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刑法改正に伴って導入される拘禁刑について刑事事件に精通した弁護士が解説します②
それでは前回の記事の導入に引き続き、今回の記事より拘禁刑の内容についてより解説していきます。
1 受刑者の処遇の変化
懲役刑・禁錮刑から拘禁刑への一本化により、受刑者の生活と処遇内容が柔軟化します。
従来、懲役受刑者にはいわゆる刑務作業が義務づけられ、禁錮受刑者は刑務作業が任意でした。
しかし拘禁刑では、受刑者ごとに作業を行わせるか否かを決定し、その人の特性に応じた指導やプログラムを実施する仕組みに変わります。
つまり、全受刑者に一律で労役を課すのではなく、個々の受刑者に必要な作業または指導を組み合わせて行うことが可能になります。
2 処遇内容の見直し
この変更に伴い、刑務所内での過ごし方やプログラム内容も見直されます。刑務作業と矯正指導(改善指導や教科指導など)を合わせた時間は、従来同様に原則1日8時間以内とされています。
ただし作業が免除・軽減された受刑者には、その時間を利用して更生プログラム(矯正教育やカウンセリング等)に充てることが予定されています。
実際に国会での審議を見ても、多くの受刑者に対し、作業と各種指導をバランス良く組み合わせる処遇が行われると想定されています。
例えば、知的・精神障害のある受刑者には福祉的支援プログラムを、薬物依存の受刑者には依存症克服プログラムを優先するなど、個別最適化された内容が組まれることになります。
3 拘禁刑に一本化された趣旨と背景
処遇方針の面でも、刑罰の目的が「懲らしめ」から「改善更生」へと転換されます。懲役刑における作業は本来「懲らしめ(応報)」の意味合いが強いものでしたが、近年は職業訓練や各種指導も取り入れられていました。
拘禁刑の創設によってこの流れを一層進め、「作業」も受刑者の改善更生・社会復帰のための措置という位置付けであると理解できます。
そのため処遇の運用においては、これまで以上に受刑者の自発性・自主性を高め、前向きな参加を促すことが求められます。
受刑者に課されるプログラムも罰というより矯正教育の要素が強くなり、受刑者自身が更生に取り組む機会が増えると考えられています。
また、背景として、懲役と禁錮の区別は既に形骸化していました。2022年時点で新受刑者の99.7%が懲役刑で、禁錮刑はわずか0.3%(44人)しか言い渡されていませんでした。そして、令和5年3月末時点で、禁錮受刑者の約86.5%は任意で作業に従事していたという実態がありました。このように両刑の実質的な差異が乏しいことも一本化の理由の一つでした。
一本化後は名称が変わるだけでなく、「全ての受刑者に必ず作業が課されるわけではない」と法律上明確にすることで、処遇内容を受刑者ごとに柔軟に調整できるようにした点に意義があります。
この柔軟な処遇を可能にすることで、受刑者の更生により効果的な環境を整える狙いです。
あいち刑事事件総合法律事務所では、刑事事件の弁護活動のみならず刑事処分や判決が出た後の更生に向けた活動にも力を入れています。
このことは懲らしめより改善更生に重きを置いた今回の刑法改正の趣旨とも合致するものです。
当事者の方の更生に向けて見守り弁護士(ホームロイヤー)の活動を準備しています。拘禁刑の導入を機に更生に向けて関心のなる方は是非一度ご相談ください。
刑法改正に伴って導入される拘禁刑について刑事事件に精通した弁護士が解説します①
1 はじめに
2025年6月1日施行の刑法改正により、従来の「懲役刑」と「禁錮刑」が廃止され、新たに統合された「拘禁刑(こうきんけい)」が導入されます。
これは明治以来続いた自由刑制度の大改革であり、受刑者の処遇や社会復帰支援、再犯防止策、刑務所運営に大きな変化をもたらすと期待されています。
当然ですがそのことは、実刑判決を受けた者の受ける刑の内容やその後の更生に与える影響も大きいといえます。
そこで本サイトでは拘禁刑の導入に合わせて、その内容や変更点について刑事事件に精通した弁護士が複数回にわたって拘禁刑について記事で詳しく解説させていただきます。
2 懲役刑と禁錮刑について
まずは従来の刑法で定められていた「懲役刑」と「禁錮刑」について簡単に解説させていただきます。
拘禁刑導入前の刑法の条文は以下の通りです。
(懲役)
第12条 懲役は、無期及び有期とし、有期懲役は、1月以上20年以下とする。
2 懲役は、刑事施設に拘置して所定の作業を行わせる。
(禁錮)
第13条 禁錮は、無期及び有期とし、有期禁錮は、1月以上20年以下とする。
2 禁錮は、刑事施設に拘置する。
両者の違いは刑務作業をする義務があるかどうかです。
しかしながら、実刑判決を受ける者の9割以上は懲役刑の判決を受けた者であり、さらに禁錮刑を受けた者のうち約8割強の受刑者が刑務作業を希望している状況でした。
これが拘禁刑の導入された背景になります。
3 拘禁刑についての条文
