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医療観察法上の手続きについて更生支援に精通したあいち刑事事件総合法律事務所の弁護士が解説します①

【事例】
Aさんは、佐賀県鳥栖市で60代の両親と一緒に住む40歳の男性です。
以前からAさんは精神科に通院しており、統合失調症であるという診断を受けていました。
これまでは家族に支えられながら日常生活を営んできたAさんでしたが、あるときから統合失調症の影響で幻覚や幻聴に悩まされるようになってしまいました。
その幻覚や幻聴は、「毎朝自宅に新聞を届けに来る新聞配達員は自分たち家族の命を狙っている」、「このままでは自分や家族の命が危ない」といったものでした。
このような幻聴と幻聴に囚われたAさんは、ある日、朝刊の配達に来た新聞配達員にカッターナイフで切りかかってしまいました。
異変を感じて駆け付けた人々がAさんを取り押さえたため、新聞配達員は怪我を負ったものの、命に別状はありませんでした。
その後、駆け付けた警察官にAさんは逮捕されました。
逮捕されたAさんは警察の取調べを受けるとともに、Aさんに刑事責任を問えるのか判断するため、医師の鑑定も受けることになりました。
Aさんの家族は、Aさんの弁護人である弁護士から、担当の検察官は、医師の鑑定の結果を踏まえて、Aさんには刑事責任を問えないと判断して不起訴とする予定だと聞かされました。
もっとも、今後は医療観察法の手続きを受けることにもなるとも伝えられました。
Aさんの家族は、これからAさんがどのような手続きを受けるのか、Aさんが家に帰ってくることができるのかなどが心配となり、担当の弁護士に相談しました。
(事例はフィクションです。)
1 はじめに
今回の記事では、Aさんがどのような手続きを受けることになるのか、医療観察法の手続きとはどのようなものなのかを説明するために、その前提として、まずはAさんに刑事責任を問えない理由を解説していきます。
2 責任能力とは
ある人が行った行為を、犯罪であるとして刑罰を科すためにはいくつか条件があります。
その一つが責任能力です。
責任能力というのは、ある行為を行った人を非難するために、その行為を行った人に必要とされる一定の能力です。
このような責任能力がない場合としては、心神喪失(刑法39条1項)と言われる場合と、刑事未成年の場合があります。
刑事未成年というのは、14歳未満であることです(刑法41条)。
このいずれかに該当するのであれば、例え人を殴った、人の物を盗んだといった犯罪に当たりうる行為をしていたとしても、責任能力がないため、犯罪とはなりません。
3 心神喪失とは
それでは、心神喪失とはどのような場合でしょうか。
これは、ごく簡単に表現すると、精神の障害(病気など)により、自分の行為がしていい行為かどうか、良い行為か悪い行為かを判断する能力か、その判断に基づいて自分の行動をコントロールする能力のいずれかが全くない状態を指します。
これに対して、こういった能力が全くないわけではないが、著しく減退した状態を心神耗弱(刑法39条2項)といいますが、この場合は(限定的ではあるけれども)責任能力はあるので、犯罪は成立することになります。
Aさんの場合は、担当の検察官はAさんの刑事責任を問えないと判断していますので、医師の鑑定の結果などを踏まえて、Aさんは心神喪失であったと判断したのでしょう。
そのため、刑事裁判にはかけられませんから、不起訴と判断したものと思われます。
次回の記事では、医療観察法の手続きについて解説していきます。
責任能力が問題となりうる事件で逮捕された場合、発達障害などの診断を受けている方が刑事事件を起こし逮捕された場合には、まずは弁護士を留置先の警察署に派遣する初回接見サービスの利用をおすすめします。責任能力が問題になる場合の弁護活動についてはこちらのページも参考にしてください。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、刑事事件・少年事件に関わってきた経験を活かし、刑事事件後の再犯防止に向けたサポートにも力を入れています。
再犯防止に向けた弁護士のサポートにご興味のある方は、一度、あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。
