調査官による調査官調査が開始されることになりました。
Aさんの家族がAさんに面会したところによれば、Aさんは今回の犯行について友人から誘われ断ったら自分が被害に遭うかもという考えから仕方なく参加してしまったのだと涙ながらに話していたとのことでした
(事例はフィクションです)

今回の記事では少年事件における家庭裁判所の調査官調査や、家庭裁判所の調査官調査に対してどのような対応をしていく必要があるかについて事例を基にあいち刑事事件総合法律事務所の弁護士が解説します。

調査官調査とは

まずは少年事件で行われる調査官調査について解説します。
少年事件のより詳しい流れについては当サイトの少年事件の流れのページも参照してください。
調査官調査とは一言でいえば、家庭裁判所の調査官によって、事件を起こした少年に対して行われる調査のことをいいます。
調査官調査では、事件を起こした少年の方の成育歴や、事件に対する内省の深まり、今後の更生の意欲や可能性などが調べられます。


今回の事例では少年に対し少年鑑別所での観護措置決定がされていますので、少年鑑別所での少年への面接や、少年の両親に対する面接が調査官調査の主な内容になります。
調査が行われる時期については事件の内容や担当する調査官の方針にもよりますが、本件のように少年鑑別所に少年がいる場合には移送されてから1週間から10日ほどたった時期にで第1回の調査官調査が行われることが多いように思います。
このように、本件のように身体拘束が継続したまま家庭裁判所での手続きが始まった場合には、調査官調査は逮捕されてから比較的早い時期に行われることになります。

調査官調査の持つ意味

調査官は調査において主に判断されるのは事件を起こした少年の要保護性の有無やその程度です。
要保護性という言葉は聞きなれない言葉かと思いますが、一言で言ってしまえば事件を起こした少年が今後更生していくためにはどのような保護処分ないしは手続きが必要かという判断がされます。
調査官調査が行われる場合には調査票という記録が作成されます。調査票の中では、少年に対してどのような保護処分が適当かどうか(ないしは大人と同じような手続きで判断されるべきかどうか)という意見とその理由が付されます。
調査官調査の結果が審判の結果に与える影響は非常に大きいです。なぜならば裁判官は審判の場で初めて少年に会うのに対し、調査官は児童心理などを専門に学ぶなど専門的知見を有しており、何度も少年に会って調査を行っているので処分結果を決める裁判官も調査官の判断を信頼し尊重する傾向にあるからです。
ですから少年院送致などの厳しい処分を避けるためには、調査官調査において少年の要保護性が高くないことや、事件を起こした後に要保護性が低下していることをしっかりと伝えていくことが必要になります。
勘違いしないでいただきたいのは、調査官はあくまで少年が今後の更生のために何が必要かを考えてくれる人であり、自分に対し厳しい罰を与えようとする人ではないということです。調査では特に隠しごとなどをせずに積極的に事件や今後についての自分の考えを述べることが大事になります。
ただしあくまで調査官の方は裁判所という中立的な立場で調査官調査にあたるため、次で述べるように少年事件では本人の側に付く付添人が非常に重要になってきます。

調査官調査に向けた弁護士の役割

調査官調査は早期に行われることは述べましたが、回数も限られています。そのなかで自分の起こした事件への反省や、今後の改善点を自分の言葉で述べて調査官の方に分かってもらうことは容易ではありません。
しかし調査官調査は何回でも行ってくれるものではなく、多くても2,3回程度です。限られた回数の中でうまく伝えられないと調査官の印象や要保護性の判断も厳しいものになってしまいます。
そうならないように、逮捕された直後から要保護性の改善に向けた働きかけを少年に対して行っていくことが重要になります。
まずは早期に弁護士が少年への面会を行い、少年が犯行に至った原因や動機、被害者がどのような気持ちになっているか、同じことをしないようにするためには何が必要かなどを考えてもらうことが必要です。
また同時に社会内での更生ができることを調査官に説明するためには環境調整も重要になります。
環境調整とは一言でいえば、少年が社会に戻った際に再犯をするリスクが低い状態であることを調査官に訴えていくことになります。
例えば本件の事案でいえば、Aさんが友人から言われて犯行に加担してしまった理由、どのようにすれば今後同じ誘いを受けた際にどのように断るのか、今回犯行に加担した友人たちとの関係をどうするのかといったことが、調査官調査で問題になることが予想されます。
早期から、問題になる点について弁護士から説明し少年によく考えてもらうことが、事件後の更生を考える上でも非常に重要になります。
調査官調査に安心して対応できるようにしておくことは、ひいては今後の更生につながることでもあるので、事件を起こした少年の真の更生のためにも早期から弁護人がついて、少年に働きかけをしていくことは重要になります。
少年事件に対する弁護士の役割については当サイトの少年審判での弁護活動というページもご参照ください。

