「再犯防止推進法」と呼ばれる法律をご存知でしょうか。
正式には「再犯の防止などの推進に関する法律」という法律です。
平成中期以降、日本の犯罪数は減少傾向にありますが、再犯率は高い水準のまま推移しています。
犯罪の数が減っているのに、再犯率が変わらないということは、実際に多くの人が再犯をしてしまっているという実態があるのです。
そこで、国としても「再犯をいかに防ぐか」という観点から政策を行うためにこの法律が制定されたのです。
再犯防止推進法とは何か
再犯防止推進法とは、平成28年(2016年)から施行されている、比較的新しい法律になります。この法律は、国民に対して何かしなさい、というものではなく、どちらかというと、国や地方公共団体に対して「再犯を防止することは国や地方公共団体が責任をもっていかなければいけません」と宣言した法律になります。
その理念の中でも、
「再犯をしてしまう原因としては、安定した職業がないこと、安定した住居がない等といったことが挙げられる。そのような人に対して支援の策を講じて社会復帰させていかなければならない。」
としています。
そして、国や地方公共団体に「再犯防止推進計画」を定めるようにと求めています。
実際に、国としての再犯防止推進計画が定められていますし、ほとんどの都道府県においても同様の計画が定められています。
それに加えて、奈良県、兵庫県明石市、奈良県五條市では、再犯の防止に関する条例が定められています。条例の中では、出所者の居住や職業の確保のための支援を行うことや、その地域の出所者の雇用の促進について定められています。
再犯防止推進計画の中では、具体的には、次のような事項が定められています。
- 再犯防止のための教育や職業訓練に関する事柄
- 罪を犯した人の職、居住の確保、医療サービス、福祉サービスの利用の支援
- 刑事時節内での処遇や保護観察について、関連する機関との協力体制を整備する事
やや抽象的な法律ですし、実際の問題に対してこの法律を適用して何かを解決するというものではないため、「こんなの法律を作って意味があるのか」と思われる方もいるかもしれません。
「再犯防止推進法」には意味があるのか?
実際の裁判の中でこの法律を適用するような場面はほとんどないでしょう。
なぜなら、この法律は、国民に対して向けられた法律ではなく、国や地方公共団体に対して向けられたものだからです。
ですが、この法律が作られたのには十分理由があります。
まず、この法律を根拠に、国(具体的には法務省、その中でも保護観察所や検察庁など)が、再犯の防止のための活動を行うことができるようになります。
行政というのは、根拠となる法律がなければ何もすることができないのですが、「再犯防止推進法」という法律ができたことで、「再犯防止のため」の活動に根拠が生まれているのです。
次に、出所後の支援について、国としての統計調査が実施されることになりました。
具体的には、刑務所を出所した人の、その後の就職数や住居の状況、医療や福祉に繋がっている人の割合などについて調査がまとめられており、毎年「再犯防止白書」として公表されています。
このような調査をきちんと行うことで、策定された「再犯防止推進計画」を見直して、その効果を検証したり、上手くいっていない点については修正したりする指標となるのです。
ただむやみに支援をして「何となく効果がありそう/なさそう」といった評価をするのではなく、きちんとした統計に基づいた検証をするというのは、実際の再犯率を低下させる意味では非常に重要なことでしょう。
そして、この法律が定められたことで、国だけでなく、地方公共団体も刑務所からの出所者を受け入れる体制を作る一員であることがはっきりと明示されました。
これまで、出所者の支援については自治体ごとにばらつきもありました。
刑務所を管轄しているのは法務省、つまり「国」ですが、実際に出所した人の生活、例えば生活保護や住居の確保、医療や福祉サービスの提供についての事務は地方公共団体に任せられていたのです。
当然のことですが、刑務所から地方公共団体に対して「今日、うちの刑務所から〇人が出所しますよ」等という連絡が来ることもありませんし、自治体としても出所者はどのように対応したらよいか分からないというところもあるくらいでした。
そこを法律で「国と自治体と、一緒に協力して、罪を犯した人が再犯しない社会を作ろう」と定めているのです。
何か具体的なことを定めた法律ではありませんが、この法律ができたことで、「一度罪を犯してしまった人を社会から隔離せず、再び健全な社会の一員として再結合させるためにはどうしたらよいか」という視点からの更生支援や社会復帰支援が行われるようになっているのです。