Archive for the ‘刑事手続一般’ Category

「パパ活」から刑事事件につながってしまう場合について刑事事件に精通した弁護士が解説します

2024-07-18

1 パパ活について

近年「パパ活」という言葉をよく聞くようになったように思われます。
パパ活」というものそのものに明確な定義があるわけでないですが、多くの場合、若い女性が相当年上の男性から食事をご馳走されたり金銭をもらったりする対価として、擬似恋愛的な行為や性的な行為をするといった要素を含んでいます。
つまり「パパ活」というと可愛らしい雰囲気を感じる人もいるかもしれませんが、要するに「援助交際」です。また性交を伴うなら「売春」です。
パパ活」という言葉の雰囲気に惑わされず、それに伴ってされる行為の内容如何によっては、刑事事件に発展するリスクがあることを忘れてはいけません。

2 パパ活が刑事事件につながるケースについて

 さて、このパパ活が犯罪に繋がることがあります。
 まず、パパ活をしている側には、売春、わいせつ電磁的記録媒体公然陳列などの罪を犯したとして、被疑者・被告人扱いされることがあります。具体的には金銭を受け取って性交をしていると売春、パパ活相手の募集のため裸の写真をSNSにアップするとわいせつ電磁的記録媒体公然陳列という犯罪が成立する場合があります。
他にも「お父さんの手術のために100万円が必要なのに、お金がない。」などと嘘を言ってパパ活相手からお金を受け取ると詐欺などが成立し得ます。
 刑事事件の加害者となるだけではなく、パパ活をしたことで、盗撮や不同意わいせつなどの犯罪の被害者となることがあります。
 このように刑事事件に関わってしまった場合、刑事事件の被害者として巻き込まれた場合、どのような対応が必要になるでしょうか。

3 刑事事件に発展してしまった場合の対応

①刑事弁護対応
 まずパパ活をしている自分が被疑者・被告人となった場合には、刑事弁護の対応が必要になります。
取り調べで気を付けるべきことについて弁護士からアドバイスを受けるほか、詐欺など被害者のいる犯罪をしてしまった場合には示談をする必要があります。
起訴されて裁判になるようなケースで、パパ活が犯行の原因の一端になっている場合にはパパ活を今後行わないようにして再犯を防止する方策などを具体的に主張する場合もあります。
②被害者になった場合の加害者への責任追及
 盗撮や不同意わいせつ等の被害者となった場合、加害者に対して損害賠償請求をすることのほか、警察等捜査機関に被害届を提出する際のサポートを行うことになります。

4 刑事事件までは発展していないケースの対応

 加害者であれ被害者であれ「パパ活」から発生したトラブルの原因はパパ活にあります。パパ活は、内容によっては風紀を乱すものであり、行うべきものではない場合があります。
事件をきっかけに一度パパ活をやめたとしても、お金がなくなってきた頃にまたパパ活をしようと思ってしまったり、突然SNSにパパ活しないかと尋ねてくる人がいたりするかもしれません。
そのような時に二度と同じようなトラブルが起きないよう、継続的に顧問弁護士と相談できる体制を整えておく必要があります。

 弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所には、パパ活がきっかけで刑事事件のかが視野となり逮捕されたり起訴されたりする人の弁護活動や再犯防止のためのサポートを行っています。
や被害者となって加害者に対する責任追及を求める方のサポートや弁護活動もお引き受けしています。
お悩みの方は、ぜひ弊所までご連絡ください。パパ活に関係した刑事事件に限りませんが、充実した刑事弁護を行うとともに、一緒に更生のために必要なことを考えていくことができます。

兵庫県豊岡市の特殊詐欺事件で少年院に送致された事例 少年院での処遇について③

2024-06-27

【事例】
Aさんは、兵庫県豊岡市に住む17歳の男子高校生です。
ある日、AさんはSNS上である投稿を見つけました。
それは、ある物を受け取って運ぶだけで何万円もの報酬を支払うといういわゆる闇バイトを募集する投稿でした。
犯罪かもしれないと思いながらその募集に応募したAさんは、兵庫県内や鳥取県内でいわゆる特殊詐欺に何件も加担してしまいました。
高齢の方が住む自宅に赴いてキャッシュカードをすり替えて盗んだり、そのキャッシュカードを使って何百万円ものお金を引き出して盗んだりしたのです。
その後、鳥取県内の警察署に逮捕、勾留され、再逮捕もされました。
捜査を受けた後、最終的に神戸家庭裁判所豊岡支部に事件が係属し、神戸少年鑑別所に収容するという観護措置が取られました。
そして、神戸家庭裁判所豊岡支部は、Aさんの少年審判を行い、少年院に送致するという処分を決めました。

AさんやAさんの家族は、少年院に送致するという処分自体には納得していましたが、少年院ではどのようなことをするのか、どこの少年院に行くことになるのか、どのくらいの期間行くことになるのかなどが知りたいと思い、それまでもAさんの弁護人、付添人であった弁護士に相談することにしました。
(事例はフィクションです。)

1 はじめに
以前の記事(この記事を読まれたい方はこちらからご覧ください)では、収容される少年院が決まる過程を説明するために、①家庭裁判所、②少年院、③少年鑑別所の違いについてみてきました。
今回の記事では、この点をより詳しくみていきます。

