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東京都で共同危険行為を行った少年事件 少年審判での更生に向けた弁護活動について②
今回の記事でも前回の記事に引き続いて用いて共同危険行為により逮捕されてしまった少年事件の更生支援活動ついて弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説をします。
【事案】
共同危険行為をして逮捕されてしまったAさんは,そのまま東京少年鑑別所へ送られて,東京家庭裁判所の少年調査官との面談を行いました。
この時,調査官からは,暴走行為を繰り返していた時にどんな気持ちだったのか等の質問をされました。また,調査官からは「これから審判になると思う」とも伝えられました。
AさんやAさんの家族はどのように対応すべきでしょうか。
(事例については一部を改編しています)
1 「要保護性」をどう主張する?
今回の記事では要保護性の有無などについてどのような主張を行っていくかについて解説していきます。前回の記事を読まれたい方はこちらからご覧になってください。
少年審判において「要保護性」というのが非常に重要であることは説明した通りです。
それでは,どのようにして主張すればよいのでしょうか?
まず,要保護性は
①「事件当時にどうだったか」
②「事件の後どのように変化したか」
という2つの視点から判断されます。
このうち①「事件当時にどうだったか」という視点は,ある意味,過去の変えられない出来事を前提とするものですから,本人や家族にとってはどうしようもないものです。ですが,弁護士が法的な観点から有利な事情を主張できるという場合がありますからあきらめてはいけません。
ですが,②「事件の後どう変化したか」については,本人や家族の努力によって何とかなる場合があります。これは,「更生のために本人や家族が努力をしているか」という視点でもあるからです。
2 「反省しています」とは?
ここで,前回の記事でも触れた「更生とはどういう意味か」をよく考えて対応しなければなりません。
多くの方は,事件を起こしたときには,反省の言葉を述べます,そして,反省しているのだから何とか軽い処分にしてほしい,とも述べます。これは決して誤っているわけではないのですが,「更生」に向けた努力かどうかは疑問が残るところです。更生するというのは,もう二度と間違いを犯さないために正す,ということです。
今回の事例のAさんの更生について詳しく考えてみましょう。
Aさんは,最初,学校がつまらない,居場所がない,という感覚がスタートとなって事件に至りました。では,このように感じた理由,原因を深堀して考えなければなりません。Aさんが話すことによく耳を傾け,Aさん自身が気付いていないかもしれないようなことまで理解を深めなければなりません。
一言で「学校」と言っても,
勉強のこと,友達関係の事,先生との関係,異性関係,進路の不安などなど
様々な要素があります。
また,「つまらない」というのも,
なにかうまくいかないことがあるのか,傍目には充実しているのに刺激を求めてしまったのか,心理的に満足感を感じないのか,「つまらない」というのは「寂しい」等の別の感情を押し殺した表現ではないか
といったように,様々な分析があり得ます。
このような確認を綿密に行うことで本当の意味での反省ができるのです。
多くの事件ではこの点が深まらないために,「反省が足りていない」と指摘されてしまうことがあるのです。
3 次に同じことをしないために(再犯防止策の策定)
どうして事件を起こしてしまったのか,十分に振り返ることができれば,後はそれに対する対策をきちんと講じていくだけです。
事件を起こした経緯や心情がしっかりと分かっていれば,おのずとそれに対する対策も具体的なものになっていくでしょう。
本記事の元となったAさんの実際の事例を紹介します。
Aさんは「学校がつまらなくなった」といっていましたが,実際には,勉強についていけなくなり,希望していた進路に進むことができず,進学先での勉強もつまらなくなってしまったというのです。それに伴って生活リズムも崩れ,更に学校での勉強にもついていけず,更に遊びに出ることが増え,というように,負のスパイラルが出来上がってしまっていました。
そこで,まずは生活リズムを作り,学校へ通うための土台を作りました。次に勉強について,テストの点数や評定に目を向けるのではなく「将来どんな仕事に就きたいのか,そのためには今何をしなければならないのか」という目標を設定して勉強することの意味を再確認しました。
文字にすると,「生活リズムを作る」「将来の目標を持つ」というだけですが,Aさんの場合,これが暴走行為を防ぐために重要なことだったのです。
Aさんの事例でも,一部機関からは「少年院に送致すべき」という意見も付されましたが,家庭裁判所に対して上記のようなAさん,Aさん家族の努力を熱心に主張し,施設送致を回避することができました。
Aさんの事例はあくまで一例であり,ここで紹介したのも事件の一部分にすぎません。
少年事件においては,事件ごと・少年ごとに要保護性が異なります。どうしても,マニュアル的に対処することはできないのです。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所には少年事件を熱心に扱う弁護士が所属しています。
少年の更生,審判のことで困りのことがある方,そのご家族の方は,弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。
