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刑の種類について
刑事事件で有罪となった場合には、判決の主文で刑罰が言い渡されます。
刑罰の種類として、刑法第9条が「死刑、懲役、禁錮、罰金、拘留及び科料を主刑とし、没収を付加刑とする。」と定めています。
刑罰には執行猶予が付される場合が刑法で定められています。例えば有罪判決を受けて懲役刑が選択された場合でも、その刑罰に執行猶予が付された場合、大まかにいえばすぐに刑務所に行く必要がなくなります。
それに対して、判決に執行猶予が付されないことを一般に「実刑」といいます。実刑判決を受けてその判決が確定した場合には、一定期間刑務所に行かなければならなくなります。
刑の猶予について
次に刑が猶予される場合(刑の執行猶予)について説明します。
(1)執行猶予とは
執行猶予とは、刑の執行を一時的に猶予することです。有罪判決が言い渡される場合、有罪との判断と併せて、刑の重さが言い渡されます。
その際、「懲役○年○月」との言い渡しに続いて「刑の執行を○年○月猶予する」と言い渡されることがあるのですが、これを執行猶予付き判決といいます。
例えば、「懲役3年執行猶予5年間」の判決を言い渡された場合(刑の全部執行猶予)、刑の言い渡しを受けてから5年間、罪を犯すことなく過ごしたならば、刑の言い渡しそのものが無効となり、懲役に服さないで良い、ということになります。
(2)刑の全部執行猶予と一部執行猶予
執行猶予には「刑の全部の執行猶予」と「刑の一部の執行猶予」の2種類があります。
刑の全部の執行猶予とは、「3年以下の懲役若しくは禁錮」を言い渡された場合、又は「50万円以下の罰金」を言い渡された場合に、「情状」によってその刑の執行を裁判の確定した日から「1年以上5年以下の期間」猶予するというものです。
前の項で示した例のとおり、「懲役3年執行猶予5年」の判決を言い渡された場合、直ちに刑務所に収容されるのではなく、一度社会に戻り、5年間罪を犯すことなく無事過ごすことができた場合には「懲役3年」の部分の効力は失われ、刑務所に行くことなく日常生活を続けられます。
この判決の最大のメリットは、一度も刑務所に行かないで済むという点です。この判決を得るためには、刑務所で服役したことがないこと等のいくつかの条件があります。
刑の一部執行猶予とは「再び犯罪をすることを防ぐ」ために必要である場合に「刑の一部」を1年から5年の期間猶予するというものです。
たとえば、「懲役3年、このうち1年間については刑の執行を4年間猶予する」などという判決があります。
この場合、懲役3年のうち2年は刑務所の中で生活しますが、残りの1年分については4年間執行が猶予されるというものです。
つまり2年の服役後一度社会に戻り、4年間罪を犯すことなく生活できれば残り1年分の懲役刑を受けなくても済むというものです。
これは再犯を防ぐためには社会内で生活したほうがよいのではないかという観点から刑法犯全部について定められたもので、平成25年に法改正がなされ、平成28年の6月から実際に運用されています。
この判決の場合、一度刑務所に行くことにはなりますが、その期間がやや短くて済むというメリットがあります。
どのような場合に執行猶予を得られるかについて
執行猶予は、前科などがあると得られない場合があります。
まず、①有罪判決を受けて禁錮や懲役刑に処せられたことがない場合でないと原則として執行猶予を付することはできません。
また、禁錮や懲役刑に処せられたことがあっても②その服役を終えた5年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない場合であれば執行猶予を付することができます。
執行猶予を得るための弁護
刑の一部ないし全部の執行猶予を得るためには、弁護人による弁護活動が不可欠です。特に、逮捕勾留中は身動きが取れないため、弁護人との接見等を通して執行猶予を得るための準備を行わなくてはなりません。
執行猶予を得るための重要な要素となる「示談」も当事者間ではなく、弁護士を介して行う方がより円滑に進められることの方が多いです。
執行猶予後に注意するべき点とは
実刑判決よりも軽い執行猶予付き判決ですが、いくつか注意しなければならない点があります。
まず、執行猶予付きではあっても有罪判決であることという点です。そのため、前科として記録されてしまいます。
また、執行猶予期間中に罪を犯して実刑判決を受けてしまった場合、執行猶予が取り消され、「その罪に対する刑」と併せて、「猶予されていた刑」の両方を合わせた期間服役することになります。そのため、執行猶予中の再犯はより長期間服役する見込みが高くなってしまいます。
執行猶予期間中の再犯についても、「再度の執行猶予」という制度があり、もう一度だけ執行猶予を付することはできます。しかし、再度の執行猶予が認められる見込みは決して高くありません。
そして、執行猶予には保護観察が付されることがあります。これは、保護司という犯罪や非行に陥った人の更生を任務とする者の監督を受けることを執行猶予の条件とするものです。
この保護司の指導に従わなかったり、保護観察所に出頭しなかったりした場合、執行猶予が取り消されてしまう場合があります。
量刑について
次は先述した刑について、量刑の重さや執行猶予が付くかどうかはどのように判断されるかについて説明していきます。
特に実刑となり刑務所に行くことになれば社会から隔離されることになり、社会生活に与える影響は甚大なものになります。
(1)量刑の判断枠組みについて
量刑の判断事情については大きく分けて
- 犯情
- 一般情状
という2種類の事情が考慮されます。簡単に言えば①犯情とは、犯罪事実それ自体の事情を指します。
それに対して②一般情状とは犯罪事実自体の事情以外の諸事情を指します。
そして刑事裁判で量刑を決める上では①犯情事実がより重視されるとされています。犯情事実の内容によって実刑にするのか、執行猶予にするのかの大枠が決まると言っても過言ではありません。
(2)犯情事実について
犯罪事実に関する情状では、
- 犯行に至る経緯
- 犯行の動機
- 目的
- 誘因
- 事件の社会的背景事情
- 計画的犯行か偶発的犯行か
- 犯行の手段
- 方法
- 態様
- 結果発生の有無・程度
- 被害回復の有無
- 共犯事件の場合は主従関係・役割分担・犯罪利益供述の有無程度
- 被害者側の落ち度や帰責性
- 犯罪直後の被告人の言動
- 事件の社会に対する影響など
が考慮されます。
犯情事実の中でもどの事実が重視されるかは、罪名によっても関わってきます。例えば窃盗や詐欺などの財産犯では被害結果の内容が重要になってきます。
また事件によっては犯罪をしたことには争いがないものの、犯行方法や動機などについて捜査機関との間で争いがある場合もあります。
犯罪をしたことに争いがないからといって重要な犯情事実について誤った内容が書かれた供述調書にサインしてしまうと量刑において極めて不利に扱われる場合があるので、上記事情については早期に弁護士から聞き取りを行って対応することが重要になります。
(3)一般情状について
先ほど量刑を決める上では犯情事実がより重視されると述べましたが、もちろん一般情状についても判決で考慮されることには変わらず、犯情事実だけでは量刑の大枠が決められない場合には一般情状の事情を考慮して判決の量刑が決められることになります。
一般情状事実については非常に多岐にわたるため、次のページで詳しく説明させていただきます。