刑務所内であっても怪我をしたり病気になったりすることは、当然にあり得ます。
そのため、刑務所内でも必要に応じた医療が受けられることになっています。
受刑者が女性の場合、医療に関することのうち男性と最も違うのが、「出産」がありうるということです。
一時期は、刑務所内での出産について取り上げたテレビドラマなどもありましたし、「獄中出産」といった言葉として、何となくのイメージを持っている方もいるかもしれません。
女子受刑者を受け入れている刑務所は8か所ありますが、それぞれで「出産」は大きな課題となっているようです。
ここでは、刑務所への収容の前に妊娠してそのまま実刑判決を受け、刑務所内で出産するという場合について、法律などの規定について解説をします。
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妊婦、出産までの間
労働基準法では、出産予定日の6週間前から産休を取ることができるとされています。
妊娠後期になると母体の負担も大きくなることから、労働に耐えられない場合がありうるからです。
ですが、受刑中は産休のようなものはありません。
もちろん、他の妊婦と同じように定期検診をうけて、母子の健康状態については確認されますが(産婦人科について希望を出すことはできません)、それ以上の特別な扱いはなされません。
切迫早産のため母子の生命、身体に危険が生じた場合のように、入院する必要が生じてやっと、一時的な入院が認められることがあります。
出産のときはどうなるの
妊娠後期となって、分娩予定日も近づき、陣痛が起きるような状況にまでなると、刑務所が選定する、付近の産婦人科や病院などに移動して出産をすることになります。
出産の前後で入院することもありますが、入院をしている間も「受刑者」という身分であることには変わりがないため、手錠がつけられたまま移動することになりますし、病室でも刑務官が逃亡しないようにピッタリと張り付いています。
以前は、分娩時にまで手錠が掛けられたままだったのですが、2015年からは分娩中は手錠を外すこととされました。
どれだけ受刑者の逃亡を防ぐためであったとしても、分娩中の女性が、手錠をかけていないと逃走してしまうかもしれない等とは、いったい誰が考えたのでしょうか。
受刑中の人が、赤ちゃんを産みながら走って逃げるなんて、全く考えられません。
出産後・・・
無事に赤ちゃんが生まれた後、お母さんにとっては辛い現実が待っています。
法律上、受刑中に子供が生まれた場合、刑事施設の長(刑務所の場合は所長)は、1年間、刑務所の中で育児を行うことを認めてもよいとしています。
必要に応じては、最長1年6か月まで延長することができるとしています。
規則でも、子供を養育するために必要な物、例えば、おむつや肌着、ベビーベッド、ほ乳瓶については、自弁して使ってもよい、としています。
実際に、刑務所の中には育児をするための部屋も作られています。
法律や建物の設備としても、お母さんが自分で子供を育てることができているのに、刑務所内での出産のケースのほとんどは、生まれてすぐに、母子ともに離されてしまいます。
生まれてすぐの赤ちゃんは、受刑者であるお母さんの家族(両親や夫、兄弟、親戚など)に引き取られるか、刑務所外に引き取り手がいないとなると乳児院のような施設に引き取られることになります。
その後、受刑中はほとんど会う機会もないまま、お母さんの出所を待つことになります。
分娩を終えたお母さん自身も、心身ともに大変です。
労働基準法では、出産後8週間の産休があります。出産から約2か月は、ほぼ働けない体だからです。
ですが、受刑中となると大きく変わり、分娩から1週間から10日ほどで、再び刑務作業に戻されます。
出産による体のダメージから回復しきっていないことに加えて、生まれてすぐの赤ちゃんと離れ離れになってしまうという、精神的にも相当辛い中でも、刑務所に戻されてしまうのです。
「受刑中である」という一点のみを除けば、通常の産後と同じように母親が乳児の世話をすることができるし、法律上も、設備上も、それが可能であるにもかかわらず、実際には行われていないという現状には、問題があるという意見もあります。
生まれてから約1年の間に、赤ちゃんと親との間で「愛着形成」が醸成されるにもかかわらず、その期間を刑務所の内外で離れて暮らしてしまうと、出所後に親子関係が上手くいかないということがあり得ます。
子供としては、一番お母さんの顔を近くで見る時期であるはずなのに、お母さんの顔が見られないということになるため、情緒面で不安定になることもあります。
母親としても、出産後に実際に育児ができない期間ができてしまうのに、出所後から急に「母親」としての役割を求められても、うまく対応できない可能性もあるでしょう。
受刑中に出産する可能性があるという場合や、妊娠中に起訴されてしまったというような場合には、周囲の人たちとも事前によく相談しておく必要があります。
勾留中の場合であれば、刑事手続きの間は保釈してもらうことで、先々に向けた準備を行えるという場合もあります。