【事例】
Aさんは、佐賀県鳥栖市で60代の両親と一緒に住む40歳の男性です。
以前からAさんは精神科に通院しており、統合失調症であるという診断を受けていました。
これまでは家族に支えられながら日常生活を営んできたAさんでしたが、あるときから統合失調症の影響で幻覚や幻聴に悩まされるようになってしまいました。
その幻覚や幻聴は、「毎朝自宅に新聞を届けに来る新聞配達員は自分たち家族の命を狙っている」、「このままでは自分や家族の命が危ない」といったものでした。
このような幻聴と幻聴に囚われたAさんは、ある日、朝刊の配達に来た新聞配達員にカッターナイフで切りかかってしまいました。
異変を感じて駆け付けた人々がAさんを取り押さえたため、新聞配達員は怪我を負ったものの、命に別状はありませんでした。
その後、駆け付けた警察官にAさんは逮捕されました。
逮捕されたAさんは警察の取調べを受けるとともに、Aさんに刑事責任を問えるのか判断するため、医師の鑑定も受けることになりました。
Aさんの家族は、Aさんの弁護人である弁護士から、担当の検察官は、医師の鑑定の結果を踏まえて、Aさんには刑事責任を問えないと判断して不起訴とする予定だと聞かされました。
もっとも、今後は医療観察法の手続きを受けることにもなるとも伝えられました。
Aさんの家族は、これからAさんがどのような手続きを受けるのか、Aさんが家に帰ってくることができるのかなどが心配となり、担当の弁護士に相談しました。
(事例はフィクションです。)
1 はじめに
前回の記事では、Aさんが受けることになる医療観察法の手続きを説明する前提として、なぜAさんに刑事責任を問えないと検察官が判断したのだと思われるのかについて解説してきました。
今回の記事では、どのような事件が、医療観察法(正式名称は、「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律」といいます。)の手続きの対象になるのかを解説していきます。
2 手続きの対象
医療観察法は、「継続的かつ適切な医療並びにその確保のために必要な観察及び指導を行うことによって、その病状の改善及びこれに伴う同様の行為の再発の防止を図り、もってその社会復帰を促進すること」を目的としている法律です(医療観察法1条)。
しかし、医療観察法は、どのような事件であっても手続きの対象となるわけではありません。
問題となっている事件がどのような事件か(行ったのが対象となる行為か)という点と、問題となっている事件がどのような処分になったかという点の2つから判断されます。
3 対象行為
医療観察法が対象としているのは、次のいずれかに該当する行為を行っている場合に限られています(医療観察法2条1項)。
⑴ 放火関係(現住建造物等放火罪、非現住建造物等放火罪、建造物等以外放火罪またはこれらの未遂罪)
⑵ わいせつ関係(不同意わいせつ罪、不同意性交等罪、監護者わいせつ及び監護者性交等罪またはこれらの未遂罪)
⑶ 殺人関係(殺人罪、自殺関与及び同意殺人罪またはそれらの未遂罪)
⑷ 傷害罪
⑸ 強盗関係(強盗罪、事後強盗罪又はそれらの未遂罪)
ここで注意が必要なのは、例えば強盗関係は、問題となっている事件が強盗事件や事後強盗事件(とそれらの未遂)だけが対象で、強盗致傷事件や強盗殺人事件などが対象外だというわけではないということです。
次回の記事では、この詳細について解説していきます。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、刑事事件・少年事件に関わってきた経験を活かし、刑事事件後の再犯防止に向けたサポートにも力を入れています。
また本件のように、責任能力が問題になるケースで逮捕された方については初回接見サービスをご利用をおすすめしています。責任能力が問題になる売る方の弁護活動についてきましてはこちらのページも参考にしてください。
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