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刑法改正に伴って導入された拘禁刑について刑事事件に精通した弁護士が解説します⑧

2025-07-31

これまで拘禁刑の導入に伴ってどのように法制度や刑事施設での処遇が変わるかについて詳しく解説してきました。
最終回である今回の記事では拘禁刑の導入に伴い弁護活動や弁護士の果たすべき活動にはどのような変化があるのかについて解説させていただきます。
具体的には、以下のような3点で弁護人の役割や弁護活動が変わってくることが予想されます。

1 量刑判断における主張の幅の拡大

拘禁刑の導入により、裁判官が量刑を決定する際に考慮する事情が広がる可能性があります。
刑務所内でも治療プログラムが導入され再犯防止に力が入れられる方針となったことで、単に専門的プログラムを受けさせるために執行猶予を付すべきと主張するのみでは、裁判所が再犯防止プログラムであれば刑務所でも受けられるのではないかと考えるようになるかもしれません。
そこで再犯防止のために執行猶予を付すべき(実刑にするべきではない)という主張をする際には、単に専門機関に通うというだけではなく何故その機関に通う必要があるのかについてより説得的な主張が求められるようになるでしょう。

また実刑となる可能性が高い件でも弁護人としては、被告人の背景事情を丁寧に調査し、処遇に関する意見を述べることが被告人にとって有利になるかもしれません。
「なぜこの被告人には刑の一部に教育的処遇が必要か」「治療プログラムの導入が再犯防止に資するか」など、量刑や処遇内容に関する説得力ある意見を提出することで処遇内容に反映される可能性もあります。

2 受刑後の処遇を見据えた弁護活動

従来の弁護活動では、主として無罪の獲得や刑の減軽を目的とした活動が中心でしたが、拘禁刑導入後は「刑の執行内容そのもの」にまで目を向けた活動が必要となります。
特に、被告人がどのような処遇分類にあたるかによって、その後の刑務所での生活や社会復帰の難易度が大きく変わる可能性があるため、受刑後の環境整備や処遇プログラムの選択にも関与することが重要です。
そのためには、社会復帰支援や家族・地域とのつながりの構築、医療や福祉との連携など、弁護人の活動範囲がこれまで以上に広がることになります。
具体的には、受刑後にも定期定期に面談や手紙などで連絡を取り合い、必要があれば処遇の改善やプログラムの実施などについて本人に代わって刑務所長などに申し入れをすることが必要になるかもしれません。

3 仮釈放・社会内処遇への意識強化

拘禁刑導入後には、従来よりも処遇の多様化が図られることから、仮釈放や社会内処遇(保護観察付き仮出所など)を前提とした支援がより重視されるようになります。
弁護人としては、判決後も被告人の処遇状況をフォローし、仮釈放申出に必要な資料や意見書を準備するなど、継続的な支援を行う体制が求められます。
まだ拘禁刑を受けた人の事例がないので不透明なところはありますが、拘禁刑の導入により再犯防止や社会復帰を重視するようになった現在では環境整備が十分になされれば、以前よりも早期に仮釈放が認められるようになるかもしれません。

また、裁判時点から仮釈放を見据えて、社会復帰の準備状況(家族の支援、住居、就労先など)を整えておくことが、処遇の選定や仮釈放の判断にプラスの影響を与える可能性があります。
このためが見込まれる場合でも、仮釈放後の社会復帰も見据えた主張をすることで早期の仮釈放に考慮される場面が増えるかもしれません。

4 まとめ

以上のように拘禁刑導入に伴い、刑罰は受けて終わりというだけでなくその後の社会復帰後世まで見据えた制度設計となり、刑罰の趣旨が変容しているといえます。
当然それに伴い弁護活動においても社会復帰や更生まで見据えた活動が求められるようになります。
あいち刑事事件総合法律事務所では拘禁刑が導入される以前から、仮釈放支援見守り弁護士(ホームロイヤー)といった活動により事件を起こされた方の真の更生や早期の仮釈放・社会復帰に向けた支援を行ってきました。
拘禁刑導入に伴いそれらの活動はさらに重要なものとなっていますので、更生支援、早期の社会復帰に向けて不安や心配がある方は是非あいち刑事事件総合法律事務所までご相談ください。

私たちは、事件の当事者となった方お一人おひとりの特性を踏まえ、社会復帰に向けた最適な支援ができるよう尽力してまいります。

刑法改正に伴って導入された拘禁刑について刑事事件に精通した弁護士が解説します⑦

2025-07-24

1 はじめに

前回の記事では拘禁刑の導入に伴う刑事施設の役割や刑務官の役割の変化について解説しましたが、今回の記事ではそのように拘禁刑の導入に伴って変化が予定されている中で実際の現場において、そのような施設環境の改善が予定されているのか、刑務官の負担はどうなるのかという課題について詳しく解説させていただきます。