2 少年審判で決めること
少年審判で少年院送致という処分にする場合、①家庭裁判所が決めるのは、Ⓐ少年院の種類、Ⓑ処遇勧告、Ⓒ環境調整命令の3つです。

⑴ 少年院の種類(Ⓐ)
以前の記事で解説したように、少年院には第一種から第五種までの5種類の少年院があります。
家庭裁判所は、その5種類(実質的には3種類)の中からいずれの少年院に送致するのかを指定します(少年審判規則第37条第1項)。
少年院の種類についてはこちらの法務省のページも参考にしてください。

⑵ 処遇勧告(Ⓑ)
家庭裁判所は、少年院に送致するという決定をする場合、少年院に対して、その少年の処遇に関して勧告することができます(少年審判規則第38条第2項)。
具体的には、少年院に入る期間についてや、第三種少年院で医療措置を受けた後にどの種類の少年院に行くべきなのかについてといったものです。
このうち少年院に行く期間としては、約1年間というのが標準的な期間とされています。
しかし、事件の内容によっては、6カ月間(短期と表現することがあります。)や4カ月間(特別短期と表現することがあります。)といったそれよりも短い期間の処遇でよいとされる勧告がされることがあります。
その逆で、約2年間(比較的長期と表現することがあります。)やそれ以上の期間(相当長期と表現することがあります。)などといったそれよりも長い期間の処遇にすべきだと勧告されることもあります。

⑶ 環境調整命令(Ⓒ)
環境調整命令とは、家庭裁判所が保護処分を決定する際に保護観察所長に対して行う命令で、「家庭その他の環境調整に関する措置を行わせる」命令のことです(少年法第24条第2項)。
保護観察所長に対する命令ですので、家庭裁判所が保護観察に付するという処分(少年法第24条第1項第1号)をする場合になされることが多いですが、少年院退院後を見据えてなされる場合もあります。
例えば、少年院を仮退院した後の帰住先や就業先が確保できるように、保護者や児童相談所などとの調整を依頼するというようなものです。

次回の記事でも、収容される少年院が決まる過程についてさらに解説していきます。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、刑事事件・少年事件に関わってきた経験を活かし、少年審判後の再犯防止に向けたサポートにも力を入れています。
再犯防止に向けた弁護士のサポートにご興味のある方は、一度、あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。

推しへの投げ銭がきっかけとなった特殊詐欺の事例における弁護士の更生支援について

2024-06-13

1 投げ銭について

皆様は、「投げ銭」というものをご存知でしょうか。
元々の発祥は、大道芸人などに観客がお金を払う行為が元となっているようですが、最近は、インターネット上で、いわゆる「推し」に電子マネーやポイントをプレゼントするような活動としての使い方の方が多いように思われます。
このブログを作成している現時点では、特に若い方の間で行われる行為なので、そういった人たちの親世代には、何がしたくてそんなことをしているのか解らないかもしれません。
しかし、好きなアイドルを応援するために、ライブへ足繁く通い、グッズもたくさん買って、そのアイドルのためにお金を使うという行為は、親世代にもよくみられたことと思います。そうした活動がインターネットで簡単にできるようになったバージョンとでも考えると、多少は解りやすくなるかもしれません。

さて、このインターネットの投げ銭は、アイドルを応援しているものくらいの感覚で放っておいて良いのでしょうか。
もちろん穏便な趣味として行なっている分には誰も口を挟むべきではないのでしょうが、度が過ぎてしまった場合にはこの投げ銭がきっかけで犯罪行為に至ってしまう例もあります。
なお消費者庁のHPでも近年のいわゆる「推し活」や「投げ銭」に関する注意喚起がありますのでこの記事をきっかけに心配になった方や興味を持たれた方は、こちらの消費者庁のHPもご覧ください。

2 投げ銭がきっかけとなって起こしてしまった特殊詐欺事件

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所の扱った事件として、次のようなものがあります。
なお、個人情報保護の観点から事例の内容などについて一部改編を加えています。

事件を起こすことになる少年Aさんはかねてからいわゆる「推し」、応援している人に投げ銭をしているうちに親のクレジットカードを使って合計で給料数ヶ月分の投げ銭をしてしまいました。
そのことが親に発覚し、怒られてクレジットカードの使用を禁止されてしまいました。
Aさんはそれでも推しを応援するための金銭を得るためにいわゆる「闇バイト」、特殊詐欺に関与してしまったという事例です。
特殊詐欺については、こちらの記事でも解説していますが、少年院に送致されるリスクが非常に高い事案になります。

弊所では、このような事案においても実刑回避・少年院回避といった結果を実現してしました。
弁護士は、事件を起こしてしまった方としっかり会話をして、更生のためには何が必要か、一緒に考えるようにしています。
今回のような浪費から事件を起こしてしまった方には、浪費を始めてしまったきっかけは何か、浪費を防ぐにはどうすればよいかなどについてとことん話をするようにします。
更生に向けた対話をを進めていく上では、少年の話にもしっかりと耳を傾けて浪費や事件の関与に至ってしまった背景についてしっかりと聴き取りを行います。
このように投げ銭などの浪費がきっかけとなった事件においては、例えばお金の出入りをまとめてみることです。まずは簡単な「お小遣い帳」から始めてみるので構いません。お小遣いが月3万円だとして、食費、友達と遊ぶお金、推しを応援するためのお金、どれだけの出費が必要か考える、これだけでもこれまでのお金の使い方について反省する大きな第一歩になります。
このような考え方は、犯罪を起こすきっかけにギャンブルでの浪費や買い物での浪費がある方にも必要な考え方かと思います。