今回の刑法改正によって懲役刑と禁錮刑の条文が削除されて、次のような拘禁刑の条文が新設されます。
第12条(拘禁刑)
1 拘禁刑は、無期及び有期に、有期拘禁刑は、1月以上20年以下とする。
2 拘禁刑は、刑事施設に拘置する。
3 拘禁刑に処せられた者には、改善更生を図るため、必要な作業を行わせ、又は必要な指導を行うことができる。
拘禁刑が導入されることで、これまで「懲役刑」ないし「禁錮刑」が規定されていた条文の文言が「拘禁刑」に変わります。
例えば刑法246条であれば、次のように改正されます。
刑法246条
人を欺いて財物を交付させた者は、10年以下の「懲役」に処する→人を欺いて財物を交付させた者は、10年以下の「拘禁刑」に処する。
また改正前の懲役刑に定められていた刑務作業を行う義務に関する文言はなくなり、3項により刑務作業や更生に向けた指導を行うことを「必要」に応じて行うことと定めています。
今回の記事では従来の条文との改正点について解説させていただきました。次回移行具体的な改正による変化や影響について詳しく解説させていただきます。
あいち刑事事件総合法律事務所では、どのような刑罰をや処分を受けたかに関わらず事件の当事者の方の更生を全力でサポートします。そのた目に早期の仮釈放の実現や真の更生に向けた見守り弁護士などの弁護活動を行っています。更生に関心のある方は是非一度あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。お問い合わせはこちらかフリーダイヤル(0120-631-881)からお願い致します。
少年事件と児童相談所の関係について少年事件に精通した弁護士が詳しく解説します⑩
【事例】
Aさんは、福岡県新宮市に住む14歳の男子中学生です。
半年前、Aさんは、通学中に見かけた小学生の女の子の身体を触るという事件を起こしてしまいました。
女の子が泣き出したので、Aさんはその場から走って逃げました。
しかし、数日後、警察官がAさんのところに来てこの事件について話を聞きたいと言ってきました。
この事件当時、Aさんは誕生日を迎える前でしたので、まだ13歳でした。
その後、Aさんは警察で話を聞かれたり、児童相談所で保護されたり、少年鑑別所で収容されて調査を受けたりしました。
このような手続きを経て、福岡家庭裁判所は、Aさんの少年審判を開き、Aさんを児童相談所長に送致するという決定をしました。
AさんやAさんの家族は、児童相談所長に送致するという処分がどのような処分なのか、Aさんは自宅に帰ることができるのかなどを改めて説明してもらいたいと思い、それまでもAさんの付添人であった弁護士に改めて相談することにしました。
(事例はフィクションです。)
1 はじめに
前回の記事では、少年事件の初期段階での児童相談所の役割を解説するために、触法事件の手続きの流れ、特に警察による調査がどのように行われていくのか、それにどのように児童相談所が関与していくのかについて解説してきました。
今回の記事では、警察から児童相談所長に送致されるなどした後の、児童相談所の役割について解説していきます。
2 児童相談所による調査
警察から送致や通告を受けると、児童相談所が調査を行います(児童福祉法25条の6)。
担当の児童福祉司や児童心理司が決まり、福祉的な観点から少年の成育歴や性格、家庭環境、学校などでの状況を調査したり、心理面や精神面の診断を行ったりします。
3 児童相談所の措置
このような調査を経て、児童相談所長は、会議を開いて議論したうえで、警察から送致や通告を受けた少年に対する措置を決定します。
その措置の内容としては、大きく分けると児童相談所自らがとる措置と家庭裁判所に委ねる措置の2つに分けることができます(児童福祉法27条1項)。
⑴ 児童相談所自らがとる措置
このような措置としては、大きく分けて次の3つに分類できます。
①「児童又はその保護者に訓戒を加え、又は誓約書を提出させること」(児童福祉法27条1項1号)
②児童やその保護者に、児童福祉司等の指導を受けさせること(同2号)
③児童を児童福祉施設(児童養護施設や児童自立支援施設など)に入所させたり、里親などのもとで生活させることとしたりすること(同3号、28条)
このうち②の指導については、児童相談所などで行うこともあれば、児童や保護者の住んでいるところで行うこともあります(同2号)。
⑵ 家庭裁判所に委ねる措置
その一方で、「家庭裁判所の審判に付することが適当である」と判断された場合には、家庭裁判所に送致することになります(児童福祉法27条1項4号)。
もっとも、事件の内容が、Ⓐ故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪やⒷそうでなくても死刑又は無期若しくは短期2年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪の場合(少年法6条の6第1項1号イ、ロ)、例外は認められていますが、原則として家庭裁判所に送致しなければならないとされています(少年法6条の7第1項)。
