【事例】
Aさんは22歳の大学生でしたが、SNSで「簡単 稼げる」「日給10万」などの検索ワードを使って仕事を探していたところ、特殊詐欺事件の首謀者から連絡を貰って個人情報を伝えてしまいました。
Aさんは話を聞くうちに、そのグループが特殊詐欺に関与していることを知って仕事をやめようと思いましたが家族に危害を加えられることを仄めかされたために、やめることができず特殊詐欺を実行してしまいました。
その事件については、被害者が未然に警察に通報していたことでお金を騙し取る前にAさんは臨場していた警察官に逮捕されました。
(プライバシー保護の観点から、事務所で扱った事件から一部事実を改編しています)
今回は以前闇バイトを取り扱った際に紹介した事例とは別の事例を用いて闇バイトの恐ろしさや関わってしまった方に対する弁護活動について解説させていただきます。今回紹介する事例は以前の記事とは異なり、成人の刑事事件で起訴され、最終的には弁護活動の甲斐あって執行猶予付きの判決を得る事ができた事例になります。
1 闇バイトに関与してしまうきっかけ
執筆者個人が過去に取り扱った特殊詐欺の入り口の多くは
(1)最初から特殊詐欺など犯罪だと解っていて関与を始めたもの
(2)最初は特殊詐欺とは思っていなかったが実際にやってみると怪しい仕事だと解ったもの
(3)本当はやりたくないのに自分や家族への危害を仄めかされて犯罪をせざるを得なかったものなど、さまざまです。
上記で紹介した事例は、途中までは楽に稼げる仕事との認識の程度だったが、途中から特殊詐欺だと気づきやめようとしたが個人情報を握られていたことで脅されて、実行に移してしまったケースなので(3)の類型にあたります。
上記のように闇バイトを首謀するグループは、脅迫の手段を使って闇バイトへの関与を強いてくることもあります。怪しい仕事の紹介では安易に個人情報を渡さないようにしましょう。履歴の残らない連絡手段(シグナルやテレグラム)を案内された場合、個人情報を要求された場合は違法な仕事を紹介しようとしているのではないかと考え、連絡を取ることをやめ、家族や警察に相談することをおすすめします。闇バイトに関する注意喚起についてはこちらのページも参考にしてください。
2 本件の逮捕後の手続きの流れ
Aさんは逮捕された後に、特殊詐欺グループとの接触のおそれや逃亡のおそれがあるとして裁判所から勾留するとの決定を受けました。その後余罪がないかなど取調べのために勾留延長が認められて、勾留期間は法定の上限である20日間に及びました。Aさんは起訴された後に、担当弁護士が直ちに保釈請求をして裁判官との交渉を行った甲斐あって、起訴後直ちに保釈が認められて判決が下されるまでの期間を自宅で過ごすことが出来ました。
このように事例のAさんは、自分が特殊詐欺に関与してしまった結果とはいえ20日間という長期間にわたって拘束されることになりました。20日間という期間は学生であれば大学などの講義やテストに出席が出来ず単位を落とす危険が出てくる期間です。社会人であれば20日間の間本人からの連絡なく会社を休むことになれば懲戒解雇となるリスクが非常に高いです。
仮に本件のように保釈が認められなかったら、裁判が終わるまでの数か月間身体拘束を受けたままになります。
特殊詐欺事件で逮捕されるケースの多くが逮捕されていない共犯者もいることから身体拘束が長期化するおそれが高いです。そして見込まれる判決としても、被害額が大きく社会問題にもなっている件であるので、前科のない方でもいきなり実刑判決を受ける可能性が高い事件になっています。
「闇バイト」という言葉は何か軽いようなものにも聞こえます。しかし実際に「闇バイト」のつもりで特殊詐欺事件に関わってしまえば、何週間、場合によっては何か月間もも拘束されて、判決や処分の内容によっては何年も刑務所や少年院に入ってしまうようなことです。「闇バイト」という誘いで犯罪に関わることが絶対にないようにしてください。
次回の記事では今回紹介した事例で、保釈許可や執行猶予付きの判決を獲得するために実際に弁護士が行った弁護活動日ついて紹介させていただきます。