2 刑事施設の施設環境の改善について

拘禁刑の導入に向けて施設環境の改善も取り組まれています。再犯防止プログラムや職業訓練を効果的に行うには、教室や作業場、カウンセリング室など適切な設備・空間が必要です。
近年新設・改修された刑務所では、従来の雑居房・独居房だけでなく、教育プログラム用の教室や図書室、コンピュータ室などが整備されてきています。
たとえば民間活力を導入した「社会復帰促進センター」(島根あさひ、美祢、喜連川など)では、職業訓練施設や生活指導棟を備え、開放的な雰囲気の中で受刑者の自主性を伸ばす運営がなされています。
こうした先進的施設で培われたノウハウが、全国の刑務所に波及しつつあります。
たとえば喜連川社会復帰促進センターで実施されたVR職業体験のように、最新技術を活用した訓練や企業と連携した就労プログラムが他の刑務所でも導入される可能性があります(https://www.moj.go.jp/kyousei1/kyousei05_00074.html)。
今後は老朽化した施設の改修に際しても、更生プログラム重視の視点で環境を整備していくことが求められるでしょう。

施設面の変化だけでなくそこで服役する受刑者の作業・教育機会の拡充も運営面の重要なポイントです。
拘禁刑では「作業を課すかどうか」自体を個別判断しますが、基本的には大多数の受刑者が何らかの作業に従事しつつ指導プログラムも受ける形になることが予定されています。
そのため、刑務所内で提供する作業種目や教育プログラムの種類を増やし、多様なニーズに応えられるようにする必要があります。
従来からある刑務作業(印刷、家具製作、農作業など)に加え、IT技能習得や介護実習など社会のニーズに即した新分野の訓練を取り入れる余地も検討されています。
受刑者の高齢化に対応した軽作業やリハビリ運動、逆に若年者向けの高度技能訓練プログラムなど、「作業=懲役」から「作業=職業訓練・社会貢献」へと性質が変化していくと考えられます。
その結果、受刑者は刑務所内で取得した資格や職歴を持って社会に復帰でき、刑務所も一種の「職業訓練校」「更生教育施設」としての色彩を強めるでしょう。

3 予想される現場の負担の増大について

これらの変化を実現するには、現場の負担も増大します。
職員の増員や予算措置など越えるべき課題もありますが、専門家は「受刑者の自発性・自立性を尊重した改善更生の理念を運用の中で決して見失わないことが重要だ」と指摘しています。
せっかく制度を変えても、旧来型の画一的処遇に逆戻りしては意味がありません。今後の運用を監視し、必要に応じて軌道修正していくことも求められます。
拘禁刑の導入によって刑務所は「刑を執行する場」から「再出発の準備をする場」へと変わりつつあります。その理念に沿った刑務所運営の定着こそが、真の再犯防止と安全な社会の実現に繋がると言えるでしょう。

4 今後に向けて

既に拘禁刑を定めた改正刑法が施行されましたが、実際に被告人が拘禁刑を受けるのは令和7年6月1日以降に犯した罪により裁判を受ける場合になります。
したがって裁判の期間等を考慮すれば実際に被告人に対し拘禁刑が宣告されるのは早くても施行から2,3か月経過してからになるでしょうし、実際に服役するのはもっと先になるでしょう。
現状まだまだ実例がない状況ですので、今後先述した課題をクリアして適切に運用されていくかを見守っていく必要があります。

刑法改正に伴って導入された拘禁刑について刑事事件に精通した弁護士が解説します⑥

2025-07-17

1 はじめに

今回の記事では拘禁刑の導入に伴って生じ得る刑務所の管理運営体制の変化について2回に分けて解説させていただきます。
拘禁刑の導入により、刑務所の管理運営体制にも変化が生じます。
具体的には①刑務所内の組織編成や役割分担の変化や②刑務官の役割や目的意識の変化が生じることが予定されています。

2 刑務所内の組織編成や役割分担の変化について

まず、受刑者処遇の個別化に対応するために、刑務所内の組織編成や職員の役割分担が見直されています。
法務省は「矯正改革推進プロジェクト」の中で、拘禁刑の施行を見据え、刑務官(看守)と教育・心理・福祉の専門職員がチームを組んで処遇を行う『チーム処遇』の確立を進める方針を示しました。
従来、刑務官は主に保安警備や規律維持を担当し、教師やカウンセラーが別途指導を行う形でしたが、今後は複数の職種が一丸となって受刑者の改善更生を支援する体制に移行します。
例えば、あるモデル事業では刑務官、法務教官(教育専門官)、心理技官、福祉専門官(社会福祉士)、作業療法士、看護師といった多職種チームを編成し、受刑者ごとに処遇・支援計画を策定して定期的に見直す取り組みが行われています。
これにより、拘禁刑下では受刑者の問題状況を多角的に把握し、適切な処遇プログラムを提供できるようになると期待されています。

