前科による就労の制限

「前科」がついてしまうと、社会生活上の様々な不利益が生じてしまいます。その代表的なものが、「各種資格の制限」になります。

法律上前科が問題となる資格について代表的なものを解説します。

前科によって失う可能性がある資格

「前科」が付くと必ず資格を失うのでしょうか。

実は必ずしもそうではなく、「前科」の内容によっても資格制限の範囲が変わってきます。「前科」とは、有罪の判決を受けて、刑の言い渡しを受けた履歴のことを言います。

懲役刑も禁錮刑も、執行猶予付きの判決も、罰金も、全て「前科」にはなります。

一口に、「前科」といっても、実刑なのか、執行猶予付きなのか、罰金なのかによって、法律上資格が得られるかどうかわかるものがほとんどです。

それでは各職業分野について代表的なものを、「前科」があると仕事ができなかったり資格が得られなかったりする期間について一覧にします。

法律・行政系

国家/地方公務員、弁護士、弁理士

服役期間中、仮釈放中、執行猶予期間中は×。執行猶予期間中は資格を受けられない。

司法書士、行政書士、公認会計士、社労士

服役期間中、服役終了もしくは仮釈放終了から3年間は×、執行猶予期間中も×(執行猶予が明ければ資格は取れる)。

税理士、不動産鑑定士、宅地建物取引士(宅建)

服役期間中、服役終了もしくは仮釈放終了から5年間は×、執行猶予期間中も×(執行猶予が明ければ資格は取れる)。

※罰金前科については、宅地建物取引士以外の資格については、いずれも基本的には資格制限の対象とはなりません。
但し、宅地建物取引士については、一定の犯罪(暴行罪、脅迫罪等)で罰金を受けると、罰金の納付から5年間、免許を受けられなくなります。

教育系

教員(教育職員免許状)

実刑判決を受けると免許取り上げ、執行猶予判決も×、ただし執行猶予期間が過ぎれば免許は取得できる。

保育士

服役期間中、服役終了もしくは仮釈放終了から2年間は×、執行猶予期間中も×(執行猶予が明ければ資格は取れる)。

※教員、保育士として働く際に、公立や国立の小中高校、保育園などの場合には、国家公務員、地方公務員としての立場も生じるため、これらの資格制限も重複します。

特に、教員や保育士のわいせつ事件については、昨今、裁判の結果によらずに資格を取り上げるべきではないかという議論もあります。

わいせつ教員を一定期間排除国民民主が法案提出へ

教育や保育の現場での子どもに対する性犯罪を防ぐため、国民民主党がまとめた教育職員免許法や児童福祉法の改正案骨子が17日判明した。

18歳未満の未成年者に対する性犯罪を欠格事由に定め、一定期間は教員や保育士の登録をできないようにする内容。他党に賛同を呼び掛け、今国会への提出を目指す。

参照:時事ドットコム 2021年02月18日

この法案は、2021年4月26日段階ではまだ採用されるかどうか決まっていませんが、今後の議論が注目されています。

医療系

医師、歯科医師、歯科衛生士、薬剤師、保健師・助産師・看護師、栄養士、管理栄養士

罰金以上の判決を受けた場合。

これらの資格については、必ず資格を失うのではなく、各免許を与える会(医師会や薬剤師会等、医道議会とも呼ばれます)が、前科のある人に対して免許を与えるかどうか、処分をするかどうか個別に判断をします。

公認心理師、社会福祉士、介護福祉士

服役期間中、服役終了もしくは仮釈放終了から2年間は×、執行猶予期間中も×(執行猶予が明ければ資格は取れる)

その他の職種

取締役、執行役員等の株式会社の役員

服役期間中、仮釈放中は×。執行猶予中は就任可能。

中小企業診断士

服役期間中、服役終了後もしくは仮釈放終了から3年間は×、執行猶予期間中も×(執行猶予が明ければ資格は取れる)

一般建設業の許可

服役期間中、服役終了もしくは仮釈放終了から5年間は×、執行猶予期間中も×(執行猶予が明けて他の要件を満たしていれば許可は取れる)

風俗営業法上の営業許可

1年以上の懲役又は禁錮に処せられた場合、一定の風営法違反によって罰金以上の刑を受けた場合、もしくはこれらの刑が執行されなくなってから5年間は×、執行猶予期間中も×(執行猶予が明けて他の要件を満たしていれば許可は取れる)

まとめ

前科があることによって法律上仕事ができなくなる可能性がある職業について、代表的なものを解説しました。

多くの資格については、懲役刑や禁錮刑(執行猶予を含む)だと資格を与えなかったり既にある資格を取り消したりするというもので、刑の執行が終わってからも一定の期間は資格を与えないという形になっています。

また、医師や看護師のように、罰金刑以上(執行猶予判決を含む)について資格を与えなかったり取り消したりすることがあるものの必ずではない、という資格もあります。

ただし、いずれの資格の場合であっても、資格の根拠となっている法律(弁護士であれば弁護士法、医師であれば医師法)に違反した場合等には、前科の内容に関わらず、資格が取り消されたり、資格の再取得ができなかったりする場合もあります。

いずれにしても、前科がつかないに越したことはありません。

資格の関係上前科を回避する必要があるという方は、早めに弁護士へご相談ください。また、上記の資格以外にも、前科がつくことで影響をうける資格が多くあります。

法律では

『禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなった日から…』と書かれていることがありますが、パッと見て理解できるという方はごく少数です。誤った知識や見解も散見されます。

ご自身の資格について不安があるという方も、一度ご相談ください。

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