3 事件後の更生支援について

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、近年の若い人が投げ銭の末に起こしてしまう刑事事件も豊富に扱っております。
「子供が特殊詐欺をしてしまった、なぜそこまでしてお金が欲しいのか解らない」「子供が万引きをした、節約したかったというけど他に削れる出費があるはずなのに、どうして」とお悩みの方は、ぜひ弊所までご連絡ください。
特殊詐欺であっても、万引きであっても、他の犯罪であっても、充実した刑事弁護を行うとともに、一緒に更生のために必要なことを考えていくことができます。

兵庫県豊岡市の特殊詐欺事件で少年院に送致されることになった事例 少年院での処遇について②

2024-06-06

【事例】
Aさんは、兵庫県豊岡市に住む17歳の男子高校生です。
ある日、AさんはSNS上である投稿を見つけました。
それは、ある物を受け取って運ぶだけで何万円もの報酬を支払うといういわゆる闇バイトを募集する投稿でした。
犯罪かもしれないと思いながらその募集に応募したAさんは、兵庫県内や鳥取県内でいわゆる特殊詐欺に何件も加担してしまいました。
高齢の方が住む自宅に赴いてキャッシュカードをすり替えて盗んだり、そのキャッシュカードを使って何百万円ものお金を引き出して盗んだりしたのです。
その後、鳥取県内の警察署に逮捕、勾留され、再逮捕もされました。
捜査を受けた後、最終的に神戸家庭裁判所豊岡支部に事件が係属し、神戸少年鑑別所に収容するという観護措置が取られました。
そして、神戸家庭裁判所豊岡支部は、Aさんの少年審判を行い、少年院に送致するという処分を決めました。

AさんやAさんの家族は、少年院に送致するという処分自体には納得していましたが、少年院ではどのようなことをするのか、どこの少年院に行くことになるのか、どのくらいの期間行くことになるのかなどが知りたいと思い、それまでもAさんの弁護人、付添人であった弁護士に相談することにしました。
(事例はフィクションです。)

1 はじめに

前回の記事では、少年院の種類についてみてきました。
今回の記事では、収容される少年院が決まる過程などについて解説していきます。

2 関係する機関

まずは、関係する機関である①家庭裁判所、②少年院、③少年鑑別所の違いが分かると理解しやすいでしょう。
特にイメージの湧きにくい②少年院と③少年鑑別所の違いが重要です。

法務省のホームページでは、②少年院は、「家庭裁判所から保護処分として送致された少年に対し、その健全な育成を図ることを目的として、矯正教育や社会復帰支援等を行う法務省所管の施設」とされています(https://www.moj.go.jp/kyousei1/kyousei_kyouse04.html)。

その一方で、③少年鑑別所は、「(1)家庭裁判所の求めに応じ、鑑別対象者の鑑別を行うこと、(2)観護の措置が執られて少年鑑別所に収容される者等に対し、健全な育成のための支援を含む観護処遇を行うこと、(3)地域社会における非行及び犯罪の防止に関する援助を行うことを業務とする法務省所管の施設」とされています(https://www.moj.go.jp/kyousei1/kyousei_kyouse06.html)。
少年事件との関係でいえば、このうち(1)と(2)が重要です。

そして、①家庭裁判所は、離婚や相続などに関する家庭内の紛争及び非行を犯した少年の事件を専門的に取り扱う裁判所とされています(https://www.courts.go.jp/vc-files/courts/file2/20130128-1katei01.pdf)。

以上の違いを、Aさんのように観護措置が取られたうえで、少年審判が開かれ、少年院に送致された場合に即して説明していきます。
①家庭裁判所が非行を犯した少年の事件を取り扱いますので、少年審判を開き、処分(Aさんの場合は少年院送致という処分です。)をどうするのかを決めます。
このように①家庭裁判所が審判を開くのに先立ち、Aさんの鑑別をしたり、観護処遇をしたりするのが③少年鑑別所の役割です。
そして、少年審判で①家庭裁判所が少年院送致という処分を決定したのを受けて、その処分を実際に実行して、Aさんの矯正教育や社会復帰支援などをするのが②少年院ということになります。
大まかにいえば、③少年鑑別所は審判を行う前から少年院に行くまでに役割があり、②少年院は少年院に来てから役割があるということになります。
少年鑑別所における付添人活動についてはこちらも参考にしてください。

次回の記事でも、収容される少年院が決まる過程についてさらに解説していきます。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、刑事事件・少年事件に関わってきた経験を活かし、少年審判後の再犯防止に向けたサポートにも力を入れています。
再犯防止に向けた弁護士のサポートにご興味のある方は、一度、あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。

