「社会を明るくする運動」と聞いて、どんなものをイメージされるでしょうか。
環境美化や、地域の交流の活性化といったものを連想する方が多いかもしれません。
実は、社会を明るくする運動とは、法務省が進めている更生保護に関する施策の一つなのです。
「社会を明るくする運動」とは何か
社会を明るくする運動とは、実は昭和26年(1951年)から続いているもので、以降毎年行われており、令和5年度で第73回目となります。
そもそも、社会を明るくする運動の前身は、戦後の混乱が続いて生活も安定せず、犯罪や非行が増加する中で、生活に余裕がない人や不幸な少年に対して思いやりや愛の心を呼び戻し、殺伐とした世相に明るい光をともす、という「矯正保護キャンペーン」というものでした(法務省HPより)。
この、「矯正保護キャンペーン」というものだと、罪を犯した人の矯正のみを考えるように思われてしまいますが、犯罪を予防するためには罪を犯した人だけでなく社会全体で対策しなければ意味がない、という発想から、名前も「社会を明るくする運動」として市民全体に広めるようになりました。
そのため、「社会を明るくする運動」では、市民の方々に、犯罪を予防し、一度罪を犯してしまった人が再び罪を犯してしまうことがないようにするために、どのような活動が行われているのかということについて、広く知ってもらい、さらに進んでその活動に加わってもらうことを目的として、様々な行事が行われています。
「社会を明るくする運動」の具体的なイベント
このように「社会を明るくする運動」が、更生保護に関する広報活動であることから、具体的なイベントごととしても広報、教育に関することがメインとなります。
主に、毎年7月を強化月間として、政府や地方公共団体の施設などでポスター掲示をしたり、各地でシンポジウムを開いたり、近年ではSNS等を使って更生保護に関する情報発信を行っています。
特徴的な標語も掲げられることがあり、2017年には「もどらない。もどさない。」という標語が作られました。
罪を犯した人に対して、刑務所に収容して社会から隔離するのではなく、現実の地域社会の中でどう立ち直らせていくという、更生保護の究極的な目標がストレートに表れたものになっています。
この「社会を明るくする運動」には、全国の小中高校の協会も関わっており、生徒たちの作文コンクールを通した教育活動も行われています。
また、「矯正展」というものも各地で開かれており、こちらの方が聞いたことがある方がいるかもしれません。
正式名称は「全国刑務所作業製品展示即売会」というもので、その中身は読んで字のごとく、刑務所の刑務作業で作られたものの販売会です。
よく、6~7月ころにかけて開かれています。
矯正展で展示、販売されている物は幅広く、椅子や机、棚といった木工製品や、革製品、エコバッグのような布製品もあります。
当然ですが、工場のライン作業で作られたものとは違い、一点ずつ受刑者自身の作業によって作られたものですが、中にはとても精巧に作られた製品もあるようです。
この矯正展は、単に「刑務作業で作られたものをお金に換えて無駄にしない」というだけでなく、一般市民に対して、「刑務作業で作られたものを展示する≒どのような刑務作業が行われているのかを知ってもらう」という大きな目的があります。
「社会を明るくする運動」とは、更生保護活動、つまり、犯罪を予防したり犯罪をしてしまった人の立ち直りを支える活動を知ってもらうための取り組みです。
矯正展という催しそのものが、一般の方々に対して「刑務所」という存在を認識させるものであり、その中にいる「受刑者」の存在をも認識させるものになるのです。
どうしても、私たち一般市民としては、罪を犯してしまった人に対して「犯罪者」のレッテルを張り、社会から遠ざけて、その後も知らないふりをしようとします。
しかしながら、それで解決することはあまりなく、根本的な解決を図るためには、「どうやって、みんなが社会でうまくやっていくか」が重要になってきます。
「社会を明るくする運動」は、まずその第一歩として、一般社会と罪を犯してしまった人との垣根を、なるべく取り除いていく、という活動になるのです。