今回の記事では、触法事件における児童相談所の調査とその後の措置について解説してきました。
次回の記事では、ここまでの内容をまとめます。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、刑事事件・少年事件に関わってきた経験を活かし、少年審判後の再犯防止に向けたサポートにも力を入れています。
再犯防止に向けた弁護士のサポートにご興味のある方は、一度、あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。再犯防止に向けた詳しいサポートの内容についてはこちらのページ(見守り弁護士・ホームロイヤー)も参照してください。
少年事件と児童相談所の関係について少年事件に精通した弁護士が詳しく解説します⑨
【事例】
Aさんは、福岡県新宮市に住む14歳の男子中学生です。
半年前、Aさんは、通学中に見かけた小学生の女の子の身体を触るという事件を起こしてしまいました。
女の子が泣き出したので、Aさんはその場から走って逃げました。
しかし、数日後、警察官がAさんのところに来てこの事件について話を聞きたいと言ってきました。
この事件当時、Aさんは誕生日を迎える前でしたので、まだ13歳でした。
その後、Aさんは警察で話を聞かれたり、児童相談所で保護されたり、少年鑑別所で収容されて調査を受けたりしました。
このような手続きを経て、福岡家庭裁判所は、Aさんの少年審判を開き、Aさんを児童相談所長に送致するという決定をしました。
AさんやAさんの家族は、児童相談所長に送致するという処分がどのような処分なのか、Aさんは自宅に帰ることができるのかなどを改めて説明してもらいたいと思い、それまでもAさんの付添人であった弁護士に改めて相談することにしました。
(事例はフィクションです。)
1 はじめに
前回の記事では、少年事件の初期段階での児童相談所の役割を解説するために、触法事件の手続きの流れ、特に触法少年に逮捕や勾留といった身体拘束手段が取れないことから、一時保護が利用されていることについて解説してきました。
今回の記事でも、引き続き触法事件の手続きの流れについてさらに解説していきます。
2 一時保護を利用する場合の問題点と通告
⑴ 一時保護は誰の権限でできることか
前回の記事でも触れましたが、触法調査の際に一時保護を利用しようと考えた場合に問題となるのは、あくまで一時保護は、警察の権限ではなく、児童相談所長の権限でとれる手段だという点です。
そこで重要になるのが、以前の記事で解説した児童相談所長への送致と通告の違いです。
⑵ 児童相談所長への送致と通告
児童相談所長への送致と通告は、どちらも事件に対する児童相談所の役割を開始させる行為です。
しかし、あくまで別の制度ですから、同じ事件に関して、児童相談所長への送致も通告も両方行うということも可能になります。
⑶ 触法事件の調査の途中で一時保護をとる場合
まず、警察官として未だ調査すべき事項があるのであれば、児童相談所長への送致をすることはできません(少年法6条の6第1項)。
その一方で、調査の間、触法少年を自宅に帰すのに問題があると警察官が考えた場合、触法少年が「要保護児童」、つまり、「保護者のない児童又は保護者に監護させることが不適当であると認められる児童」(児童福祉法6条の3第8項)であるとして、まずは児童相談所に通告をするのです(児童福祉法25条)。
このようにして触法事件に児童相談所が関われる状態にしてから、「児童の安全を迅速に確保し適切な保護を図るため、又は児童の心身の状況、その置かれている環境その他の状況を把握するため」に必要があるとして、児童相談所長が一時保護を決定することになります(児童福祉法33条1項)。
3 一時保護所での面会
このように触法事件では、調査を受けている触法少年が一時保護されていることがあります。
しかし、「罪を犯した少年」の少年事件や成人の刑事事件の場合と異なり、弁護士との面会に関する制度が確立されていません。
今回の記事では、触法事件の調査を警察官が行っている段階で、一時保護を利用する場合について解説してきました。
次回の記事からも引き続き触法事件の流れについてさらに解説していきます。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、刑事事件・少年事件に関わってきた経験を活かし、少年審判後の再犯防止に向けたサポートにも力を入れています。
再犯防止に向けた弁護士のサポートにご興味のある方は、一度、あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。
少年事件と児童相談所の関係について少年事件に精通した弁護士が詳しく解説します⑧
【事例】
Aさんは、福岡県新宮市に住む14歳の男子中学生です。
半年前、Aさんは、通学中に見かけた小学生の女の子の身体を触るという事件を起こしてしまいました。