兵庫県豊岡市の特殊詐欺事件でで少年院に送致されることになった事例 少年院での処遇について①

2024-05-31

【事例】
Aさんは、兵庫県豊岡市に住む17歳の男子高校生です。
ある日、AさんはSNS上である投稿を見つけました。
それは、ある物を受け取って運ぶだけで何万円もの報酬を支払うといういわゆる闇バイトを募集する投稿でした。
犯罪かもしれないと思いながらその募集に応募したAさんは、兵庫県内や鳥取県内でいわゆる特殊詐欺に何件も加担してしまいました。
高齢の方が住む自宅に赴いてキャッシュカードをすり替えて盗んだり、そのキャッシュカードを使って何百万円ものお金を引き出して盗んだりしたのです。
その後、鳥取県内の警察署に逮捕、勾留され、再逮捕もされました。
捜査を受けた後、最終的に神戸家庭裁判所豊岡支部に事件が係属し、神戸少年鑑別所に収容するという観護措置が取られました。
そして、神戸家庭裁判所豊岡支部は、Aさんの少年審判を行い、少年院に送致するという処分を決めました。

AさんやAさんの家族は、少年院に送致するという処分自体には納得していましたが、少年院ではどのようなことをするのか、どこの少年院に行くことになるのか、どのくらいの期間行くことになるのかなどが知りたいと思い、それまでもAさんの弁護人、付添人であった弁護士に相談することにしました。
(事例はフィクションです。)

1 はじめに

今回紹介する事例では特殊詐欺事件について、家庭裁判所で少年院送致が決定されてしまった事例を題材にしています。
このように特殊詐欺事件では犯罪に関わることが初めての少年であったとしても少年院に送致される処分が決定することが珍しくありません。
特殊詐欺事件での付添人活動については、今回の記事では割愛させていただきますがこちらの記事で詳しく解説しています。
初めて少年院に送致されると決定された方のほとんどが少年院とはどんなところだろう、怖いところなのではないかと不安に思っているかと思います。
そこであいち刑事事件総合法律事務所の弁護士が少年院のことについて詳しく解説していきます。

2 少年院の種類について

まず、少年院の種類からみていきましょう。
少年院には、第一種から第五種までの次の5種類の少年院が定められています(少年院法第4条第1項)。

⑴ 第一種 保護処分の執行を受ける場合で、心身に著しい障害がないおおむね12歳以上23歳未満の場合
⑵ 第二種 保護処分の執行を受ける場合で、心身に著しい障害がない犯罪的傾向が進んだおおむね16歳以上23歳未満の場合
⑶ 第三種 保護処分の執行を受ける場合で、心身に著しい障害があるおおむね12歳以上26歳未満の場合
⑷ 第四種 少年院において刑の執行を受ける者
⑸ 第五種 18歳以上の少年(「特定少年」と言います。)が2年間の保護観察処分(少年法第64条第1項第2号)を受けた場合で、約束事を守らなかったことなどから少年院に収容するという決定(少年法第66条第1項)を受けた場合

この記載から分かるように、少年審判で保護処分として少年院に行くようにと決定される場合は、第一種から第三種のいずれかの少年院になります(少年審判規則第37条第1項)。
そして、第一種から第三種のいずれになるのかについては、その少年の年齢や心身に障害があるか否か、犯罪傾向の進み具合といったものから判断されることになります。

少年院の種類についてはこちらの法務省のホームページも参考にしてください。

3 全国各地の少年院

第一種から第五種までの区分とは別に、全国各地には複数の少年院があります。
Aさんは兵庫県に住んでいますが、兵庫県が属する大阪矯正管区内には、①浪速少年院、②播磨学園、③加古川学園、④泉南学寮、⑤和泉学園、⑥奈良少年院、⑦交野女子学院、⑧京都医療少年院と8つの少年院があります。
このうち、⑦交野女子学院は女子少年だけを収容する少年院で、⑧京都医療少年院は男女ともに収容する少年院です。
もっとも、特に女子少年を収容できる施設が限られていることからもわかるように、大阪矯正管区内に住んでいた少年だからといって、必ずしも大阪矯正管区内の少年院に収容されるとは限りません。

隣接する矯正管区である広島矯正管区内には、男子のみを収容する⑨美保学園、⑩岡山少年院、⑪広島少年院、女子のみを収容する⑫貴船原少女苑があります。
また、高松矯正管区内には、男子のみを収容する⑬松山学園、⑭四国少年院、女子のみを収容する⑮丸亀少女の家があります。

次回の記事では、収容される少年院が決まる過程などについて解説していきます。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、刑事事件・少年事件に関わってきた経験を活かし、少年審判後の再犯防止に向けたサポートにも力を入れています。
再犯防止に向けた弁護士のサポートにご興味のある方は、一度、あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。

【事例紹介】大麻所持の少年事件で、少年に対する働きかけが奏功し不処分を獲得した事例②

2024-05-09

【事例】
17歳のAさんは、同級生の友人と一緒に大麻を使用していました。
ある日、その友人と一緒に遊んでいた際に警察官から職務質問を受けて、Aさんは、友人と一緒に大麻を所持していることが発覚して逮捕されてしまいました。
その後Aさんはあいち刑事事件総合法律事務所に弁護を依頼し、最終的には家庭裁判所の少年審判で「不処分」の判断を得る事ができました。
(プライバシー保護のため事案を簡略化しています)

今回の記事では前回の記事に引き続いて、Aさんのケースで実際に行った少年審判での弁護活動や働きかけの内容について解説します。

Aさんに対する弁護活動

事例において有利な判断を少年審判でしてもらうためには、今回の薬物仲間との絶縁が重要なテーマになります。少年審判での処分の決定には再犯のおそれが重要な判断要素の一つだからです。