東京都で共同危険行為を行った少年事件 少年審判での更生に向けた弁護活動について①
今回の記事では共同危険行為により逮捕されてしまった少年事件の更生支援活動ついて弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所の弁護士が詳しく解説をします。
【事案】
前回の記事と同様のAさんの事例を取り上げます。
逮捕されてしまったAさんは,そのまま東京少年鑑別所へ送られて,東京家庭裁判所の少年調査官との面談を行いました。
この時,調査官からは,暴走行為を繰り返していた時にどんな気持ちだったのか等の質問をされました。また,調査官からは「これから審判になると思う」とも伝えられました。
AさんやAさんの家族はどのように対応すべきでしょうか。
【解説】
1 共同危険行為に対する処分
共同危険行為とは,道路交通法68条に規定されている犯罪です。
少年事件における審判では,①実際に罪となるような事をしたか,②事実が認められる場合に,どの程度の処分が必要か,という二つのことが審判の対象となります。
①については非行事実,②については要保護性ということもあります。
(1)非行事実の認定について
非行事実については,大人で言うところの有罪/無罪を決めるような事実です。
例えば
・人違いだ
・やってない
・正当防衛だった
等の主張をする場合,非行事実そのものを争うことになります。
非行事実,つまり,やったかやってないかを争う事件の場合,家庭裁判所に送られる前段階からの弁護活動が非常に重要になります。逮捕されている事件/されていない事件を問わず,警察や検察から取調べを受けているという状態であれば,速やかに弁護士に相談した方が良いでしょう。
(2)要保護性について
一方,やったことに間違いがない事件であれば,要保護性がどの程度のものかによって,その後の処分が大きく変わります。
一番重い処分から順に,少年院送致(年齢によっては児童養護施設等送致)となり,次いで保護観察,不処分,審判不開始といった処分があります。
要保護性とは,どれだけ重い処分を科す必要があるか,言い換えると,社会の中でキチンと更生する余地があるのか,それとも施設に収容して徹底的に教育を施さなければならないのかを測る基準のようなものです。
多くの少年審判においては,弁護士を通して要保護性が高くない・低いということをきちんと主張することが重要になるのです。
「要保護性」という言葉自体,ほとんどの人にとって耳馴染みのない言葉でしょう。ですが,家庭裁判所での少年審判では「要保護性」についてしっかり理解しておかないと,思いもよらない重い処分を受けてしまうことになりかねません。
今回の事例でどのような弁護活動を行いどのような事情を説明すれば「要保護性」について有利な判断を受ける事ができるのかについては次回の記事で詳しく解説します。
少年審判は大人の裁判と違い,国選弁護士がいない,弁護士をつけていないという事案も散見されます。弁護士がついていたとしても少年事件の経験があまりなく上記の要保護性について十分理解しないまま弁護活動を行うケースも少なくありません。将来に大きな影響を及ぼしかねない重大な審判ですので,憂いが残らないためにも,少年事件に強い弁護士にご相談しておくことをお勧めします。
あいち刑事事件総合法律事務所では少年事件に豊富なあることはもちろん、真の更生に向けて審判後の見守り弁護士などの更生支援活動にも力を入れています。
少年事件でお困りの方は是非一度ご相談ください。
兵庫県豊岡市の特殊詐欺事件で少年院送致決定された事例 少年院での処遇について⑪
【事例】
Aさんは、兵庫県豊岡市に住む17歳の男子高校生です。
ある日、AさんはSNS上である投稿を見つけました。
それは、ある物を受け取って運ぶだけで何万円もの報酬を支払うといういわゆる闇バイトを募集する投稿でした。
犯罪かもしれないと思いながらその募集に応募したAさんは、兵庫県内や鳥取県内でいわゆる特殊詐欺に何件も加担してしまいました。
高齢の方が住む自宅に赴いてキャッシュカードをすり替えて盗んだり、そのキャッシュカードを使って何百万円ものお金を引き出して盗んだりしたのです。
その後、鳥取県内の警察署に逮捕、勾留され、再逮捕もされました。
捜査を受けた後、最終的に神戸家庭裁判所豊岡支部に事件が係属し、神戸少年鑑別所に収容するという観護措置が取られました。
そして、神戸家庭裁判所豊岡支部は、Aさんの少年審判を行い、少年院に送致するという処分を決めました。
AさんやAさんの家族は、少年院に送致するという処分自体には納得していましたが、少年院ではどのようなことをするのか、どこの少年院に行くことになるのか、どのくらいの期間行くことになるのかなどが知りたいと思い、それまでもAさんの弁護人、付添人であった弁護士に相談することにしました。
(事例はフィクションです。)
1 はじめに
前回までの記事では、少年院での処遇期間のうち、法律の規定がどのようになっているのか、実際の運用はどのようになっているのかといったものを通して、処遇期間がどのように決まっていくのかについて解説をしてきました。
処遇期間についての解説は前回の記事などでもご覧いただけます。
今回の記事では、定められた処遇期間で、どのような処遇を受けていくのかについてみていきます。
2 処遇の段階
どのような処遇期間を定められた場合であっても、処遇の段階としては、新入時期、中間期、出院準備期の3段階であることは共通です。