女の子が泣き出したので、Aさんはその場から走って逃げました。
しかし、数日後、警察官がAさんのところに来てこの事件について話を聞きたいと言ってきました。
この事件当時、Aさんは誕生日を迎える前でしたので、まだ13歳でした。
その後、Aさんは警察で話を聞かれたり、児童相談所で保護されたり、少年鑑別所で収容されて調査を受けたりしました。
このような手続きを経て、福岡家庭裁判所は、Aさんの少年審判を開き、Aさんを児童相談所長に送致するという決定をしました。
AさんやAさんの家族は、児童相談所長に送致するという処分がどのような処分なのか、Aさんは自宅に帰ることができるのかなどを改めて説明してもらいたいと思い、それまでもAさんの付添人であった弁護士に改めて相談することにしました。
(事例はフィクションです。)
1 はじめに
前回の記事では、少年事件の初期段階での児童相談所の役割を解説するために、触法事件の手続きの流れに関連して、児童相談所長への送致と通告の違いについて解説してきました。
今回の記事でも、引き続き触法事件の手続きの流れについて解説していきます。
2 触法事件と身体拘束
⑴ 触法事件と逮捕・勾留
以前の記事で、触法調査で警察官ができることとできないことについて解説をしてきました。
その中で、「罪を犯した少年」の少年事件や成人の刑事事件の場合と違って、触法事件では逮捕や勾留といった身体拘束手続きをとることができないと解説してきました。
しかし、触法事件の調査が1日で終わるとは限りません。
その一方で、特に重大事件である場合など、調査の間に触法少年を自宅に帰らせるのには問題がある場合も考えられます。
そのような場合には、一時保護という制度が利用されています。
⑵ 一時保護とは
一時保護とは、「児童の安全を迅速に確保し適切な保護を図るため、又は児童の心身の状況、その置かれている環境その他の状況を把握するため」に必要があると児童相談所長が考えた場合に、一時保護所などに入所させる処分です(児童福祉法33条1項)。
この処分をとるのに、児童本人や保護者の同意は必要ないと考えられます。
また、一時保護の期間は、原則として2か月とされています(児童福祉法33条3項)。
例外的に、必要があればそれよりも長い期間にわたって一時保護することもできますが(児童福祉法33条4項)、その場合には、基本的に、親権者や未成年後見人の同意を得るか、家庭裁判所の承認を受けるかする必要があります(児童福祉法33条5項前段)。
ちなみに、一時保護に保護者の同意が必要ないとされているのは、延長の場合には親権者等の同意に関する規定(児童福祉法33条5項)があるのに、延長前の一時保護にはそのような規定がないことから読み取れます。
⑶ 一時保護を利用する場合の問題点
今回の記事では、少年事件の初期段階での児童相談所の役割を解説するために、触法事件の流れ、特に一時保護について解説してきました。
しかし、ここで問題となるのは、あくまで一時保護は、警察の権限ではなく、児童相談所長の権限でとれる手段だという点です。
次回の記事では、この問題から解説をしていきます。
あいち刑事事件総合法律事務所では突然児童相談所から一時保護された方の弁護活動・付添人活動についても豊富な経験があります。突然の一時保護により今後ご家族がどうなっていくの不安な方は税以下のお問い合わせフォームからお気軽にご相談ください。
その他にも弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、刑事事件・少年事件に関わってきた経験を活かし、少年審判後の再犯防止に向けたサポートにも力を入れています。
再犯防止に向けた弁護士のサポートにご興味のある方は、一度、あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。
少年事件と児童相談所の関係について少年事件に精通した弁護士が詳しく解説します⑦
【事例】
Aさんは、福岡県新宮市に住む14歳の男子中学生です。
半年前、Aさんは、通学中に見かけた小学生の女の子の身体を触るという事件を起こしてしまいました。
女の子が泣き出したので、Aさんはその場から走って逃げました。
しかし、数日後、警察官がAさんのところに来てこの事件について話を聞きたいと言ってきました。
この事件当時、Aさんは誕生日を迎える前でしたので、まだ13歳でした。
その後、Aさんは警察で話を聞かれたり、児童相談所で保護されたり、少年鑑別所で収容されて調査を受けたりしました。
このような手続きを経て、福岡家庭裁判所は、Aさんの少年審判を開き、Aさんを児童相談所長に送致するという決定をしました。
AさんやAさんの家族は、児童相談所長に送致するという処分がどのような処分なのか、Aさんは自宅に帰ることができるのかなどを改めて説明してもらいたいと思い、それまでもAさんの付添人であった弁護士に改めて相談することにしました。