大麻の場合、眠りやすくなるからという理由から一人で使う人もいます。しかしAさんの場合、友人との付き合いで大麻を使用していました。
そのため、友人との絶縁ができれば、わざわざ大麻を使う理由もなくなります。
そこで、Aさんには、今回の事件の友人との絶縁を約束してもらうことにしました。

もっとも、未成年者である少年にとって友人というのは、大人が思うより大切です。大人から見れば、「こんな子との付き合いはやめなさい。」と思う人でも、少年の場合、判断が未熟なため大切な友人と思ってしまうことが往々にあります。
そのため、Aさんには、自分にとって何が大切か優先順位を考えてもらいました。
Aさんの場合、留学に行きたいという思いがとても強かったので、
「留学と友人、どちらが大事か。その友人と関係を続けたら留学に行けなくなるのではないか。」
とAさん自身によく考えてもらいました。
その結果、Aさんは、友人と絶縁することを自分で考えた上で納得してくれ、友人との絶縁することを少年審判でも約束してくれました。
また弁護士としても、少年審判において、Aさんは交友関係の断絶を約束するなど留学して更生する可能性が十分あり、処分を下して留学に支障を生じさせるようなことをすべきでないから不処分とするべきだと訴えました。

審判の結果

最終的に、少年審判では不処分を獲得して、Aさんは無事留学に行くことができました。
友人との関係についても自分で考えて決めたことだからと、弁護士やご家族の前で改めて交友関係の断絶についても約束してくれました。
少年事件は、少年本人の頭でよく考えてもらうことが大切です。大人がああだこうだ言い聞かせるだけでなく、いろいろな工夫をしながら、更生のための思考を促すことが大切です。
少年事件での弁護活動に興味がある方は、こちらの別の少年事件における弁護活動の記事も参考にしてください。

少年事件終了後の更生支援について

Aさんのように友人からの誘いで大麻を使用していたケースでは不処分獲得後のサポートも真の更生に向けて重要になります。
自分では大麻をやめられたと考えていても、大麻を使用する友人との交友関係が再び構築されてしまえば、大麻を誘われ、大麻の強い依存性から大麻使用を再開してしまうおそれもあります。
あいち刑事事件総合法律事務所ではAさんのようなケースで、弁護士が定期的に面談を行い交友関係に問題がないか確認をしたり、大麻の依存性や本人は周囲への影響について課題を通じて理解してもらったりする顧問契約をご用意しています。審判後のサポートも希望される方は是非お気軽にご相談ください。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所の弁護士は、少しでも多くの少年の未来を明るくする助けになればと思いながら、日々精進しておりますので、興味をお持ちの方はぜひご相談ください。

【事例紹介】検察官が保釈許可に反対した事案において、医療機関との協力を理由に保釈許可を得た事例

2024-04-25

今回の記事では、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所の弁護士が、医療機関と連携して保釈を実現した事例の紹介をいたします。

逮捕後の身体拘束の規定について

①逮捕から勾留について
まず刑事訴訟法で規定されている身体拘束に関するの規程について簡単に説明します。
犯罪をしたと疑われた人は、逮捕されることがあります。
逮捕には時間制限があるため、その制限時間を超えて、その人(被疑者と言います。)を捕まえておく必要があるかどうか審査が行われます。
その審査の結果、まだ捕まえておく必要があるということになれば、逮捕とは別の勾留という身柄拘束手続が始まります。
勾留にも期間の制限がありますが、逮捕よりも長いです(最大20日間と規定されています)。
そして勾留の期限内に、検察官は、被疑者を起訴するか不起訴にするか決めることになります。起訴とは、被疑者を刑事裁判にかけることです。

保釈について
検察官が被疑者を起訴した場合、被疑者は、起訴の後から被告人と呼ばれることになります。
被疑者から被告人に切り替わっても、勾留は、自動で継続されることになります。
そして、被告人や弁護人の方から保釈請求をして、裁判所から保釈の許可を得ない限り、長期間勾留され続けることになります。
保釈は、保釈金というお金を裁判所に預ける代わりに被告人を警察署などの施設から解放する制度です。
被告人が逃げたり証拠隠滅をしたりすると裁判所に預けた保釈金を国に取り上げられてしまう(没取)ことがありますが、そうしたことをしない限り保釈金を返してもらえます。
いわば人質ならぬ物質として保釈金を裁判所が預かる代わりに、被告人を解放するという手続です。
保釈に関してはこちらのページでも詳しく解説していますので参考にしてください。

保釈が困難な事例で保釈許可を獲得した事例(プライバシーの関係から事例は簡略化しています)