3 刑務官の役割や目的意識の変化

刑務官の役割も大きく意識転換が求められます。従来は規律違反の取り締まりや作業の監督が中心でしたが、これからは受刑者の良き指導者・支援者としての側面が重視されます。
チーム処遇の一員として、刑務官も受刑者の更生プランの策定や面談に関わり、日常生活全般の指導を行います。そのための研修強化や人員配置の見直しも進められています。
人権意識の向上やコミュニケーション技能の研修はもちろん、専門職との連携を円滑にするための体制整備が行われています。
一方で、保安担当と処遇担当を分離すべきとの意見もあり(過去の刑務所職員による暴行事件の反省から)、現場では模索が続いています。
いずれにせよ、刑務官が単に管理する存在から、更生を支援するパートナーへと役割がシフトしていく流れは確実であり、その意識改革が刑務所運営の鍵を握るでしょう。

しかし、当然ながら、多様な処遇プログラムの実施や刑務官の役割が変化することに伴って、必要な人材の確保や専門性の確立、十分な施設環境の整備が間に合うかという課題も指摘されています。
そこで次回の記事では、拘禁刑導入に伴う施設環境の改善や、予想される現場の負担とその対応についてさらに詳しく解説していきます。

あいち刑事事件総合法律事務所では拘禁刑が導入される前から、刑罰を受けた方の立ち直りの支援、再犯を防止して真の更生を図ることに力を入れてきました。今後も事件を起こされた方の更生支援、再犯防止に全力を注いでいきます。更生支援や再犯防止、早期の仮釈放に向けた支援に興味のある方は自費こちらからお問い合わせください。相談は初回無料で対応させていただきます。

刑法改正に伴って導入される拘禁刑について刑事事件に精通した弁護士が解説します②

2025-06-19

それでは前回の記事の導入に引き続き、今回の記事より拘禁刑の内容についてより解説していきます。

1 受刑者の処遇の変化

懲役刑・禁錮刑から拘禁刑への一本化により、受刑者の生活と処遇内容が柔軟化します。
従来、懲役受刑者にはいわゆる刑務作業が義務づけられ、禁錮受刑者は刑務作業が任意でした。
しかし拘禁刑では、受刑者ごとに作業を行わせるか否かを決定し、その人の特性に応じた指導やプログラムを実施する仕組みに変わります。
つまり、全受刑者に一律で労役を課すのではなく、個々の受刑者に必要な作業または指導を組み合わせて行うことが可能になります。

2 処遇内容の見直し

この変更に伴い、刑務所内での過ごし方やプログラム内容も見直されます。刑務作業と矯正指導(改善指導や教科指導など)を合わせた時間は、従来同様に原則1日8時間以内とされています。
ただし作業が免除・軽減された受刑者には、その時間を利用して更生プログラム(矯正教育やカウンセリング等)に充てることが予定されています。
実際に国会での審議を見ても、多くの受刑者に対し、作業と各種指導をバランス良く組み合わせる処遇が行われると想定されています。
例えば、知的・精神障害のある受刑者には福祉的支援プログラムを、薬物依存の受刑者には依存症克服プログラムを優先するなど、個別最適化された内容が組まれることになります。

3 拘禁刑に一本化された趣旨と背景

処遇方針の面でも、刑罰の目的が「懲らしめ」から「改善更生」へと転換されます。懲役刑における作業は本来「懲らしめ(応報)」の意味合いが強いものでしたが、近年は職業訓練や各種指導も取り入れられていました。
拘禁刑の創設によってこの流れを一層進め、「作業」も受刑者の改善更生・社会復帰のための措置という位置付けであると理解できます。
そのため処遇の運用においては、これまで以上に受刑者の自発性・自主性を高め、前向きな参加を促すことが求められます。
受刑者に課されるプログラムも罰というより矯正教育の要素が強くなり、受刑者自身が更生に取り組む機会が増えると考えられています。