(事例はフィクションです。)
1 はじめに
前回の記事では、少年事件の初期段階での児童相談所の役割を解説するために、触法事件の手続きの流れのうち、警察の調査がどのようなものかについて解説してきました。
今回の記事でも、引き続き触法事件の手続きの流れについてさらに解説していきます。
2 児童相談所長への送致と通告
⑴ 児童相談所への通告とは
前回の記事では、警察が触法事件の調査をしていった結果、一定の重大犯罪に当たると考えられる場合や、そうでなくても家庭裁判所の審判に付すのが適当だと考えられる場合には、事件を児童相談所長に送致(少年法6条の6第1項)すると解説してきました。
この児童相談所への送致とは似て非なるものとして、児童相談所への通告というものがあります。
この児童相談所長への通告というのは、児童福祉法に定められた制度です。
児童福祉法では、要保護児童、つまり、「保護者のない児童又は保護者に監護させることが不適当であると認められる児童」(児童福祉法6条の3第8項)を発見した者は、児童相談所などに通告しなければならないとされています(児童福祉法25条)。
この規定に基づき、触法少年という「保護者に監護させることが不適当であると認められる児童」を発見した警察官が、児童相談所に通告することがあります。
⑵ 通告と送致の違い
それでは、児童相談所長への送致と通告にはどのような違いがあるのでしょうか。
どちらも、事件に対する児童相談所の役割を開始させるという点では共通の行為です。
しかし、児童相談所への通告は、児童相談所長の職権発動を促す(つまり、役割を開始するように促す)という意味を持つのにとどまりますが、児童相談所長への送致は、必ず児童相談所の役割が開始するという点で異なるとされています。
また、児童相談所長への送致と児童相談所への通告は別の制度ですから、同じ出来事に関して、どちらともを行うということもできます。
まずは児童相談所への通告を行い、児童相談所の役割を一部開始してもらってから、後日、改めて児童相談所長に送致するということも可能です。
この点は、次回以降に解説をする児童相談所の一時保護ともかかわってきます。
今回の記事では、少年事件の初期段階での児童相談所の役割を解説するために、触法事件の流れについて解説してきました。
次回の記事でも、引き続き触法事件の流れについてさらに解説していきます。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、刑事事件・少年事件に関わってきた経験を活かし、少年審判後の再犯防止に向けたサポートにも力を入れています。
具体的には見守り弁護士(ホームロイヤー)という弁護活動を行っており、刑事事件・少年事件終了後の当事者の方が再犯をしないための見守り活動や再犯防止に向けた課題の実施などを行っています。詳しくはこちらのページもご覧ください。
再犯防止に向けた弁護士のサポートにご興味のある方は、一度、あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。ご相談はこちらからお気軽にご連絡ください。
【裁判例紹介】執行猶予中に万引きの再犯をした事案について再度の執行猶予付きの判決を下した裁判例を解説します②
【事案の概要】
被告人はギャンブルにはまって金融機関からの借金を負い,転売目的での万引きをしてしまい,執行猶予付きの有罪判決を受けてしまいました。その裁判の途中から,ギャンブル依存症などの治療も受けていたのですが,裁判が終わった3か月後にはまたギャンブルにはまってしまい,今度は食べるもの欲しさから万引きをしてしまったというものです。
二度目の裁判の間も被告人は依存症専門の病院で入院治療を受け,また家族もそれを熱心に支え続けました。
一審判決は裁判を受けた3か月後にまたやってしまったという点を重く見て,今度は実刑判決を言い渡しました。
しかし、被告人が控訴した控訴審では1審判決を破棄して被告人に対して再度の執行猶予付きの判決を下しました。
今回の記事では前回の記事で紹介した判決の内容について、より詳しく見ていきましょう。
特に判決の結論を変えた事実の評価のポイントについて詳しく解説させていただきます
1 判決で再度の執行猶予を付した理由について
万引きと再度の執行猶予について話を戻しましょう。
上記の事案でも,次のように指摘がなされていました。
「他方で、本件は財産犯であり、被害額は万引き窃盗において多額とまではいえないところ、被告人が被害弁償をしていることや、手口も同種万引き事案と比較して特に悪質とまではいえないことからすれば、犯情において、再度の執行猶予を検討することができる事案である。」
裁判所も,万引きの事案に対しては再度の執行猶予が十分にありうることを前提としています。
ですが,この万引きが,どのような経緯でなされたのか,という点,そしてそれを裁判所がどう見るか,が重要なポイントです。