この新入時期が三級(少年院法施行規則9条)、中間期が二級(少年院によっては二級前期と二級後期に分ける場合もあります。)、出院準備期が一級とも呼ばれます(少年院法施行規則8条)。
新入時期(三級)から始まり、個人別矯正教育計画で設定された教育期間を目安に、個人別矯正教育計画で設定された段階別教育目標に対する達成度、取組みの状況、生活状況などを評価して、上の級に進めるかどうかが決まっていきます(少年院法35条、少年院法施行規則21条)。
そして、この成績の評価は、少なくとも4ヶ月に一回以上の頻度で、定期的に行われます(少年院法施行規則20条)。
そのため、仮に評価の結果が不良であると、進級が遅れることになりますので、その結果として在院期間が延びていくことになります。
3 新入時期に行うこと
この期間は、矯正教育への円滑な導入を図るという目的から、院内生活を理解させる指導が行われます。
まず、身体検査を受けたうえで(少年院法21条)、少年院内での遵守事項、ルールといったものから、権利に関するものなど法律で決められた事項を説明されます(少年院法20条1項)。
この説明の内容は、平易な表現を使った書面が居室に備え置かれることになります(少年院法20条2項、少年院法施行規則13条2項)。
そして、個人別矯正教育計画を定めるため、まずは単独寮で生活しながら、面接や作文などが実施されます。
その後は、集団生活をしながら、集団行動訓練が行われます。
次回の記事では、中間期以降の流れについてさらに解説していきます。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、刑事事件・少年事件に関わってきた経験を活かし、少年審判後の再犯防止に向けたサポートにも力を入れています。
再犯防止に向けた弁護士のサポートにご興味のある方は、一度、あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。
再犯防止に向けた見守り弁護士活動、課題の実施など幅広い活動を通じて真の更生に向けて、弁護士がサポートさせていただきます。
兵庫県豊岡市の特殊詐欺事件で少年院に送致されることが決定された事例 少年院での処遇について⑩
【事例】
Aさんは、兵庫県豊岡市に住む17歳の男子高校生です。
ある日、AさんはSNS上である投稿を見つけました。
それは、ある物を受け取って運ぶだけで何万円もの報酬を支払うといういわゆる闇バイトを募集する投稿でした。
犯罪かもしれないと思いながらその募集に応募したAさんは、兵庫県内や鳥取県内でいわゆる特殊詐欺に何件も加担してしまいました。
高齢の方が住む自宅に赴いてキャッシュカードをすり替えて盗んだり、そのキャッシュカードを使って何百万円ものお金を引き出して盗んだりしたのです。
その後、鳥取県内の警察署に逮捕、勾留され、再逮捕もされました。
捜査を受けた後、最終的に神戸家庭裁判所豊岡支部に事件が係属し、神戸少年鑑別所に収容するという観護措置が取られました。
そして、神戸家庭裁判所豊岡支部は、Aさんの少年審判を行い、少年院に送致するという処分を決めました。
AさんやAさんの家族は、少年院に送致するという処分自体には納得していましたが、少年院ではどのようなことをするのか、どこの少年院に行くことになるのか、どのくらいの期間行くことになるのかなどが知りたいと思い、それまでもAさんの弁護人、付添人であった弁護士に相談することにしました。
(事例はフィクションです。)
1 はじめに
前回の記事では、少年院での処遇期間のうち、法律の規定がどのようになっているのかについて解説をしてきました。
今回の記事では、少年院での処遇期間が実際にどのように運用されているのかについてもう少し詳しくみていきます。
2 少年院での処遇期間
法律の規定とは別に、少年院での処遇期間は通達などが関わっているという点をお伝えしました。
まず、「矯正教育課程に関する訓令」という通達があり、その中で矯正教育課程ごとの標準的な期間が定められています。
例えば、第一種少年院に送致する少年で、「義務教育を終了した者のうち、就労上、修学上、生活環境の調整上等、社会適応上の問題がある者であって、他の課程の類型には該当しないもの」という類型である「社会適応過程Ⅰ」という矯正教育課程の場合は、標準的な期間として「2年以内の期間」と定められています。
また、同じく第一種少年院に送致する少年で、「原則として14歳以上で義務教育を終了しない者のうち、その者の持つ問題性が単純又は比較的軽く、早期改善の可能性が大きいもの」という類型である「短期義務教育課程」という矯正教育課程の場合は、標準的な期間として「6月以内の期間」と定められています。
また、「矯正教育課程に関する訓令の運用について(依命通達)」という通達があり、その中で指導を実施する上で基準となる期間が定められています。
例えば、先ほど例示した「社会適応過程Ⅰ」については「11月」、「短期義務教育課程」については「20週」などと定められています。
このような通達で定められる期間は、あくまで“標準的な期間”でしたり、“基準となる期間”です。
これらや裁判所の処遇勧告を踏まえて、少年院長が、それぞれの少年ごとに、個人別矯正教育計画を策定することになります。
そのため、その少年の特性によっては、2年を超える期間を設定することも可能です。
この点は、「保護処分在院者の個人別矯正教育計画の策定等について(通達)」という通達でも触れられています。