【出張授業報告】足立直矢弁護士が高校でのオンライン授業で外部講師を務めました

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所新宿支部に所属している足立直矢弁護士が埼玉県立越谷総合技術高校から外部講師の依頼を受け、令和7年7月22日に同校の生徒さんに対してオンラインで授業を実施しました。
授業は「弁護士が見た、本当は怖いSNSの事件」というテーマの下、実際にSNSを通じて刑事事件の被害に遭った実例や、SNSを通じて刑事事件に巻き込まれてしまった実例、被害に遭わないための対策や心構え等について足立弁護士が解説を行いました。
あいち刑事事件総合法律事務所では、これまで培ってきた豊富な経験等から犯罪に巻き込まれないためにはどうするのか、もし事件に関わってしまいそうになった場合にはどのような対応をとるべきなのかなど学生の方向け、教職員の方向けの出張講義を多数準備しております。内容につきましてはご希望がありましたらご相談の上、オーダーメイドで授業内容を作成させていただきます。
実施方法につきましても出張授業、オンラインでの講義のいずれでも対応させていただきます。
出張授業、出張講義にご興味のある方は是非一度こちらからお問い合わせください。
拘禁刑時代における前科がある方の就労支援と弁護士が担うべき役割について①

【事例】
Aさんは覚醒剤使用で3年前に執行猶予付き判決を受けていましたが、執行猶予中に再度覚醒剤を使用してしまい裁判で実刑判決を受けることになりました。
雇用先からは覚醒剤に関わるのが2度目なので今回ばかりは解雇すると言われてしまいました。
Aさんは出所後の再就職に向けて大きな不安を抱えていました。
Aさんとその家族は更生支援に力を入れているあいち刑事事件総合法律事務所の弁護士に就労支援に関して相談をしました。
(事例はフィクションです)
1 前科と就労について
犯罪を犯してしまい、前科がついてしまった方、あるいは刑事施設からの出所を控えている方にとって、社会復帰の最初の大きな壁となるのが「就労」です。
令和7年7月から施行された刑法改正によって導入された拘禁刑は、従来の懲役刑・禁錮刑を統合した新たな自由刑であり、受刑者の処遇改善と再犯防止の観点から、「改善更生」と「社会復帰支援」が重視されるようになりました。
しかし、制度が変わっても、出所者を取り巻く現実は依然として厳しいままです。
特に就労の面では、前科や服役歴があるというだけで、応募すらさせてもらえないということも珍しくありません。
この記事では、拘禁刑の導入に伴って刑務所での就労支援がどのように変化しているのか、また現状の課題について解説させていただきます。
2 拘禁刑下での就労支援について
拘禁刑は、これまでのような作業中心の処遇から、職業訓練や教育プログラム、社会性を回復するプログラムを重視する制度です。
法務省も「改善更生」「円滑な社会復帰」を掲げ、刑事施設における職業訓練や出所後の支援体制の整備を進めています。
拘禁刑の導入に関する法務省のホームページも参照してください。
拘禁刑の下では、以下のような取り組みが行われることが予定されています。
・職業訓練(建築、清掃、IT技能など)
・資格取得支援(フォークリフト運転技能、危険物取扱者など)
・就労支援カウンセリング
・社会性回復プログラム(対人関係スキルの向上など)
このような取り組みにより、出所後にすぐに働き口を見つけられるよう準備が進められていますが、受刑者一人ひとりの状況に応じたきめ細かなサポートが必要です。
拘禁刑下では、従来の刑務作業中心ではなくより個人の特性にあった就労支援や社会復帰支援が行われることが目標とされています。
3 前科がある方への就労支援における課題
就労支援が制度として整ってきているとはいえ、前科があることや出所歴があることに対する社会の偏見や差別は根強く残っています。
例えば次のような課題が指摘されています。
・履歴書に服役による「空白期間」があることで不利に扱われる
・前科を理由に採用を拒否される
・労働環境が過酷で、それを苦にした再犯のリスクが高まる
・就労に関する情報・支援の不足
こうした障壁を乗り越えるためには、本人の努力だけでなく、周囲の理解と支援体制が不可欠です。そして、その支援の一端を担えるのが、弁護士です。
