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犯行に関わる精神障害
精神障害者と聞いて皆さんはどのような症状を持った人のことを想像するでしょうか。
精神保健福祉法という法律では、「精神障害者」とは、「統合失調症、精神作用物質による急性中毒又はその依存症、知的障害、精神病質その他の精神疾患を有する者」と定義されており(同法5条)、法的には幅広く、知的障害のある人も発達障害のある人も認知症の人も「精神障害者」に含まれます。
また、精神疾患の中でも、統合失調症やアルコール依存症など、その病状・対応が大きく異なる疾患も種々存在しています。
このような精神障害を持っている方は、通常の人であれば犯行を思いとどまれる場合でも自身を制御して犯行を思いとどまることが難しい場合があります。
また犯行に至る経緯にも精神障害の影響がある場合もあります。
弁護活動としても、事件を起こされた方の精神障害に早期に気付いて適切な対応を取り、検察官や裁判官に対し適切な主張をすることで、そのような特性に配慮された終局処分や判決を得ること、そして二度と再犯をしないための更生支援を目指していくべきです。
早期に精神障害に気付く
事件を起こされた方に精神障害があるかどうかによって弁護方針は大きく変わる場合があります。
精神科の診断を受けている、弁護士と面会した際に言動が支離滅裂である、精神状態が不安定であることが一見して分かる場合には、精神障害に気づきやすいのですが、そのようなケースはむしろ少数です。
最初面会した際に会話をしてみて一見して障害がないと思われる人についても、前回の接見時の内容をほとんど覚えていない、受け答えは問題なくできているが1つのことに固執する傾向が強い、質問と答えがかみ合わない、簡単な言葉が理解できないといったことから障害に気づくことができたりもします。
このように弁護人としては、面会した際に漫然と会話をするのではなく、その人に合った適切なコミュニケーションをとることが求められ、精神障害に気づくということがまずは求められます。
また単に精神障害に気付くだけでなく、その方の特性に気付くこともその先の弁護活動や再犯防止、今後の更生支援に向けて重要になってきます。
例えば先のことを見通して行動することが苦手な方、相手の気持ちを理解することが苦手な方、自分の気持ちを言葉で伝えることが苦手な方など、一口に精神障害といっても個人の特性は様々です。
また一部苦手なことがあったとしてもその他に得意なことがあることがしばしば見受けられます。
例えば、言葉で自分の気持ちを表現することが苦手な場合には、動機などについて粘り強く聴き取りをする、質問の仕方を工夫するなどして真の犯行の原因や動機を確認していくことが求められます。
もちろん弁護士1人の見立や判断にはおのずと限界があります。事件を起こした方に障害が疑われる場合には以前からカウンセリングを受けているカウンセラーの方や医師の診察を通して、特性や障害を判断する場合があります。
何はともあれ事件を起こした本人と話をして、早期に違和感に気付き適切な専門家との連携を図っていくことが重要になります。
更生支援計画について
精神障害のある方が事件を起こした場合、事件の処分や判決の後の再犯防止や更生支援を考えた場合には福祉と連携を図っていくことが非常に重要になります。
刑事裁判において更生支援計画というものを策定することがあります。
更生支援計画とは、福祉的な支援が必要なご本人のため、その方の障害特性や病状を踏まえて、同じ行為を繰り返さないために必要な支援について記載された計画書です。
更生支援計画は社会福祉士や精神保健福祉士など福祉的支援の国家資格を有する専門家に作成を依頼するものになります。
この計画は事件を担当する弁護士と福祉専門職の方が協力して、事件を起こした本人からヒアリングなどを通して課題の所在や事件の背景を分析した上で、同じ行為を繰り返さないために必要な支援の計画を策定するものになります。
刑事裁判で更生支援計画が策定されていることは、再犯防止が実効的に図られているとして被告人の有利に考慮されることがあります。
しかし更生支援計画を立てる真の目的は刑事処分を軽くすることではなく、専門家知見に基づいて事件を起こした方が同じ犯罪を繰り返さないためには何が必要か、本人の望ましい生活のためには何が必要かを明らかにして、そのための支援を継続的に受けられるようにすることなのです。
更生支援計画の策定は刑事事件において必要的に行われるものではありません。
本人の様子に違和感を覚えるなどした弁護士らが福祉専門職に相談して初めて策定が検討されるものです。
また単に作成すればよいというものではなく、様々な知見を有する専門家同士が意見を交換すること、本人を支援する体制を広げていくことなど、その計画が実行的なものになるためには様々な方の尽力が必要になってきます。
あいち刑事事件総合法律事務所の弁護士が担当したケースでも更生支援計画を策定したことで本人の裁判後の生活において継続的に福祉の支援を受けられるようにし、そのことを裁判で主張したことで再犯可能性が低いと認められて執行猶予が認められたケースがあります。
当然福祉との連携は更生支援計画のみにとどまりません。
あいち刑事事件総合法律事務所では刑事事件の豊富な実績があり、事件を起こされた方の特性に応じた弁護活動、適切な福祉機関との連携などを通じて、本人の更生や再犯防止を支援していきます。