上記通達も含めて少年院で適用される主な通達に関しては、こちらの法務省のページにまとめられています。
次回の記事では、少年院での処遇の流れについてさらに解説していきます。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、刑事事件・少年事件に関わってきた経験を活かし、少年審判後の再犯防止に向けたサポートにも力を入れています。
審判後の少年の更生を一緒に見守りながら支えていく見守り弁護士の活動も行っています。その他にも、弁護士が作成した課題への取り組みや面談を通じて、より反省を深める弁護活動も行っています。
再犯防止に向けた弁護士のサポートにご興味のある方は、一度、あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。
兵庫県豊岡市の特殊詐欺事件で少年院に送致されることになった事例 少年院での処遇について⑨
【事例】
Aさんは、兵庫県豊岡市に住む17歳の男子高校生です。
ある日、AさんはSNS上である投稿を見つけました。
それは、ある物を受け取って運ぶだけで何万円もの報酬を支払うといういわゆる闇バイトを募集する投稿でした。
犯罪かもしれないと思いながらその募集に応募したAさんは、兵庫県内や鳥取県内でいわゆる特殊詐欺に何件も加担してしまいました。
高齢の方が住む自宅に赴いてキャッシュカードをすり替えて盗んだり、そのキャッシュカードを使って何百万円ものお金を引き出して盗んだりしたのです。
その後、鳥取県内の警察署に逮捕、勾留され、再逮捕もされました。
捜査を受けた後、最終的に神戸家庭裁判所豊岡支部に事件が係属し、神戸少年鑑別所に収容するという観護措置が取られました。
そして、神戸家庭裁判所豊岡支部は、Aさんの少年審判を行い、少年院に送致するという処分を決めました。
AさんやAさんの家族は、少年院に送致するという処分自体には納得していましたが、少年院ではどのようなことをするのか、どこの少年院に行くことになるのか、どのくらいの期間行くことになるのかなどが知りたいと思い、それまでもAさんの弁護人、付添人であった弁護士に相談することにしました。
(事例はフィクションです。)
1 はじめに
前回までの記事では、矯正教育課程なども踏まえながら、どの少年院に行くことになるのかが、どのようにして決まるのかについて解説をしてきました。
今回の記事では、少年院での処遇期間などについてみていきます。
前回の記事について関心のある方はこちらからご覧ください。
2 少年院での処遇期間
少年院での処遇期間(収容される期間)としては、法律でどのように規定されているかというものと、その法律に基づいて実際にどのように運用されているかというものを分けて考える必要があります。
⑴ 法律の規定
少年院での処遇期間について定めているのは、少年院法という法律です。
そして、少年院法では、少年が「二十歳に達したときは退院させるものとし、二十歳に達した日の翌日にその者を出院させなければならない」と定められています。(少年院法137条1項本文)。
つまり、少年法では、Aさんのように18歳未満の少年が少年院送致となった場合には、20歳になるまでという制限があるだけで、それ以上に具体的な期間が定まっているわけでもなければ、処遇期間のバリエーションが定まっているわけでもないのです。
その一方で、20歳を超えて収容することが一切できないのかというと、そうではありません。
例えば、心身に著しい障害がある場合や、犯罪傾向が強制されていない場合は、家庭裁判所に申請をして、収容の継続が相当と認められると、23歳まで収容が継続されることになります(少年院法138条)。
また、「精神に著しい障害があり、医療に関する専門的知識及び技術を踏まえて矯正教育を継続して行うことが特に必要である」という場合には、再度家庭裁判所に申請して、収容の継続が相当と認められれば、さらに収容を継続することも可能です(少年院法139条)。
⑵ 実際の運用
法律の規定は以上のようなものですが、実際にはもう少し細かい運用がされています。
各種の通達によって標準的な期間などが定められており、以前の記事で解説したような処遇勧告も関わってきます。
次回の記事では、少年院での処遇期間の実際の運用についてさらに解説していきます。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、刑事事件・少年事件に関わってきた経験を活かし、少年審判後の再犯防止に向けたサポートにも力を入れています。
再犯防止に向けた弁護士のサポートにご興味のある方は、一度、あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。
共同危険行為で逮捕されてしまった少年事件における,更生支援に強い弁護士の活動について②
【前回の事例】
Aさんは公立高校に通う17歳でしたが,何となく学校が退屈になってしまい,地元の友達に誘われるままに,夜間,大通りをバイクで走り回ることを始めてしまいました。
最初は遊び半分だったのですが,徐々にエスカレートしていき,バイク仲間も増え,半年もすると暴走族のような行動に出てしまいます。
Aさんの両親も,Aさんが夜中まで遊びまわっていることは分かっていましたが,「他人に危害を加えない限りは」と思い,放任してしまいます。