次回の記事では弁護士がこのような課題がある中でどのようにご本人様の就労に対し支援ができるのかについて詳しく解説させていただきます。また就労支援をしている団体についても例を挙げて紹介させていただきます。
就労支援、更生に支援に関する相談はこちらからお問い合わせください。更生支援に精通した弁護士が初回無料で相談に対応させていただきます。
刑法改正に伴って導入された拘禁刑について刑事事件に精通した弁護士が解説します⑧
これまで拘禁刑の導入に伴ってどのように法制度や刑事施設での処遇が変わるかについて詳しく解説してきました。
最終回である今回の記事では拘禁刑の導入に伴い弁護活動や弁護士の果たすべき活動にはどのような変化があるのかについて解説させていただきます。
具体的には、以下のような3点で弁護人の役割や弁護活動が変わってくることが予想されます。
1 量刑判断における主張の幅の拡大
拘禁刑の導入により、裁判官が量刑を決定する際に考慮する事情が広がる可能性があります。
刑務所内でも治療プログラムが導入され再犯防止に力が入れられる方針となったことで、単に専門的プログラムを受けさせるために執行猶予を付すべきと主張するのみでは、裁判所が再犯防止プログラムであれば刑務所でも受けられるのではないかと考えるようになるかもしれません。
そこで再犯防止のために執行猶予を付すべき(実刑にするべきではない)という主張をする際には、単に専門機関に通うというだけではなく何故その機関に通う必要があるのかについてより説得的な主張が求められるようになるでしょう。
また実刑となる可能性が高い件でも弁護人としては、被告人の背景事情を丁寧に調査し、処遇に関する意見を述べることが被告人にとって有利になるかもしれません。
「なぜこの被告人には刑の一部に教育的処遇が必要か」「治療プログラムの導入が再犯防止に資するか」など、量刑や処遇内容に関する説得力ある意見を提出することで処遇内容に反映される可能性もあります。
2 受刑後の処遇を見据えた弁護活動
従来の弁護活動では、主として無罪の獲得や刑の減軽を目的とした活動が中心でしたが、拘禁刑導入後は「刑の執行内容そのもの」にまで目を向けた活動が必要となります。
特に、被告人がどのような処遇分類にあたるかによって、その後の刑務所での生活や社会復帰の難易度が大きく変わる可能性があるため、受刑後の環境整備や処遇プログラムの選択にも関与することが重要です。
そのためには、社会復帰支援や家族・地域とのつながりの構築、医療や福祉との連携など、弁護人の活動範囲がこれまで以上に広がることになります。
具体的には、受刑後にも定期定期に面談や手紙などで連絡を取り合い、必要があれば処遇の改善やプログラムの実施などについて本人に代わって刑務所長などに申し入れをすることが必要になるかもしれません。
3 仮釈放・社会内処遇への意識強化
拘禁刑導入後には、従来よりも処遇の多様化が図られることから、仮釈放や社会内処遇(保護観察付き仮出所など)を前提とした支援がより重視されるようになります。
弁護人としては、判決後も被告人の処遇状況をフォローし、仮釈放申出に必要な資料や意見書を準備するなど、継続的な支援を行う体制が求められます。
まだ拘禁刑を受けた人の事例がないので不透明なところはありますが、拘禁刑の導入により再犯防止や社会復帰を重視するようになった現在では環境整備が十分になされれば、以前よりも早期に仮釈放が認められるようになるかもしれません。
また、裁判時点から仮釈放を見据えて、社会復帰の準備状況(家族の支援、住居、就労先など)を整えておくことが、処遇の選定や仮釈放の判断にプラスの影響を与える可能性があります。
このためが見込まれる場合でも、仮釈放後の社会復帰も見据えた主張をすることで早期の仮釈放に考慮される場面が増えるかもしれません。
4 まとめ
以上のように拘禁刑導入に伴い、刑罰は受けて終わりというだけでなくその後の社会復帰後世まで見据えた制度設計となり、刑罰の趣旨が変容しているといえます。
当然それに伴い弁護活動においても社会復帰や更生まで見据えた活動が求められるようになります。
あいち刑事事件総合法律事務所では拘禁刑が導入される以前から、仮釈放支援や見守り弁護士(ホームロイヤー)といった活動により事件を起こされた方の真の更生や早期の仮釈放・社会復帰に向けた支援を行ってきました。
