1 裁判例について
今回の記事で紹介するのは令和6年9月24日付で名古屋高裁金沢支部が第1審判決を破棄して再度の執行猶予を付した判決です。
上記判決の基になる事案の概要は次のようなものでした。
【事案の概要】
被告人はギャンブルにはまって金融機関からの借金を負い,転売目的での万引きをしてしまい,執行猶予付きの有罪判決を受けてしまいました。その裁判の途中から,ギャンブル依存症などの治療も受けていたのですが,裁判が終わった3か月後にはまたギャンブルにはまってしまい,今度は食べるもの欲しさから万引きをしてしまったというものです。
二度目の裁判の間も被告人は依存症専門の病院で入院治療を受け,また家族もそれを熱心に支え続けました。
一審判決は裁判を受けた3か月後にまたやってしまったという点を重く見て,今度は実刑判決を言い渡しました。
しかし被告人が控訴したところ,名古屋高裁金沢支部の裁判官は治療の状況や家族の支援が期待できること等から再度の執行猶予を付するという判決を言い渡しました。
2 再度の執行猶予について
ここで,執行猶予について解説をします。
法律上原則として,執行猶予判決を受けている人に対してもう一度執行猶予判決を言い渡すということはできません。
執行猶予判決というのは,「この期間中は絶対に罪を犯さないでくださいね,もし今度罪を犯してしまったらほとんど確実に刑務所に行きますからね」という抑止力をもって,再犯を防止しようとするものです。
具体例でいうと,令和7年4月1日に「懲役1年,執行猶予3年」という判決を受けたとします(便宜上,上訴期間を除いて解説します)。
すると,令和7年4月1日から令和10年3月31日までの間,この人は執行猶予期間中ということになります。
この期間に新たに犯罪をしてしまい,再び有罪判決,例えば「懲役2年の実刑」という判決を受けてしまうと,一度宣告された「懲役1年」と新たに言い渡された「懲役2年」の合計3年の懲役刑を受けることになるのです。
一方,令和10年3月31日までに再犯して有罪判決を受けることがなければ,「懲役1年」を服役しなくてもよくなるのです。
このように,「次にやったら重い刑罰を受ける」という抑止力を利用して,社会の中で更生させようとするのが「執行猶予」という制度なのです。
そのため,執行猶予中に犯してしまった罪に対しては特に厳しく見られることになります。「もう一回執行猶予で良いよ」とはならないのです。
ただし,どうしても実刑判決を科すのが不適当な場合があります。それが,事例の,繰り返してしまう万引きのような事例です。
法律上,特に情状で考慮すべき事情がある場合,要するに「どうしても刑務所に送るのが不適当/もう一度社会でチャンスを与えるべきではないか」と思われる事案に対しては,再度の執行猶予を言い渡すことができるのです。再度の執行猶予に関する詳しい解説についてはこちらのページもご確認ください。
ただし再度の執行猶予が認められることは非常に例外的な判断であり,再度の執行猶予が付されている事案は少数です。実際に再度の執行猶予が付される事案の多くは,交通事故のような過失犯や,軽微な万引きの事案です。
次回の記事では、紹介した事例において再度の執行猶予付きの判決が出された理由やその弁護活動について詳しく解説させていただきます。
執行猶予か,実刑かで,その後の生活において天と地ほども差があります。
執行猶予を目指すのであれば,刑事事件専門の弁護士に対して速やかに相談し,早期の対応を仰ぎましょう。