ある日,Aさんは数十人の仲間とバイク数台で蛇行運転,並列運転をしてたところ,荒川警察署の警察官に見つかり,「共同危険行為」によって現行犯人逮捕されてしまいました。
Aさんの両親は,Aさんのために今後どうすればよいのか分からなくなり,更生支援を扱う弁護士に相談することにしました。
(事例はフィクションです)
1 弊所で扱った実際の事例
今回の記事では、前回解説した少年に対する更生支援に関して、弊所で扱った事例を紹介します。
ただし【事例】とは異なり紹介する事例では逮捕はされずに在宅事件として進行しました。
紹介する事例の詳しい紹介についてはこちらの記事をご覧ください。
事例紹介の中から以下で一部弁護活動について抜粋します。
「弁護士も、最初にAさんから事件の話を聞いたとき、要保護性が高い(保護する必要性がかなりある)と評価しました。
しかし、その後弁護士が繰り返しAさんとの面談を行い、どうして暴走行為(共同危険行為)をしてしまったのか、暴走行為(共同危険行為)が禁止されている理由についてはどう考えるか、将来どのような大人になりたいと考えるか・そのためにはどのような学校生活を送る必要があるか、等について考えてくださるようになり、内省を深めるようになりました。
また、保護者から話を聞いたところ、Aさんが早寝早起きなどの生活リズムを整えるようになったり、暴走行為(共同危険行為)に関係する友人とは連絡を取らないようにしたり、進路の相談をしたりするようになったと聞きました。」
この事案では,弊所の弁護士が少年本人と繰り返し面談を行ったことで反省が深まり,保護者の方とも相談してよりよい環境を整えたことで,家庭裁判所から不処分の決定を獲得することができました。
共同危険行為が非行性の高いものであり,また,不良交際が疑われやすい事案であることも踏まえると,この手の事案での不処分決定というのは,弁護士による更生に向けた働きかけが非常に強力に働いた事案であるということができるでしょう。
2 弁護士からの働きかけの重要性
非行を行った少年の中には、友人との関係性や家族への反発からなかなか暴走行為をしたグループから抜けようとしない方が多くいます。
その際に重要ななことは、目先のことだけでなく将来の自分にとって必要なことを考えてもらうこと、今のグループにいることが本当に自分や周囲の本当に自分の事を考えてくれる人にとっていいことなのかを粘り強く考えてもらうことです。
上記の事例のAさんは自分の目指すべき将来のことや、その将来を実現するために今自分がどのように行動するかを自分なりに考えてもらった結果、自分が参加していたグループや、そのグループで行っていた行動から脱却しなければならないこと真の意味で理解してもらう事ができました。
真に理解することは審判後に、不良交友や暴走行為を再開しないためにも非常に重要なのです
あいち刑事事件総合法律事務所ではこれまで数多くの少年事件を経験し、共同危険行為をしてしまった少年がどのようなところでグループと抜けたくないと考えているのか、どのようなことが更生に向けたきっかけになるのかを熟知しています。
ご家族だけではなかなか更生に向けての働きかけが難しいと考える場合には、是非少年事件での経験が豊富なあいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。
共同危険行為では一緒に暴走をした共犯者との接触を避けるために身体拘束されるケースも多々あります。逮捕されている場合には弊所の初回接見サービスを是非ご利用ください。
次回の記事ではいよいよ、記事の事例で逮捕されてしまったAさんのその後の弁護活動について解説させていただきます。
共同危険行為で逮捕されてしまった少年事件における,更生支援に強い弁護士の活動について①
1 事例
今回の記事では以下の事例を題材に逮捕されてしまった少年事件における弁護活動について詳しく解説させていただきます。
【事例】
Aさんは公立高校に通う17歳でしたが,何となく学校が退屈になってしまい,地元の友達に誘われるままに,夜間,大通りをバイクで走り回ることを始めてしまいました。
最初は遊び半分だったのですが,徐々にエスカレートしていき,バイク仲間も増え,半年もすると暴走族のような行動に出てしまいます。
Aさんの両親も,Aさんが夜中まで遊びまわっていることは分かっていましたが,「他人に危害を加えない限りは」と思い,放任してしまいます。
ある日,Aさんは数十人の仲間とバイク数台で蛇行運転,並列運転をしてたところ,荒川警察署の警察官に見つかり,「共同危険行為」によって現行犯人逮捕されてしまいました。
Aさんの両親は,Aさんのために今後どうすればよいのか分からなくなり,更生支援を扱う弁護士に相談することにしました。
(事例はフィクションです)
2 共同危険行為による少年事件
共同危険行為とは,道路交通法68条に規定されている犯罪です。
大阪府警のページでも共同危険行為に関する罰則などが記載されています。
要約すると,①2人以上の人が一緒に,②2台以上の自動車,二輪車を運転して,③周りを交通する人が「危ない」,「とても迷惑だ」と感じるような行動をすることを指します。
典型的な例としては,道路の幅いっぱいに蛇行運転をする,低速でのろのろと並走して道を塞ぐ,理由もなくクラクションを連続でならす,空ぶかしを繰り返す,と言った行為があります。多くの方が「暴走族」と聞いてイメージするような行為が,共同危険行為に該当するでしょう。