上記の事案では,被告人は病的賭博,つまりギャンブル依存症(https://www.ncasa-japan.jp/understand/gambling/about)として精神科で診断を受けるほど,自分の衝動を抑えきれない状況にありました。
これについて,一審裁判所も控訴審裁判所もは「万引きに直接影響したものではない」と言いました。
そして,いかに家族が更生環境を整えているとしても実刑は避けられない,と判断しました。
一方,控訴審ではさらに,被告人はADHDの診断を受けており普通の人よりも自分の衝動を抑えるのが難しいという事情を付け加え,「このような更生への取組みを刑罰により打ち切らずに継続させる方が望ましく、本件は情状に特に酌量すべきものがあるとして、再度の執行猶予を付し、もう一度だけ社会内での更生の機会を設けるのが相当であり、原判決の刑をそのまま維持するのは、重きに失するに至ったというべきである。」と判断しました。
ここは私見になりますが,ADHDの診断という点を控訴審が特別重要視したとは思われません。
その為,一審と控訴審は,ギャンブル依存症で万引きをした被告人を家族が献身的に支えている,という事情を見て,実刑判決だ(一審)/もう一度チャンスを与えても良い(控訴審),といったように真逆の判断をしているのです。
2 弁護活動のポイントについて
一審と控訴審で弁護士の方針等が違っていたのかもしれません。しかしながら,万引きと再度の執行猶予をめぐる事件については,同じ事案に対しても裁判所によっては真逆の判断がありうるのです。
裁判で再度の執行猶予を勝ち取るのは容易なことではありません。裁判になるもっと前段階から,証拠集めや主張の整理をしておかなければいません。
あいち刑事事件総合法律事務所では万引きを何度も繰り返してしまっている方に対する弁護活動について豊富な経験があります。
執行猶予中に再犯をしてしまって再度の執行猶予判決を勝ち取ることは相当困難ですが、実際に獲得した事例の弁護も弊所では担当しています。
執行猶予中に再犯をしてしまったという方や,執行猶予を勝ち取れるか不安があるという方は,ぜひ裁判になる前段階から刑事事件に精通したあいち刑事事件総合法律事務所の弁護士にご相談ください。
またあいち刑事事件総合法律事務所では万引き事件を起こした方の更生支援活動についても弁護士がサポートさせていただきます。
詳しくは、見守り弁護士(ホームロイヤー)のページをご覧ください。
【裁判例紹介】執行猶予中に万引きの再犯をした事案について再度の執行猶予付きの判決を下した裁判例を解説します①
1 裁判例について
今回の記事で紹介するのは令和6年9月24日付で名古屋高裁金沢支部が第1審判決を破棄して再度の執行猶予を付した判決です。
上記判決の基になる事案の概要は次のようなものでした。
【事案の概要】
被告人はギャンブルにはまって金融機関からの借金を負い,転売目的での万引きをしてしまい,執行猶予付きの有罪判決を受けてしまいました。その裁判の途中から,ギャンブル依存症などの治療も受けていたのですが,裁判が終わった3か月後にはまたギャンブルにはまってしまい,今度は食べるもの欲しさから万引きをしてしまったというものです。
二度目の裁判の間も被告人は依存症専門の病院で入院治療を受け,また家族もそれを熱心に支え続けました。
一審判決は裁判を受けた3か月後にまたやってしまったという点を重く見て,今度は実刑判決を言い渡しました。
しかし被告人が控訴したところ,名古屋高裁金沢支部の裁判官は治療の状況や家族の支援が期待できること等から再度の執行猶予を付するという判決を言い渡しました。
2 再度の執行猶予について
ここで,執行猶予について解説をします。
法律上原則として,執行猶予判決を受けている人に対してもう一度執行猶予判決を言い渡すということはできません。
執行猶予判決というのは,「この期間中は絶対に罪を犯さないでくださいね,もし今度罪を犯してしまったらほとんど確実に刑務所に行きますからね」という抑止力をもって,再犯を防止しようとするものです。
具体例でいうと,令和7年4月1日に「懲役1年,執行猶予3年」という判決を受けたとします(便宜上,上訴期間を除いて解説します)。
すると,令和7年4月1日から令和10年3月31日までの間,この人は執行猶予期間中ということになります。
この期間に新たに犯罪をしてしまい,再び有罪判決,例えば「懲役2年の実刑」という判決を受けてしまうと,一度宣告された「懲役1年」と新たに言い渡された「懲役2年」の合計3年の懲役刑を受けることになるのです。
一方,令和10年3月31日までに再犯して有罪判決を受けることがなければ,「懲役1年」を服役しなくてもよくなるのです。
このように,「次にやったら重い刑罰を受ける」という抑止力を利用して,社会の中で更生させようとするのが「執行猶予」という制度なのです。
そのため,執行猶予中に犯してしまった罪に対しては特に厳しく見られることになります。「もう一回執行猶予で良いよ」とはならないのです。