拘禁刑導入に伴いそれらの活動はさらに重要なものとなっていますので、更生支援、早期の社会復帰に向けて不安や心配がある方は是非あいち刑事事件総合法律事務所までご相談ください。
私たちは、事件の当事者となった方お一人おひとりの特性を踏まえ、社会復帰に向けた最適な支援ができるよう尽力してまいります。
刑法改正に伴って導入された拘禁刑について刑事事件に精通した弁護士が解説します⑦
1 はじめに
前回の記事では拘禁刑の導入に伴う刑事施設の役割や刑務官の役割の変化について解説しましたが、今回の記事ではそのように拘禁刑の導入に伴って変化が予定されている中で実際の現場において、そのような施設環境の改善が予定されているのか、刑務官の負担はどうなるのかという課題について詳しく解説させていただきます。
2 刑事施設の施設環境の改善について
拘禁刑の導入に向けて施設環境の改善も取り組まれています。再犯防止プログラムや職業訓練を効果的に行うには、教室や作業場、カウンセリング室など適切な設備・空間が必要です。
近年新設・改修された刑務所では、従来の雑居房・独居房だけでなく、教育プログラム用の教室や図書室、コンピュータ室などが整備されてきています。
たとえば民間活力を導入した「社会復帰促進センター」(島根あさひ、美祢、喜連川など)では、職業訓練施設や生活指導棟を備え、開放的な雰囲気の中で受刑者の自主性を伸ばす運営がなされています。
こうした先進的施設で培われたノウハウが、全国の刑務所に波及しつつあります。
たとえば喜連川社会復帰促進センターで実施されたVR職業体験のように、最新技術を活用した訓練や企業と連携した就労プログラムが他の刑務所でも導入される可能性があります(https://www.moj.go.jp/kyousei1/kyousei05_00074.html)。
今後は老朽化した施設の改修に際しても、更生プログラム重視の視点で環境を整備していくことが求められるでしょう。
施設面の変化だけでなくそこで服役する受刑者の作業・教育機会の拡充も運営面の重要なポイントです。
拘禁刑では「作業を課すかどうか」自体を個別判断しますが、基本的には大多数の受刑者が何らかの作業に従事しつつ指導プログラムも受ける形になることが予定されています。
そのため、刑務所内で提供する作業種目や教育プログラムの種類を増やし、多様なニーズに応えられるようにする必要があります。
従来からある刑務作業(印刷、家具製作、農作業など)に加え、IT技能習得や介護実習など社会のニーズに即した新分野の訓練を取り入れる余地も検討されています。
受刑者の高齢化に対応した軽作業やリハビリ運動、逆に若年者向けの高度技能訓練プログラムなど、「作業=懲役」から「作業=職業訓練・社会貢献」へと性質が変化していくと考えられます。
その結果、受刑者は刑務所内で取得した資格や職歴を持って社会に復帰でき、刑務所も一種の「職業訓練校」「更生教育施設」としての色彩を強めるでしょう。
3 予想される現場の負担の増大について
これらの変化を実現するには、現場の負担も増大します。
職員の増員や予算措置など越えるべき課題もありますが、専門家は「受刑者の自発性・自立性を尊重した改善更生の理念を運用の中で決して見失わないことが重要だ」と指摘しています。
せっかく制度を変えても、旧来型の画一的処遇に逆戻りしては意味がありません。今後の運用を監視し、必要に応じて軌道修正していくことも求められます。
拘禁刑の導入によって刑務所は「刑を執行する場」から「再出発の準備をする場」へと変わりつつあります。その理念に沿った刑務所運営の定着こそが、真の再犯防止と安全な社会の実現に繋がると言えるでしょう。
4 今後に向けて
既に拘禁刑を定めた改正刑法が施行されましたが、実際に被告人が拘禁刑を受けるのは令和7年6月1日以降に犯した罪により裁判を受ける場合になります。
したがって裁判の期間等を考慮すれば実際に被告人に対し拘禁刑が宣告されるのは早くても施行から2,3か月経過してからになるでしょうし、実際に服役するのはもっと先になるでしょう。
現状まだまだ実例がない状況ですので、今後先述した課題をクリアして適切に運用されていくかを見守っていく必要があります。
刑法改正に伴って導入された拘禁刑について刑事事件に精通した弁護士が解説します⑥
1 はじめに