Aさんのように,複数人の同級生,同学年と一緒になって共同危険行為をしてしまった場合,行動の非行性や共犯者が多数いること等から,たとえ未成年による少年事件であったとしても,逮捕されてしまうケースが多くあります。
共同危険行為によって逮捕されてしまうと,最長20日間の勾留がなされてしまう可能性が高く,また,家庭裁判所では観護措置に付され,通常4週間の少年鑑別所に送られてしまう可能性があります。
共同危険行為は,実際の事故の被害者などがいない犯罪類型ですが,少年事件の中では比較的悪質で非行性の高いものとして厳重に扱われてしまいます。
共同危険行為,暴走行為で逮捕されてしまったという場合には,速やかに刑事事件,少年事件を扱う弁護士に相談する必要があります。
3 更生とはどういう意味か
前述の通り,共同危険行為の場合には,特定の被害者というものがいません。示談交渉などによって刑罰や処分を軽減するということは観念できないのです。
そのため,更生に向けた環境がどの程度整っているか,すなわち,更生支援活動の成否によって,家庭裁判所における終局処分が決まると言っても良いのです。
家庭裁判所は,非行(犯罪)をしてしまった少年が,今後同じことや犯罪に関わってしまわないためにどのような処分が必要かという視点で,事件を見ています。この「同じこと・二度と犯罪に関わらない」という点は,まさに更生支援活動と言えるでしょう。
共同危険行為の少年事件においては,なぜ①暴走行為を,②繰り返してしまったのか,という点に肉薄することが非常に重要です。
Aさんのように,遊び感覚でバイクや車の暴走行為に手を出してしまう少年も一定数います。もちろん,車やバイクの運転が好きな人にとって見れば,運転行為はストレスの発散にもなり,仲間とのツーリングはレジャーとしても有意義なものです。
しかし,それが他人に対して危険を及ぼすようなものであってはなりません。車好き,バイク好きなのであれば,より一層そのことは理解しているはずです。そうであってもなぜそのような行動に出てしまったのか,弁護士がじっくりと話を聞き,事件に至った経緯を明らかにしていきます。
また,繰り返してしまう点も大きな問題です。通常,ストレス発散や何となくと言った動機からの行動であれば,一回的なものがほとんどです。「悪いこと/いけないこと」だと分かっていながら,繰り返してしまったというのは,大きな問題です。Aさんのように,非行仲間が増えてしまったというケースでは,非行をすることが本人たちにとっては当たり前,むしろ,(非行のための)仲間との絆を確認するために必要なことになっている場合もあります。こうなってしまうと,家庭裁判所としても重たい処分を科す必要があると判断することもあり得ます。
これらの非行を繰り返してしまった原因は,表面的に本人から話を聞いているだけでは分からないところもあります。
場合によっては少年本人が「取調べを受けているみたいだ」と反発することも考えられます。
ですが,更生を目指す上で,真っ先に確認する必要があるのは「なぜやってしまったのか」という点です。
弁護士が少年の立場に寄り添い,かといって甘やかしすぎることなく中立な第三者の立場で,本人の話をよく聞き,事件当時の少年自身の考え方を分析して,その問題点をきちんと把握した上で,解決策を提示していくことが必要です。
これがまさに,更生のための第一歩と言えるでしょう。
共同危険行為の少年事件,更生のことで困りのことがある方,そのご家族の方は,弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。
少年事件での弁護活動についてはこちらのページでも解説をしています。
次回の記事では実際に弊所で扱った事例を基に実際の弁護活動について紹介させていただきます。
兵庫県豊岡市の特殊詐欺事件で少年院に送致されることになった事例 少年院での処遇について⑦
【事例】
Aさんは、兵庫県豊岡市に住む17歳の男子高校生です。
ある日、AさんはSNS上である投稿を見つけました。
それは、ある物を受け取って運ぶだけで何万円もの報酬を支払うといういわゆる闇バイトを募集する投稿でした。
犯罪かもしれないと思いながらその募集に応募したAさんは、兵庫県内や鳥取県内でいわゆる特殊詐欺に何件も加担してしまいました。
高齢の方が住む自宅に赴いてキャッシュカードをすり替えて盗んだり、そのキャッシュカードを使って何百万円ものお金を引き出して盗んだりしたのです。
その後、鳥取県内の警察署に逮捕、勾留され、再逮捕もされました。
捜査を受けた後、最終的に神戸家庭裁判所豊岡支部に事件が係属し、神戸少年鑑別所に収容するという観護措置が取られました。
そして、神戸家庭裁判所豊岡支部は、Aさんの少年審判を行い、少年院に送致するという処分を決めました。
AさんやAさんの家族は、少年院に送致するという処分自体には納得していましたが、少年院ではどのようなことをするのか、どこの少年院に行くことになるのか、どのくらいの期間行くことになるのかなどが知りたいと思い、それまでもAさんの弁護人、付添人であった弁護士に相談することにしました。
(事例はフィクションです。)
1 はじめに
以前の記事では、少年鑑別所長が少年を収容すべき少年院を決める過程について解説をしてきました。
今回の記事では、その中で出てきた矯正教育課程についてさらにみていきます。
各過程の人員や法務省からの解説についてはこちらをご覧ください。
2 矯正教育課程
以前の記事で解説してきたように、家庭裁判所から執行指揮を受けた少年鑑別所長は、少年の「鑑別を行い」、「矯正教育課程」「その他の事情を考慮して」、その少年を「収容すべき少年院を指定する」ことになります(少年鑑別所法18条1項)。