ただし,どうしても実刑判決を科すのが不適当な場合があります。それが,事例の,繰り返してしまう万引きのような事例です。
法律上,特に情状で考慮すべき事情がある場合,要するに「どうしても刑務所に送るのが不適当/もう一度社会でチャンスを与えるべきではないか」と思われる事案に対しては,再度の執行猶予を言い渡すことができるのです。再度の執行猶予に関する詳しい解説についてはこちらのページもご確認ください。
ただし再度の執行猶予が認められることは非常に例外的な判断であり,再度の執行猶予が付されている事案は少数です。実際に再度の執行猶予が付される事案の多くは,交通事故のような過失犯や,軽微な万引きの事案です。
次回の記事では、紹介した事例において再度の執行猶予付きの判決が出された理由やその弁護活動について詳しく解説させていただきます。
執行猶予か,実刑かで,その後の生活において天と地ほども差があります。
執行猶予を目指すのであれば,刑事事件専門の弁護士に対して速やかに相談し,早期の対応を仰ぎましょう。
東京都で共同危険行為を行った少年事件 少年審判での更生に向けた弁護活動について②

今回の記事でも前回の記事に引き続いて用いて共同危険行為により逮捕されてしまった少年事件の更生支援活動ついて弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説をします。
【事案】
共同危険行為をして逮捕されてしまったAさんは,そのまま東京少年鑑別所へ送られて,東京家庭裁判所の少年調査官との面談を行いました。
この時,調査官からは,暴走行為を繰り返していた時にどんな気持ちだったのか等の質問をされました。また,調査官からは「これから審判になると思う」とも伝えられました。
AさんやAさんの家族はどのように対応すべきでしょうか。
(事例については一部を改編しています)
1 「要保護性」をどう主張する?
今回の記事では要保護性の有無などについてどのような主張を行っていくかについて解説していきます。前回の記事を読まれたい方はこちらからご覧になってください。
少年審判において「要保護性」というのが非常に重要であることは説明した通りです。
それでは,どのようにして主張すればよいのでしょうか?
まず,要保護性は
①「事件当時にどうだったか」
②「事件の後どのように変化したか」
という2つの視点から判断されます。
このうち①「事件当時にどうだったか」という視点は,ある意味,過去の変えられない出来事を前提とするものですから,本人や家族にとってはどうしようもないものです。ですが,弁護士が法的な観点から有利な事情を主張できるという場合がありますからあきらめてはいけません。
ですが,②「事件の後どう変化したか」については,本人や家族の努力によって何とかなる場合があります。これは,「更生のために本人や家族が努力をしているか」という視点でもあるからです。
2 「反省しています」とは?
ここで,前回の記事でも触れた「更生とはどういう意味か」をよく考えて対応しなければなりません。
多くの方は,事件を起こしたときには,反省の言葉を述べます,そして,反省しているのだから何とか軽い処分にしてほしい,とも述べます。これは決して誤っているわけではないのですが,「更生」に向けた努力かどうかは疑問が残るところです。更生するというのは,もう二度と間違いを犯さないために正す,ということです。
今回の事例のAさんの更生について詳しく考えてみましょう。
Aさんは,最初,学校がつまらない,居場所がない,という感覚がスタートとなって事件に至りました。では,このように感じた理由,原因を深堀して考えなければなりません。Aさんが話すことによく耳を傾け,Aさん自身が気付いていないかもしれないようなことまで理解を深めなければなりません。
一言で「学校」と言っても,
勉強のこと,友達関係の事,先生との関係,異性関係,進路の不安などなど
様々な要素があります。
また,「つまらない」というのも,
なにかうまくいかないことがあるのか,傍目には充実しているのに刺激を求めてしまったのか,心理的に満足感を感じないのか,「つまらない」というのは「寂しい」等の別の感情を押し殺した表現ではないか
といったように,様々な分析があり得ます。
このような確認を綿密に行うことで本当の意味での反省ができるのです。
多くの事件ではこの点が深まらないために,「反省が足りていない」と指摘されてしまうことがあるのです。
3 次に同じことをしないために(再犯防止策の策定)
どうして事件を起こしてしまったのか,十分に振り返ることができれば,後はそれに対する対策をきちんと講じていくだけです。
事件を起こした経緯や心情がしっかりと分かっていれば,おのずとそれに対する対策も具体的なものになっていくでしょう。
本記事の元となったAさんの実際の事例を紹介します。
Aさんは「学校がつまらなくなった」といっていましたが,実際には,勉強についていけなくなり,希望していた進路に進むことができず,進学先での勉強もつまらなくなってしまったというのです。それに伴って生活リズムも崩れ,更に学校での勉強にもついていけず,更に遊びに出ることが増え,というように,負のスパイラルが出来上がってしまっていました。
