【事例】
Aさんは、強盗の罪で服役したことがありますが、出所後20年間、犯罪とは無縁の生活をまじめに送ってきました。
Aさんは、B会社に転職するにあたり履歴書を作成していましたが、履歴書に賞罰欄が設けられているのに、服役していたことを記載せず、また面接でも前科があることを言いませんでした。
Aさんが入社して1年後、実は服役前科があることがB会社に発覚しました。
B会社の担当者は、Aさんを懲戒すると言っています。Aさんは、何かしらの処分を受けてしまうのでしょうか。
(事例はフィクションです)
弊所は、刑事事件を多数扱っているため、相談者から「再就職をする際に警察のお世話になったことを言わないといけませんか?」という相談を受けることが少なくないです。
さて、従業員に前科があることを知った経営者は、その従業員に処分を下すことができるのでしょうか。経営者の方にとっても、今まさに就職活動をしている人にとっても大きな関心ごとではないでしょうか。
前科を秘匿したことと懲戒処分の関係について上記の事例を用いて、解説します。
このページの目次
1 前科の有無を偽って入社する行為について
まず前科があるのに前科を隠して入社する行為は、「経歴詐称」、つまり自分の経歴を偽ることになります。
前科があるのに前科を隠す場合だけでなく、本当はA大学の出身者なのにB大学出身だと偽るような場合も経歴詐称にあたります。
前科の内容や種類についてはこちらのページも参考にしてください。
2 経歴詐称と懲戒処分について
そして従業員を懲戒するにはあらかじめ就業規則で懲戒処分の種別及び事由を定めておく必要があり、その拘束力を生じさせるには、その内容を労働者に周知させる手続がとられていなければなりません(最高裁平成13年(受)1709号平成15年10月10日判決)。
そして、懲戒処分の内容と懲戒事由のバランスが取れているものであることと適切な手続で行われたことが必要になります。
懲戒処分のバランスが取れているとはどういうことでしょうか。
簡単にいうと、「いや確かに経歴詐称があるけど、大したことがない詐称なのだから、減給になるのは仕方ないけど、解雇するほどのことではないですよね。」と言われるような懲戒処分は許されないということです。
適切な手続は、その文字通りです。
例えば、従業員から言い分を聞かずにいきなり減給や解雇をすると、違法になってしまいます。
このような具合ですので、前科があることを知られ、懲戒処分にすると言われた場合には、まず就業規則の内容や周知のための手続、懲戒処分のバランス、然るべき手続といった要件が満たされているか考える必要があります。
特に懲戒処分のバランスは、様々な事情を総合的に考慮して判断されるものであり、難しい判断を伴いますので、弁護士など専門家に相談することをお勧めします。
3 事例の検討
あくまで一般論ですが、今回のAさんの場合、懲戒処分の内容として懲戒解雇まではさすがに重すぎる気がします。というのも、20年以上も前の前科は、あまりに古すぎるからです。
有罪判決を受けて服役したとしても刑の執行を終えてから罰金以上の刑に処せられずに10年以上経過していたのであれば,刑法上は刑が消滅していることになります(刑法34条の2第1項)。
したがって、そもそも重大な経歴詐称とまではいえないように考えられるからです。
また前科が強盗のようなものでなく、交通事故のようなものであった場合、最近の前科だとしても懲戒解雇まではやりすぎと認定される可能性があります。
しかし判断は会社の業務内容や、個別事案での隠匿の態様にも関わりますから懲戒処分の見通しについては一概に判断することはできません。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、刑事事件の豊富な実績を踏まえて、刑事事件と関連する労働問題もサポートできます。
もし懲戒処分などの労働紛争に巻き込まれている方、企業側の担当者で懲戒処分について判断が難しいと考えている方はぜひご連絡ください。