京都府の道路交通法違反事件 少年事件に精通した弁護士

2023-06-29

【事例紹介】暴走行為により現行犯逮捕された後に観護措置決定された事例

事例

京都府伏見区在住の高校生Aさん(17歳)は友人らと一緒にバイクを運転していた際に、気が大きくなり信号無視や蛇行運転を繰り返すなどの暴走行為をしてしまいました。
Aさんは暴走行為についての通報を受けていた京都府警の警察官に発見され道路交通法違反の容疑で現行犯逮捕されました。
Aさんの両親は逮捕当日に逮捕の連絡を受けていましたが、それから2日後にAさんが京都少年鑑別所で観護措置を受けることになったと聞き、あいち刑事事件総合法律事務所の弁護士に初回接見を依頼しました。
(事例の内容はフィクションです)

今回の事例で逮捕されたのは17歳の高校生であり、20歳未満ですので少年法の適用を受けます。

観護措置とは

少年法では観護措置という措置について定めがあります(少年法17条)。
観護措置とは家庭裁判所が調査や審判を行うために諸事情を考慮し必要と判断した場合に、少年鑑別所に身柄を保全し、最終的な処分が決まるまで暫定的に少年を保護する措置をいいます。
少年事件の場合、事案が単純で証拠関係も簡単な事件の場合には、逮捕されてから2,3日の間に家庭裁判所に事件が送られて(家庭裁判所送致)、家庭裁判所の裁判官の判断で観護措置が取られることがあります。
観護措置の期間は実務上3,4週間程度であることが多く、その期間に少年鑑別所の技官や調査官の調査を受けて、審判を迎えることになります。

このように観護措置が取られてから審判までの期間はわずか1か月足らずであり、技官や調査官による鑑別結果や調査結果はそのまま審判での判断にも直結します。
調査等では事件を起こしたことをどのように受け止めているか、事件を反省し今後同じ事件を起こさないためにどのような行動をとっていくのかなど、更生に向けた話を聞かれます。
審判の結果に重要な意味を持つことも当然ですが、観護措置の期間でどのように事件を起こしたことに向き合うかが、少年の将来の更生にとって重要な意味を持ちます。

更生に向けた弁護活動

今回の事例では友人といわゆる暴走行為を行ったとして道路交通法違反で逮捕されています。
道路交通法ではいわゆる暴走行為について、共同危険行為にあたるとして処罰対象にしています。

そして共同危険行為は、他の人と一緒になって起こす事件ですから、一緒に暴走行為をしていた人間関係の清算が必要と判断されることがあります。
なぜ一緒になって暴走行為をしてしまったのか、暴走行為をすることを止められなかったのはどうしてか、なぜ暴走行為をするような人間と付き合いがあったのかなどが問題にされることが多いです。

弊所ではこのような事例において弁護士が、少年それぞれに合った課題を作成し、考えが浅い課題については少年と面会の上対話を重ねていきます。その上で、事例のようなケースで一緒に暴走こをした人との関わりをどうするのか、また暴走に誘われた場合にはどのようにして断るかなどについて深く考えてもらい、その後の調査や審判に臨んでもらいます。

また暴走行為はそれ自体道路の安全に大変な危険を生じさせる行為です。しかし事例のように暴走行為をして逮捕されたケースでは実際の被害が発生していない場合もあり、少年自身がその危険性に気付いていない場合があります。
そのような場合には、実際に暴走中に起きた事故の悲惨さを伝える、周囲から暴走をしている様子を見るとどうなるかなどを考えるなどの働きかけを行っていきます。
このように第三者の視点に立って自己の運転の危険性を知ることを目標に弁護活動を行っていきます。当然考えたことは、調査や審判において自分の言葉でしっかり伝えられるようにサポートも行っていきます。

事例のような暴走行為観護措置を取られたケースでは、上記のように更生に向けた弁護活動を行っていきます。先程も述べましたが観護措置が取られた時点では、審判までの時間が限られており早急に少年事件に精通した弁護士に相談し、審判やその先の更生に向けて活動を依頼することが重要になります。
当然観護措置を取られる前の、逮捕や勾留の時点でも時間が限られていることには変わりがありませんので、まずは一度初回接見のご依頼をおすすめします。

暴走行為で逮捕された事件、観護措置を取られた少年事件でお困りの方は少年事件に精通したあいち刑事事件総合法律事務所にお任せください。

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