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、刑事事件を多く扱ってきた実績があり、築き上げたノウハウを用いて多くの事件で保釈を実現してきました。
しかし、中にはなかなか保釈を認めてもらえない事件があります。
どういう事件では保釈を認めてもらえないのでしょうか。それは被告人が逃げたり、関係者に接触するなどして証拠隠滅したりする可能性が高いと疑われてしまうような事件です。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が過去に受任した事件では、被告人が保釈されたら絶対に被害者のところに会いにいくはずだと検察官が保釈に猛反対し、裁判所もこれに同調してなかなか保釈を認めなかったものがあります。
しかし諦めることなく医療機関と連携して、保釈を実現しました。
その医療機関は、依存症治療に造詣が深く充実した施設を有していました。弁護人は、その医療機関の医師と入院日時の調整をしたり施設の状態を確認したりして、保釈を実現したのです。
裁判所も、医療機関では入院患者が容易には施設を抜け出せない構造になっていることを指摘して保釈を認めました。被告人の更生のために施設への入院が必要であることも考慮された可能性があります。
専門機関での治療と保釈請求との関係についてはこちらの記事も参考にしてください。

このように困難な事例でも辛抱強く、地道に、他の専門家と協力して身柄解放を実現することもあり得ます。
また保釈請求には回数制限がありませんので、現在ついている弁護士行った保釈請求が却下されたケースでも他の弁護士が違った事情を主張することで認められるケースもあります。
保釈に関して複雑で困難な問題を抱えている方はぜひ弊所まで一度相談をご検討ください。

兵庫県姫路市の不同意わいせつ事件 保護観察処分とは何かについて弁護士が解説します

2023-11-30

【事例】
Aさんは、神戸市内の大学に通う18歳の方で、兵庫県姫路市内のマンションで両親と一緒に生活しています。
Aさんは、大学近くの路上で女性に抱きつくという不同意わいせつ事件を起こしてしまいました。
その後、警察の捜査を受け、最終的に神戸家庭裁判所姫路支部は、Aさんを保護観察処分としました。
性犯罪は再犯率が高いというインターネット上の記事を読んだAさんの両親は、Aさんが今後、再犯をしないためにはどうしたらいいのか不安になりました。
そこで、Aさんと両親は、保護観察処分ではどのようなことをするのか、Aさんの再犯防止に向けてどのようなことができるのかを相談するために、あいち刑事事件総合法律事務所に相談することにしました。
(事例はフィクションです。)

1 保護観察処分とは

現在、成人となる年齢は18歳とされています(民法4条)。
しかし、少年法においては、「二十歳に満たない者」を「少年」と定めて(少年法2条1項)、少年法の適用対象としていますから、犯罪をしてしまった18歳以上20歳未満の方には、未成年の方と同様に少年法が適用されます。
そして、少年法は、18歳以上の少年に対する処分の1つとして、「保護観察所の保護観察に付する」という処分を設けています(少年法64条1項1号2号)。

保護観察というのは、少年を少年院などの施設に収容することはせずに、家庭や職場などに任せたまま、継続的に指導や監督などをすることで、社会内で少年の改善更生を目指す処分です。
保護観察や、少年事件の流れなどについてより詳しく知りたい方は当事務所の少年事件に関するページも参考にしてみてください。

2 保護観察処分を担当する者

保護観察を担当する機関は、少年の住居地を管轄する保護観察所です(更生保護法60条)。
実際に保護観察を実施するのは、保護観察所の保護観察官や保護司と呼ばれる方です(更生保護法61条1項)。

保護観察官は、「医学、心理学、教育学、社会学その他の更生保護に関する専門的知識に基づき」「犯罪をした者及び非行のある少年の更生保護並びに犯罪の予防に関する事務に従事する」国家公務員です(更生保護法31条2項)。

一方の保護司は、「保護観察官で十分でないところを補い」、保護観察所などの所掌事務に従事することを役割としています(更生保護法32条)。
非常勤かつ無給の国家公務員ですが、誰でもなれるわけではありません。
保護司は、①「人格及び行動について、社会的信望を有すること」、②「職務の遂行に必要な熱意及び時間的余裕を有すること」、③「生活が安定していること」、④「健康で活動力を有すること」という条件を全て満たす必要があります(保護司法3条1項)。
そして、保護司選考会の意見を聴いた保護観察所長の推薦を受け、法務大臣またはその委任を受けた地方更生保護委員会の委員長に委嘱されて初めて保護司となることができます(保護司法3条)。

3 保護観察ですること

保護観察処分を受けると、月に2回程度、担当の保護司のもとを訪れて、その指導を受けることが多いです。
また、保護観察の処分を受けた場合、いくつか日常生活で守らなければいけないルール(「遵守事項」といいます。)が設定されます。
遵守事項には、一般遵守事項と特別遵守事項の2種類があります。
一般遵守事項は、「再び犯罪をすることがないよう、又は非行をなくすよう健全な生活態度を保持すること」(1号)や「保護観察官又は保護司の呼出し又は訪問を受けたときは、これに応じ、面接を受けること」(2号イ)などと法律で定められています(更生保護法50条)。
特別遵守事項は、一般遵守事項以外にも、特別に遵守すべき事項がある場合に、具体的に定められます(更生保護法51条)。
Aさんのように、いわゆる性犯罪を理由に保護観察となった場合には、「性犯罪再犯防止プログラム」の受講を特別遵守事項として義務付けられることがあります。
この「性犯罪再犯防止プログラム」については、別の記事で詳しく解説します。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、刑事事件・少年事件に関わってきた経験を活かし、保護観察中のサポートにも力を入れています。
少年事件で保護観察処分を受けた後についても、少年事件を担当した弁護士がそのまま保護観察中にも継続的に面談を行い更生の支援をサポートする顧問契約もご用意しています。
性犯罪を起こしてしまった方で今後更生していけるか心配な方や、保護観察中の弁護士のサポートにご興味のある方は、一度、あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。

医療観察法における当初審判について 当初審判は通常の刑事裁判と何が違うのですか?