この「矯正教育課程」とは、法務大臣が定める少年院における矯正教育全体に適用される計画で、「在院者の年齢、心身の障害の状況及び犯罪的傾向の程度、在院者が社会生活に適応するために必要な能力その他の事情に照らして一定の共通する特性を有する在院者の類型ごとに、その類型に該当する在院者に対して行う矯正教育の重点的な内容及び標準的な期間を定めたもの」です(少年院法30条)。
具体的には、「矯正教育課程に関する訓令(平成27年法務省矯少訓第2号大臣訓令)」というものの中に定められていますので、今回はその内容について具体的に見ていきます。
例えば、第一種少年院に送致する場合で、短期間の処遇でよいとの勧告はされなかった場合を考えます。
「在院者の年齢」という観点からすると、例えば年齢が15歳、本来なら中学3年生という義務教育が終了していない少年もいます。
その場合、矯正教育においては、「義務教育課程Ⅱ」という矯正教育課程に分類され、中学校の学習指導要領に準拠した教科指導に重点がおかれることが多いと思われます。
また、「心身の障害の状況」という観点からすると、例えば、知的障害があり、処遇上配慮する必要があると考えられる少年もいます。
その場合、矯正教育においては、「支援教育課程Ⅰ」という矯正教育課程に分類され、社会生活に必要となる基本的な生活習慣、生活技術を身に付けるための指導に重点がおかれることが多いと思われます。
そして、「犯罪的傾向の程度」という観点からすると、例えば、反社会的な価値観や行動傾向がある、自己統制力が低い、認知に偏りがあるなど、その資質上特に問題となる事情があって、その改善が必要だと考えられ、義務教育も終了している少年もいます。
その場合、矯正教育においては、「社会適応過程Ⅱ」という矯正教育課程に分類され、自己統制力を高め、健全な価値観を養い、堅実に生活する習慣を身に付けるための指導に重点がおかれることが多いと思われます。
次回の記事では、矯正教育課程についてさらに解説していきます。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、刑事事件・少年事件に関わってきた経験を活かし、少年審判後の再犯防止に向けたサポートにも力を入れています。
再犯防止に向けた弁護士のサポートにご興味のある方は、一度、あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。
また弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では少年事件の審判に向けた付添人活動についても豊富な実績があります。特殊詐欺事件での付添人活動に関してはこちらの記事も参考にしてください。
兵庫県豊岡市の特殊詐欺事件で少年院に送致されることになった事例 少年院での処遇について⑥
【事例】
Aさんは、兵庫県豊岡市に住む17歳の男子高校生です。
ある日、AさんはSNS上である投稿を見つけました。
それは、ある物を受け取って運ぶだけで何万円もの報酬を支払うといういわゆる闇バイトを募集する投稿でした。
犯罪かもしれないと思いながらその募集に応募したAさんは、兵庫県内や鳥取県内でいわゆる特殊詐欺に何件も加担してしまいました。
高齢の方が住む自宅に赴いてキャッシュカードをすり替えて盗んだり、そのキャッシュカードを使って何百万円ものお金を引き出して盗んだりしたのです。
その後、鳥取県内の警察署に逮捕、勾留され、再逮捕もされました。
捜査を受けた後、最終的に神戸家庭裁判所豊岡支部に事件が係属し、神戸少年鑑別所に収容するという観護措置が取られました。
そして、神戸家庭裁判所豊岡支部は、Aさんの少年審判を行い、少年院に送致するという処分を決めました。
AさんやAさんの家族は、少年院に送致するという処分自体には納得していましたが、少年院ではどのようなことをするのか、どこの少年院に行くことになるのか、どのくらいの期間行くことになるのかなどが知りたいと思い、それまでもAさんの弁護人、付添人であった弁護士に相談することにしました。
(事例はフィクションです。)
1 はじめに
前回の記事では、具体的にどこの少年院に収容されることになるのかについて、少年鑑別所に移ってからの過程について解説をしていきました。
今回の記事では、その記事での解説の補足をしていきます。
2 少年鑑別所で身体拘束できる理由
前回解説してきたように家庭裁判所から執行指揮を受けた少年鑑別所長は、少年の「鑑別を行い」、「矯正教育課程」「その他の事情を考慮して」、その少年を「収容すべき少年院を指定する」ことになります(少年鑑別所法18条1項)。
そして、この「鑑別」は、少年院に送致するという決定を受けた少年に対して、主には面接などを実施して行われることになります。
この少年が、もともと観護措置が取られていた場合は、そのまま少年鑑別所で面接などを受けることになります。
もっとも、観護措置は、保護処分(24条1項。少年院に送致するという保護処分(少年法24条1項3号)も含まれます。)が、少年審判の期日に告知されると、観護措置の効力が失われます。
そして、このように保護処分が告知されて観護措置の効力が失われた場合、少年鑑別所法では、このような「事由が生じた後直ちに」、少年鑑別所に収容されていた少年(少年鑑別所法では「被観護在所者」とされています。)を退所させなければならないとされています。