また、背景として、懲役と禁錮の区別は既に形骸化していました。2022年時点で新受刑者の99.7%が懲役刑で、禁錮刑はわずか0.3%(44人)しか言い渡されていませんでした。そして、令和5年3月末時点で、禁錮受刑者の約86.5%は任意で作業に従事していたという実態がありました。このように両刑の実質的な差異が乏しいことも一本化の理由の一つでした。
一本化後は名称が変わるだけでなく、「全ての受刑者に必ず作業が課されるわけではない」と法律上明確にすることで、処遇内容を受刑者ごとに柔軟に調整できるようにした点に意義があります。
この柔軟な処遇を可能にすることで、受刑者の更生により効果的な環境を整える狙いです。

あいち刑事事件総合法律事務所では、刑事事件の弁護活動のみならず刑事処分や判決が出た後の更生に向けた活動にも力を入れています。
このことは懲らしめより改善更生に重きを置いた今回の刑法改正の趣旨とも合致するものです。
当事者の方の更生に向けて見守り弁護士(ホームロイヤー)の活動を準備しています。拘禁刑の導入を機に更生に向けて関心のなる方は是非一度ご相談ください。

刑法改正に伴って導入される拘禁刑について刑事事件に精通した弁護士が解説します①

2025-05-30

1 はじめに

2025年6月1日施行の刑法改正により、従来の「懲役刑」と「禁錮刑」が廃止され、新たに統合された「拘禁刑(こうきんけい)」が導入されます。
これは明治以来続いた自由刑制度の大改革であり、受刑者の処遇や社会復帰支援、再犯防止策、刑務所運営に大きな変化をもたらすと期待されています。
当然ですがそのことは、実刑判決を受けた者の受ける刑の内容やその後の更生に与える影響も大きいといえます。
そこで本サイトでは拘禁刑の導入に合わせて、その内容や変更点について刑事事件に精通した弁護士が複数回にわたって拘禁刑について記事で詳しく解説させていただきます。

2 懲役刑と禁錮刑について

まずは従来の刑法で定められていた「懲役刑」と「禁錮刑」について簡単に解説させていただきます。
拘禁刑導入前の刑法の条文は以下の通りです。
(懲役)
第12条 懲役は、無期及び有期とし、有期懲役は、1月以上20年以下とする。
2 懲役は、刑事施設に拘置して所定の作業を行わせる。
(禁錮)
第13条 禁錮は、無期及び有期とし、有期禁錮は、1月以上20年以下とする。
2 禁錮は、刑事施設に拘置する。

両者の違いは刑務作業をする義務があるかどうかです。
しかしながら、実刑判決を受ける者の9割以上は懲役刑の判決を受けた者であり、さらに禁錮刑を受けた者のうち約8割強の受刑者が刑務作業を希望している状況でした。
これが拘禁刑の導入された背景になります。

3 拘禁刑についての条文

今回の刑法改正によって懲役刑と禁錮刑の条文が削除されて、次のような拘禁刑の条文が新設されます。
第12条(拘禁刑)
1 拘禁刑は、無期及び有期に、有期拘禁刑は、1月以上20年以下とする。
2 拘禁刑は、刑事施設に拘置する。
3 拘禁刑に処せられた者には、改善更生を図るため、必要な作業を行わせ、又は必要な指導を行うことができる。

拘禁刑が導入されることで、これまで「懲役刑」ないし「禁錮刑」が規定されていた条文の文言が「拘禁刑」に変わります。
例えば刑法246条であれば、次のように改正されます。
刑法246条 
人を欺いて財物を交付させた者は、10年以下の「懲役」に処する→人を欺いて財物を交付させた者は、10年以下の「拘禁刑」に処する。

また改正前の懲役刑に定められていた刑務作業を行う義務に関する文言はなくなり、3項により刑務作業や更生に向けた指導を行うことを「必要」に応じて行うことと定めています。

今回の記事では従来の条文との改正点について解説させていただきました。次回移行具体的な改正による変化や影響について詳しく解説させていただきます。

あいち刑事事件総合法律事務所では、どのような刑罰をや処分を受けたかに関わらず事件の当事者の方の更生を全力でサポートします。そのた目に早期の仮釈放の実現や真の更生に向けた見守り弁護士などの弁護活動を行っています。更生に関心のある方は是非一度あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。お問い合わせはこちらかフリーダイヤル(0120-631-881)からお願い致します。

少年事件と児童相談所の関係について少年事件に精通した弁護士が詳しく解説します⑩

2025-05-23

【事例】
Aさんは、福岡県新宮市に住む14歳の男子中学生です。
半年前、Aさんは、通学中に見かけた小学生の女の子の身体を触るという事件を起こしてしまいました。
女の子が泣き出したので、Aさんはその場から走って逃げました。
しかし、数日後、警察官がAさんのところに来てこの事件について話を聞きたいと言ってきました。
この事件当時、Aさんは誕生日を迎える前でしたので、まだ13歳でした。
その後、Aさんは警察で話を聞かれたり、児童相談所で保護されたり、少年鑑別所で収容されて調査を受けたりしました。
このような手続きを経て、福岡家庭裁判所は、Aさんの少年審判を開き、Aさんを児童相談所長に送致するという決定をしました。