そこで,まずは生活リズムを作り,学校へ通うための土台を作りました。次に勉強について,テストの点数や評定に目を向けるのではなく「将来どんな仕事に就きたいのか,そのためには今何をしなければならないのか」という目標を設定して勉強することの意味を再確認しました。
文字にすると,「生活リズムを作る」「将来の目標を持つ」というだけですが,Aさんの場合,これが暴走行為を防ぐために重要なことだったのです。
Aさんの事例でも,一部機関からは「少年院に送致すべき」という意見も付されましたが,家庭裁判所に対して上記のようなAさん,Aさん家族の努力を熱心に主張し,施設送致を回避することができました。
Aさんの事例はあくまで一例であり,ここで紹介したのも事件の一部分にすぎません。
少年事件においては,事件ごと・少年ごとに要保護性が異なります。どうしても,マニュアル的に対処することはできないのです。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所には少年事件を熱心に扱う弁護士が所属しています。
少年の更生,審判のことで困りのことがある方,そのご家族の方は,弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。
東京都で共同危険行為を行った少年事件 少年審判での更生に向けた弁護活動について①

今回の記事では共同危険行為により逮捕されてしまった少年事件の更生支援活動ついて弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所の弁護士が詳しく解説をします。
【事案】
前回の記事と同様のAさんの事例を取り上げます。
逮捕されてしまったAさんは,そのまま東京少年鑑別所へ送られて,東京家庭裁判所の少年調査官との面談を行いました。
この時,調査官からは,暴走行為を繰り返していた時にどんな気持ちだったのか等の質問をされました。また,調査官からは「これから審判になると思う」とも伝えられました。
AさんやAさんの家族はどのように対応すべきでしょうか。
【解説】
1 共同危険行為に対する処分
共同危険行為とは,道路交通法68条に規定されている犯罪です。
少年事件における審判では,①実際に罪となるような事をしたか,②事実が認められる場合に,どの程度の処分が必要か,という二つのことが審判の対象となります。
①については非行事実,②については要保護性ということもあります。
(1)非行事実の認定について
非行事実については,大人で言うところの有罪/無罪を決めるような事実です。
例えば
・人違いだ
・やってない
・正当防衛だった
等の主張をする場合,非行事実そのものを争うことになります。
非行事実,つまり,やったかやってないかを争う事件の場合,家庭裁判所に送られる前段階からの弁護活動が非常に重要になります。逮捕されている事件/されていない事件を問わず,警察や検察から取調べを受けているという状態であれば,速やかに弁護士に相談した方が良いでしょう。
(2)要保護性について
一方,やったことに間違いがない事件であれば,要保護性がどの程度のものかによって,その後の処分が大きく変わります。
一番重い処分から順に,少年院送致(年齢によっては児童養護施設等送致)となり,次いで保護観察,不処分,審判不開始といった処分があります。
要保護性とは,どれだけ重い処分を科す必要があるか,言い換えると,社会の中でキチンと更生する余地があるのか,それとも施設に収容して徹底的に教育を施さなければならないのかを測る基準のようなものです。
多くの少年審判においては,弁護士を通して要保護性が高くない・低いということをきちんと主張することが重要になるのです。
「要保護性」という言葉自体,ほとんどの人にとって耳馴染みのない言葉でしょう。ですが,家庭裁判所での少年審判では「要保護性」についてしっかり理解しておかないと,思いもよらない重い処分を受けてしまうことになりかねません。
今回の事例でどのような弁護活動を行いどのような事情を説明すれば「要保護性」について有利な判断を受ける事ができるのかについては次回の記事で詳しく解説します。
少年審判は大人の裁判と違い,国選弁護士がいない,弁護士をつけていないという事案も散見されます。弁護士がついていたとしても少年事件の経験があまりなく上記の要保護性について十分理解しないまま弁護活動を行うケースも少なくありません。将来に大きな影響を及ぼしかねない重大な審判ですので,憂いが残らないためにも,少年事件に強い弁護士にご相談しておくことをお勧めします。
あいち刑事事件総合法律事務所では少年事件に豊富なあることはもちろん、真の更生に向けて審判後の見守り弁護士などの更生支援活動にも力を入れています。
少年事件でお困りの方は是非一度ご相談ください。