刑法改正に伴って導入された拘禁刑について刑事事件に精通した弁護士が解説します⑦

1 はじめに

前回の記事では拘禁刑の導入に伴う刑事施設の役割や刑務官の役割の変化について解説しましたが、今回の記事ではそのように拘禁刑の導入に伴って変化が予定されている中で実際の現場において、そのような施設環境の改善が予定されているのか、刑務官の負担はどうなるのかという課題について詳しく解説させていただきます。

2 刑事施設の施設環境の改善について

拘禁刑の導入に向けて施設環境の改善も取り組まれています。再犯防止プログラムや職業訓練を効果的に行うには、教室や作業場、カウンセリング室など適切な設備・空間が必要です。
近年新設・改修された刑務所では、従来の雑居房・独居房だけでなく、教育プログラム用の教室や図書室、コンピュータ室などが整備されてきています。
たとえば民間活力を導入した「社会復帰促進センター」(島根あさひ、美祢、喜連川など)では、職業訓練施設や生活指導棟を備え、開放的な雰囲気の中で受刑者の自主性を伸ばす運営がなされています。
こうした先進的施設で培われたノウハウが、全国の刑務所に波及しつつあります。
たとえば喜連川社会復帰促進センターで実施されたVR職業体験のように、最新技術を活用した訓練や企業と連携した就労プログラムが他の刑務所でも導入される可能性があります(https://www.moj.go.jp/kyousei1/kyousei05_00074.html)。
今後は老朽化した施設の改修に際しても、更生プログラム重視の視点で環境を整備していくことが求められるでしょう。

施設面の変化だけでなくそこで服役する受刑者の作業・教育機会の拡充も運営面の重要なポイントです。
拘禁刑では「作業を課すかどうか」自体を個別判断しますが、基本的には大多数の受刑者が何らかの作業に従事しつつ指導プログラムも受ける形になることが予定されています。
そのため、刑務所内で提供する作業種目や教育プログラムの種類を増やし、多様なニーズに応えられるようにする必要があります。
従来からある刑務作業(印刷、家具製作、農作業など)に加え、IT技能習得や介護実習など社会のニーズに即した新分野の訓練を取り入れる余地も検討されています。
受刑者の高齢化に対応した軽作業やリハビリ運動、逆に若年者向けの高度技能訓練プログラムなど、「作業=懲役」から「作業=職業訓練・社会貢献」へと性質が変化していくと考えられます。
その結果、受刑者は刑務所内で取得した資格や職歴を持って社会に復帰でき、刑務所も一種の「職業訓練校」「更生教育施設」としての色彩を強めるでしょう。

3 予想される現場の負担の増大について

これらの変化を実現するには、現場の負担も増大します。
職員の増員や予算措置など越えるべき課題もありますが、専門家は「受刑者の自発性・自立性を尊重した改善更生の理念を運用の中で決して見失わないことが重要だ」と指摘しています。
せっかく制度を変えても、旧来型の画一的処遇に逆戻りしては意味がありません。今後の運用を監視し、必要に応じて軌道修正していくことも求められます。
拘禁刑の導入によって刑務所は「刑を執行する場」から「再出発の準備をする場」へと変わりつつあります。その理念に沿った刑務所運営の定着こそが、真の再犯防止と安全な社会の実現に繋がると言えるでしょう。

4 今後に向けて

既に拘禁刑を定めた改正刑法が施行されましたが、実際に被告人が拘禁刑を受けるのは令和7年6月1日以降に犯した罪により裁判を受ける場合になります。
したがって裁判の期間等を考慮すれば実際に被告人に対し拘禁刑が宣告されるのは早くても施行から2,3か月経過してからになるでしょうし、実際に服役するのはもっと先になるでしょう。
現状まだまだ実例がない状況ですので、今後先述した課題をクリアして適切に運用されていくかを見守っていく必要があります。

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