2023-11-24

【事例】
福岡県博多市に住むAさんは、以前から統合失調症に罹患しており、幻覚や幻聴により「友人のVを殺さなければAの家族や友人は皆殺しにされる」と考えるようになりました。
そしてある日、AさんはVさんを呼び出し、包丁で切り付けてVさんを殺害してしまいました。
Aさんはすぐに殺人罪で逮捕されましたが、「Vを殺さなければ家族や友人が皆殺しにされてしまう」という主張を続けています。
勾留中にAを診察した医師からは、今回の犯行は統合失調症による妄想に支配されたものによる可能性は非常に高いとの診断結果が出ました。
結果的に、Aさんは心神喪失を理由に殺人罪では不起訴になりましたが、医療観察法に基づき鑑定入院(強制入院)となりました。
そして、2か月の鑑定入院の後、審判が開かれることになりました。
(事例はフィクションです)

医療観察法と鑑定入院

前回の記事では、心神喪失などを理由として不起訴や無罪となった方が医療観察法にのっとり、入院となる手続きについて概観していきました。
今回の記事では、鑑定入院とその後に行われる審判(当初審判)について解説していきます。
なお、犯罪をしてしまった人を刑事事件の手続きでは「被疑者」や「被告人」と呼んでいましたが、医療観察法の手続きでは「対象者」と呼びます。

鑑定入院では、対象者に対し、投薬などを中心とした医療を施しながら医師が鑑定をしていきます。
具体的にどのような鑑定をするのかは医師にもよりますが、医療観察法では対象者が「精神障害者であるか否か」と「対象行為を行った際の精神障害を改善し、これに伴って同様の行為を行うことなく、社会に復帰することを促進するために、この法律による医療を受けさせる必要があるか否か」を判断するために鑑定をすることとされています。
また、具体的な鑑定内容や方法について、実務的には厚生労働省の厚生労働科学研究班が策定した「心神喪失者等医療観察法鑑定ガイドライン」が参照されることも多いようです。
その中では疾病性、治療反応性、社会復帰要因の3項目が重視されています。
また、鑑定においては精神障害の類型、対象者の過去の病歴、対象行為時の病状、治療状況、予測される将来の症状、対象行為の内容、対象者の性格なども考慮するとされています。
医師(鑑定医)はこれらの観点から対象者に対する鑑定を行い、最終的に医療観察法に基づく医療を受けさせる必要性に関する意見をまとめ、裁判所に提出します。

医療観察法と当初審判

裁判所は、鑑定結果の内容も踏まえて、対象者に対して医療観察法に基づく医療を受けさせるか否かを決するための審判を開きます。
この審判を当初審判といいます。
当初審判には対象者はもちろんのこと検察官や対象者の付添人弁護士、精神保健審判員、精神保健参与員、社会復帰調整官なども参加します。
場合によっては鑑定医も出席することがあります。
当初審判では疾病性、治療反応性(治療可能性)、社会復帰阻害要因から医療の必要性を判断していくことになります。
疾病性:対象者が、対象行為時の心神喪失・心神耗弱の原因となった精神障害と同様の精神障害を有すること
治療反応性:対象者に医療観察法による医療を受けさせることにより、その精神障害を改善することが可能であること
社会復帰阻害要因:対象者に医療観察法による医療を受けさせなければ、その社会復帰の促進を図ることができない事情があること

この3つの要件がすべて満たされた場合に、医療を受けさせる必要性があると判断されます。
当初審判では、鑑定医からの鑑定結果をもとに、裁判官や検察官、付添人などから対象者に質問がされます。
また、当初審判に先立ち、検察官や付添人からも、医療を受けさせる必要性があるか否か、あるとしても入院と通院のいずれを選択すべきかなどを記載した意見書を裁判所に提出します。
医療を受けさせる必要性があると判断された場合には、さらに入院か通院かを判断することになります。
入院との判断がされた場合には、対象者は引き続き医療機関に入院させられることになります。
なお、鑑定入院を担当する医療機関と、当初審判に基づく入院処遇を担当する医療機関は別になります。
後者の医療機関は国に指定された「指定入院医療機関」のみが対象者を受け入れます。
医療観察制度についてより詳しく知られたい方はこちらの法務省のHPも参考にしてください。

あいち刑事事件総合法律事務所では、責任能力が問題になる事案の弁護活動や、医療観察法の手続きでの付添人を務めた経験も豊富にあります。責任能力が争いになるようなケースや、医療観察法の手続きに関してお困りの方は是非一度あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。

心神喪失と判断されても放免にはならない?医療観察法の手続きについて

2023-11-16

【事例】
Aさんは、以前から統合失調症に罹患しており、幻覚や幻聴により「友人のVを殺さなければAの家族や友人は皆殺しにされる」と考えるようになりました。
そしてある日、AさんはVさんを呼び出し、包丁で切り付けてVさんを殺害してしまいました。
Aさんはすぐに殺人罪で逮捕されましたが、「Vを殺さなければ家族や友人が皆殺しにされてしまう」という主張を続けています。
勾留中にAを診察した医師からは、今回の犯行は統合失調症による妄想に支配されたものによる可能性は非常に高いとの診断結果が出ました。
結果的に、Aさんは心神喪失を理由に殺人罪では不起訴になりましたが、医療観察法に基づき強制入院となりました。
(事例はフィクションです)