AさんやAさんの家族は、児童相談所長に送致するという処分がどのような処分なのか、Aさんは自宅に帰ることができるのかなどを改めて説明してもらいたいと思い、それまでもAさんの付添人であった弁護士に改めて相談することにしました。
(事例はフィクションです。)

1 はじめに

前回の記事では、少年事件の初期段階での児童相談所の役割を解説するために、触法事件の手続きの流れ、特に警察による調査がどのように行われていくのか、それにどのように児童相談所が関与していくのかについて解説してきました。
今回の記事では、警察から児童相談所長に送致されるなどした後の、児童相談所の役割について解説していきます。

2 児童相談所による調査

警察から送致や通告を受けると、児童相談所が調査を行います(児童福祉法25条の6)。
担当の児童福祉司や児童心理司が決まり、福祉的な観点から少年の成育歴や性格、家庭環境、学校などでの状況を調査したり、心理面や精神面の診断を行ったりします。

3 児童相談所の措置

このような調査を経て、児童相談所長は、会議を開いて議論したうえで、警察から送致や通告を受けた少年に対する措置を決定します。
その措置の内容としては、大きく分けると児童相談所自らがとる措置と家庭裁判所に委ねる措置の2つに分けることができます(児童福祉法27条1項)。

⑴ 児童相談所自らがとる措置
このような措置としては、大きく分けて次の3つに分類できます。
①「児童又はその保護者に訓戒を加え、又は誓約書を提出させること」(児童福祉法27条1項1号)
②児童やその保護者に、児童福祉司等の指導を受けさせること(同2号)
③児童を児童福祉施設(児童養護施設や児童自立支援施設など)に入所させたり、里親などのもとで生活させることとしたりすること(同3号、28条)

このうち②の指導については、児童相談所などで行うこともあれば、児童や保護者の住んでいるところで行うこともあります(同2号)。

⑵ 家庭裁判所に委ねる措置
その一方で、「家庭裁判所の審判に付することが適当である」と判断された場合には、家庭裁判所に送致することになります(児童福祉法27条1項4号)。

もっとも、事件の内容が、Ⓐ故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪やⒷそうでなくても死刑又は無期若しくは短期2年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪の場合(少年法6条の6第1項1号イ、ロ)、例外は認められていますが、原則として家庭裁判所に送致しなければならないとされています(少年法6条の7第1項)。

今回の記事では、触法事件における児童相談所の調査とその後の措置について解説してきました。
次回の記事では、ここまでの内容をまとめます。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、刑事事件・少年事件に関わってきた経験を活かし、少年審判後の再犯防止に向けたサポートにも力を入れています。
再犯防止に向けた弁護士のサポートにご興味のある方は、一度、あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。再犯防止に向けた詳しいサポートの内容についてはこちらのページ(見守り弁護士・ホームロイヤー)も参照してください。

少年事件と児童相談所の関係について少年事件に精通した弁護士が詳しく解説します⑨

2025-05-08

【事例】
Aさんは、福岡県新宮市に住む14歳の男子中学生です。
半年前、Aさんは、通学中に見かけた小学生の女の子の身体を触るという事件を起こしてしまいました。
女の子が泣き出したので、Aさんはその場から走って逃げました。
しかし、数日後、警察官がAさんのところに来てこの事件について話を聞きたいと言ってきました。
この事件当時、Aさんは誕生日を迎える前でしたので、まだ13歳でした。
その後、Aさんは警察で話を聞かれたり、児童相談所で保護されたり、少年鑑別所で収容されて調査を受けたりしました。
このような手続きを経て、福岡家庭裁判所は、Aさんの少年審判を開き、Aさんを児童相談所長に送致するという決定をしました。

AさんやAさんの家族は、児童相談所長に送致するという処分がどのような処分なのか、Aさんは自宅に帰ることができるのかなどを改めて説明してもらいたいと思い、それまでもAさんの付添人であった弁護士に改めて相談することにしました。
(事例はフィクションです。)

1 はじめに

前回の記事では、少年事件の初期段階での児童相談所の役割を解説するために、触法事件の手続きの流れ、特に触法少年に逮捕や勾留といった身体拘束手段が取れないことから、一時保護が利用されていることについて解説してきました。
今回の記事でも、引き続き触法事件の手続きの流れについてさらに解説していきます。

