※2025年6月1日より、改正刑法に基づき懲役刑および禁錮刑は「拘禁刑」に一本化されました。当ページでは法改正に基づき「拘禁刑」と表記していますが、旧制度や過去の事件に関連する場合は「懲役」「禁錮」の表現も含まれます。
このページの目次
1 収容先の選定について
令和7年の刑法改正により、これまでの懲役刑と禁錮刑は廃止され、新たに統合された自由刑「拘禁刑」が導入されました。これにより、実刑判決によって拘禁刑が言い渡されると、刑の執行が始まります。
ただし、判決では「どの刑務所で服役するか」は決められません。受刑者の年齢、性別、健康状態、矯正の必要性などを総合的に判断し、法務省が行う「収容分類調査」の結果に基づいて、最も適した施設が選定されます。
2 処遇指標について
この選定において参考とされるのが、各刑務所の「処遇指標」です。
処遇指標とは、各施設が受け入れる受刑者の特性をアルファベットで表したもので、以下のような意味があります。
B・・・犯罪傾向が進んでいる
A・・・犯罪傾向が進んでいない
W・・・女性
F・・・日本人と異なる処遇を必要とする外国人
I・・・禁固刑の受刑者
J・・・少年院への収容を必要としない(:20歳以上と同様に扱ってよいとされる)少年
L・・・服役すべき刑期が10年以上ある
Y・・・可塑性に期待した矯正処遇を重点的に行うことが相当と認められる26歳未満の成人
M・・・精神上の疾病又は障害があるため医療を主として行う刑事施設に収容する必要がある者
P・・・身体上の疾病又は障害があるために医療を主として行う刑事施設に収容する必要がある者
例えば、「LB」という指標のある刑務所の場合だと
『服役すべき刑期が10年以上ある、犯罪傾向が進んでいる男性』
を受刑者として受け入れているということになります。
この指標を見ても分かる通り、女子受刑者を受け入れている刑務所は、ほとんどありません。
刑務所自体はほぼ各都道府県に設置されていますが、女子の受け入れがあるのは、全国でも、福島刑務所、栃木刑務所、東日本成人矯正医療センター(医療刑務所)、笠松刑務所、大阪医療刑務所、加古川刑務所、和歌山刑務所、岩国刑務所、北九州医療刑務所、麓刑務所のみです(拘置所を除く)。
処遇指標に応じた刑務所の配置については法務省が以下の通りサイトで公開しています。https://www.moj.go.jp/content/000113607.pdf
しかしながら、このページについては平成25年に発表されたものであり情報が古く、受刑者の減少や施設の老朽化について統廃合された刑務所や受け入れを停止している刑務所もあります。
したがって最新の情報を知られたい方は各刑務所や法務省に確認する必要があります。
3 拘禁刑の導入に伴って変化が予想されること
令和7年6月1日に改正された刑法が施行され、懲役刑と禁錮刑が廃止されて統合された「拘禁刑」が導入されました。これにより、処遇の考え方や運用にもいくつかの重要な変化が生じています。
(1)処遇指標の役割の変化
従来の「I(禁錮刑相当)」などの指標は制度上の刑種を前提としたものでしたが、拘禁刑導入後も引き続き活用されています。
ただし、拘禁刑は受刑者の個別性(加害行動の背景、矯正の可能性、社会復帰支援の必要性)に応じた柔軟な処遇設計を可能とする制度であるため、今後は指標の運用方法も段階的に見直されることが想定されます。
具体的には今後は、「B(犯罪傾向進行)」や「Y(26歳未満で矯正効果が期待される)」といった分類において、より詳細なリスク評価や教育可能性の分析が加味されるようになると考えられます。
(2)処遇先選定における重点の変化
従来は受刑者の年齢・性別・犯罪傾向・疾病の有無等に基づく振り分けが中心でしたが、拘禁刑では「教育・訓練・支援の充実」という趣旨に基づき、次のような観点がより重視されるようになります。
- 就労支援や資格取得等の職業訓練体制が整った施設への優先的収容
- 薬物依存・性犯罪・暴力団離脱等の特別指導プログラムの実施可否に応じた施設選定
- 心理的な適応支援やカウンセリング機能が整備された施設の積極活用
- 社会復帰後の生活環境に応じた「地域的配慮」
このように、収容の目的が「懲罰」から「社会復帰に向けた準備」にシフトする中で、施設選定基準にも大きな見直しが加わると見込まれます。
(3)処遇プログラムの個別化と施設機能の再編
拘禁刑では受刑者の再犯防止と円滑な社会復帰のため、個別的な矯正処遇プログラム(特別指導・一般指導・就労支援・生活訓練など)の充実が法制度上の柱とされています。
今後は、各刑務所の機能分化が進み、次のような形で再編・拡充が進むことが予想されます。
- 若年受刑者の教育重視型施設の新設または指定(Y型施設)
- 職業訓練や技能取得に特化した中長期収容施設
- 医療・福祉的ケアに重点を置いた医療型刑務所の機能強化(M/P指標施設)
- 地域連携型施設(地域の就労支援機関や更生保護施設と連携)
また、受刑者の分類や処遇内容の妥当性についても、AI分析や心理評価ツールなどを用いた客観的評価が導入されていく可能性があります。
上記内容はあくまで拘禁刑の導入に伴って変化が予想される内容であり、法務省が正式に発表しているものではありませんので今後の制度変更については正式な発表を待つ必要があります。
このような変更は受刑者の更生に向けて有意義なものと考えられますが、その一方で人員や施設の確保などの課題も残されています。