今回の記事では拘禁刑の導入に伴って生じ得る刑務所の管理運営体制の変化について2回に分けて解説させていただきます。
拘禁刑の導入により、刑務所の管理運営体制にも変化が生じます。
具体的には①刑務所内の組織編成や役割分担の変化や②刑務官の役割や目的意識の変化が生じることが予定されています。
2 刑務所内の組織編成や役割分担の変化について
まず、受刑者処遇の個別化に対応するために、刑務所内の組織編成や職員の役割分担が見直されています。
法務省は「矯正改革推進プロジェクト」の中で、拘禁刑の施行を見据え、刑務官(看守)と教育・心理・福祉の専門職員がチームを組んで処遇を行う『チーム処遇』の確立を進める方針を示しました。
従来、刑務官は主に保安警備や規律維持を担当し、教師やカウンセラーが別途指導を行う形でしたが、今後は複数の職種が一丸となって受刑者の改善更生を支援する体制に移行します。
例えば、あるモデル事業では刑務官、法務教官(教育専門官)、心理技官、福祉専門官(社会福祉士)、作業療法士、看護師といった多職種チームを編成し、受刑者ごとに処遇・支援計画を策定して定期的に見直す取り組みが行われています。
これにより、拘禁刑下では受刑者の問題状況を多角的に把握し、適切な処遇プログラムを提供できるようになると期待されています。
3 刑務官の役割や目的意識の変化
刑務官の役割も大きく意識転換が求められます。従来は規律違反の取り締まりや作業の監督が中心でしたが、これからは受刑者の良き指導者・支援者としての側面が重視されます。
チーム処遇の一員として、刑務官も受刑者の更生プランの策定や面談に関わり、日常生活全般の指導を行います。そのための研修強化や人員配置の見直しも進められています。
人権意識の向上やコミュニケーション技能の研修はもちろん、専門職との連携を円滑にするための体制整備が行われています。
一方で、保安担当と処遇担当を分離すべきとの意見もあり(過去の刑務所職員による暴行事件の反省から)、現場では模索が続いています。
いずれにせよ、刑務官が単に管理する存在から、更生を支援するパートナーへと役割がシフトしていく流れは確実であり、その意識改革が刑務所運営の鍵を握るでしょう。
しかし、当然ながら、多様な処遇プログラムの実施や刑務官の役割が変化することに伴って、必要な人材の確保や専門性の確立、十分な施設環境の整備が間に合うかという課題も指摘されています。
そこで次回の記事では、拘禁刑導入に伴う施設環境の改善や、予想される現場の負担とその対応についてさらに詳しく解説していきます。
あいち刑事事件総合法律事務所では拘禁刑が導入される前から、刑罰を受けた方の立ち直りの支援、再犯を防止して真の更生を図ることに力を入れてきました。今後も事件を起こされた方の更生支援、再犯防止に全力を注いでいきます。更生支援や再犯防止、早期の仮釈放に向けた支援に興味のある方は自費こちらからお問い合わせください。相談は初回無料で対応させていただきます。
刑法改正に伴って導入された拘禁刑について刑事事件に精通した弁護士が解説します⑤
今回の記事では拘禁刑が導入されるのと同時に改正された再度の執行猶予制度を中心に刑務所外での再犯防止策について解説します。
1 刑務所外での再犯防止策の強化
さらに、刑務所の外における再犯防止策も拡大しています。今回の刑法改正では、再犯者に対する執行猶予制度が見直され、裁判所が再度の執行猶予(いわゆる「刑の二回猶予」)を付与できる範囲が拡大されました。
改正前は「1年以下の懲役・禁錮」の場合にしか再度の執行猶予は認められませんでしたが、改正後は言い渡し刑期が「2年以下の拘禁刑」まで再度猶予可能となっています。
また、保護観察付き執行猶予中に罪を犯した場合でも状況によっては再度の執行猶予を付すことが可能になりました。
この改正により、以前であれば再度の執行猶予を付けることが法律上できなかったケースでも再度の執行猶予を選択することが可能になっています。
法改正によって再度の執行猶予を付すことができる事例が拡大すれば、そのケースの被告人に引き続き社会内で更生の機会を与え、継続的な指導監督下に置くことができます。
言い換えれば、犯罪を繰り返した者でも直ちに刑務所に送るのではなく、社会内処遇のチャンスをもう一度与えて更生を促す道が広がったとも評価できるのです。