2 一時保護を利用する場合の問題点と通告

⑴ 一時保護は誰の権限でできることか
前回の記事でも触れましたが、触法調査の際に一時保護を利用しようと考えた場合に問題となるのは、あくまで一時保護は、警察の権限ではなく、児童相談所長の権限でとれる手段だという点です。
そこで重要になるのが、以前の記事で解説した児童相談所長への送致と通告の違いです。

⑵ 児童相談所長への送致と通告
児童相談所長への送致と通告は、どちらも事件に対する児童相談所の役割を開始させる行為です。
しかし、あくまで別の制度ですから、同じ事件に関して、児童相談所長への送致も通告も両方行うということも可能になります。

⑶ 触法事件の調査の途中で一時保護をとる場合
まず、警察官として未だ調査すべき事項があるのであれば、児童相談所長への送致をすることはできません(少年法6条の6第1項)。
その一方で、調査の間、触法少年を自宅に帰すのに問題があると警察官が考えた場合、触法少年が「要保護児童」、つまり、「保護者のない児童又は保護者に監護させることが不適当であると認められる児童」(児童福祉法6条の3第8項)であるとして、まずは児童相談所に通告をするのです(児童福祉法25条)。
このようにして触法事件に児童相談所が関われる状態にしてから、「児童の安全を迅速に確保し適切な保護を図るため、又は児童の心身の状況、その置かれている環境その他の状況を把握するため」に必要があるとして、児童相談所長が一時保護を決定することになります(児童福祉法33条1項)。

3 一時保護所での面会

このように触法事件では、調査を受けている触法少年が一時保護されていることがあります。
しかし、「罪を犯した少年」の少年事件や成人の刑事事件の場合と異なり、弁護士との面会に関する制度が確立されていません。

今回の記事では、触法事件の調査を警察官が行っている段階で、一時保護を利用する場合について解説してきました。
次回の記事からも引き続き触法事件の流れについてさらに解説していきます。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、刑事事件・少年事件に関わってきた経験を活かし、少年審判後の再犯防止に向けたサポートにも力を入れています。
再犯防止に向けた弁護士のサポートにご興味のある方は、一度、あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。

少年事件と児童相談所の関係について少年事件に精通した弁護士が詳しく解説します⑧

2025-04-17

【事例】
Aさんは、福岡県新宮市に住む14歳の男子中学生です。
半年前、Aさんは、通学中に見かけた小学生の女の子の身体を触るという事件を起こしてしまいました。
女の子が泣き出したので、Aさんはその場から走って逃げました。
しかし、数日後、警察官がAさんのところに来てこの事件について話を聞きたいと言ってきました。
この事件当時、Aさんは誕生日を迎える前でしたので、まだ13歳でした。
その後、Aさんは警察で話を聞かれたり、児童相談所で保護されたり、少年鑑別所で収容されて調査を受けたりしました。
このような手続きを経て、福岡家庭裁判所は、Aさんの少年審判を開き、Aさんを児童相談所長に送致するという決定をしました。

AさんやAさんの家族は、児童相談所長に送致するという処分がどのような処分なのか、Aさんは自宅に帰ることができるのかなどを改めて説明してもらいたいと思い、それまでもAさんの付添人であった弁護士に改めて相談することにしました。
(事例はフィクションです。)

1 はじめに
前回の記事では、少年事件の初期段階での児童相談所の役割を解説するために、触法事件の手続きの流れに関連して、児童相談所長への送致と通告の違いについて解説してきました。
今回の記事でも、引き続き触法事件の手続きの流れについて解説していきます。

2 触法事件と身体拘束
⑴ 触法事件と逮捕・勾留
以前の記事で、触法調査で警察官ができることとできないことについて解説をしてきました。
その中で、「罪を犯した少年」の少年事件や成人の刑事事件の場合と違って、触法事件では逮捕や勾留といった身体拘束手続きをとることができないと解説してきました。
しかし、触法事件の調査が1日で終わるとは限りません。
その一方で、特に重大事件である場合など、調査の間に触法少年を自宅に帰らせるのには問題がある場合も考えられます。
そのような場合には、一時保護という制度が利用されています。

⑵ 一時保護とは
一時保護とは、「児童の安全を迅速に確保し適切な保護を図るため、又は児童の心身の状況、その置かれている環境その他の状況を把握するため」に必要があると児童相談所長が考えた場合に、一時保護所などに入所させる処分です(児童福祉法33条1項)。
この処分をとるのに、児童本人や保護者の同意は必要ないと考えられます。