一見するとこの規定と矛盾するようにも感じられますが、家庭裁判所の執行指揮のあった少年院送致決定の効力として、少年鑑別所法18条1項の「鑑別」と少年院の指定を受けるために必要最小限度の期間については、少年を少年鑑別所に留めおくことができると考えられています。
3 少年院の指定後の手続き
少年鑑別所長が少年を収容すべき少年院を指定すると、どの少年院を指定したのかをその少年に告知します(少年鑑別所法18条2項)。
また、少年鑑別所長は、指定先の少年院の長に対して、少年鑑別所法18条1項の規定による「鑑別の結果」を付したうえで通知します(少年鑑別所法18条2項、3項)。
このようにして収容される少年院が決定していくのです。
次回の記事では、矯正教育課程についてさらに解説していきます。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、刑事事件・少年事件に関わってきた経験を活かし、少年審判後の再犯防止に向けたサポートにも力を入れています。
具体的には、少年の方の顧問としてその後の交友関係や生活状況の監督をサポートさせていただきます。事件を起こした原因の改善に向けた課題の実施を行う場合もございます。
再犯防止に向けた弁護士のサポートにご興味のある方は、一度、あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。
20年前の前科が理由で懲戒処分? 前科の秘匿と会社での懲戒処分について
【事例】
Aさんは、強盗の罪で服役したことがありますが、出所後20年間、犯罪とは無縁の生活をまじめに送ってきました。
Aさんは、B会社に転職するにあたり履歴書を作成していましたが、履歴書に賞罰欄が設けられているのに、服役していたことを記載せず、また面接でも前科があることを言いませんでした。
Aさんが入社して1年後、実は服役前科があることがB会社に発覚しました。
B会社の担当者は、Aさんを懲戒すると言っています。Aさんは、何かしらの処分を受けてしまうのでしょうか。
(事例はフィクションです)
弊所は、刑事事件を多数扱っているため、相談者から「再就職をする際に警察のお世話になったことを言わないといけませんか?」という相談を受けることが少なくないです。
さて、従業員に前科があることを知った経営者は、その従業員に処分を下すことができるのでしょうか。経営者の方にとっても、今まさに就職活動をしている人にとっても大きな関心ごとではないでしょうか。
前科を秘匿したことと懲戒処分の関係について上記の事例を用いて、解説します。
1 前科の有無を偽って入社する行為について
まず前科があるのに前科を隠して入社する行為は、「経歴詐称」、つまり自分の経歴を偽ることになります。
前科があるのに前科を隠す場合だけでなく、本当はA大学の出身者なのにB大学出身だと偽るような場合も経歴詐称にあたります。
前科の内容や種類についてはこちらのページも参考にしてください。
2 経歴詐称と懲戒処分について
そして従業員を懲戒するにはあらかじめ就業規則で懲戒処分の種別及び事由を定めておく必要があり、その拘束力を生じさせるには、その内容を労働者に周知させる手続がとられていなければなりません(最高裁平成13年(受)1709号平成15年10月10日判決)。
そして、懲戒処分の内容と懲戒事由のバランスが取れているものであることと適切な手続で行われたことが必要になります。
懲戒処分のバランスが取れているとはどういうことでしょうか。
簡単にいうと、「いや確かに経歴詐称があるけど、大したことがない詐称なのだから、減給になるのは仕方ないけど、解雇するほどのことではないですよね。」と言われるような懲戒処分は許されないということです。
適切な手続は、その文字通りです。
例えば、従業員から言い分を聞かずにいきなり減給や解雇をすると、違法になってしまいます。
このような具合ですので、前科があることを知られ、懲戒処分にすると言われた場合には、まず就業規則の内容や周知のための手続、懲戒処分のバランス、然るべき手続といった要件が満たされているか考える必要があります。
特に懲戒処分のバランスは、様々な事情を総合的に考慮して判断されるものであり、難しい判断を伴いますので、弁護士など専門家に相談することをお勧めします。
3 事例の検討
あくまで一般論ですが、今回のAさんの場合、懲戒処分の内容として懲戒解雇まではさすがに重すぎる気がします。というのも、20年以上も前の前科は、あまりに古すぎるからです。
有罪判決を受けて服役したとしても刑の執行を終えてから罰金以上の刑に処せられずに10年以上経過していたのであれば,刑法上は刑が消滅していることになります(刑法34条の2第1項)。
したがって、そもそも重大な経歴詐称とまではいえないように考えられるからです。
また前科が強盗のようなものでなく、交通事故のようなものであった場合、最近の前科だとしても懲戒解雇まではやりすぎと認定される可能性があります。
しかし判断は会社の業務内容や、個別事案での隠匿の態様にも関わりますから懲戒処分の見通しについては一概に判断することはできません。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、刑事事件の豊富な実績を踏まえて、刑事事件と関連する労働問題もサポートできます。
もし懲戒処分などの労働紛争に巻き込まれている方、企業側の担当者で懲戒処分について判断が難しいと考えている方はぜひご連絡ください。