これは受刑者数の削減だけでなく、地域における再犯防止策(就労支援やカウンセリング)の継続という観点でも意義が大きい法律改正であるといえます。
*ただし実際に再度の執行猶予が付与される率が高まるかは今後の裁判例等の動向を見守る必要があるといえますので楽観はできません。
このように、拘禁刑の導入を契機として「矯正」と「更生保護」の両面から再犯防止策が強化されています。
専門家は、再犯を防ぐには刑務所内での教育矯正のみならず、社会復帰後の居場所・仕事の確保や地域の受け入れ体制が不可欠だと指摘しています。
実際、出所者の再犯率は、出所後2年以内が高く、この期間に安定した職と住居がないことが再犯リスクを大きく高めるとされています。
こうした知見を踏まえ、法改正と並行して政府は「再犯防止推進計画」を策定し、関係省庁・地方自治体・民間団体が連携して出所者の社会復帰を支える総合的対策を進めています。拘禁刑で培った更生の成果を社会内で継続させ、二度と犯罪に戻らないようにする仕組みを社会全体で構築していくことが課題となっています。
2 弁護士による再犯防止策のサポートについて
あいち刑事事件総合法律事務所では、刑事事件・少年事件の弁護活動のみならず、事件終了後の当事者の方の再犯防止や更生支援の活動にも力を入れています。
具体的には、事件の原因となった不良交友関係の断絶のための定期的な面談やアドバイス、被害者側に立って事件を振り返るための課題の実施、具体的な再犯防止策の策定のサポートなど、弁護士が関わり再犯防止に向けた積極的な活動を行っています。
活動内容に興味を持たれた方は、こちらの見守り弁護士・ホームロイヤーのご案内も読んでみてください。
事件後の更生支援や再犯防止に関して心配事がある方は是非こちらからお問い合わせください。再犯防止や更生支援の活動について豊富な経験を持つ弁護士が初回無料で相談に対応させていただきます。
刑法改正に伴って導入される拘禁刑について刑事事件に精通した弁護士が解説します④
今回からは2回の記事に分けて拘禁刑の導入に伴って行われる再犯防止のための施策について解説していきます。今回は刑務所内での再犯防止策の強化について、次回は刑務所外での再犯防止策の強化について紹介、解説していきます。
1 刑務所内での再犯防止策の強化について
再犯防止の強化は、拘禁刑導入の最大の目的の一つです。刑罰には本来「応報」(犯した罪への報い)と「予防」(将来の犯罪抑止)という二面性がありますが、今回の改正では特に特別予防(その人の再犯を防ぐこと)に重点が置かれました。
すなわち、刑務所内で受刑者本人に働きかけることで再犯を防止しようという考え方が色濃く反映されています。
拘禁刑では受刑者の特性に応じて柔軟に処遇できるようになるため、従来よりも効果的な矯正プログラムの実施が可能になります。法務省も「刑罰の目的として再犯防止がいっそう重視されるようになった」と説明しており、再犯防止への軸足を明確にしています。
2 拘禁刑導入に伴う受刑者の処遇プログラムの変化
(1)処遇課程の分類の変化
具体的な再犯防止策として、受刑者の処遇プログラムの充実と多様化が挙げられます。法務省は拘禁刑導入に向け、現在の受刑者分類方法を見直し、24種類もの新たな矯正処遇課程を設ける方針を打ち出しました。
これまで刑務所では「犯罪傾向の進度」(初犯・累犯など犯罪歴にもとづく分類)によって収容先や処遇を決めていましたが、これだと高齢の窃盗常習者と暴力団関係者が同じ処遇群になるなど、背景の異なる者に画一的対応をせざるを得ない問題がありました。
そこで今後はそのような手法を廃止し、受刑者一人ひとりの資質・事情(犯行動機や抱える問題、年齢や障害の有無等)に着目して分類する「オーダーメイド型」の処遇へ転換します。
例えば、知的障害・精神疾患を抱える人向けの「福祉支援課程」、薬物・ギャンブル依存の人向けの「依存症回復課程」、若年層向けの「若年課程」などが用意され、受刑者ごとに最適なプログラムを受けられるようになる見込みです。
こうした細やかな処遇により、それぞれの受刑者が再犯に至った原因(貧困、依存症、学歴・技能不足、人間関係の問題など)を的確に改善していくことが期待されています。
(2)専門的矯正プログラムの拡充