また、一時保護の期間は、原則として2か月とされています(児童福祉法33条3項)。
例外的に、必要があればそれよりも長い期間にわたって一時保護することもできますが(児童福祉法33条4項)、その場合には、基本的に、親権者や未成年後見人の同意を得るか、家庭裁判所の承認を受けるかする必要があります(児童福祉法33条5項前段)。
ちなみに、一時保護に保護者の同意が必要ないとされているのは、延長の場合には親権者等の同意に関する規定(児童福祉法33条5項)があるのに、延長前の一時保護にはそのような規定がないことから読み取れます。

⑶ 一時保護を利用する場合の問題点
今回の記事では、少年事件の初期段階での児童相談所の役割を解説するために、触法事件の流れ、特に一時保護について解説してきました。
しかし、ここで問題となるのは、あくまで一時保護は、警察の権限ではなく、児童相談所長の権限でとれる手段だという点です。
次回の記事では、この問題から解説をしていきます。

あいち刑事事件総合法律事務所では突然児童相談所から一時保護された方の弁護活動・付添人活動についても豊富な経験があります。突然の一時保護により今後ご家族がどうなっていくの不安な方は税以下のお問い合わせフォームからお気軽にご相談ください。

その他にも弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、刑事事件・少年事件に関わってきた経験を活かし、少年審判後の再犯防止に向けたサポートにも力を入れています。
再犯防止に向けた弁護士のサポートにご興味のある方は、一度、あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。

少年事件と児童相談所の関係について少年事件に精通した弁護士が詳しく解説します⑦

2025-04-11

【事例】
Aさんは、福岡県新宮市に住む14歳の男子中学生です。
半年前、Aさんは、通学中に見かけた小学生の女の子の身体を触るという事件を起こしてしまいました。
女の子が泣き出したので、Aさんはその場から走って逃げました。
しかし、数日後、警察官がAさんのところに来てこの事件について話を聞きたいと言ってきました。
この事件当時、Aさんは誕生日を迎える前でしたので、まだ13歳でした。
その後、Aさんは警察で話を聞かれたり、児童相談所で保護されたり、少年鑑別所で収容されて調査を受けたりしました。
このような手続きを経て、福岡家庭裁判所は、Aさんの少年審判を開き、Aさんを児童相談所長に送致するという決定をしました。

AさんやAさんの家族は、児童相談所長に送致するという処分がどのような処分なのか、Aさんは自宅に帰ることができるのかなどを改めて説明してもらいたいと思い、それまでもAさんの付添人であった弁護士に改めて相談することにしました。
(事例はフィクションです。)

1 はじめに

前回の記事では、少年事件の初期段階での児童相談所の役割を解説するために、触法事件の手続きの流れのうち、警察の調査がどのようなものかについて解説してきました。
今回の記事でも、引き続き触法事件の手続きの流れについてさらに解説していきます。

2 児童相談所長への送致と通告

⑴ 児童相談所への通告とは
前回の記事では、警察が触法事件の調査をしていった結果、一定の重大犯罪に当たると考えられる場合や、そうでなくても家庭裁判所の審判に付すのが適当だと考えられる場合には、事件を児童相談所長に送致(少年法6条の6第1項)すると解説してきました。
この児童相談所への送致とは似て非なるものとして、児童相談所への通告というものがあります。

この児童相談所長への通告というのは、児童福祉法に定められた制度です。
児童福祉法では、要保護児童、つまり、「保護者のない児童又は保護者に監護させることが不適当であると認められる児童」(児童福祉法6条の3第8項)を発見した者は、児童相談所などに通告しなければならないとされています(児童福祉法25条)。
この規定に基づき、触法少年という「保護者に監護させることが不適当であると認められる児童」を発見した警察官が、児童相談所に通告することがあります。

⑵ 通告と送致の違い
それでは、児童相談所長への送致と通告にはどのような違いがあるのでしょうか。

どちらも、事件に対する児童相談所の役割を開始させるという点では共通の行為です。
しかし、児童相談所への通告は、児童相談所長の職権発動を促す(つまり、役割を開始するように促す)という意味を持つのにとどまりますが、児童相談所長への送致は、必ず児童相談所の役割が開始するという点で異なるとされています。

また、児童相談所長への送致と児童相談所への通告は別の制度ですから、同じ出来事に関して、どちらともを行うということもできます。
まずは児童相談所への通告を行い、児童相談所の役割を一部開始してもらってから、後日、改めて児童相談所長に送致するということも可能です。
この点は、次回以降に解説をする児童相談所の一時保護ともかかわってきます。