心神喪失と医療観察法

心神喪失を理由に無罪となる事例や、そもそも起訴されて刑事裁判になることすらなく、不起訴となる事例は一定程度存在しています。
精神障害が原因となって事件を起こされた方の弁護活動については当サイトの精神障害がある方の弁護活動のページも参照してください。
最近でも、神戸で起きた殺人事件で一審、二審ともに心神喪失を理由として無罪判決が出ており、上告せずに確定しています。
また、京アニ放火事件でも弁護側は心神喪失を主張しています。

心神喪失を理由として無罪や不起訴になった場合、その後の手続きはどうなるのでしょうか。
「無罪放免となって普通に生活しているのでは」と思う方も多いかもしれません。
しかし、実際にはそういうわけではありません。
心神喪失などにより無罪判決を受けた場合には、「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律」(略称:医療観察法)に基づき、入院手続きに移行していきます。
これは罰として入院をさせるのではなく、社会復帰のために適切な医療を受けさせるための手続きになります。
では、医療観察法の内容を概観してみましょう。

医療観察法の対象

医療観察法による手続きの対象となる事件は、心神喪失などにより無罪となったすべての事件というわけではありません。
医療観察法の対象となるのは、一定の重大犯罪に限られています(医療観察法2条1項)。
具体的には
・現住建造物等放火(未遂も含む、以下同じ)
・非現住建造物等放火
・建造物等以外放火
・不同意わいせつ
・不同意性交等
・監護者わいせつ及び監護者性交等
・殺人
・自殺関与及び同意殺人
・傷害
・強盗
・事後強盗
です。

また、対象者は
心神喪失や心神耗弱を理由として不起訴になった者
心神喪失を理由として無罪となって判決が確定した者
・心神耗弱を理由として刑を減軽する旨の判決を受けて確定した者
です(医療観察法2条2項9。
事例のAさんは心神喪失を理由に殺人罪は不起訴となっているので、Aさんは医療観察法の対象となります。なお殺人罪の容疑を架けられた場合の対応についてはこちらにも詳しく解説しています。

医療観察法の手続き~鑑定入院~

心神喪失などを理由として不起訴や無罪となった場合には、検察官が裁判所に対して入院又は通院の処遇を求める申立てを行います(医療観察法33条1項)。
この申立ては
・対象行為を行った際の精神障害を改善し
・これに伴って同様の行為を行うことなく、社会に復帰することを促進するためにこの法律による医療を受けさせる必要が明らかにないと認める場合
以外には必ず申立てをしなければならないという、義務的申立てになります(医療観察法33条1項)。
この例外に該当する場合は極めて少数だと思われるので、心神喪失などを理由として不起訴や無罪となった場合には、ほとんどの事例で入院又は通院の処遇を求める申立てが行われるでしょう。
入院又は通院の処遇を求める申立てが行われると、裁判所は対象者を指定の病院に入院させる「鑑定入院命令」を出します(医療観察法34条1項)。
この入院を鑑定入院と呼ぶこともあります。
鑑定入院の期間は2か月以内となっており、必要と認める場合には1か月を限度として延長することができます。
鑑定入院の間にどのようなことが行われるのかは不透明な部分もありますが、基本的には社会復帰に向けた治療(投薬などを中心とした医療)が行われて行きます。
ただ、鑑定入院は文字通り「鑑定のための」入院なので、「医療観察法に基づく医療を受けさせるべきか否かを判断するための入院」ということになります。

医療観察法の手続き~当初審判~

鑑定入院を通じて、担当の鑑定医が意見をまとめていき、裁判所に提出します。
精神障害の類型、過去の病歴、現在及び対象行為を行った当時の病状、治療状況、病状及び治療状況から予測される将来の症状、対象行為の内容、過去の他害行為の有無及び内容並びに当該対象者の性格などを考慮し、医療観察法に基づく医療を受けさせる必要性があるのかどうかを判断することになります。
そして、この鑑定結果を基礎として、最終的に入院治療や通院治療をすべきか否かを裁判所が判断します。
これを「当初審判」と呼びます。
当初審判では
・入院決定
・通院決定
・医療を行わない
のいずれかの結論が出されることになります。
入院決定が出た場合には、指定医療機関に入院させられ、本格的に入院治療が開始されることになります。
入院決定による入院期間は医療観察法には定められていません。
厚労省が公表しているガイドラインによると、治療期間を急性期(3か月)、回復期(9か月)、社会復帰期(6か月)の3つのステージに分け、約1年半で退院を目指すこととしています。
しかし、実際には2年や3年にわたって入院を強いられるケースも多いようです。

このように、心神喪失などによって不起訴や無罪になったとしても、その後は医療観察法に基づく入院期間になります。
医療観察法の手続き中は、弁護士は「付添人」として様々な活動をしていくことになります。
具体的にどのような活動ができるのかや、当初審判の具体的な内容については、次回以降にご紹介いたします。

« Older Entries Newer Entries »

keyboard_arrow_up

0120631881 問い合わせバナー LINE予約はこちら