また、専門的な矯正プログラムの拡充も図られています。性犯罪者に対する再犯防止プログラム、暴力団離脱支援プログラム、DV加害者更生プログラムなど、従来から一部実施されていた専門プログラムを発展させ、対象者には集中的に受講させる方針です。
たとえば性犯罪を犯した受刑者には、刑務所内の「性犯罪再犯防止指導」と保護観察所の「性犯罪者処遇プログラム」を連動させるなど、施設内処遇と社会内処遇の継続性を持たせる取り組みも進められています。
薬物犯罪者についても刑務所での薬物離脱指導と出所後の薬物リハビリ支援を一貫して行う仕組みづくりが検討されています。
これらのプログラムは科学的知見に基づき開発・改善されており、再犯防止に一定の効果を上げているとの報告もあります。
次回は引き続き、刑務所外での再犯防止策の強化について解説させていただきます。
刑法改正に伴って導入される拘禁刑について刑事事件に精通した弁護士が解説します③
今回の記事では拘禁刑の導入に伴って、仮釈放や社会復帰のための支援体制がどのように変化していくのかについて解説させていただきます。
1 仮釈放判断に与える影響
拘禁刑の導入は、受刑者の仮釈放や出所後支援にも間接的な影響を及ぼすと考えられます。
法制度上、仮釈放(仮出所)の要件そのもの(有期刑は原則3分の1経過後等)は従来と変わりません。
しかし処遇重視の方針により、更生プログラムへの取り組み状況や改善の度合いが仮釈放審査で重視される可能性があります。拘禁刑導入後の新制度では受刑者ごとの改善計画が立てられるため、例えば「与えられた職業訓練を修了した」「教育課程で一定の成果を上げた」等の記録が、仮釈放を判断する材料となる可能性があります
受刑者にとっては、早期の社会復帰を目指す上で刑務所内プログラムへの積極的参加が一層重要になるでしょう。
2 出所後の社会復帰支援に与える影響について
また、出所後の社会復帰支援策も強化されています。具体的には以下の通りです。
(1)就労支援
法務省と厚生労働省は2006年度から「刑務所出所者等総合的就労支援対策」を実施しており、ハローワーク(公共職業安定所)に専用窓口を設置する、協力雇用主(受刑者を雇用する企業)の開拓、職場体験講習やセミナー開催、トライアル雇用助成金の支給など、出所者の就労を包括的に支援する施策を展開しています(https://www.mhlw.go.jp/houdou/2005/08/h0829-2.html)。
刑事施設や保護観察所とハローワークが連携し、受刑中から職業相談・職業紹介や就労支援プログラムを実施することで、出所時にスムーズに職探しができる体制を整えています。
改正後は、こうした取り組みをより一層充実させる方針が示されています。
(2)教育支援
教育支援の強化も重要な柱です。若年層の受刑者(おおむね26歳未満)については、出所後の社会復帰に役立てるため学力向上や就労技術習得を促す教育プログラムが拡充されています。
具体的には、中卒・高卒程度の学力しかない受刑者に対し、高卒認定試験の学習支援や職業資格取得のための講座が提供されるケースもあります。改正後の拘禁刑では、「教科指導」(学科教育)や「職業訓練」の時間を個々の事情に応じて十分に確保し、受刑中に基礎学力や技能を身につけさせることに重点が置かれます。これにより、出所者が社会で職に就き自立しやすくなるよう支援が強化されます。
(3)最新技術を利用した就労支援
さらに、官民の連携による新しい試みも始まっています。
例えば日本財団と法務省の協働プロジェクトでは、受刑者の職業訓練にVR(バーチャルリアリティ)技術を活用する取り組みが国内で初めて行われました(https://seijiyama.jp/article/news/nws-si20240319.html)。
2024年3月には栃木県の喜連川社会復帰促進センターにて、介護業等の企業が協力し、受刑者に対してVR上での職業体験を実施しています(https://www.shimotsuke.co.jp/articles/-/866395)。これはメタバース空間での企業説明会に続く画期的な試みであり、IT技術を使った実践的な就労支援として注目されました。
このように、従来は難しかった多様な業種の体験や実習を受刑中に提供し、出所後のミスマッチを減らそうという動きが広がっています。
(4)出所後の指導監督体制
出所後のフォロー体制も改善が図られています。保護観察所による指導監督に加え、NPOや自治体とも連携して、住居の確保や生活相談に応じる仕組みが整いつつあります。