今回の記事では、少年事件の初期段階での児童相談所の役割を解説するために、触法事件の流れについて解説してきました。
次回の記事でも、引き続き触法事件の流れについてさらに解説していきます。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、刑事事件・少年事件に関わってきた経験を活かし、少年審判後の再犯防止に向けたサポートにも力を入れています。
具体的には見守り弁護士(ホームロイヤー)という弁護活動を行っており、刑事事件・少年事件終了後の当事者の方が再犯をしないための見守り活動や再犯防止に向けた課題の実施などを行っています。詳しくはこちらのページもご覧ください。
再犯防止に向けた弁護士のサポートにご興味のある方は、一度、あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。ご相談はこちらからお気軽にご連絡ください。

【裁判例紹介】執行猶予中に万引きの再犯をした事案について再度の執行猶予付きの判決を下した裁判例を解説します②

2025-04-03

【事案の概要】
被告人はギャンブルにはまって金融機関からの借金を負い,転売目的での万引きをしてしまい,執行猶予付きの有罪判決を受けてしまいました。その裁判の途中から,ギャンブル依存症などの治療も受けていたのですが,裁判が終わった3か月後にはまたギャンブルにはまってしまい,今度は食べるもの欲しさから万引きをしてしまったというものです。
二度目の裁判の間も被告人は依存症専門の病院で入院治療を受け,また家族もそれを熱心に支え続けました。
一審判決は裁判を受けた3か月後にまたやってしまったという点を重く見て,今度は実刑判決を言い渡しました。
しかし、被告人が控訴した控訴審では1審判決を破棄して被告人に対して再度の執行猶予付きの判決を下しました。

今回の記事では前回の記事で紹介した判決の内容について、より詳しく見ていきましょう。
特に判決の結論を変えた事実の評価のポイントについて詳しく解説させていただきます

1 判決で再度の執行猶予を付した理由について

万引き再度の執行猶予について話を戻しましょう。
上記の事案でも,次のように指摘がなされていました。
「他方で、本件は財産犯であり、被害額は万引き窃盗において多額とまではいえないところ、被告人が被害弁償をしていることや、手口も同種万引き事案と比較して特に悪質とまではいえないことからすれば、犯情において、再度の執行猶予を検討することができる事案である。」
裁判所も,万引きの事案に対しては再度の執行猶予が十分にありうることを前提としています。
ですが,この万引きが,どのような経緯でなされたのか,という点,そしてそれを裁判所がどう見るか,が重要なポイントです。
上記の事案では,被告人は病的賭博,つまりギャンブル依存症(https://www.ncasa-japan.jp/understand/gambling/about)として精神科で診断を受けるほど,自分の衝動を抑えきれない状況にありました。
これについて,一審裁判所も控訴審裁判所もは「万引きに直接影響したものではない」と言いました。
そして,いかに家族が更生環境を整えているとしても実刑は避けられない,と判断しました。

一方,控訴審ではさらに,被告人はADHDの診断を受けており普通の人よりも自分の衝動を抑えるのが難しいという事情を付け加え,「このような更生への取組みを刑罰により打ち切らずに継続させる方が望ましく、本件は情状に特に酌量すべきものがあるとして、再度の執行猶予を付し、もう一度だけ社会内での更生の機会を設けるのが相当であり、原判決の刑をそのまま維持するのは、重きに失するに至ったというべきである。」と判断しました。
ここは私見になりますが,ADHDの診断という点を控訴審が特別重要視したとは思われません。
その為,一審と控訴審は,ギャンブル依存症で万引きをした被告人を家族が献身的に支えている,という事情を見て,実刑判決だ(一審)/もう一度チャンスを与えても良い(控訴審),といったように真逆の判断をしているのです。

2 弁護活動のポイントについて

一審と控訴審で弁護士の方針等が違っていたのかもしれません。しかしながら,万引き再度の執行猶予をめぐる事件については,同じ事案に対しても裁判所によっては真逆の判断がありうるのです。
裁判で再度の執行猶予を勝ち取るのは容易なことではありません。裁判になるもっと前段階から,証拠集めや主張の整理をしておかなければいません。
あいち刑事事件総合法律事務所では万引きを何度も繰り返してしまっている方に対する弁護活動について豊富な経験があります。
執行猶予中に再犯をしてしまって再度の執行猶予判決を勝ち取ることは相当困難ですが、実際に獲得した事例の弁護も弊所では担当しています。
執行猶予中に再犯をしてしまったという方や,執行猶予を勝ち取れるか不安があるという方は,ぜひ裁判になる前段階から刑事事件に精通したあいち刑事事件総合法律事務所の弁護士にご相談ください。

またあいち刑事事件総合法律事務所では万引き事件を起こした方の更生支援活動についても弁護士がサポートさせていただきます。
詳しくは、見守り弁護士(ホームロイヤー)のページをご覧ください。

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