例えばあるNPO法人では、出所者の住居支援、居場所づくり、就労支援などを包括的にサポートしており、福祉サービスへの橋渡し役を担っています。
また全国各地で「地域生活定着支援センター」が設置され、高齢・障害のある出所者を地域で支える仕組みも強化されています。拘禁刑の理念である「改善更生」を確実に社会復帰に繋げるために、出所前後の切れ目ない支援が拡充されているのです(https://www.kurashi-o-en.org/teichaku)。
以上のように拘禁刑の導入に伴って、仮釈放の判断において重視されることが変化することやさらに出所後の社会復帰支援が充実することが予想されています。
あいち刑事事件総合法律事務所でも、弁護士が事件を起こした方の再犯防止や真の更生に向けて取り組む更生支援プログラムに力を入れています。
興味のある方はこちらのお問い合わせからご連絡ください。弁護士が初回無料で相談させていただきます。
刑法改正に伴って導入される拘禁刑について刑事事件に精通した弁護士が解説します②
それでは前回の記事の導入に引き続き、今回の記事より拘禁刑の内容についてより解説していきます。
1 受刑者の処遇の変化
懲役刑・禁錮刑から拘禁刑への一本化により、受刑者の生活と処遇内容が柔軟化します。
従来、懲役受刑者にはいわゆる刑務作業が義務づけられ、禁錮受刑者は刑務作業が任意でした。
しかし拘禁刑では、受刑者ごとに作業を行わせるか否かを決定し、その人の特性に応じた指導やプログラムを実施する仕組みに変わります。
つまり、全受刑者に一律で労役を課すのではなく、個々の受刑者に必要な作業または指導を組み合わせて行うことが可能になります。
2 処遇内容の見直し
この変更に伴い、刑務所内での過ごし方やプログラム内容も見直されます。刑務作業と矯正指導(改善指導や教科指導など)を合わせた時間は、従来同様に原則1日8時間以内とされています。
ただし作業が免除・軽減された受刑者には、その時間を利用して更生プログラム(矯正教育やカウンセリング等)に充てることが予定されています。
実際に国会での審議を見ても、多くの受刑者に対し、作業と各種指導をバランス良く組み合わせる処遇が行われると想定されています。
例えば、知的・精神障害のある受刑者には福祉的支援プログラムを、薬物依存の受刑者には依存症克服プログラムを優先するなど、個別最適化された内容が組まれることになります。
3 拘禁刑に一本化された趣旨と背景
処遇方針の面でも、刑罰の目的が「懲らしめ」から「改善更生」へと転換されます。懲役刑における作業は本来「懲らしめ(応報)」の意味合いが強いものでしたが、近年は職業訓練や各種指導も取り入れられていました。
拘禁刑の創設によってこの流れを一層進め、「作業」も受刑者の改善更生・社会復帰のための措置という位置付けであると理解できます。
そのため処遇の運用においては、これまで以上に受刑者の自発性・自主性を高め、前向きな参加を促すことが求められます。
受刑者に課されるプログラムも罰というより矯正教育の要素が強くなり、受刑者自身が更生に取り組む機会が増えると考えられています。
また、背景として、懲役と禁錮の区別は既に形骸化していました。2022年時点で新受刑者の99.7%が懲役刑で、禁錮刑はわずか0.3%(44人)しか言い渡されていませんでした。そして、令和5年3月末時点で、禁錮受刑者の約86.5%は任意で作業に従事していたという実態がありました。このように両刑の実質的な差異が乏しいことも一本化の理由の一つでした。
一本化後は名称が変わるだけでなく、「全ての受刑者に必ず作業が課されるわけではない」と法律上明確にすることで、処遇内容を受刑者ごとに柔軟に調整できるようにした点に意義があります。
この柔軟な処遇を可能にすることで、受刑者の更生により効果的な環境を整える狙いです。
あいち刑事事件総合法律事務所では、刑事事件の弁護活動のみならず刑事処分や判決が出た後の更生に向けた活動にも力を入れています。
このことは懲らしめより改善更生に重きを置いた今回の刑法改正の趣旨とも合致するものです。
当事者の方の更生に向けて見守り弁護士(ホームロイヤー)の活動を準備しています。拘禁刑の導入を機に更生に向けて関心のなる方は是非一度ご相談ください。